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沈船村楽園神殿
ガイドブック(12巻目)
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濁ってる。
あの学校の空気が乾いているというなら、この村のそれは湿りきって、水の底にいるかのよう。
・・・この村の傍に湖があるから、そのせいか。
どの家も似たり寄ったりの形で、色も灰色一色。そのせいか、妙に閉塞感がある。
おまけに何処からか視線を感じるような。余所者が珍しいから? じろじろ見られると挙動不審になって余計怪しまれるから止めて欲しいな。
「それでそうするんですか、游理さん。園村さんの居場所について、何か当てがあるんです?」
「取り合えず、彼に仕事を依頼したって人の家に行く」
「場所は?」
「所長が言うには間違えようがないって・・・えっと地図」
バックから所長にもらった「沈船村観光ガイド(12)」を取り出す。
「第12版ってことですか?」
「全12巻らしいよ」
唖然とする宇羅。私も所長に渡された時は驚いたよ。おまけに1冊でもちょっとした小説くらいの厚さがある。どんだけ詳細なんだ。地味に残りが気になるし。
「こういう地図って最初の巻の頭に載せるもんだと思うんですが」
「さあそう言う方針だとしか」
「でも観光用の地図になんて記載されてますか?」
「所長からは、すごく詳しい
「地図は48、49ページ見開き」また半端なページに。
「どんなんですか?」
横から宇羅が覗き込んでくる。距離近いって。
「その家の名前は?」
「この村と同じ、『沈船』村長の家」
「そうですか」
見開きページには一面のモザイクだった。
情報過多、というか細かい記号が滅茶苦茶な密度で書き込まれてる。ひとつひとつの記号の意味・・・地図記号とかも交じってるけど、見たこともないのがほとんど。
照合表とかも載ってない・・・これ一般的なものなの・・・?
これ見ても大雑把な村の形しかわからない・・・この地図、全然役に立たない。
「宇羅わかる?」
「目の焦点合わせたら、こう何か浮き上がって」
「来るの?」
「来ないです。はっきり言って落書きにしか見えません」
期待させといて・・・
「というか、村長さんの家なんですよね。だったら地図に頼るまでもなくそこらの人に訊いたらいいじゃないですか」
「知らない人にそんなこと普通訊かないでしょ」
「そうですか?」
「少なくとも私だったら気後れするし。だから他の人もしないはず」
「・・・游理さん。ギリギリとは言え社会人なんですから、そういう自分の感覚を他人に押し付けるの止めましょうよ」
なんだよ・・・私が人として問題あるみたいな言い方、傷つくなぁ。
「すみません。少しお時間よろしいでしょうか?」
無視して勝手にコンタクト開始すな。
「はあああい。何でしょうかあ?」
「私たち、今この村に着いた所でして」
「はざ。どちらかあらいりゃしゃりまし?」ぐちゃぐちゃ。
「ええ、都の方から」
「アさああ。それはとおおえいからおこしょ」ころころころ。
何だろ。訛りみたいな。何言ってんのか聞き取れない。話してる人も妙に青白いけど大丈夫なんだろうか。
「それで、この村の『沈船』さんのお宅へ伺いたいんですけど」
「『cchh』さん? ああ、村長の」ギュチャギュチャ。
「はい、よろしければどの様にしていけばいいか、教えていただけるとありがたいんですけど」
「あああ。そこの右、右、右。右。右・・・・」ヒイイイイイ。
「・・・・わかりました。お時間を割いていただきありがとうございます」
「右、右みい右・・・・・・・ぐらさささあ」コココキキキキ。
「はい、お婆さん、ではわたしたちはこれで。失礼しますね」
・・・私よりうまくコミュニケーション取れてる。途中変な雑音が混じってるし、よくわからなかったけど。
宇羅、本当に理解してるの?
「あそこの角を曲がって40mほど進んだ後、左折。その後50m進んで今度は右折。30m先でまた右折したら着くそうです」
「あの会話でそこまでわかったの」
すごいな。傍目には一方的に宇羅が喋ってるようにしか見えなかったのに。
「この家か・・・」
でかい。
湖の畔に建てられた洋館。村の他の家と比べて何倍も大きい。やっぱり村の長の家だからか。
宮上さんの実家もデタラメな広さだったけど、こっちはなんて言うか、年月が積み重なった品格というか雰囲気がある感じ。
「宇羅、呼び鈴押して」
「それくらい自分でして下さいよ」
「さっきみたいに、初対面の人と接するのはあなたの方が向いてる」
「一応游理さんは先輩でしょ」
それを言われると、反論出来ない。
屋敷の中に通されて、そのまま執事みたいな人に連れられて奥の部屋へ。先日と同じ流れだなここ。
でもやっぱり内部はかなり違う。あの屋敷が特異だったってのもあるけど、こっちは正統派のお金持ちの家って感じ。
ただやっぱり湿った感じがしてる。村もそうだったから、この地域の気候なんだろうか。絵画もあるのに傷まない?
「対策はしておりますので」執事さんが即座に答えてくれた。
「それにこの作品群の美しさはこの地でこそ十全に顕れるものですので」
そういうものなんだ。私にはグロい絵にしか見えないけど。
「ああるじ。ええのしまはああらいssのおふたかたをお連れしました」
また変なノイズが入ってる、私の耳がおかしいのかな?
「入ってもらいなさい」ぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅ。
一際大きな扉の向こうから凛とした女性の声が聞こえた。その後また変な音が聞こえた。
あの学校の空気が乾いているというなら、この村のそれは湿りきって、水の底にいるかのよう。
・・・この村の傍に湖があるから、そのせいか。
どの家も似たり寄ったりの形で、色も灰色一色。そのせいか、妙に閉塞感がある。
おまけに何処からか視線を感じるような。余所者が珍しいから? じろじろ見られると挙動不審になって余計怪しまれるから止めて欲しいな。
「それでそうするんですか、游理さん。園村さんの居場所について、何か当てがあるんです?」
「取り合えず、彼に仕事を依頼したって人の家に行く」
「場所は?」
「所長が言うには間違えようがないって・・・えっと地図」
バックから所長にもらった「沈船村観光ガイド(12)」を取り出す。
「第12版ってことですか?」
「全12巻らしいよ」
唖然とする宇羅。私も所長に渡された時は驚いたよ。おまけに1冊でもちょっとした小説くらいの厚さがある。どんだけ詳細なんだ。地味に残りが気になるし。
「こういう地図って最初の巻の頭に載せるもんだと思うんですが」
「さあそう言う方針だとしか」
「でも観光用の地図になんて記載されてますか?」
「所長からは、すごく詳しい
「地図は48、49ページ見開き」また半端なページに。
「どんなんですか?」
横から宇羅が覗き込んでくる。距離近いって。
「その家の名前は?」
「この村と同じ、『沈船』村長の家」
「そうですか」
見開きページには一面のモザイクだった。
情報過多、というか細かい記号が滅茶苦茶な密度で書き込まれてる。ひとつひとつの記号の意味・・・地図記号とかも交じってるけど、見たこともないのがほとんど。
照合表とかも載ってない・・・これ一般的なものなの・・・?
これ見ても大雑把な村の形しかわからない・・・この地図、全然役に立たない。
「宇羅わかる?」
「目の焦点合わせたら、こう何か浮き上がって」
「来るの?」
「来ないです。はっきり言って落書きにしか見えません」
期待させといて・・・
「というか、村長さんの家なんですよね。だったら地図に頼るまでもなくそこらの人に訊いたらいいじゃないですか」
「知らない人にそんなこと普通訊かないでしょ」
「そうですか?」
「少なくとも私だったら気後れするし。だから他の人もしないはず」
「・・・游理さん。ギリギリとは言え社会人なんですから、そういう自分の感覚を他人に押し付けるの止めましょうよ」
なんだよ・・・私が人として問題あるみたいな言い方、傷つくなぁ。
「すみません。少しお時間よろしいでしょうか?」
無視して勝手にコンタクト開始すな。
「はあああい。何でしょうかあ?」
「私たち、今この村に着いた所でして」
「はざ。どちらかあらいりゃしゃりまし?」ぐちゃぐちゃ。
「ええ、都の方から」
「アさああ。それはとおおえいからおこしょ」ころころころ。
何だろ。訛りみたいな。何言ってんのか聞き取れない。話してる人も妙に青白いけど大丈夫なんだろうか。
「それで、この村の『沈船』さんのお宅へ伺いたいんですけど」
「『cchh』さん? ああ、村長の」ギュチャギュチャ。
「はい、よろしければどの様にしていけばいいか、教えていただけるとありがたいんですけど」
「あああ。そこの右、右、右。右。右・・・・」ヒイイイイイ。
「・・・・わかりました。お時間を割いていただきありがとうございます」
「右、右みい右・・・・・・・ぐらさささあ」コココキキキキ。
「はい、お婆さん、ではわたしたちはこれで。失礼しますね」
・・・私よりうまくコミュニケーション取れてる。途中変な雑音が混じってるし、よくわからなかったけど。
宇羅、本当に理解してるの?
「あそこの角を曲がって40mほど進んだ後、左折。その後50m進んで今度は右折。30m先でまた右折したら着くそうです」
「あの会話でそこまでわかったの」
すごいな。傍目には一方的に宇羅が喋ってるようにしか見えなかったのに。
「この家か・・・」
でかい。
湖の畔に建てられた洋館。村の他の家と比べて何倍も大きい。やっぱり村の長の家だからか。
宮上さんの実家もデタラメな広さだったけど、こっちはなんて言うか、年月が積み重なった品格というか雰囲気がある感じ。
「宇羅、呼び鈴押して」
「それくらい自分でして下さいよ」
「さっきみたいに、初対面の人と接するのはあなたの方が向いてる」
「一応游理さんは先輩でしょ」
それを言われると、反論出来ない。
屋敷の中に通されて、そのまま執事みたいな人に連れられて奥の部屋へ。先日と同じ流れだなここ。
でもやっぱり内部はかなり違う。あの屋敷が特異だったってのもあるけど、こっちは正統派のお金持ちの家って感じ。
ただやっぱり湿った感じがしてる。村もそうだったから、この地域の気候なんだろうか。絵画もあるのに傷まない?
「対策はしておりますので」執事さんが即座に答えてくれた。
「それにこの作品群の美しさはこの地でこそ十全に顕れるものですので」
そういうものなんだ。私にはグロい絵にしか見えないけど。
「ああるじ。ええのしまはああらいssのおふたかたをお連れしました」
また変なノイズが入ってる、私の耳がおかしいのかな?
「入ってもらいなさい」ぎゅぎゅぎゅぎゅぎゅ。
一際大きな扉の向こうから凛とした女性の声が聞こえた。その後また変な音が聞こえた。
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