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レヴェント編

137.や、やわらかいです

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 「えー、パーティーというのはですね。決して夜会などではなく、遺跡探索などを一緒に行う仲間のことをいうのですわ。近々授業でパーティー決めがあるので、そのパーティーを組みましょうとお願いしたのですよ?」
 懇切丁寧に説明してくるフィニスさん。その表情は何かの間違いだと、一生懸命間違いを訂正しているような感じだった。
 「ええ、分かってますよ。で、その上で無理って言ったんです」
 「――――」
 戦慄の表情で固まる。
 周囲の人間も、彼女の評価を知っているが故に俺の反応が理解できないという風だった。
 あー、目立たないつもりがめっちゃ目立つ~、やーな感じ……、ま、いっか。
 「な、なぜですか?」
 「なぜと言われても、まあ普通に嫌だったからかな?」
 「どこが嫌だったんですか?」
 理解に苦しむ答えばかりが返ってくるのか質問攻めなフィニスさん、俺はめんどくさそうな表情を彼女に向ける。
 「はぁ。逆に聞きますけど、どうして俺なんかを誘ったんですか?」
 「…………」
 「こっちの質問は答えられませんか? なら、これ以上喋る意味はないですよね? 自分の席へお戻りくださいませ、お嬢様」
 その言葉を聞いて悔しそうに拳を握るフィニスさん。
 正直殴られるんじゃないかと思ったが、彼女はそのまま自席に向って去って行った。
 「ぜ」
 フィニスさんはボソリと呟く。
 「ぜ?」
 「絶対にパーティーを組みたいと言わせてみせますわ」
 「…………」
 んー、予想外の方向にことが進んでいる気がする。
 なぜ彼女に執着されたのか分からないが、フィニスさんはどうしても俺をパーティーに入れたいようだ。まったく、めんどくさいことになったものだ。
 呆れた様子で椅子にもたれ掛る。
 「いいんですか?」
 「なにが?」
 「いえ、フィニスさんの提案を断って」
 「別にいいよ。興味がない」
 「興味がないってお前な」
 後ろのアルが呆れたような声でそう言ってくる。
 「お前、実技テストで見たろ? 彼女は強い、きっと遺跡探索だって容易になるし、彼女の家は俺と同じ五大貴族の一つだ。財力にだって頼れるんだぞ?」
 「お前、家の力を借りるのはあんまりいい気しないんじゃないのか?」
 「俺はな。ケイヤは違うだろ? 少しでも使えるものは――」
 「いや興味ないね」
 「っ――!」
 興味ないと言い切る俺を見て驚くアル。
 「彼女にしても、彼女の家にしても、まったく魅力を感じない。単純な戦闘能力はアリシア、シュナ、巧鎚さんの方が上。お前にルーカ、宮登も、戦えばいい線いく。財力や権力なら後々どうとでもなるし、あてもある。今の彼女には何の興味も湧かないよ」
 「フン。単に強いだけ、財力、権力を持っているだけじゃ意味がないと思うがな」
 鼻を鳴らしアリシアは言った。
 「他の部分は俺が対応すればいい。もし足りないモノがあるなら、その都度掻き集める。今は事足りる以上、余分はただの邪魔だろ?」
 「なるほど。確かにそれでは興味がないわけだ」
 「ああ、正直、お前と俺だけで大抵は事足りるだろ?」
 「フッ、そうだな。まったくもってその通りだ」
 微笑を浮かべ同意するアリシア。
 ってか、この感じだとパーティーを組んでくれるんですかね?
 正直その不安があったのだが、今の様子を見る感じOKしてくれそうだ。
 そうこう話している内に教室の扉が開いた。
 「皆、席に着け。朝連絡だ」
 レナのその言葉で立っていた生徒はそそくさと席に着き、彼女の話を聞く体勢をとった。
 大した話もなく朝連絡が終わり、座学の授業が始まる。
 座学の授業中、眠たげなランドス・ボーロスが教室に入ってきて自分の席で眠り出す。ここで寝るなら帰れよ、ってか来るなよ、とか思ったりもしつつ授業を終える。
 実技授業の時間になる。
 運動用の服に着替えた後、俺とアリシアはレナに言われた訓練場一棟に向った。
 到着した訓練場は五棟に比べて設備が悪く、地面の石畳は所々苔が生えておりとても整備されているモノとは思えない場所だった。
 なるほど、特設組とはこういう扱いを受けるのか。
 正直体を動かせればどこでもいいのだが、ここまで露骨の設備の差が出るとは思わなかった。
 「さーて、俺達は昨日サボったからな。担当の講師が怒ってないといいが」
 「私はサボってない」
 「実質サボりじゃない?」
 そう言うと、もう言葉は無く冷ややかな目を向けつつ拳を握る。
 俺は後退しながら平謝りをした。
 そんなコントのようなやり取りをした後、俺達は講師が来る前に準備運動を開始した。
 「こんにちわ、二人とも」
 「ん? イザベラ、さん?」
 訓練場に現れたのは実技テストで戦ったイザベラさんだった。
 「一様自己紹介した方がいいかしら? 私はイザベラ・ネイマーニス、元魔道騎士団、序列九位。今はケーンレス学園の実技担当講師をやっているわ。イザベラって呼んでくれて構わないわ」
 「イザベラさんが僕らの実技担当なんですね」
 「そうね。ちょっと気になることがあったから、私が申し出てあなた達の担当にしてもらったのよ。ああそれと、話し方はラフでいいわよ? 堅苦しいのはあんまり好きじゃないから」
 「そうですか? なら、こっちで。んン゙、よろしくイザベラ」
 口調と声色を戻し、手を差し出す。
 「切り替え早いわね」
 「戻した方がいいか?」
 「いや、今のままでいいわ」
 そう言って彼女は俺の出した手を掴んだ。
 「それで気になることってのは?」
 「理由は三つ。一つはあなたに感じた違和感の正体が気になったこと。もう一つはアリシアさん、あなたの実力の底が気になったかしら」
 イザベラはそう言ってアリシアの方を見る。
 「私、剣の腕にはそれなりに自身があったのだけど、まさか軽くあしらわれるとは思わなかったわ。正直言って、あなたの強さは異常ね、クラス内でもトップレベルじゃないかしら」
 「フン、さあな」
 両腕を組んでそういうアリシア。
 「それで最後の一つは?」
 俺がそう尋ねるとイザベラは笑みを浮かべて近づいてくる。
 「ねえ、ケイヤ君。君、私のこと憶えてる?」
 「……はい? ちょっと質問の意味がわからないんだけど、どゆこと?」
 「だから、私のこと憶えてるって聞いてるのよ」
 「えーと、憶えてます。実技テストの時ボコボコにされましたしね」
 そう答えるとイザベラは若干残念そうな表情を見せる。
 あれ? もしかして他で会ったことあるの?
 記憶を探っても何も思い出せないが、彼女の様子からしてどこかで会っているような気がする。
 「数日前、魔力適性調査、これで思い出せない?」
 その言葉を聞き記憶を探る。
 そして、該当する答えに辿り着く。
 「あ! あの時の職員!」
 「正解! 百点!」
 嬉しそうにそういうイザベラ。よく姿を確認し、記憶の中の女性職員の姿を照らし合わせると、まったくの同一人物だとわかる。
 ああ、渚さんを助けた時の。
 魔光石を爆破させた渚さんを医務室に連れて行こうとした女性職員、あれはイザベラであった。
 「あの時はありがとね、油断しててつい足に力が入らなくて逃げられなかったの。ケイヤ君としてはナギサちゃんを助けるために走ったんでしょうけど、それでも助かったわ。本当にありがとうね」
 「どういたしまし、べぶっ!?」
 俺がそう言おうとした瞬間、正面が黒く染まる。そして柔らかい何かが、ぷにゅんと顔面に当たる。
 慌てた俺は逃げようとするも、頭を両腕でガッシリ掴まれているので逃げられない。
 「ケイヤ君。正直ねお姉さん、君に恋しちゃったの」
 「「!?」」
 彼女の胸の中で暴れる俺と、平静だったアリシアはその言葉に驚愕の表情を浮かべる。
 「私って基本、元魔道騎士ってこともあって女らしい部分ってあんまりなくてね」
 こんなに立派な胸を押しつけておいてよくいうよ、と言いたいがまだ彼女のホールドから抜け出していない俺は何も言えずただ抵抗する。
 「だから、君に助けられた時、胸がキュンってしちゃったの。あんな感情、昔、私が憧れを抱いたあの人以外に感じたことがなかったの」
 「だからって急に抱きしめてくる人がいますか!?」
 「あら」
 何とか胸から脱した俺はそう苦言を呈する。
 流石にあんなにも胸に密着した経験は少ないので、顔を真っ赤にする俺。
 「因みに答えは今すぐ出さなくていいからね? 時間はたくさんあるもの、ゆっくりとお姉さんの魅力を伝えていくわ」
 ……どうしよう。
 まさかこんな展開になるとは。
 そしてふと、実技テスト時の彼女の様子を思い出す。そう言えば彼女はオリビアやエヴァから応援されている姿を見て、苛立ちを見せていた。その時は大して何も思わなかったが、まさか嫉妬だったとは。
 事は色んな意味でどんどん狂った方向に舵を切る。
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