もふもふメイドは魔王の溺愛に気づかない

美雨音ハル

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第2章 ショコラと愉快な仲間達

どんぐりころころ

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 不意に部屋のドアがノックされた。
 ショコラは慌てて立ち上がると、ドアを開ける。

「どうぞ!」

「……こんにちは」

 ラグナルだった。

「ご、ご主人様! こんにちは! どうかされましたか? お困りごとですか!?」

 ショコラはしっぽを振った。
 先程までの暗い思考が、少し落ち着く。もしかしたら、何か仕事をくれるかもしれないそうすれば、何か役に立つことができる。

「……何もないけど」

 ショコラはがくっとなった。

(じゃあなんで部屋に来たんですか~!)

 ショコラがしょんぼりすると、ラグナルが首をかしげた。

「一緒にいてもいい? 僕、暇なんだけど」

「!」

 ショコラは途端に、耳をぴーんと立てた。

「も、もちろんですご主人様!」

 しっぽがゆらゆらと揺れる。

「足は? 痛くないの?」

「はい。もう大丈夫です!」

 足を伸ばして、ピンピンしていることをアピールする。
 けれどラグナルは首を振って、いきなりショコラを横抱きにした。

「うわ!」

「歩いちゃだめ」

 そのまま、先ほどまで座っていた椅子に、降ろされた。

「今日は大人しくしてて」

「……リリィさんにも言われました。でもショコラは元気です……」

「休みの日でしょ? だったら好きなこと、すればいい」

 ショコラは困ってしまった。
 好きなことをするって、なんだろう?

「今日は何をしていたの?」

 何も言わないショコラに、ラグナルが尋ねた。

「えーっと……どんぐりを見てました……」

 そんなことをしている暇があるなら、働けと言われるかと思ったけれど、ラグナルはふうん、と言っただけだった。
 ラグナルは向かいの椅子に座ると、じいっとどんぐりを見つめた。

「これ、ヤマトに似てる」

 ラグナルは細長いどんぐりを指差して、言った。

「こっちはシュロ。この双子、ミルとメル」

「! ご主人様もそう思いますか?」

「なんか似てる」

 ショコラは嬉しくなって、うんうんと頷いた。

「ショコラも同じことを思っていました! やっぱりそっくりです」

「この薄い色は君」

「じゃあこっちのころんとしたのは、ご主人様ですね」

 しっぽをパタパタと振りながら、ショコラはつぶやいた。

「顔でもかいたら、楽しそうですね」

「あ」

 ラグナルが何かを思い出したように、ポケットを探った。
 すると中から、細長い黒色のペンが出てきた。
 それはショコラが見たことのないタイプの太いペンだった。

「あの、これは……?」

「マジックペン。ツルツルしたものにも、書けるよ」

「えっ、そうなんですか?」

「うん」

 きゅぽ、とショコラはペンのキャップを開ける。
 ちょっと独特な匂いがしたけれど、ラグナルが「ショコラ」のどんぐりに顔を描くと、たしかにくっきりと発色した。

「す、すごいです! こすっても落ちません!」

「油性だからね」

 ツルツルしたものにかけるのは、「油性マジックペン」というらしい。

「ショコラは、こんなにふにゃふにゃした顔をしていますか?」

 ふにゃふにゃと笑うショコラのどんぐりを光に当てて、ショコラは眉を寄せた。絶妙な顔だった。

「君、笑ったらふにゃっとした顔してるよ」

「……」

「すごくかわいい」

 そんなことを真顔で言われて、ショコラはぎょっとしてしまった。

「か、かわいい……?」

「うん」

 頬が赤くなる。

(……本当に、そう思ってるのかな)

 シュロもリリィも、ショコラにかわいいかわいいと言ってくれる。
 けれどそれは、本心から出た言葉なのだろうか。
 今までそんなことを言われたことがなかったショコラには、その言葉をうまく信じることができなかった。

(ここの人たちは、みんな優しいから……)

 ショコラはきゅぽ、とキャップを取ると、どんぐりにきゅ、きゅ、と顔を描いていった。

「これがリリィさんで、こっちがシュロさん……」

 顔を描いたどんぐりをコロコロところがす。

「はい、ご主人様」

 そう言って、ショコラは眠そうな目のどんぐりを作った。

「……僕って、こんな顔?」

「はい。こんな顔です」

「ふうん。そうなんだ」

 ラグナルはそのどんぐりを指でつまむと、光に透かして見せた。
 その顔がどんぐりとそっくりで、ショコラは吹き出してしまった。
 くすくす笑っていると、ラグナルがきょと、と首を傾げる。

「なに?」

「い、いいえ、なんでも」

 失礼かと思って、ショコラはぶんぶんと首を振る。
 ラグナルははてなマークを浮かべていたけれど、全部のどんぐりを机に並べて、ころころと弄っていた。

 楽しかった。
 いつもと同じように、ラグナルと過ごす時間が。

「好きな事、していいんだよ」

 どんぐりを眺めていると、ラグナルがそう言った。

「誰も怒らないよ。君が危険な事をしない限りは」

 そう言って、ラグナルはショコラを見つめた。
 ショコラはゆるゆると振っていたしっぽを止めて、つぶやくように言った。

「……でも、やりたいことが、わからないです」

 今、こうしてラグナルと一緒にいるのは楽しい。
 けれどこれは、ラグナルが与えてくれた楽しさだとショコラは思った。

「そう? 君にはたくさんありそうだけど」

 ショコラはちらちらとラグナルを見ながら、つぶやいた。

「……ご、ご主人様と一緒にいると、楽しいです」

 ラグナルは目を瞬かせたのち、優しげに笑った。

「そっか」

 ショコラはなんだか恥ずかしくなって、ぽっと頬を赤くした。

「じゃあ、これからショコラの好きなこと、一緒に見つけよう」

「好きなこと……」

「うん。楽しくて、わくわくするようなこと。きっとたくさんあるよ」

「ほ、本当ですか?」

「本当だよ」

 珍しく、ラグナルがいたずらっぽく笑った。

「さっそくだけど、楽しいこと、しに行こう」

「……へ?」

 ショコラがキョトンとしている間に、ラグナルは立ち上がると、またショコラを横抱きにした。

「ちょ、ご主人様……?」

 突然のことに、ショコラはついていけない。
 ラグナルは構わず、ショコラを抱いて部屋を出た。


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