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竜殺し編・《焔喰らう竜》
第三話・「暗夜に赫く絶望の焔」
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焔が暗闇に落ちた街並みを赫かさせる。
赤々と燃える町と悲鳴を上げる人、現世に顕現した地獄のような光景――あまりの悲惨さに思わず目を背けてしまう。
アラームと春姉のメールを見た俺は、その後すぐに避難所へ向かった。
荷物はなるべく少なく、最低限必要な物だけを持って家を出た。人の波に誘われるように、俺もその一部となって避難所へ向かって走る。
クソ、一体どうしてこうなった!
悪態を吐きながら走り続ける。
目に映る光景はあの日――星災の日と同じ。人の力ではどうしようもない災害の前に、人はただ逃げることしかできない。
「クソ――クソクソクソクソ、クソッ!」
走りながら何度もそう口にした。
最悪の光景だ。〝逃げ惑う人の波〟と〝街を囲う火〟、何もできない無力さに歯噛みすることしかできない自分に怒りが湧く。
しかし、結局何もできない俺はただ逃げることしかできなくて、そのまま人の波に沿って走った。
「なあ、さっきあっちで女子高校生くらいの女の子見たんだが、大丈夫かな?」
「は? 知るかよそんなの」
「――は」
そんな会話が聞こえ、鼓動が強くなるのと感じた。
最悪の想定が脳裏に過り、在ってはいけない出来事が明確に想像できてしまった。
「っハァ、っハァ……」
過呼吸になる息。
呼吸を正常に戻したと同時、体が自動的に動き出し、人の波を掻い潜りながら、会話をしていた男二人の元へ向かった。
とんとん、と軽く肩を叩き声を掛ける。
「あ、あの、すみません。さっきの話――少し詳しく聞いてもいいですか?」
「は?」
そう質問する俺に首を傾げるおじさんだったが、俺の真剣な表情を見て固唾を呑み、答えてくれた。
曰く――
避難を始めた時、とある女の子が火災の発生している方へ向かって走って行ったらしい。
その女の子の容姿を聞くと、長い黒髪が特徴的な女子高校生くらいの人物だったと教えてくれた。
ピタリ――と、その場で足を止める。
どんどんと最悪の想像が明確に形に成っていき、絶望が心を占領していくのがわかる。再び過呼吸になり、視界が揺らぎ、ヒドイ頭痛に襲われる。
そんな俺の様子を見て二人も足を止め、こちらへ寄って来る。
「もしかして知り合いなのか?」
「――――」
「おい坊主、大丈夫か?」
そう二人は見ず知らずの俺を心配するように声を掛けるが、そんなことを気にしていられるほど、今の俺は冷静でいられていなかった。
「ああ゙ッ!――クソッ!!」
「「!」」
焦りと苛立ちに思わず、真横にあった街灯を殴りつけてしまった。カーンという音が一瞬聞こえたが、すぐに雑踏と悲鳴に掻き消される。
急に街灯を殴った俺に動揺する男二人だったが、再び心配したような表情で何やら声を掛けようとする。
が、俺はクルッと踵を返した。
「おい坊主、そっちは――」
そんな声が聞こえたが、そのままゆっくりと歩を進める。
恐怖を張り付けた顔を人間達が視界一杯に広がり、俺は一瞬たじろいだが――もう既に心が決めてしまっている。二足は止まることなく、地面を踏んで歩き出す。
「君、やめなさい!」
静止するそんな言葉と共に肩を掴まれ、無理やり動きを止めさせられた。
「僕が見た人物が君の知り合いとは限らない! 危険なことはやめるんだ!」
「…………」
「大丈夫、きっとその子も避難所へ向かっている筈だ。今は一緒に避難所へ向かおう……大丈夫、きっと大丈夫だから」
そんな風に優しい言葉を掛けて来るおじさん。
そうだ、その通りだ。おじさんの言うことは間違っていない、今すべきことじゃないことは判っている。
だけど――
「ありがとうございます。でも――すみません」
――〝心〟がもう決めている。
一瞬、振り返る。まったくと言っていいほど関係ない人物へ、こんなにも心配してくれるおじさんに感謝と謝罪を述べつつ、その手を払って前へ向き走り出した。
人の波に逆らって前へ前へ進み続ける。
鼓動が速い――胸が苦しい。沸騰するほどの血流は正常な判断を損なう、呼吸を整えながら無理やり冷静さを回帰させる。
落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け――!
何度も何度もそう言い聞かせ、身体と意識を冷静に保とうとする。
このままではカウンタを使うことすらままならない、今は冷静になる時だ。
脳内に広がるのは――最悪の〝想像〟と〝後悔〟。
おじさんの言う通り、その女の子は想像している人物なんかじゃなくて、この行為は全て無意味。そうだ、俺の想像している人物――命里である確証は一切ない。
ただ特徴が一致しているだけ、黒髪の女子高校生なんていくらでもいる。彼女である可能性のが低い。
「あ゙ぁ――――ッ!」
大きく叫ぶように声を上げる。
周囲の人間達が驚いたような表情を見せる。
今のは決意を決めるためのものだ。心がブレてしまわないように、折れてしまわないように固定する。
――一度決めた以上、引き返せはしない。
ならば後悔は足枷に、タラレバは心を綻ばせる――なら全部捨てる。
心を固めろッ! ズレるな――綻ぶなッ!
強く自分を奮い立たせる。判断に誤りができないよう、覚悟と意識、決意は固めた。
そうだ、例えこの先に命里がいなくたって――人を助ける。
そこに誰がいたって構わない、だから――
「ふぅ――よし」
――一人でも多く人を救って見せろ。
さあ、前を向け――行くぞ、俺。
「固有強化――限数設定・固定開始」
人の波を抜けたところで秤を起動させる。
己が全霊を懸け、人を救うため俺は走った。
赤々と燃える町と悲鳴を上げる人、現世に顕現した地獄のような光景――あまりの悲惨さに思わず目を背けてしまう。
アラームと春姉のメールを見た俺は、その後すぐに避難所へ向かった。
荷物はなるべく少なく、最低限必要な物だけを持って家を出た。人の波に誘われるように、俺もその一部となって避難所へ向かって走る。
クソ、一体どうしてこうなった!
悪態を吐きながら走り続ける。
目に映る光景はあの日――星災の日と同じ。人の力ではどうしようもない災害の前に、人はただ逃げることしかできない。
「クソ――クソクソクソクソ、クソッ!」
走りながら何度もそう口にした。
最悪の光景だ。〝逃げ惑う人の波〟と〝街を囲う火〟、何もできない無力さに歯噛みすることしかできない自分に怒りが湧く。
しかし、結局何もできない俺はただ逃げることしかできなくて、そのまま人の波に沿って走った。
「なあ、さっきあっちで女子高校生くらいの女の子見たんだが、大丈夫かな?」
「は? 知るかよそんなの」
「――は」
そんな会話が聞こえ、鼓動が強くなるのと感じた。
最悪の想定が脳裏に過り、在ってはいけない出来事が明確に想像できてしまった。
「っハァ、っハァ……」
過呼吸になる息。
呼吸を正常に戻したと同時、体が自動的に動き出し、人の波を掻い潜りながら、会話をしていた男二人の元へ向かった。
とんとん、と軽く肩を叩き声を掛ける。
「あ、あの、すみません。さっきの話――少し詳しく聞いてもいいですか?」
「は?」
そう質問する俺に首を傾げるおじさんだったが、俺の真剣な表情を見て固唾を呑み、答えてくれた。
曰く――
避難を始めた時、とある女の子が火災の発生している方へ向かって走って行ったらしい。
その女の子の容姿を聞くと、長い黒髪が特徴的な女子高校生くらいの人物だったと教えてくれた。
ピタリ――と、その場で足を止める。
どんどんと最悪の想像が明確に形に成っていき、絶望が心を占領していくのがわかる。再び過呼吸になり、視界が揺らぎ、ヒドイ頭痛に襲われる。
そんな俺の様子を見て二人も足を止め、こちらへ寄って来る。
「もしかして知り合いなのか?」
「――――」
「おい坊主、大丈夫か?」
そう二人は見ず知らずの俺を心配するように声を掛けるが、そんなことを気にしていられるほど、今の俺は冷静でいられていなかった。
「ああ゙ッ!――クソッ!!」
「「!」」
焦りと苛立ちに思わず、真横にあった街灯を殴りつけてしまった。カーンという音が一瞬聞こえたが、すぐに雑踏と悲鳴に掻き消される。
急に街灯を殴った俺に動揺する男二人だったが、再び心配したような表情で何やら声を掛けようとする。
が、俺はクルッと踵を返した。
「おい坊主、そっちは――」
そんな声が聞こえたが、そのままゆっくりと歩を進める。
恐怖を張り付けた顔を人間達が視界一杯に広がり、俺は一瞬たじろいだが――もう既に心が決めてしまっている。二足は止まることなく、地面を踏んで歩き出す。
「君、やめなさい!」
静止するそんな言葉と共に肩を掴まれ、無理やり動きを止めさせられた。
「僕が見た人物が君の知り合いとは限らない! 危険なことはやめるんだ!」
「…………」
「大丈夫、きっとその子も避難所へ向かっている筈だ。今は一緒に避難所へ向かおう……大丈夫、きっと大丈夫だから」
そんな風に優しい言葉を掛けて来るおじさん。
そうだ、その通りだ。おじさんの言うことは間違っていない、今すべきことじゃないことは判っている。
だけど――
「ありがとうございます。でも――すみません」
――〝心〟がもう決めている。
一瞬、振り返る。まったくと言っていいほど関係ない人物へ、こんなにも心配してくれるおじさんに感謝と謝罪を述べつつ、その手を払って前へ向き走り出した。
人の波に逆らって前へ前へ進み続ける。
鼓動が速い――胸が苦しい。沸騰するほどの血流は正常な判断を損なう、呼吸を整えながら無理やり冷静さを回帰させる。
落ち着け落ち着け落ち着け落ち着け――!
何度も何度もそう言い聞かせ、身体と意識を冷静に保とうとする。
このままではカウンタを使うことすらままならない、今は冷静になる時だ。
脳内に広がるのは――最悪の〝想像〟と〝後悔〟。
おじさんの言う通り、その女の子は想像している人物なんかじゃなくて、この行為は全て無意味。そうだ、俺の想像している人物――命里である確証は一切ない。
ただ特徴が一致しているだけ、黒髪の女子高校生なんていくらでもいる。彼女である可能性のが低い。
「あ゙ぁ――――ッ!」
大きく叫ぶように声を上げる。
周囲の人間達が驚いたような表情を見せる。
今のは決意を決めるためのものだ。心がブレてしまわないように、折れてしまわないように固定する。
――一度決めた以上、引き返せはしない。
ならば後悔は足枷に、タラレバは心を綻ばせる――なら全部捨てる。
心を固めろッ! ズレるな――綻ぶなッ!
強く自分を奮い立たせる。判断に誤りができないよう、覚悟と意識、決意は固めた。
そうだ、例えこの先に命里がいなくたって――人を助ける。
そこに誰がいたって構わない、だから――
「ふぅ――よし」
――一人でも多く人を救って見せろ。
さあ、前を向け――行くぞ、俺。
「固有強化――限数設定・固定開始」
人の波を抜けたところで秤を起動させる。
己が全霊を懸け、人を救うため俺は走った。
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