【完】ユールの祝祭

伊藤クロエ

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06 ユールの夜

 それから十日後、冬至ユールの日が訪れた。
 冬至の夜の宴は、夏至リーザ、十月末日の収穫祭サーウィンなどと並んでこの大陸の国々に季節の交代を知らせる、なくてはならない祭りだ。
 古来より祝祭から三日間はどの国も他国を侵す戦闘を禁じている。これは絶対不変の掟だ。
 この西の出城でも朝から皆浮足立ち、敵側が陣取る森の向こうでも煮炊きの煙が盛んに上っているのが遠目に見える。

 夕暮れになると兵士たちは三々五々出城の前の広場に集まり、炙った肉を食べ、イリアスが出城の地下から出させた酒の樽を開けて大いに呑み騒いだ。
 それでも万が一の時のために誰かが見張りに立たねばならない。今日この日に番が回ってきた兵士たちはおのれの不運を呪いながら塔の上や陣の境界線で寒さに震えていることだろう。
 スヴェンは皆の浮かれ騒ぎに加わることもなくいつものようにイリアスの後ろに付き従っていると、彼は見張りの兵たちが交代で食事と酒にありつけるように軍団長のゲーリクに言い、自分がいては兵士たちも寛げぬだろうと早々に塔の部屋に引き下がっていった。

「相変わらず下々のことまで気が回るお方だ」

 イリアスの後ろ姿を見送り、感心したようにゲーリクが呟く。

「尊きお方がみなあの方のようであったら、我らも喜んで命を投げ出し戦える覚悟を得られるだろうに」

 他の者には聞こえぬように小さな声で漏らした彼の嘆息を、スヴェンは黙って聞いた。
 これまで長年国のために戦場で戦い続けてきた辺境の英雄シュトルグベルンらしからぬ言葉に眉を顰めたのは副団長のカールだ。だがそれはゲーリクの不敬を咎めるのではなく、あくまで彼を心配してのことだ。

「ゲーリク様」
「わかっておる」

 このような混沌とした戦地ではどこにどのような者が潜り込んでいるとも限らない。万が一王都から遣わされた密偵が彼の言葉を聞けば反逆の恐れありとすぐにでも捕縛され、処罰されるだろう。

「案ずるには及ばん。もはや王都の者たちは誰も辺境で戦い続ける我らのことなど気にもかけてはおらぬだろうよ」

 ゲーリクは吐き捨てるように言って、浮かれ騒ぐ兵士たちを見つめた。

「……なあ、スヴェンよ。この国はいよいよもう駄目かもしれん」

 かがり火を囲んで悪魔を追い払う歌を歌う声に紛れて、ゲーリクが呟く。

「自らが出兵しておきながら日々遊興に耽り戦況もそこで戦う兵士たちもまるで顧みぬ一国の王と、仮にも第二王位継承者である弟を私怨でこのような死地へおいやる世継ぎなど、とても王国の未来は明るいものとは思えぬ」

 スヴェンは黙ってゲーリクの言葉を聞いていたが、出城の厨房から自分を呼ぶ声に気づいて振り向いた。

「スヴェンさん! 湯の準備ができましたよ!」

 するとゲーリクが「殿下のためだろう? もう行くがいい」と言う。そして苦渋に満ちた鋭い目をスヴェンに向けた。

「いいか、スヴェン。儂らは何があってもこの国境を守ることが務めだ。例え何をどう思っていようとも、儂らと共に命を張っておられる殿下のためにも一歩たりとも引くわけにはいかん」

 その言葉に黙って頭を下げると、スヴェンは大きな杓子を振って自分を呼ぶ飯炊き女のところへと歩いて行った。


     ◇   ◇   ◇


「お前もまだ下にいていいのだぞ」

 スヴェンが彼の部屋の戸を叩くとイリアスがそう言ってくる。だがスヴェンは黙って首を振って扉を閉めた。そしてストーブの火を掻き立てて薪を足し、階下から沸かした湯を何度も運んでは大きな盥に注ぐ。
 久々の風呂をイリアスはことのほか喜んだようで、スヴェンが髪を洗い背中を流すのを手伝うと気持ちよさそうに目を閉じて息をついた。せっかく温まった身体が冷える前に全身を拭き、夜着を着せかける。そしていつもの薬を手渡すと、イリアスはスヴェンの目の前でそれをワインと一緒に飲み下した。

 それからしばらく経って彼が完全に眠った頃にスヴェンはまた彼の部屋に忍び込んで鍵を下ろした。
 深く眠り込んだイリアスの上に屈みこんで彼の下半身を露わにし、いつもの手順で手を温め香油を指先に馴染ませる。夜ごと慣らされ躾けられてきたその小さな穴はほのかな色を纏い、スヴェンの眼前で密やかに息づいていた。指先を優しく当てればすぐにちゅ、と吸い付いてきて、スヴェンはかすかな笑みを浮かべる。
 今日は年に一度のユールの夜だ。死者と悪魔が大挙して押し寄せるこの日を、一体どれほど待ちわびたことか。

 スヴェンはイリアスの両足の間に深く顔を埋め、皮膚の薄い内腿に口づける。その乾いた唇がイリアスの股間にたどり着いた時、かすかな声が彼の口から漏れた。しばし動きを止めて、それ以上声がしないのを確認してからスヴェンは彼の密やかに息づく後腔に口づけた。
 ぱちぱちとストーブの中の薪が爆ぜる音だけが響く中、スヴェンはちゅ、ちゅ、と音を立ててキスを繰り返し、濡れた舌で舐めてはまた口付ける。そして先程彼の身体を拭いながら早く触れたくて仕方がなかった場所に尖らせた舌先を潜り込ませた。
 陰嚢の下を舌先でくすぐるとピクンと一瞬イリアスの足が動き、会陰の部分をねっとりと舐めれば彼の口から吐息が漏れる。そして口を閉じた小さな後腔に舌を差し入れぬるぬると擦っては吸い付いてやると、彼のなんとも艶めかしい声がスヴェンの耳と急所を刺激し始めた。

 スヴェンはイリアスの寝間着も全部脱がしてしまおうと手を掛けて、思いとどまる。鉄のストーブにはあらかじめ薪を足してガンガン火を焚いてはいるが、今までずっと王都で暮らしていた彼はもしかしたら寒く感じるかもしれない。
 スヴェンは長い寝間着にイリアスの腕を通したまま、裾をビリビリと首まで引き裂いて前を開いた。そして綺麗に筋肉の付いた肩や腹、そして胸筋の上にある薄い色の乳首をじっと見つめる。
 やはり肌寒いのか白く滑らかな肌はかすかに粟立ち、小さな乳頭がツンと立っていた。その可愛らしさはひどくスヴェンの目を楽しませた。

 時折窓の外から兵士たちの笑い声や調子はずれの歌が遠く聞こえて来る。
 スヴェンは身を起こすと、今度は人差し指と中指で丁寧に、そして執拗に中を捏ねてかき回す。いつものように入り口から奥までぬるぬると指を出し入れするとイリアスはすぐに息を荒げ、喘ぎだした。
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