息子を訪ねて何万光年?

夢花音

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1章

5話

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次の瞬間、視界が反転した。
身体がふっと浮くような感覚――それが静かに収まった時、美月たちは“あの日”の街に立っていた。

音もなく、風もなく、光もない。時間そのものが止まったかのように静まり返る。
ナミが停止させた時空の中。すべてが、あの日のまま凍りついている。

美月はゆっくりと前へ進む。
渉と美月が立っていた場所の周囲には、何も残っていない。ただ、微細な魔力の“残光”だけが、空間に存在しているらしい。

ナミが腰のホルダーからクォンタム・エコーセンサー(QES)を取り出す。
「魔力残光の解析を開始します。空間認識層、展開――」

QESを地面に設置すると、装置内部の高次センサーが残光を読み取り、電磁的な波形としてモニター上に可視化する。
薄暗い立体の線が、魔法陣の形を浮かび上がらせた。存在するのはあくまでデータとしての模様のみだ。

「見てちょうだい。この残光……普通の魔力ではないわ。時間軸に無理やり亀裂を作った痕跡が検出されるの。空間が向こう側に引っ張られた形跡よ」

ナミがタブレットを操作し、欠けている部分を指差す。
「この模様の一部が不自然に抜けているわね。模様のひとつひとつに意味があるのかもね。発動後の抜け落ちた残光しか残ってい いないけど」

青い波形がモニター上で微細に揺れる。
残光の強弱、形状の歪み、時間軸のねじれまで、QESはすべてデータとして取得していた。

「解析のためには、このデータを持ち帰る必要があるの?」
美月は静かに尋ねた。

ナミは頷ずくと、QESがポータブルデバイスに残光の三次元データを転送しはじめた。
立体データは、魔法陣の本来の形と構造を再現可能にする。

「これを見る限り、魔法陣は空間共鳴装置として機能していた可能性があるわ」
ナミが説明する。
「渉くんは、この空間共鳴に生体的に反応してしたのね。偶然ではなく、引き寄せられたのよ」

美月は手を握りしめる。空間に漂う残光を科学の力で解析し、渉を取り戻す――そのために、ここからが本当の研究の始まりなのだ。

ナミはデータ転送を終えると、
「急いで戻りましょう。渉くんがどんな時代に召喚されたのか心配だわ」
美月は不安そうにナミを見た。美月もずっと思っていた事だ。どんな時代にどんな所に召喚されてしまったのか?命の危険は無いのか?どうにもならないけれど不安で胸が潰れそうだった。
「行きましょう」
とナミに言われその場を去った。

研究室に戻ったナミは意欲的だった。瞬く間に準備を整えると研究にのめり込んだ。美月も真剣に手伝い一刻も早い解明に勤しんだ。

ナミの指先が、タブレット上を滑った。
ホログラムに浮かぶ魔法陣の線がひとつずつ分離され、立体的な構造が明らかになっていく。
「……ここが欠けているわね。対称軸が崩れている」
ナミは光の軌跡をなぞりながら、小さく呟いた。

立体投影された魔法陣は、まるで生きているかのように脈打っている。
ナミはその波形の歪みを解析し、周囲の位相差を補正していった。
欠けた線の周辺に、かすかな数値の乱れがある。そこに本来、もう一本のエネルギー導線が存在したのだ。

「ここをつなげば……回路が開くかも」
細い光の線を指で描き足すと、魔法陣全体の波形が微かに整った。
QESのモニターには、新たな数値が浮かび上がる。
魔法陣は“円環”を完成させようとしていた。完全な開回路――それが召喚を成立させる条件だった。

ナミは呼吸を整え、もう一度全体を見渡した。
「模様のそれぞれに意味がある。……これは言葉?いえ、単語で位置指定や時間参照をして……」
淡々と呟きながら、ナミは失われた文字の意味を解読していく。

それはもはや神秘でも幻想でもなく、構造と理論の解析だった。ひとつ、またひとつ。
抜け落ちていた語句が数式のように繋がり、断片だった呪文が文法を取り戻していく。
ナミの声がかすかに震えた。
「……見えてきたわ。発動条件を再現できれば、空間座標の指定も可能よ」

美月は黙ってその光景を見つめていた。
QESが生み出す魔法陣の光は、ゆっくりと一点に収束していく。
やがて、座標を示す数値がモニター上に浮かび上がった。
時代、場所――どちらもこの世界のものではない。見たことの無い座標だ。

ナミが顔を上げた。
「これが跳躍座標。召喚が発生した時代と地点を特定できる」
「……行けるのね?」
「ええ、理論上は。ただし再現には、もう一度この陣を展開する必要があるのよ」

彼女の指先が震えていた。
それでもその瞳には、確信の光が宿っていた。解析は終わった。これでようやく、時空の向こう側に手を伸ばす準備が整ったのだ。





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