僕らの沙汰は何次第?

堀口光

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4 Who are you?

第18話

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「というわけで、早速行くわよ零」
「……ちょっと待ってくれ。何でお前がいるんだ、村雨」

 放課後。午前中に授業が終わったため、未だ太陽は高い位置にある。空も雲一つない快晴だ。さあ向かうぞ、と思っていたら、目の前に現れたのは村雨だった。

「お前、さっきはあれほど僕に怒ってたじゃないか。もう怒ってないのか?」

 僕が恐る恐るそう尋ねると、顔を逸らした村雨が、少しだけ頬を染めて答えた。

「……ふん。別に、ちょっと考え直しただけよ。確かに、よく考えると私にも悪いところがあったと思うしね。それに、零に自分から手を繋ぐなんて甲斐性あるわけもないし、桐島さんが嘘を言っているようにも思えないし」

 何だか大変失礼なことを言われているような気がするが、要約するともう怒ってはいないということか。如月の機嫌は本当にころころ変わっていく。女子という生き物は本当に不思議だ。いい加減、僕もそれになれるべきだな。

「で、それはいいけど。お前、僕がどこに行くのか分かってる?」

 僕の疑問に、村雨は目を細めて睨む。怒っているというよりは、訝しげな表情。

「さあ。知らないけど、どうせ桐島園加とどこかで会ったりするんでしょ。さっき二人で話してたじゃない」

 二人で話してたところを見ただけで二人で会うことまで分かるってどんな洞察力だ。探偵にでもなれるんじゃないかこいつは。

「……って、あれ? 村雨、その時教室にいなくなかったっけ……?」

 確か僕の足を踏んでからすぐに教室を飛び出して一限目が始まるまで戻ってこなかったような。思い出そうとする僕に、村雨は慌てたような声で「そんなことはどうでもいいの」と言って、僕に指を突きつけてきた。

「とにかく、私も桐島園加には言いたいことがいっぱいあるの。彼女と会うのなら、私もそこに連れていきなさい」

 おそらくこれは命令に当たるのだろう。相変わらず決断と実行が呆れるほどに早い奴だ。

「えーと……」

 僕は迷った。これから行く場所で話すことは、確実に昨日の続き、もしくは、答え合わせだと思われる。それが桐島園加にとって、一体どのような意味を持つのか、僕には分からない。僕だけに伝えたかったことなのか、僕を皮切りにこれから皆に伝えていくことなのか、僕には判断出来ない。

 だが――

「……そう、だな。一緒に行こうか。きっとこれは、村雨にとっても大事な話になるはずだから」
「え? う、うん、分かったわ。何よ、急に改まっちゃって」

 僕がこれから会いに行くのは、一体誰なのか。それを見届けるのは、僕だけでは駄目だ。彼女と関わった人間全てが、その真実を知っておくべきなのではないかと、僕は考えた。

 それに、村雨もいた方が、何かと話も先に進むだろう。今こそその持ち前の強引さを存分に生かしてもらおうではないか。

「……なんか失礼なこと考えてない、あんた?」
「いやいや、全然? って痛いっ!」

 否定したのに脛を蹴られた。やっぱり強引じゃないか。

 むすっとしていた彼女は、すぐに表情を緩め、少しだけおかしそうに笑った。それを見て、僕も安心する。やはり彼女には、そういった楽しそうな顔の方が似合う。

 ふと教室を見渡すと、既に桐島園加の姿はなかった。


 ※


 それから約15分後。昨日の夜と同じ、学校の裏に位置している墓地を、僕と如月は歩いていた。数日前からの暑さは全く変わっておらず、むしろ上がっているのではないかと疑いたくなる。本当に夏は終わりへと近づいているのだろうか。地球温暖化、恐るべし。

「なに、あんたたち、またこの墓地に用でもあるわけ? まったく、物好きねえ」

 怪訝な様子で周りを見渡しながら、ぶつくさとダルそうな声で村雨は先ほどから呟いている。確かに、男女が二人で会うという話から、その場所が墓地という想像にはまず繋がらないだろう。僕だって、普通ならばこんな場所に来ることは滅多にない。

 しかし、彼女の指定した場所がここであることは確実だと思った。昨日の夜、彼女はわざわざルートを外れてまで僕をあの場所へ連れていき、墓標に刻まれた名前を見せつけたのだ。その意味を、今日こそ僕は知らなければならない。

「大体こんな場所で、私にも関係ある話って何なのよ。私、身近に亡くなった人でこの墓場に入っている人は知らないわよ」
「僕だってそんな人はいないよ。大丈夫、そんなに焦らなくても、着いてくればすぐに分かるから」

 僕が冷静に返すと、村雨はむうっと口を窄めて黙る。知りたくなる気持ちは分かるが、僕にも説明は難しいから、見てもらう方が圧倒的に手っ取り早い。

 昨夜の肝試しのルート通り歩き、その細い小道を見つける。明るい昼間に見ても、ぱっと見て分かるような目立つ場所ではない。それを夜に見つけた桐島園加は、やはりこの道の存在を最初から知っていたのだろう。

「ここだ。じゃあ、行こうか」
「え、ここ? あ、ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」

 迷いなく入っていく僕に村雨は不思議そうな顔をしながらも、すぐにその後ろに続いた。

 多くの墓に囲まれた道。そこを抜けると、広い空間へと出る。

 そして、そこには――

「こんにちは。遅かったね、零君」

 明日葉明日香が、満面の笑みで、

 自分の名前が刻まれた墓の前に立っていた。
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