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第2章 ショコラと愉快な仲間達
XOXO
しおりを挟む「ううう、ひどいです……」
めちゃくちゃに髪を結ばれたショコラは、ダイニングで涙目になって座っていた。
それをリリィが解いてくれている。
「大丈夫、綺麗に解けますからね。まったく、あの妖精たちは本当に騒がしいんだから」
珍しく怒っているようだった。
そこに双子の笑い声が響く。
キッチンで何かいたずらをしているようだ。
「こらぁ!」
リリィが大きな声で怒ると、ケラケラ笑いながら出て行きた。
「あんまりうるさいと、箒で追い出しますからね!」
「「やだー!」」
そう言って、ダイニングを飛び回る。
「申し訳ございません、ショコラさん。どうも、人手が入っていなかった時期に、この館に住み着いちゃったみたいで……」
申し訳なさそうに謝るリリィに、ショコラは首を振る。
「髪の毛とかしっぽをいじらないでくれたら、それでいいんですけど……」
「言い聞かせておきます」
苦虫をかみつぶしたかのような表情で、リリィはそう呟いた。
「普段は居住区以外に住んでいるみたいなんですけど、こうやって気まぐれに出てくるんですよ。まったくどうしたものかしら」
そう言って、最後のねじれをほどく。
ぴょこんぴょこんと、ショコラの髪はあっちこっちに跳ね回っていた。
ショコラが手ぐしで髪を整えていると、ラグナルとシュロが食堂へやってくる。
「あ、ラグ様!」
「ラグ様だ!」
双子は喜んで、ラグナルのもとへ飛んでいく。
ラグナルにもいたずらしてしまうのかと、ショコラはヒヤヒヤした。
けれど双子は、ラグナルには何もしなかった。
ラグナルは眠そうな目で二人を見た後、何事もなかったかのようにショコラに近づく。
「髪、どうしたの?」
リリィがすかさず言った。
「ミルとメルがやったんです。なんとか言ってやってくださいよ、ラグナル様」
きゃっきゃとはしゃぎ回る双子を見て、ラグナルは手を伸ばす。
「ミル、メル、おいで」
「「はぁい」」
ラグナルは右腕にミルティアを、左腕にメルティアを抱えた。
「ショコラにこんなことしちゃダメでしょ?」
「だって、かわいくしたいもん」
「きれいにしたいもん」
「ダメだよ。ショコラは僕のだから、勝手にそういうことしないで」
双子は顔を見合わせる。
「あとごはん中は、いたずらしないでね」
「「はぁーい!!」」
二人は元気よく返事をすると、ちゅ、とラグナルの頬にキスをする。
「ええぇーっ!?」
どうしてショコラにはあんな態度なのに、ラグナルのいうことは素直にきくのかと、ショコラは驚愕する。
あわあわしていると、シュロがなぜかそばに寄ってきて言った。
「ささ、ショコラさん」
「はい?」
「やきもちを焼いてくださってかまいませんぞ」
(誰に!? なんの!?)
不可解なシュロの耳打ちに、ショコラはぎょっとしたのだった。
◆
子供用の椅子に、ミルティアとメルティアが座って、ナイフとフォークを振り回していた。
「いつものごはんじゃなーい!」
「いつものごはんがいいー!」
目の前のハンバーグに向かって、文句を言っている。
「あら、文句をいう子は食べなくて結構ですよ」
リリィがそう言うと、双子はぶんぶんと首を振る。
「「やだー!」」
「じゃあ文句を言わずに食べなさい」
「「はぁーい」」
一気に食卓がにぎやかになった。
テレビがついて、双子がわめいて、リリィが文句をいいながら食事の面倒を見ている。
ショコラはシュロと会話しながら、たまにラグナルがちゃんと食べているかを確認して、双子が避けてきたニンジンを食べる。
(なんか、すごくにぎやか……)
普通の家庭というのは、いつもこうなのだろうか。
ショコラが少しフォークをくわえて考えていると、シュロが気遣うように言った。
「ショコラさん、こういうのはあまりお好きではなかったですか?」
「あっ、ち、違うんです」
ショコラは慌てて首を振った。
「慣れてなくて、こういう食卓もあるんだなぁって」
暗い倉庫のような場所で、黴たパンを一人でかじっていたことを思い出す。
「わたし……むしろ、好きです」
ショコラはそう言って微笑んだ。
「こうして食べると、もともと美味しいごはんが、もっともっとおいしくなります」
おいしい食べ物をもらえるだけで幸せなのに、こうして大人数で食卓を囲める。それはどれほど幸福なことなのだろうと、ショコラは思った。
「そうですか。ショコラ様がお気に召してくださったのなら、よかったです」
「はい。とっても幸せです」
ショコラがそう言うと、シュロも朗らかに笑った。
◆
夜。
ショコラがお風呂から上がって、さあ寝ようと毛布をめくると、双子が丸まっていた。ショコラは驚いて腰を抜かしそうになる。
「な、なんでここに二人がっ!?」
声が大きかったのか、二人は目を覚ました。
眠そうな目をくしくしこすりながら、あくびをする。
「ショコラも寝よ」
「メルたちも寝るから……」
手を引かれて、ショコラはベッドに横になる。
ショコラを挟むようにして、ミルとメルが再びうとうとし始めた。
(こうしてたら可愛いんだけど……)
ショコラが苦笑しながらその寝顔を見ていると、眠そうな目の二人が、舌ったらずな声で言った。
「ショコラ、ごめんね」
「え?」
「ミルたち、さみしかったの」
「子供が来て、嬉しかったの……」
(こ、子供じゃないけど……)
一体いつから二人はここにいたのかと、ショコラは少し気になった。
「ミルとメルは、いつからここに住んでいたのですか?」
「……うーん」
もう眠いのか、もぞもぞと二人はショコラに寄ってきた。
あまり難しい話はできないようだ。
なんだか、寝る前になると、二人はやたら素直になるようだった。
ショコラは、小さく笑った。
「ラグ様も、大変だし……」
「小さくなってるし……」
「え?」
ショコラはなんのことかと眉をひそめた。
(大変? 小さくなってる?)
一体どういうことなのだろう。
ショコラは眉を寄せて、二人にどういうことか聞いてみた。
けれど二人はうーんうーんというばかりで、返事をしてくれない。
(寝ぼけてるのかなぁ)
ショコラはそう思って、首をかしげた。
けれど本当だったとしたら、ラグナルは何が大変なのだろうか。
(わたしって、本当にご主人様のこと、何も知らないんだな)
ショコラはふと、そう思った。
(もう少し、ご主人様のこと、知らなくちゃいけないのかも)
そう思って、明日リリィにラグナルのことを詳しく聞いてみようと思ったのだった。
「ミル、メル」
「「……うーん?」」
「もう、しっぽを引っ張らないでくださいね」
「うん……」
「髪もですよ」
「うん……」
「ニンジンもちゃんと食べましょうね」
「やだ……」
(それは嫌なのか)
二人はショコラを挟んで、仲良くスヤスヤと眠り始めた。
それを見ているうちに、挟まれているショコラもあたたかくなってきて、いつの間にか眠っていたのだった。
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