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第二章 平穏な日々ばかりではないようです。
トネリコの杖で頭を殴るのは止めましょう
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王子というのはアルディアのことだろう。
エルフの青い瞳が、ジロッとダンケルを睨む。
魔族の青年は、両てのひらを上に向け、肩をすくめた。
「だってそうだろう? 人間の王子は、あの娘を守りたくて病を押して出陣したってのに、当の娘は、王子に会いたくないと言うんだから」
聞いたリオールは、柳眉を逆立てた。
「貴様! ウララに何を言った!」
リオールの怒声を浴びて、しかしダンケルはヘラリと笑う。
「ウララには、傷が治ったら王子の情報を教えると約束したからな。……だから教えてやったのさ。王子の悲壮な覚悟と居場所をな。王子は今、戦いの最前線にいる。教えついでに王子の元に連れていってやろうと言ったのに、あいつは断りやがった」
思い出したのだろう。ダンケルの顔がしかめられる。
彼は、王子をエサに暖をこの村から連れ出そうとしたのだった。
しかし、その誘いはあっさり断られる。
他ならぬ王子と「決してこの村から出ない」と約束したからと、暖は言ったそうだ。
その話を聞いたリオールの顔から――――表情が抜け落ちた。
冷気が辺りに満ち、白い霧が周囲にたちこめる。
「なっ!?」
ダンケルが息を呑んだ、次の瞬間――――
見えない空気の刃が、ダンケルの皮膚を切り刻んだ!
浅く切られた傷から出血し、あっという間に血塗れになる魔族。
「契約さえなければ、今すぐ切り殺してやるものを」
静かな声で、リオールは言った。
何の表情も浮かべない整った顔が、恐ろしい。
「ウララの気持ちを考えれば、お前など、千回殺しても足りない。……どんなにか王子が心配だろうに、約束を守って行けない彼女の苦しみが、お前にわかるか!」
リオールの怒りは、壮絶だった。
エルフの逆鱗に触れ、魔族として生まれ落ち、生きることがすなわち戦うことだったダンケルの背中に震えが走る。
血だらけの自分の手を、愕然として見つめた。
「……魔族の王族である俺をこんなに容易く傷つけるなど、普通のエルフにできるはずがない。……まさか、お前は、失われたエルフの王――――」
「そこまでじゃ!」
呆然と呟くダンケルの言葉を遮って、突如その場に声が響いた。
ポン! と空間が割れて老いた魔女が現れる。
「阿呆! 何をやっておる!」
言うなりディアナは、ポカリと杖でリオールを殴った。
「怒りに身を任せるでない! わしの結界が不安定になるじゃろうに!」
殴られたリオールは、涙目になる。
「世界を滅ぼす力を持つトネリコの杖で、私を殴るのは止めてください」
頭を押さえながら抗議した。
「トネリコの杖……」
一方、聞いたダンケルはどん退いてしまう。
そんな最終兵器で殴られたら、普通の者なら無事でいられるはずがなかった。
「やっぱり――――」
ダンケルが呟くと同時に、ディアナはクルリとダンケルの方を振り向いた。
思わず、ダンケルはビクッとしてしまう。
ディアナは、…………ニタァと笑った。
「"エルフの失われた王"など、どこにもおらぬ――――」
しわがれた声が、響く。
「――――"落ちたる竜王"も、"ドワーフの狂戦士"も、"神を堕落させた吸血姫"も、"世界を二度滅ぼしかけた魔女"も…………そんなものは、全て子供騙しのおとぎ話じゃ。どこにも存在しない」
老いた魔女は、滔々と語った。
ゴクリと唾を呑むダンケル。
そこに――――
「二度ではなく、三度でしょう?」
呆れたようなリオールのツッコミが入った。
「三度めは、不幸な偶然が重なっただけじゃと言っておろう!」
ディアナは、真っ赤になって怒鳴り返す。
エルフと魔女のやりとりに、ダンケルは、顔をひきつらせた。
「まったく、誰のせいでこんな騒ぎになったと思っておる!」
もう一度、ディアナはトネリコの杖で、リオールの頭を殴る。
リオールは、小さな声で「すみません」と謝った。
次いで魔女は、クルリとダンケルの方に振り向く。
「お前もじゃ! チビ魔族! 今回の全ての騒動は、お前の浅慮のせいなのじゃぞ! 身の程知らずにも、この村に忍び込むなど、阿呆としか言いようがない! お前が、今五体満足でおられるのは、ひとえにウララ故じゃ! わかっておるのか!」
既に小人ではないのに、ダンケルはチビなどと呼ばれてしまう。
しかしそこを指摘する余裕もなく「はい!」と答えてしまった。
その後、体裁悪そうに「チッ」と舌打ちする。
「なんじゃ! その態度は!」
ディアナに杖で殴られそうになって、ダンケルは慌てて逃げた。
「それが、本当にトネリコの杖なら俺は死ぬぞ!」
ダンケルの不慮の死は暖の寿命に直結する。
ディアナは無念そうに杖を下ろした。
それを見たダンケルはほっと息を吐く。
少し考え込み……覚悟を決めたように頭を上げた。
「……お前たちなら、なんとかしてくれるかもしれない。……折り入って聞いて欲しいことがある」
真剣な表情でダンケルはそう言った。
エルフの青い瞳が、ジロッとダンケルを睨む。
魔族の青年は、両てのひらを上に向け、肩をすくめた。
「だってそうだろう? 人間の王子は、あの娘を守りたくて病を押して出陣したってのに、当の娘は、王子に会いたくないと言うんだから」
聞いたリオールは、柳眉を逆立てた。
「貴様! ウララに何を言った!」
リオールの怒声を浴びて、しかしダンケルはヘラリと笑う。
「ウララには、傷が治ったら王子の情報を教えると約束したからな。……だから教えてやったのさ。王子の悲壮な覚悟と居場所をな。王子は今、戦いの最前線にいる。教えついでに王子の元に連れていってやろうと言ったのに、あいつは断りやがった」
思い出したのだろう。ダンケルの顔がしかめられる。
彼は、王子をエサに暖をこの村から連れ出そうとしたのだった。
しかし、その誘いはあっさり断られる。
他ならぬ王子と「決してこの村から出ない」と約束したからと、暖は言ったそうだ。
その話を聞いたリオールの顔から――――表情が抜け落ちた。
冷気が辺りに満ち、白い霧が周囲にたちこめる。
「なっ!?」
ダンケルが息を呑んだ、次の瞬間――――
見えない空気の刃が、ダンケルの皮膚を切り刻んだ!
浅く切られた傷から出血し、あっという間に血塗れになる魔族。
「契約さえなければ、今すぐ切り殺してやるものを」
静かな声で、リオールは言った。
何の表情も浮かべない整った顔が、恐ろしい。
「ウララの気持ちを考えれば、お前など、千回殺しても足りない。……どんなにか王子が心配だろうに、約束を守って行けない彼女の苦しみが、お前にわかるか!」
リオールの怒りは、壮絶だった。
エルフの逆鱗に触れ、魔族として生まれ落ち、生きることがすなわち戦うことだったダンケルの背中に震えが走る。
血だらけの自分の手を、愕然として見つめた。
「……魔族の王族である俺をこんなに容易く傷つけるなど、普通のエルフにできるはずがない。……まさか、お前は、失われたエルフの王――――」
「そこまでじゃ!」
呆然と呟くダンケルの言葉を遮って、突如その場に声が響いた。
ポン! と空間が割れて老いた魔女が現れる。
「阿呆! 何をやっておる!」
言うなりディアナは、ポカリと杖でリオールを殴った。
「怒りに身を任せるでない! わしの結界が不安定になるじゃろうに!」
殴られたリオールは、涙目になる。
「世界を滅ぼす力を持つトネリコの杖で、私を殴るのは止めてください」
頭を押さえながら抗議した。
「トネリコの杖……」
一方、聞いたダンケルはどん退いてしまう。
そんな最終兵器で殴られたら、普通の者なら無事でいられるはずがなかった。
「やっぱり――――」
ダンケルが呟くと同時に、ディアナはクルリとダンケルの方を振り向いた。
思わず、ダンケルはビクッとしてしまう。
ディアナは、…………ニタァと笑った。
「"エルフの失われた王"など、どこにもおらぬ――――」
しわがれた声が、響く。
「――――"落ちたる竜王"も、"ドワーフの狂戦士"も、"神を堕落させた吸血姫"も、"世界を二度滅ぼしかけた魔女"も…………そんなものは、全て子供騙しのおとぎ話じゃ。どこにも存在しない」
老いた魔女は、滔々と語った。
ゴクリと唾を呑むダンケル。
そこに――――
「二度ではなく、三度でしょう?」
呆れたようなリオールのツッコミが入った。
「三度めは、不幸な偶然が重なっただけじゃと言っておろう!」
ディアナは、真っ赤になって怒鳴り返す。
エルフと魔女のやりとりに、ダンケルは、顔をひきつらせた。
「まったく、誰のせいでこんな騒ぎになったと思っておる!」
もう一度、ディアナはトネリコの杖で、リオールの頭を殴る。
リオールは、小さな声で「すみません」と謝った。
次いで魔女は、クルリとダンケルの方に振り向く。
「お前もじゃ! チビ魔族! 今回の全ての騒動は、お前の浅慮のせいなのじゃぞ! 身の程知らずにも、この村に忍び込むなど、阿呆としか言いようがない! お前が、今五体満足でおられるのは、ひとえにウララ故じゃ! わかっておるのか!」
既に小人ではないのに、ダンケルはチビなどと呼ばれてしまう。
しかしそこを指摘する余裕もなく「はい!」と答えてしまった。
その後、体裁悪そうに「チッ」と舌打ちする。
「なんじゃ! その態度は!」
ディアナに杖で殴られそうになって、ダンケルは慌てて逃げた。
「それが、本当にトネリコの杖なら俺は死ぬぞ!」
ダンケルの不慮の死は暖の寿命に直結する。
ディアナは無念そうに杖を下ろした。
それを見たダンケルはほっと息を吐く。
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「……お前たちなら、なんとかしてくれるかもしれない。……折り入って聞いて欲しいことがある」
真剣な表情でダンケルはそう言った。
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