世界の修正者は世界を守らない

レヴェント編

４７．術と剣、未と過の縁

　「次」
　「じゃあ、僕が」
　そう言って席を立ったのは眼鏡を掛けた水色髪、赤色の少年。
　「僕は静崖せいがい乾止げんと、皆さん、ど、どうぞよろしく」
　オドオドとした態度でそう名乗った少年、彼は元世界でよく照雄辺りに絡まれていた人物、見た目や言動通りに俺と同じ陰キャの部類に属する人間だ。
　自己紹介を終えた静崖は席に戻って行く、そんな様子を見計らったレナが次の合図を送った――その瞬間だ。
　「つ――」
　「巧鎚こうつち澪みお」
　レナが次を言い終える前に名を名乗り即座に席に戻って行く。巧鎚さんはせっかちというよりは人と関わるのが嫌な人間なのだろう、隣の彼女の様に。
　俺はそっと隣で退屈そうにしている銀髪の少女の自己紹介を思い出す。


　「次」
　「アリシア・ケーンレス、以上だ」
　アリシアと名乗った少女はそう言い放つとすぐさま席に戻ろうとする。その時、一生徒があることに気付き声を上げた。
　「ケーンレス？　もしかして、レナ先生の血縁の方なんですか？」
　一人の女子生徒がそう言ったのだ。アリシアはその言葉に対して言った。
　「私はレナと血縁ではない。私はただの養子だ、わかったらこれ以上の詮索はするな――死にたくなければな」
　殺気の籠ったその声にクラス内がざわついた。一方でレナの方はやっぱり、という表情をして額に手の甲を当てて項垂れていた。
　第一印象最悪だな。まあ……それが目的なんだろうけどさ。
　周囲との間に明確な壁を作り、他人との関わりを削いでいく。一人になりたいとはいえやり過ぎだ、そう思わずにはいられない。だが、他人の思考にとやかく言える人間でもないし、言うつもりもない、これ以上の思考は無駄だ。
　人それぞれ、か……
　隣の席に着いた少女を見てそう思った。


　そういうわけで彼女もアリシア同様に人との関わりを削ぎたい世捨て人気質な人間なのだろう。
　気持ちは分からないでもない、周囲との関わりを無駄と切り捨てたいと思う気持ちは俺もある。周囲の人間、自身にとっての有象無象、それらとの関わりを〝無意味〟と思う感性は理解できる。

　だが――それは少し、悲しい考え方だとも、思う。

　確かに人との関わり合いが無駄というのも間違いではないと思う。でも、人は一人で生きていく生物じゃない、他人との関わりを持って生きていく生き物だ。無駄が多い生物、そう捉えることもできるが、逆に幸福の多い生き物、そう捉えることもできるんじゃないか、そう思わなくはない。
　「次」
　そんなことを思っていると教卓の前に図体が大きく筋肉質な男が一人、豪勢な態度で立っていた。
　「俺はランドス・ボーロス。魔道騎士団、副団長のオフィース・ボーロスの一人息子だ。このクラス、誰につくかはよ～く、考えろよ？」
　図体のデカい、不良少年君以上の不良がそう言い放った。
　「ランドス、そう言った言動は慎んでくれ」
　「へいへい」
　レナの注意に反省の色を一切見せずにふざけた感じにそう言った。
　訂正、ああいう奴は完全無視でいいや、ただのバカ息子だろあれ。
　自身の持論を全てひっくり返された気分になった俺は久しくイラついた。ああも虎の威を借る狐を綺麗に演じられる者もいないだろう、親の指導がどうか知らんがあんな態度普通できんだろうに。
　呆れた目線をドン・キホーテ君に向ける。