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第1話 願う
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そこそこ売店に長居していたせいか、昇降口に着いた時には既に他の生徒の姿はほとんどなかった。多分、ついさっきまではここも人で溢れかえっていたことだろう、と推測する。そう考えると、売店で時間を潰すというのは意外といい案だったのかもしれない。
ここの学校の下駄箱は少し変わっていて、男子と女子で完全に隔離されている。廊下側から見て左側が男子、右側が女子という具合だ。奥から一組、二組、三組と並んでいて、それぞれのクラスの男女が対面するような形で作られている。
そして何と言っても、無駄にでかい。縦六段構成であるが、一個一個の間隔を広く取ってあるのか、上から二段目がちょうど僕の頭辺りにある。僕は六番で一番下だから別に関係ないけど、一番上の奴は結構大変なんじゃないか、と思う。
「遅いよう、優君。ぱっぱとしよう、ぱっぱと!」
いつの間にか外に出ていた如月が、身振り手振りで僕を急かす。相変わらず行動が早い奴だ。中で二段構成になっている靴箱の上の段に上履きを並べて靴に履き替え、僕も外に出た。
空はからりと晴れていて、とても過ごしやすい気温である。そよ風がなんとも清々しい。揺れる桜を見ていると、高校生になったんだなあと、今更ながらしみじみ感じる。中学の時と同じように如月が近くにいたため、全然違和感がなかった。
「いやー、もう高校生なんだよね、私たちって。時が経つのは早いなー」
僕の心を代弁するかのように如月が呟いたので、僕は思わずどきっとして彼女の方を向いた。見ると、彼女は腕を組んで、感慨深げに頷いている。視線の先には、鮮やかなピンク色の桜の木。
「高校生か……別に、これと言って劇的に何かが変わるとも思えないけどな」
「ふっふっふ、甘いよ優君! 高校生と言ったら、そう、もう私たち高校生なんだよ! なんか、感無量だよね」
まったく意味がわからない。眉を潜める僕を尻目に、興奮した様子の如月は指を一本立ってさらに熱く語りだしていたが、同じようなことを繰り返し言っているだけで特に進展がなかったので、僕は適当に受け流して歩き出した。
「あ、こらぁ! 人の話を聞かないか!」
慌てて追いかけてきた如月が、頬を膨らませて横に並ぶ。怒ってるのかと思ったけど、二秒後には口元を緩ませていたので、とりあえず一安心。そういえば、こいつの怒ったところって見たことないかも、とふと思う。
「しかし、今日一日でこんなにお前以外の人と話すとは思わなかったな。誰ともしゃべらないだろうと思ってたのに」
「もったいないなー。私はね、優君はもっと胸を張っていい人間だと思ってるよ。もっと自分に自信を持つべし!」
僕をびしっと指差して言う如月。その目には、どこか真剣なものが感じられる。
自信……確かに、僕は自分に対して自信なんてものは持っていない。別に優れた所も感じなければ、特別な何かを持っているわけでもない。ましてや、自分から他人と上手く関わっていくことなど想像も出来ない。
如月とこんな関係になっているのもあっちから話しかけて来たせいだし、今日関わった四人にしたって、全部向こうから来たからであって、如月がいなければ、四人と話す機会さえなかっただろう。
そう考えると、今の僕にとって如月は、他人との積極的な関わりをサポートしてくれる唯一の手段と言えるのかもしれない。それがありがたいことなのか、はたまた迷惑なのか、僕自身まだよくわからないところがある。
迷惑じゃないとすれば、僕は――
「――君? おーい、聞いてんのかい、優君?」
はっと気づくと、目の前で僕の顔を覗き込む如月の姿があった。眉を寄せて、心配そうな顔をしている。どうやら、いつの間にか黙りこんでしまっていたようだ。
「あ、ああ。聞いてるよ、ちゃんと。えーと、自信を持てって話だっけ?」
「もう、聞いてないにゃあ! その話なら三億年前にとっくに終わっているのだよ、ワトスン君。時代は移りゆくものさ。ああ、なんと儚い!」
「あ、そう……」
突っ込みを入れることも躊躇うくらいのテンションでそんなことを語る如月。こいつの頭の中は年中春なんじゃないかと思う。いつだってこんな調子だ。
しばらく、如月と冗談を交わしながら歩いた。学校を出て、静かな商店街を通る。辺りを歩く人はほとんどいない。
「はぁ……でも、また明日から、退屈な毎日が始まるんだよな。中学の時と何も変わらないような」
僕は空を眺める。相変わらず、雲一つない真っ青な空。何の面白味もない空。
「そうかなー。何か面白いこと起こりそうな気配とかしない?」
「面白いことって、例えばどんな?」
「うーん、そうだにゃあ……」
如月は腕を組んで、真剣そうな顔で考え込む。相変わらず、よくわからないところで本気になるやつである。その様子を見ながら、僕も少し思考を巡らせてみた。
面白いこと……確かに、そう言われると、僅かながらそんなことが起きそうな気がしないでもない。今日知り合ったあの四人のせいだろうか。
でも、何が起きるのかと言われれば、そんなことは分かるわけがないし、想像もできない。ただ、起きるのならば、出来る限り小規模な範囲の面白さがいい。
目立たず、平和に、ひっそりと、面白いことが起きる。それが理想。
もちろん、そんな虫がいい話などあるわけないことも、分かっている。
思考が矛盾する自分を情けなく感じながら如月を見ると、何か名案を思い付いたという表情でこちらを向いた。
「こういう時はね、神様にお願いするんだよ。何か、とびきり面白いことを起こしてくださいって。そうすれば、きっと叶えてくれるよ」
そう言って、如月はくすっと笑った。彼女にしては珍しい笑い方だ。
「神様、ねえ……」
そんなのに頼っても、と言おうとして、入学式の時に神様に願っていた自分を思い出す。人間、やはり困った時はまずは神様頼りなのだろう。本当に叶えてくれるくれないはあっちの厚意の話だとして、僕ら人間にとって大事なのは、この願うという行為なのだ。
などと、神様からすると大変勝手なことを考えていると、如月は目を瞑って両手を胸の前で組み、本当にお願いをし始めた。
「面白いことがありますように、面白いことがありますように、面白いことがありますように――よし、これで大丈夫!」
「……流れ星?」
神様をなんだと思っているんだ、こいつは。疑問符を浮かべながらも苦笑すると、如月はこっちを向いて、にっこりと笑う。
「明日にでも叶えてくれるかなー、神様!」
「……ああ、多分な」
色々と言ってやりたいことはあったが、彼女があまりにも楽しそうだったから、全部飲み込んで、そう頷いた。この笑顔を見ていると、本当に叶えてくれそうな気がしてくるから不思議だ。
左右に分かれた道に着く。如月の家が右、僕が左なので、中学の時からここで別れていた。
「じゃあ優君、また明日会いましょう!」
「ああ、また明日な」
如月は元気よく手を振って去って行った。その後ろ姿をしばらく見送って、僕も左の道に歩き出す。
また明日――か。そういえば、千条麗華も別れ際にそう言っていたな。
今日出会ったそれぞれタイプの違う四人の女子を思い出しながら、結局今までと何も変わらないであろう明日を僕はぼんやりと思い浮かべていた。
神様は、すぐ近くにいたことも知らずに。
ここの学校の下駄箱は少し変わっていて、男子と女子で完全に隔離されている。廊下側から見て左側が男子、右側が女子という具合だ。奥から一組、二組、三組と並んでいて、それぞれのクラスの男女が対面するような形で作られている。
そして何と言っても、無駄にでかい。縦六段構成であるが、一個一個の間隔を広く取ってあるのか、上から二段目がちょうど僕の頭辺りにある。僕は六番で一番下だから別に関係ないけど、一番上の奴は結構大変なんじゃないか、と思う。
「遅いよう、優君。ぱっぱとしよう、ぱっぱと!」
いつの間にか外に出ていた如月が、身振り手振りで僕を急かす。相変わらず行動が早い奴だ。中で二段構成になっている靴箱の上の段に上履きを並べて靴に履き替え、僕も外に出た。
空はからりと晴れていて、とても過ごしやすい気温である。そよ風がなんとも清々しい。揺れる桜を見ていると、高校生になったんだなあと、今更ながらしみじみ感じる。中学の時と同じように如月が近くにいたため、全然違和感がなかった。
「いやー、もう高校生なんだよね、私たちって。時が経つのは早いなー」
僕の心を代弁するかのように如月が呟いたので、僕は思わずどきっとして彼女の方を向いた。見ると、彼女は腕を組んで、感慨深げに頷いている。視線の先には、鮮やかなピンク色の桜の木。
「高校生か……別に、これと言って劇的に何かが変わるとも思えないけどな」
「ふっふっふ、甘いよ優君! 高校生と言ったら、そう、もう私たち高校生なんだよ! なんか、感無量だよね」
まったく意味がわからない。眉を潜める僕を尻目に、興奮した様子の如月は指を一本立ってさらに熱く語りだしていたが、同じようなことを繰り返し言っているだけで特に進展がなかったので、僕は適当に受け流して歩き出した。
「あ、こらぁ! 人の話を聞かないか!」
慌てて追いかけてきた如月が、頬を膨らませて横に並ぶ。怒ってるのかと思ったけど、二秒後には口元を緩ませていたので、とりあえず一安心。そういえば、こいつの怒ったところって見たことないかも、とふと思う。
「しかし、今日一日でこんなにお前以外の人と話すとは思わなかったな。誰ともしゃべらないだろうと思ってたのに」
「もったいないなー。私はね、優君はもっと胸を張っていい人間だと思ってるよ。もっと自分に自信を持つべし!」
僕をびしっと指差して言う如月。その目には、どこか真剣なものが感じられる。
自信……確かに、僕は自分に対して自信なんてものは持っていない。別に優れた所も感じなければ、特別な何かを持っているわけでもない。ましてや、自分から他人と上手く関わっていくことなど想像も出来ない。
如月とこんな関係になっているのもあっちから話しかけて来たせいだし、今日関わった四人にしたって、全部向こうから来たからであって、如月がいなければ、四人と話す機会さえなかっただろう。
そう考えると、今の僕にとって如月は、他人との積極的な関わりをサポートしてくれる唯一の手段と言えるのかもしれない。それがありがたいことなのか、はたまた迷惑なのか、僕自身まだよくわからないところがある。
迷惑じゃないとすれば、僕は――
「――君? おーい、聞いてんのかい、優君?」
はっと気づくと、目の前で僕の顔を覗き込む如月の姿があった。眉を寄せて、心配そうな顔をしている。どうやら、いつの間にか黙りこんでしまっていたようだ。
「あ、ああ。聞いてるよ、ちゃんと。えーと、自信を持てって話だっけ?」
「もう、聞いてないにゃあ! その話なら三億年前にとっくに終わっているのだよ、ワトスン君。時代は移りゆくものさ。ああ、なんと儚い!」
「あ、そう……」
突っ込みを入れることも躊躇うくらいのテンションでそんなことを語る如月。こいつの頭の中は年中春なんじゃないかと思う。いつだってこんな調子だ。
しばらく、如月と冗談を交わしながら歩いた。学校を出て、静かな商店街を通る。辺りを歩く人はほとんどいない。
「はぁ……でも、また明日から、退屈な毎日が始まるんだよな。中学の時と何も変わらないような」
僕は空を眺める。相変わらず、雲一つない真っ青な空。何の面白味もない空。
「そうかなー。何か面白いこと起こりそうな気配とかしない?」
「面白いことって、例えばどんな?」
「うーん、そうだにゃあ……」
如月は腕を組んで、真剣そうな顔で考え込む。相変わらず、よくわからないところで本気になるやつである。その様子を見ながら、僕も少し思考を巡らせてみた。
面白いこと……確かに、そう言われると、僅かながらそんなことが起きそうな気がしないでもない。今日知り合ったあの四人のせいだろうか。
でも、何が起きるのかと言われれば、そんなことは分かるわけがないし、想像もできない。ただ、起きるのならば、出来る限り小規模な範囲の面白さがいい。
目立たず、平和に、ひっそりと、面白いことが起きる。それが理想。
もちろん、そんな虫がいい話などあるわけないことも、分かっている。
思考が矛盾する自分を情けなく感じながら如月を見ると、何か名案を思い付いたという表情でこちらを向いた。
「こういう時はね、神様にお願いするんだよ。何か、とびきり面白いことを起こしてくださいって。そうすれば、きっと叶えてくれるよ」
そう言って、如月はくすっと笑った。彼女にしては珍しい笑い方だ。
「神様、ねえ……」
そんなのに頼っても、と言おうとして、入学式の時に神様に願っていた自分を思い出す。人間、やはり困った時はまずは神様頼りなのだろう。本当に叶えてくれるくれないはあっちの厚意の話だとして、僕ら人間にとって大事なのは、この願うという行為なのだ。
などと、神様からすると大変勝手なことを考えていると、如月は目を瞑って両手を胸の前で組み、本当にお願いをし始めた。
「面白いことがありますように、面白いことがありますように、面白いことがありますように――よし、これで大丈夫!」
「……流れ星?」
神様をなんだと思っているんだ、こいつは。疑問符を浮かべながらも苦笑すると、如月はこっちを向いて、にっこりと笑う。
「明日にでも叶えてくれるかなー、神様!」
「……ああ、多分な」
色々と言ってやりたいことはあったが、彼女があまりにも楽しそうだったから、全部飲み込んで、そう頷いた。この笑顔を見ていると、本当に叶えてくれそうな気がしてくるから不思議だ。
左右に分かれた道に着く。如月の家が右、僕が左なので、中学の時からここで別れていた。
「じゃあ優君、また明日会いましょう!」
「ああ、また明日な」
如月は元気よく手を振って去って行った。その後ろ姿をしばらく見送って、僕も左の道に歩き出す。
また明日――か。そういえば、千条麗華も別れ際にそう言っていたな。
今日出会ったそれぞれタイプの違う四人の女子を思い出しながら、結局今までと何も変わらないであろう明日を僕はぼんやりと思い浮かべていた。
神様は、すぐ近くにいたことも知らずに。
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