王さまに憑かれてしまいました

九重

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第三巻 児童書風ダイジェスト版

17年後

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それから17年後――――
王都の一流店となったニトラ商店のドアが、ガランと開けられる。
「イザークさん、いる?」
入って来たのは冒険者風の格好をした年若い青年と一頭の黒いレインズだった。
「――――ルードビッヒさま! また城から抜け出して冒険に行ってこられたのですか!?」
奥から出てきたのは、今年46歳になるフェルテン・ニトラだ。
かつて天使のように可愛い少年だったフェルテンは、背の高い見惚れるようなイイ男になっていた。
「ああ! もう、靴が泥だらけじゃないですか。そんな靴で店に入って来ないでくださいと、いつも言っていますでしょう。」
お小言を言われて、ルードビッヒと呼ばれた青年は、慌てて片足を上げ、自分の靴の裏を見る。
ボタリと土がキレイな店の床に落ち、あちゃ~と顔をしかめた。
ギロリと睨み付けるフェルテン。
黒いレインズは我関せずとそそくさと店の隅に逃げて行く。
ペタペタとつく足跡に、フェルテンの眉はキリリと上がった。
「あの…………俺が用があるのは、イザークさんなんだけど。」
流石にまずいと思ったのだろう、頭を下げながら上目遣いで青年はフェルテンを見上げる。
「兄は奥で仕事中です。どうせ、懐中時計の魔石が壊れたとかそんな修理依頼でしょう? 兄の代わりに私が聞きます。……まったく、兄さんは甘すぎる。いくら“お姉さん”の大事な子供だからって、ホイホイ言うことを聞いてやるから、こんな放蕩王子ができるんだ!」
手を腰に当て怒るフェルテン。
ルードビッヒ――――正確には、ローディア国第三王子 ルードビッヒⅡ・フォン・アロイス・ローディア――――通称ルードビッヒ二世は、目を逸らしながら伸びすぎて長くなった黒髪に手を突っ込んだ。
国王アレクサンデルの賢明な統治の元、豊かな発展を続ける平和な国ローディア。
そのローディアの第三王子として生まれたルードビッヒ二世は、生まれた時から母である王妃コーネリアの愛情をたっぷり受けて育った。
そうでなくとも五人兄弟の末っ子の第三王子なんて、甘やかされるに決まっている。
何故か彼にさりげなく厳しい父王のおかげで、一応の礼儀作法や知識は身に着けたが――――ルードビッヒ二世は、破天荒な型破り王子として有名だった。
「……こんなに魔石を消費して、今度はどちらまで行ってこられたのですか?」
ルードビッヒから受け取った防御魔法付き懐中時計の魔石の様子を確認しながらフェルテンが呆れる。
「ああ。クモール国境の街まで少し。……マルセロに会ってあっちの様子を聞いてきた。クモールの情勢も安定しているようだ。」
なんでもないことのように答えるルードビッヒ。
「また、そんな間諜の真似ごとのようなことをして――――」
「大丈夫さ。父上の許可は得てある。……それに母上は、俺が自由気ままに生きることをお望みだからな。」
そう言いながら、出されたお茶を飲んで王子は笑った。
「自由過ぎるでしょう?」
「そうでもないさ。なにせ、母上のお望みは、俺が“パン屋”か“冒険者”になることだ。流石に、“パン屋”はご辞退させていただいたが……」
困ったように肩をすくめるルードビッヒに、フェルテンは「お姉さんらしい」と小さく呟く。
目を細め優しく微笑むフェルテンを、ルードビッヒは嬉しそうに見つめた。
その視線に気づいて、フェルテンはあわててゴホンと咳払いをする。
「例えそうであっても、そろそろ勝手な行動は慎まれるべきです。ルードビッヒさまももう17歳。ご公務のお手伝いをされる年頃でしょう? ……それに、口ではなんと言っても王妃さまもお寂しいはずです。」
フェルテンの進言に、ルードビッヒは表情を引き締めた。
「ああ。俺もそう思っている。ユリア姉上にも怒られた。……これからは、父上や兄上をお助けして国のために尽くすつもりだ。城に――――母上の側にいるよ。」
顔を上げたルードビッヒは、きっぱりと宣言する。
フェルテンは嬉しそうに頷いた。
「それが良いでしょう。懐中時計はお預かりして、後で兄が“喜んで”王妃さまにお届けします。早くご帰城なさいませ。」
「ありがとう」と言って、ルードビッヒは立ち上がった。
そのままレインズを連れて店を出る。
王都の大路の向こう、堂々とそびえる王宮に視線を向けた。
わし・・がこれからずっと城にいると言えば、父上は嫌がられるかもしれないな。」
ニッと笑いながら、そう呟いた。
「なあ、ユリアヌス。」
そう思うだろうと、傍らのレインズに聞けば、ユリアヌスはどうでも良いというように尻尾をパタリと揺らす。
一人と一匹は王城へと続く道を駆け出した。
きっとルードビッヒの母は、両手を広げて迎えてくれることだろう。
どんなに勢いよく飛びついても、もう決してコーネリアをすり抜けることのないことが、とても嬉しいルードビッヒだった。
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