息子を訪ねて何万光年?

夢花音

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1章

7話

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視界が徐々に落ち着くと、美月は石の床に転移していた。ゆっくり周りを見回すとそこは人けがない、地下空間のようだった。しかし,人の気配が微かに残り全く使われていないわけではないらしい。美月はタイムマシーンバイクから降りると時空間に収納した。石の床は冷たく、湿気を帯びた空気が鼻をかすめる。足元には大きな光る模様があった。その模様が魔法陣のそれと同じだった。天井の装飾は豪奢だが、誰もいない。多分ここは召喚の部屋なんだろうと美月は思った。システムボックスから手のひらサイズのレーダーを取り出して作動させる。微かに震えてレーダーの画面が点滅をはじめた。生体反応があったのだ。静まり返った部屋の扉をそっと開く。息を殺しながら、周囲を確認し石畳を一歩ずつ進む。足音はナミが開発した耐振動シューズのおかげでほとんど響かない。暗い廊下を抜ける。どうも城らしいと美月は予測した。窓が無いので昼か夜かは定かでは無いが、この静けさに夜ではないかと推測した。階段がある。美月はナミに手渡された電気ショックの武器を握り締めて、周囲に気をつけながら階段を上った。薄明かりの中上った先に扉がいくつもあった。左手の先に少し開いた扉があり生体反応はそこを示していた。誰かがいる。敵には違いないだろと警戒した美月だか、まずは敵を知らねばと、思い直し隙間から、様子を観察した。そこには探していた息子の渉と他の二人の召喚者たちがいた。
渉と、もう二人の勇者は、まるで人形のように静かに立っていた。ただ立っているだけで目線は揃って床を見つめ、微かに呼吸するだけ。会話もない。自然に振る舞っているのではない――息はしているがまるで死んでいるようだ。身体もまるで固まっているかのようだった。美月はポシェットから時計のような計器を取り出すと周りの魔力をはかり始めた。壁の装飾や儀式用の道具、周囲の魔力反応の流れを手にした計器で追いながら、美月は思う。これは…あの子たちは自由じゃない。何かの力で――意志を制御されている。操られている。

廊下の奥から召喚の間を監視していた城の従者たちの会話が聞こえてきた。小声で、しかし明瞭に。美月は素早く渉たちの部屋に潜り込むと扉の横に身構えて様子を見ていた。
一人は多分新人だろうがもう一人はそれなりに着飾った男だった。部屋の前を通りすぎながら話しを続けていた。

「勇者たちは精神魔法で従属中です。命令通りに動くよう調教済みです」
「発動中は魔力が強くなるので、近づく者は注意しろ。もう逃げることはないだろう」
「はい。既に自我も無いと思われます」
「クックックッ。自分の首を引き抜けと命令しても実行するだろうな」
「はい。その通りです」
「隣国を滅ぼした後はそれも面白かろう」
着飾った男がニタリと笑った。

その瞬間、全てが繋がった。渉も含め、三人の勇者はただ立っているだけではなく、意志を奪われ、奴隷のように扱われているのだ。

胸の奥がひりつく。親として、どう動けばいいのか。今はまだ力がわからず、渉を直接助けることはできない。でも、情報を集めることで、次の手が打てる。

私は部屋の中で息を潜め、注意深く周囲を警戒する。監視者の巡回パターン、魔法の範囲、勇者たちの配置。すべてが手がかりだ。
この情報を集めなければ。今意識の無い三人を無闇に連れ歩くのは危険だ。渉たちを助けるための計画をたてなければ。焦らず、慎重に――そう心に決めた。

もう一度、地下に戻ろうと美月は後ろ髪を引かれる思いを押し殺し地下の空間に戻ってきた。地下の冷気が肌を刺す。けれど、確かな手応えもある。渉がここにいること、そして彼を助けるための希望の糸は、この城の中で確かに見つけられるはずだ。

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