【完】グランディール学院の秘密

伊藤クロエ

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 アリスティドはしばしその言葉の意味を考える。それは確かに今までと何も変わらない、いや、アリスティドにとって最も都合のいい関係のように思える。
 だが今までと同じく、例え同じ寮にいても特に言葉を交わしたりすることもなく、たまに食堂や図書室ですれ違うことはあったとしても目も顔も合わせず、二人の関係を知る者は誰もいなく。ただアリスティドが気が向いた時にだけこの部屋に呼び出し、今までと同じように秘密の時間を共有し、溜まった性欲を思う存分発散させる。そういう関係は。

「…………それは、ひどくつまらないように……思えるな」

 思わず、そう呟いた。
 アリスティドは、昨夜ゲオルグが降りしきる雨の中をずぶ濡れになりながら二人の下級生を連れて無事山から戻ってきた時のことを思い出す。生徒や教師たちが口々にゲオルグを労いその勇気を讃えながら取り囲んだ隙間から、ゲオルグは一瞬だけアリスティドを見た。彼を取り巻く人々を掻き分けて近づき何かを言えるような雰囲気でもなく、またそんなことはアリスティドとて好むところではない。でもあの時、ほんの一瞬目が合っただけで、それまでの苛立ちや不安や何もかもの埋め合わせがついたような気がした。
 もしももっとたくさんあの時のような瞬間を重ねていければ、自分はもっともっと満たされた気分になれるのではないか、とふと思う。

「…………情夫、ではないな」

 アリスティドが答えるとゲオルグが眉を上げた。

「……ゲオルグ、お前は私のものになれ」
「俺は貴方のものですよ」

 すぐにそう答えたゲオルグに舌打ちをして、アリスティドはその手を掴む。

「いいか。私はこの部屋だけでなくもっといろんな場所でお前に会いたいし、顔が見たいし、話がしたい」

 そう、例えば先ほどゲオルグが持っていた本の内容が知りたいし、彼が昨日下級生を背負って雨の中歩いたという道がどこかを知りたい。彼が授業のない時にはどんなことをして、どんな食べ物を好むのか。これまでどんなことを考えて、アリスティドをどう思っているのか。

「そうだ、ゲオルグ。私はもっとお前のことがたくさん知りたいんだ」

 ようやくしっくりくる言葉を思いついて、アリスティドの顔に自然と笑みが浮かぶ。そのくせなぜかこみ上げてくる涙が零れ落ちぬように強く目を見開いた。

「話をしよう、ゲオルグ」

 アリスティドの言葉に、ゲオルグがじっと耳を傾けている。

「昨日は寒かっただろう。本当によく無事に戻った。途中、もう駄目だと思ったことはあったか? お前でも無理だと思うことはあるのか? もし、あの時私が、一緒にいれば、もしかしたら」

 必死に熱い塊を呑み込んで震える声で懸命に話すアリスティドを、ゲオルグが抱き寄せた。アリスティドは震えて痛む喉を懸命に開いて囁く。

「……………………心配した」
「すみません」
「…………大丈夫だと、信じていたが、それでも怖かった」
「もう二度と傍を離れません。だから、泣かないで」
「泣いてなどいるか、馬鹿者」

 絶対に自分の顔を見られたくなくて、アリスティドはゲオルグに飛びつき背中に回した腕にぐっと力を込めた。ゲオルグがそれより強くアリスティドを抱きしめる。そして宥めるようにあたたかな手のひらで肩や背中や髪を撫でた。アリスティドが目を閉じその手のひらの温かさを喜んでいると、突然後頭部を掴まれ顔を引き寄せられる。そして初めてゲオルグに口づけられた。
 少しばかりかさついた、豊かな弾力のある唇がアリスティドの唇を食み、軽く吸いついてはまた甘く噛みついてくる。そしてまるでアリスティドの許しを請うように、舌先でくすぐられた。

「…………っふ……っ」

 今度はアリスティドが舌をのばし、見よう見まねでゲオルグを追いかける。濡れた舌を無我夢中で絡ませ合いながら、アリスティドはドクドクと早くなっていく鼓動に耳を澄ませた。

「ゲオルグ」

 彼に抱かれる時、アリスティドはいつも怖くて苦しくてたまらなかった。暗闇に聞こえてくるゲオルグの息遣いも、自分に伸し掛かる大きくて重たい身体も、アリスティドを貫き、こじ開け、何もかもバラバラにしてしまう灼熱の楔も、そしてそれを呑み込み満たされて歓喜する自分自身の身体が何より恐ろしかった。

 今も怖くて苦しいことには違いないが、不安はない。胸が痛くて、全身の皮膚が剥き出しになったようにヒリヒリする。
 どれだけ怖くても夜が来るたびにゲオルグに同じことをして貰いたい。そして今度はアリスティドもゲオルグに触れて、彼の望みを叶え、今度こそゲオルグにもアリスティドの中で最後まで達して欲しかった。

「……ゲオルグ」

 ゲオルグの額に自分のそれを押し当てながらアリスティドは囁く。

「私は皆が言うほど冷静でもないし落ち着いてもいない」
「知ってます」
「…………お前が思っている以上に、だ」

 相変わらず可愛げのない言葉にアリスティドは言い返した。

「……正直、身体から始まる関係など最悪だとは思うが」
「………………そうですね」

 なんとなく拗ねたような珍しいゲオルグの声に思わず笑う。

「でも」

 アリスティドはゲオルグの肩口に顔を埋めて答えた。

「でも、お前以外の者では嫌だ」

 そう呟いた途端、それまでアリスティドに絡みついていた最後のプライドが跡形もなく融けて消える。アリスティドは鼻をすすって、そしてゲオルグに向かって言った。

「お前が好きだ」

 口にすればこんなに簡単な言葉はないだろう。

「私を全部、お前のものにしてくれ」

 次の瞬間、突然嵐に攫われたかのように身体が宙に浮いたかと思ったら、気が付くとベッドに押し倒されて激しく口づけられていた。

「ん……っふ、あ、ゲオ、ル……んっ」

 ちゅ、ちゅ、と濡れた音を立てて舌を絡めとられ、唇を吸われ、敏感な上あごを尖らせた舌先でくすぐられる。

「っん、あ、んちゅ、ん……っ」

 ゲオルグの熱い手のひらがローブと制服をたくし上げ、中へと入って来る。

「ひっ!」

 剥き出しにされた胸をすくい上げるように持ち上げられ、期待に尖りきった乳首を甘噛みされてアリスティドは思わず呻いた。

「あ、あう、そこ、なめ、て……っ」

 ゲオルグがアリスティドの望み通りに乳輪ごと口に含んで舌で転がし、乳頭の窪みを舌先でくすぐってはそっと歯で擦り、またちゅう、と吸い上げる。

「あ、イイ、きもちいい」
「本当に、どこもかしこも敏感ですね」
「…………みっともないな」

 恥ずかしさについ口をついて出た呟きに笑ってゲオルグが答えた。

「いいえ、大好きですよ。美しくて愛らしくて淫らな俺のアリスティド」
「ひんっ!」

 だしぬけにスラックスと下着の中に入り込んだ手にペニスを撫でられて、思わず背筋が反り返る。

「あ、あ、んっ、ゲオル、グ……っ」

 たまらず声を漏らした唇をゲオルグにキスで塞がれて、ちゅくちゅくと舌を舐られる。

「……っは、あ…………っ」

 甘い唾液を流し込まれ歯列をなぞられ、太い指でくちくちとペニスの先端を弄られては、溢れるカウパーで濡れてそそり勃つ竿をぬるぬると扱かれて、アリスティドの口から泣き声のような喘ぎがとめどなく漏れる。我慢できずにゲオルグの身体を押し返そうと上げた手がゲオルグの硬く猛った股間に触れて思わず息を呑んだ。

「……これ、これが、ほしい、ゲオルグ」

 アリスティドは手を伸ばし、スラックス越しにその大きな膨らみをゆるゆると撫でさする。

「…………ゲオルグ、欲しい、……はやく、……服を……っ」
「ええ、いいですよ」

 ゲオルグが慣れた手つきでアリスティドの身体からローブやジャケットやスラックスを剥ぎ取っていく。だがその間も絶え間なくアリスティドに口づけてはさも愛おしいとばかりに舌や唇を食み、濡れた舌で愛撫する。それが今までと一番違うところだ、とアリスティドは甘く蕩けていく頭でふと思った。

(……いや、もっと違うところがあるな)

 いつもの暗闇とは真逆の午後の陽に照らされた部屋の中、ゲオルグの姿がはっきりと見える。
 いつも暗い部屋でばかり交わっていたから、今のこの明るさが居たたまれない。何もかも見えてしまう昼下がりの部屋で裸になることを躊躇うアリスティドに気づいたゲオルグは、小さく笑ってシャツ一枚だけはアリスティドに羽織らせたまま残しておいてくれた。

 アリスティドはベッドのヘッドボードにもたれ、かき寄せたシャツで粟立つ素肌を隠しながら、目の前で服を脱いでいくゲオルグの逞しい身体を言葉もなく見つめる。
 今までアリスティドはゲオルグの身体をきちんと見たことがなかったが、今は違う。大きな窓から差し込む午後の日差しに照らされて、ゲオルグの分厚い肩や胸筋、かっちりと割れた腹や太い腰回りなどがはっきりと見える。
 アリスティドとて鍛えてはいるが、人種の違いなのかなんなのか自分とはまるで違って見える。そしてアリスティドはゲオルグの臍下から続く濃い陰毛の下からそそり勃つ男根を初めて目の当たりにして言葉を失った。

(……これが、ほんとうに、わたしの中に……っ?)

 何度もアリスティドを奥の奥まで貫き、身も心も屈服させたソレは、赤黒い鎌首をもたげて獲物を狙っているように見える。ぞわぞわと全身を粟立たせて、アリスティドはきゅううっ、と疼く腹に手を当てた。

「……ゲオルグ、触れても、いいか」

 アリスティドが尋ねると、ゲオルグが頷く。アリスティドはゲオルグの前に這い寄ると片手に余りそうなソレを手で支えた。そして形や熱や重さを確かめるようにそっと両手で撫でさする。すべすべとした亀頭の感触がなんとなく気持ちよくて身を屈めると、ちゅ、と音を立てて口づけた。するとゲオルグの身体がピクリと反応したのに気をよくして、アリスティドはそのまま閉じた唇の隙間に押し込むようにして咥えこんだ。

「ん……ちゅ……っ、んむ……っ、んっ」

 彼がいつもしてくれたように口内に溜めた唾液を舌で塗り込めながら、ちゅぷちゅぷと音を立てて出し挿れすると、アリスティドの口の中でゲオルグのモノがさらに硬く勢いを増して行くのを感じた。

(なんだか、すごく、こうふんする)

 あの何を考えているのかわからない鉄面皮のゲオルグが、他の誰でもないアリスティドの口で勃起しているのだと考えただけでもたまらない。

(……そうか、私は今、自分の口で、私を貫く凶器を、育てているのか)
「んちゅ、んっ、んっ、っふ」

 とても全部は口に収めることができず、アリスティドは太い血管の浮いた幹を手で扱きながら頬をきゅっと締めて先端を咥え、懸命に舌で愛撫する。ゲオルグの亀頭がぬるり、と頬の内側の粘膜を擦るたびに、そして柔らかな舌を抉るたびに、アリスティドの両足の間のあの場所がじくじくと疼きだした。思わず腿を擦り合わせて「ん……っ」と声を呑み込んだのに気づいたゲオルグが、アリスティドの肩を掴んで身体を起こさせる。そして促されるままにアリスティドはベッドに胡坐をかいたゲオルグの前に膝立ちした。
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