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レヴェント編

57.零も壱も、忘れている

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 「ふぅ……」
 呼吸を整え息を吐く、跳ね上がった心拍数を正常な段階まで落としていく。
 たった二撃のために現状持ち得る全てを捻出した彼のカラダは熱気を放っている、熱暴走オーバーヒート寸前の身体を急速冷凍クールダウンさせ正常温度まで戻している。
 平常――一般の人間であれば、それほどまでの消耗をすればその時点で身体機能の大半が急停止ダウンし、機能不全を起こす。だが、彼の肉体は既に一般のモノとは別物だ、四勇者となったその肉体は魔力的にも身体的にも常軌の人間とはクオリティ性能スペックも全く違う。停止した身体は急速に活性化させ、壊れた体組織は即座に再生される。
 既にその体は人間と評せるモノじゃない。第一、彼というニンゲンの根幹は最初から――
 「お前、名前は」
 「曹源……曹源宮登、です」
 倒れた強面の講師が宮登にそう問いかけ、彼は素直に自身の名を名乗った。少々疲れ残っている喋り方だが、その声はしっかりと芯まで通るような澄み切ったものだった。
 呆れるほど純粋、一切の混じり気がない。だが、それ故に局面の切り替えが秀逸だ。
 『混在しているモノから自我を確立する者』と『純正に区切られたモノから自我を確立する者』、どちらも異常で双方相反するモノ、ただ――双方を掌握する〝異常〟もまた、存在する。
 天無の目線は自然と宮登の方を集中的に見ていた。
 「そうか、ミヤト。俺はバデオ・ニュービオス、素晴らしい立ち合いだった」
 「バデオさんこそ、すごい剣撃でしたよ」
 分かり切っていた結果だが、やはり こころに滾るモノはある。
 嫉妬なのだろうか?
 ずるい、ズルい、ズルイ……きっとあれには、俺は届かない――分かり切っている。俺とは根本が違う――分かり切っている。
 あれは俺にないモノを持っている。わかってる、わかってる、わかってる……でも、 こころが痛い。
 醜い嫉妬心……そうではない。単に自己嫌悪しているだけ、〝空っぽ〟な自身と〝一杯〟な彼を見比べて卑下しているだけ、無駄な話にもほどがある。が、が、が、何と見比べても分かるのは■■であるという事実だけなのに……
 「彼、すごいな」
 「ああ、そうだな」
 アルの感嘆に興味なさげに答える。
 「知ってたのか?」
 「いや、別に……ただ、気がする」
 「ん、どういう意味だ?」
 彼は自身の理解できない言葉に首を傾げ、そう質問してきた。
 「…………気にするな。ただの〝戯言〟だ、気にするような話じゃない」
 「?」
 自分でも何故こんなにも思考が起こったのか、彼が原因なのか、俺が原因なのか、本当に理解できない。
 ま、気にする必要もないか……
 無駄と切り捨てその思考を放棄する。無意味なことを続けることなど本当に無駄なのだから――
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