星架の望み《ステラデイズ》・星

零元天魔

文字の大きさ
8 / 34
竜殺し編・《焔喰らう竜》

第三話・「暗夜に赫く絶望の焔」

しおりを挟む
 焔が暗闇に落ちた街並みをかがやかさせる。
 赤々と燃える町と悲鳴を上げる人、現世うつしよに顕現した地獄のような光景――あまりの悲惨さに思わず目を背けてしまう。
 アラームと春姉のメールを見た俺は、その後すぐに避難所へ向かった。
 荷物はなるべく少なく、最低限必要な物だけを持って家を出た。人の波に誘われるように、俺もその一部となって避難所へ向かって走る。
 クソ、一体どうしてこうなった!
 悪態を吐きながら走り続ける。
 目に映る光景はあの日――星災の日と同じ。人の力ではどうしようもない災害の前に、人はただ逃げることしかできない。
 「クソ――クソクソクソクソ、クソッ!」
 走りながら何度もそう口にした。
 最悪の光景だ。〝逃げ惑う人の波〟と〝街を囲う火〟、何もできない無力さに歯噛みすることしかできない自分に怒りが湧く。
 しかし、結局何もできない俺はただ逃げることしかできなくて、そのまま人の波に沿って走った。

 「なあ、さっきあっちで女子高校生くらいの女の子見たんだが、大丈夫かな?」
 「は? 知るかよそんなの」

 「――は」
 そんな会話が聞こえ、鼓動が強くなるのと感じた。
 最悪の想定が脳裏に過り、在ってはいけない出来事が明確に想像イメージできてしまった。
 「っハァ、っハァ……」
 過呼吸になる息。
 呼吸を正常に戻したと同時、体が自動的に動き出し、人の波を掻い潜りながら、会話をしていた男二人の元へ向かった。
 とんとん、と軽く肩を叩き声を掛ける。
 「あ、あの、すみません。さっきの話――少し詳しく聞いてもいいですか?」
 「は?」
 そう質問する俺に首を傾げるおじさんだったが、俺の真剣な表情を見て固唾を呑み、答えてくれた。

 曰く――
 避難を始めた時、とある女の子が火災の発生している方へ向かって走って行ったらしい。
 その女の子の容姿を聞くと、長い黒髪が特徴的な女子高校生くらいの人物だったと教えてくれた。

 ピタリ――と、その場で足を止める。
 どんどんと最悪の想像が明確に形に成っていき、絶望が心を占領していくのがわかる。再び過呼吸になり、視界が揺らぎ、ヒドイ頭痛に襲われる。
 そんな俺の様子を見て二人も足を止め、こちらへ寄って来る。
 「もしかして知り合いなのか?」
 「――――」
 「おい坊主、大丈夫か?」
 そう二人は見ず知らずの俺を心配するように声を掛けるが、そんなことを気にしていられるほど、今の俺は冷静でいられていなかった。

 「ああ゙ッ!――クソッ!!」

 「「!」」
 焦りと苛立ちに思わず、真横にあった街灯を殴りつけてしまった。カーンという音が一瞬聞こえたが、すぐに雑踏と悲鳴に掻き消される。
 急に街灯を殴った俺に動揺する男二人だったが、再び心配したような表情で何やら声を掛けようとする。
 が、俺はクルッと踵を返した。
 「おい坊主、そっちは――」
 そんな声が聞こえたが、そのままゆっくりと歩を進める。
 恐怖を張り付けた顔を人間達が視界一杯に広がり、俺は一瞬たじろいだが――もう既に。二足は止まることなく、地面を踏んで歩き出す。
 「君、やめなさい!」
 静止するそんな言葉と共に肩を掴まれ、無理やり動きを止めさせられた。
 「僕が見た人物が君の知り合いとは限らない! 危険なことはやめるんだ!」
 「…………」
 「大丈夫、きっとその子も避難所へ向かっている筈だ。今は一緒に避難所へ向かおう……大丈夫、きっと大丈夫だから」
 そんな風に優しい言葉を掛けて来るおじさん。
 そうだ、その通りだ。おじさんの言うことは間違っていない、今すべきことじゃないことはわかっている。
 だけど――

 「ありがとうございます。でも――すみません」

 ――〝心〟がもう決めている。
 一瞬、振り返る。まったくと言っていいほど関係ない人物へ、こんなにも心配してくれるおじさんに感謝と謝罪を述べつつ、その手を払って前へ向き走り出した。


 人の波に逆らって前へ前へ進み続ける。
 鼓動が速い――胸が苦しい。沸騰するほどの血流は正常な判断を損なう、呼吸を整えながら無理やり冷静さを回帰させる。
 落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け――!
 何度も何度もそう言い聞かせ、身体と意識を冷静に保とうとする。
 このままではカウンタを使うことすらままならない、今は冷静になる時だ。
 脳内に広がるのは――最悪の〝想像〟と〝後悔〟。
 おじさんの言う通り、その女の子は想像している人物なんかじゃなくて、この行為は全て無意味。そうだ、俺の想像している人物――命里である確証は一切ない。
 ただ特徴が一致しているだけ、黒髪の女子高校生なんていくらでもいる。彼女である可能性のが低い。
 「あ゙ぁ――――ッ!」 
 大きく叫ぶように声を上げる。
 周囲の人間達が驚いたような表情を見せる。
 今のは決意を決めるためのものだ。心がブレてしまわないように、折れてしまわないように固定する。
 ――一度決めた以上、引き返せはしない。
 ならば――なら全部捨てる。
 心を固めろッ! ズレるな――綻ぶなッ!
 強く自分を奮い立たせる。判断に誤りができないよう、覚悟と意識、決意は固めた。
 そうだ、例えこの先に命里がいなくたって――人を助ける。
 そこに誰がいたって構わない、だから――
 「ふぅ――よし」

 ――一人でも多く人を救って見せろ。

 さあ、前を向け――行くぞ、俺。
 「固有強化リミット・ライズ――限数設定カウント固定開始セット
 人の波を抜けたところではかりを起動させる。
 己が全霊を懸け、人を救うため俺は走った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

四人の令嬢と公爵と

オゾン層
恋愛
「貴様らのような田舎娘は性根が腐っている」  ガルシア辺境伯の令嬢である4人の姉妹は、アミーレア国の王太子の婚約候補者として今の今まで王太子に尽くしていた。国王からも認められた有力な婚約候補者であったにも関わらず、無知なロズワート王太子にある日婚約解消を一方的に告げられ、挙げ句の果てに同じく婚約候補者であったクラシウス男爵の令嬢であるアレッサ嬢の企みによって冤罪をかけられ、隣国を治める『化物公爵』の婚約者として輿入という名目の国外追放を受けてしまう。  人間以外の種族で溢れた隣国ベルフェナールにいるとされる化物公爵ことラヴェルト公爵の兄弟はその恐ろしい容姿から他国からも黒い噂が絶えず、ガルシア姉妹は怯えながらも覚悟を決めてベルフェナール国へと足を踏み入れるが…… 「おはよう。よく眠れたかな」 「お前すごく可愛いな!!」 「花がよく似合うね」 「どうか今日も共に過ごしてほしい」  彼らは見た目に反し、誠実で純愛な兄弟だった。  一方追放を告げられたアミーレア王国では、ガルシア辺境伯令嬢との婚約解消を聞きつけた国王がロズワート王太子に対して右ストレートをかましていた。 ※初ジャンルの小説なので不自然な点が多いかもしれませんがご了承ください

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

処理中です...