幽霊屋敷で押しつぶす

鳥木木鳥

文字の大きさ
14 / 34
沈船村楽園神殿

プロローグ 籠城の果て

しおりを挟む
私と宇羅の前で、沈船村しずふねむらの支配者は死にかけていた。

「宇羅、どう?」
「止血は終わってます、あくまで屋敷の材料を使った応急措置ですが」

 もちろんコンクリートや鉄を強引に詰め込んでも、傷は癒せない。
 しかし、使うのは「生きた幽霊屋敷」である彼女の部品だ。
 人の血肉を喰らうなら、逆に己を他者の血肉とすることも出来るという道理。
「まあ無理矢理な理屈だけど」
「游理さん、ストップ! こういうのは絶対できるって信じるのが大事なんです! 信じる心がビッグクランチを引き起こすって!」
 こういうこと言いだす医者には罹りたくないな。
 すぐにでも病院に駆け込むべきだってわかってるけど、この村唯一のそこは先ほど「押しつぶされた」ばかり。
 村の外に出ようにもこの嵐ではまともに歩くことすら難しい。

 しかし・・・信じるのが大事、ね。
 信じる、か。

「かみのこえをきくみみをかみのすがたをみるめをかみにうったえるくちを・・・」

 鰯の頭も信心から、っていうけど、拝むものを選ぶのは大事だよね。今私たちを襲ってる人間も、元はと言えばそれを誤った人々のせいで人生を狂わされたから、こうなってしまったんだから。
「家の前にいます・・・説得の言葉とか思いつきました?」
「全然。あんまり仲良くなかったし」
「仲のいい人いるんですか?」
「・・・・泣くぞ」
「ああ、もう。悪かったですよ、だからそういう面倒なのは後にして下さい」
 そんなイチャイチャをしてる間にも、当然相手は待ってはくれない。


「くちくちく・・・・・・」

 意味のわからない鳴き声のような音が一瞬途絶え、その直後。

「いいいいあああああああああああああああ!!」


 その奇声と共に、沈船村村長の屋敷の東、元々の塀を宇羅の中から調達した資材で補強したバリケードが「爆破」された。
 力押し。呪術だの魔術だの以前の強引極まる、「彼」の職業に似つかわしくないその所業。
 だけどある意味彼らしい方法。神に仕え神に狂い、その為にあらゆる暴を振るう彼の、普段理知的な仮面の裏に隠された狂暴性がこれなんだろう。

「それにしても、ねぇ、あの人やり方も無茶だけど、完全に理性無くしてるにしてはここまで早すぎない!?」
「普通は触ろうともしないはずなんですよ、あんなやけくそ気味の壁なんて! 本能で最適な行動をとって私たちの居場所を嗅ぎつけたとしか!」
 本能!? ラテールかあの人。
「普通はライオンとかで例えるもんじゃ・・・
 その普通とはかけ離れた人間が、その穴から、家の中に入ってきた、ってああもう。
 どうする、逃げるか? 彼女を連れて? でもそもそも今の彼の身体能力は、文字通り人を外れた域にある。そんなのから逃げられるの・・・
 
 その逡巡を見透かしたのか。

「かけまくもかしこき・・・・」

 瀕死の彼女が詠歌を唱えた。
 同時に屋敷のあちこちから爆発音が聞こえた。これって元からあった防衛機構? 確かにこういう家にはあってもおかしくないけど。これ私たちも巻き込まれたりしないよね?
「宇羅。いざとなったら私と彼女を中に入れて」
「游理さんはともかく、その人を入れるのは出来れば避けたいんですけど」
「確かにひどいことされたけど」
「そうじゃないです。『海神の神子』の意思に関係なく、内に彼女が在るだけで、向こうへの穴を開けられるかもしれないんです」
 向こう? よくわからない。
「なんかいろいろヤバい神様みたいなのがわちゃわちゃしてるとか、そういう空間だと思ってください。下手したらそれが家の中に逆流して来ます」
「それは嫌だな。人の家に!」
 ただでさえこの同居人のせいで人外魔境一歩手前なのに、異界度をこれ以上上げたら住めなくなる。そうなったらどこで暮らせばいいんだよ。
「いあ!」
 その時、再び彼の声が聞こえた。
 そのまま近づいて来る。爆発や他の罠も起動しているはずなのに。
 間違いない、あの人は機構が発動する前に疾走して通り抜けて来てるんだ。
「本当に獣ですね、信仰の力、恐ろしいです」
 それにしてもあの人の場合は度が過ぎてる・・・・もう。

「いいかげんにしてくださいよ、園村さん!」

 私は同僚だったはずの人の名前を叫んだ。

「があいあああ!」
 それに対する返答は咆哮。
 ああ、もうこんな村に来るんじゃなかった。
「所長が安請け合いするから」
「だから、事前にもっと調べておくべきだったんですよ、游理さん」
「だって沈船村って、ごくありふれた所だって思ってたから!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

近づいてはならぬ、敬して去るべし

句ノ休(くのやすめ)
ホラー
山中、もしあなたがそれに出会ったら…… 近づいてはいけない。 敬して去るべし。   山を降りろ。   六年勤めた会社を辞めた。お荷物だとはわかっていたし、むしろ清々しくもあった。 28歳のコウイチには、仕事より大切なものがあった。 田舎歩きだ。そこ大事なのが学生のときにかじった民俗学だ。廃集落、古い祠、忘れられた神々——それを訪ねることは、彼のたった一つの愉しみだった。   大学時代、民俗学の講義で准教授はこう言った。「神々は神ではない」。人が畏れ、従い、忖度したものがかみになる。その言葉がコウイチを変えた。 会社の営業で関東のあちこちを歩きまわった。コウイチは仕事よりも土地の古老の話に耳を傾けることに熱中したほどだった。   失業後、ふと見つけた資料にコウイチは目を奪われた。 「名付け得ぬ神」。 東京の西、檜原村の奥深く、コボレザワという場所にその祭祀を担った一族がいたという。山奥には祠があるらしい。だがもう六十年も前に無人になってしまっているようだ。   コウイチは訪ねてみることにする。 道中、奇妙な老人に出会う。一人目は気のいい古書店主。二人目は何かを知りながら口を閉ざす資料館の老人。そして三人目は——   深い山中でコウイチはついに祠を見つけた。巨大な岩を背にした祠は古び、壊れていたが、まだ人が来ている痕跡があった。 不穏な気配にコウイチは振り向くが、なにもない。 日本の中心地・東京。そこからわずかにはずれた山の中に潜む秘密をめぐる奇譚。

【完結】『霧原村』~少女達の遊戯が幽の地に潜む怪異を招く~

潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ホラー
五月の中旬、昼休中に清水莉子と幸村葵が『こっくりさん』で遊び始めた。俺、月森和也、野風雄二、転校生の神代渉の三人が雑談していると、女子達のキャーという悲鳴が。その翌日から莉子は休み続け、学校中に『こっくりさん』の呪いや祟りの噂が広まる。そのことで和也、斉藤凪紗、雄二、葵、渉の五人が莉子の家を訪れると、彼女の母親は憔悴し、私室いた莉子は憑依された姿になっていた。莉子の家から葵を送り届け、暗い路地を歩く渉は不気味な怪異に遭遇する。それから恐怖の怪奇現象が頻発し、ついに女子達が犠牲に。そして怪異に翻弄されながらも、和也と渉の二人は一つの仮説を立て、思ってもみない結末へ導かれていく。【2025/3/11 完結】

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】

絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。 下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。 ※全話オリジナル作品です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

処理中です...