もふもふメイドは魔王の溺愛に気づかない

美雨音ハル

文字の大きさ
40 / 101
第4章 魔王様は脱力系?

モフリシャス

しおりを挟む

「なんで卵焼きが甘くないの!?」

「うちの朝は出汁って決まってんだよ!」

「そんなの嫌よー!!」

 朝。
 ショコラが身支度を整えてダイニングルームに向かうと、部屋の中から言い争う声が聞こえてきた。

(あれ? この声は……)

「ピーチクパーチクうるせぇんだよ! じゃあ食うなよ!」

「あによこの悪人顔!!!!」

 中で言い争っていたのは、ヤマトと、なんとルーチェだった。

「あれっ? ルーチェさん?」

 ショコラはきょとんとしてしまった。
 なぜ王都に帰ったはずのルーチェが、朝食の席に並んでいるのか。
 そこにミルとメルがくわわって、キッチンは嵐のようにうるさくなった。

「あなたたち、いい加減にしなさい!!!」

 テレビを見ていたリリィが、怒った。

「聞こえないんですよ、もう!」

 シュロはのんびり味噌汁をすすっている。

「あっ!」

 ショコラが首をかしげていると、ようやくルーチェはショコラに気づいて、なぜかつかつかと近づいてきた。

「お、おはようございます。あの、なんでここにルーチェさんが?」

「なんで? そんなの決まってるでしょ」

 ルーチェはビシッと指をさした。

「あんたからラグを取り戻すためよ! そしてラグと結婚するため!」

「はあ……」

「前はやり方をちょっと間違えちゃったけど。今回からは正攻法でいくわ!」

 ショコラが首をかしげると、ルーチェはふんっと笑った。

「あなた、ラグの使なんですってね!」

「? そうですけど……」

 ショコラがきょとんとした顔で頷けば、ルーチェはいじわるそうな顔で笑った。

「ふーん? やっぱり、なんにもわかってないみたいね。ラグはなんて言って、あなたを連れてきたのやら」

「?」

「まあいいわ。だったら、これはチャンスよ!」

「ちゃ、チャンス?」

 ますますルーチェの言葉がわからなくなっていく。

「あたしの邪魔しないでよね! あたし、仕事が休みのときに、ここに通うから」

「えぇっ」

「あによ、なんか文句ある?」

「い、いえ」

 ショコラがぶんぶんと首を振ると、ミルとメルがぶう、と文句をたれた。

「えー、ミル、やだぁ」

「メル、ルーチェきらーい」

「妖精ごときが、うるさいのよ!」

 ルーチェはヤマトが持っていたフライパンとフライ返しを奪って、ミルとメルを追い掛け回していた。カンカンと鳴らすものだから、騒がしいったらありゃしない。

「もーっ、どうしてこの館はこんなにうるさいのかしら!?」

 リリィが頭痛をこらえるように頭を押さえながら、ため息を吐いた。
 シュロは優雅に食後のお茶を楽しんでいる。
 さすが年長者。この騒ぎを楽しむ余裕があるようだ。

「これはまた、しばらく賑やかになりそうですな」

 ショコラは苦笑して、自分の席に着いたのだった。

 ◆

「はぁ……今日は大変な一日でした」

 湯船に浸かりながら、ショコラは今日一日にあったことを思い出して、ほっとため息をついた。
 ミルとメルも一緒にお湯に浸かっていて、アヒルのおもちゃで遊んでいた。

「ルーチェさんって、なんであんなに元気なのかな……」

 アヒルのおもちゃで遊んでやりながら、ショコラはルーチェのことを思い出していた。

 ルーチェはラグナルの世話をすると言って、張り切っていた。
 朝からラグナルの寝室の扉をドンドンと叩き、なんとかしてラグナルを起こそうとする(起きなかったが)。
 ラグナルが昼頃に起きれば、ショコラの仕事を全部奪い、ラグナルのそばにずっとべったり。けれどルーチェは全部の仕事が大雑把なので、できないことや細かいことはすべてショコラに押し付けて、ショコラはまさに雑用係! という感じになっていた。

(まあでも、ちょっと騒がしいだけで、お仕事が楽になりましたね)

 あはは、と湯船で呑気に笑ったショコラ。
 そこにはなんの嫉妬も浮かんでいなくて、リリィとシュロが見たらがっくりきてしまうかもしれない。

(ルーチェさんは、ご主人様のことが好きなのかぁ)

 ショコラは前にリリィが言っていたことを思い出していた。
 昔、ラグナルはモテモテだったのだと。
 どこにそんな要素があるのかと不思議に思っていたショコラだったが、ルーチェほどの美女が夢中になってしまうくらいなのだから、それは本当だったのだろう。

(ご主人様は優しいし、ルーチェさんも、そういうところが好きなのかな?)

 ショコラがそんなことを考えていると、ぽこーんとアヒルが飛んできた。

「いてっ」 

 メルミルがきゃっきゃと笑っている。
 ショコラは頭をこすって、立ち上がった。

「もうそろそろ出ましょうか。次はリリィさんが入りますし」

「「はぁいー」」

 リリィは夜遅くに風呂に入るというので、ショコラはいつも先に入っているのだ。ときたま、このようにミルとメルも入ることがあるので、お風呂場も賑やかなものである。

(今日もいいお湯だったなぁ)

 孤児院にいた頃は、お風呂なんて入れなかった。
 せいぜい、濡らした布で体を拭くくらいだ。
 この世にお風呂ほどほっこりできる場所はないと、ショコラは思っているのだった。

 ミルとメルを連れて、風呂場を出ようとしたとき。

「ワン公ーーッッ!!!」

 スパァアンッ!
 叫び声と同時に、勢いよく浴室のドアが開けられた。

「ちょ、なんですか!?」

 素っ裸のショコラの前に現れたのは、服を脱いでタオル一枚になったルーチェだった。

「あんたのためにいいものを持ってきてあげたんだから、感謝しなさいよねっ!」

「え、あの……?」

 ショコラはどうしていいかわからなくなって、自分の貧相な体を必死に隠した。けれどルーチェは何も気にしていないようだった。

「わざわざ取り寄せてあげたんだからね!」

「……?」

 そう言って、ルーチェはばーん! と何かを前に出した。

「こ、これは……?」

 見た所、シャンプーか何かのようだった。

「あんた、文字が読めないんだっけ。いいわ、読んであげる」

 こほん、とルーチェが咳をした。

「獣人向け最高級しっぽ専用ソープ『モフリシャス』よ!」

「?」

 ショコラが首をかしげると、後ろでミルとメルが

「「モフリシャスー!」」

 と声をそろえて叫んだ。

「も、もふりしゃす?」

 ショコラが首をかしげれば、ルーチェはずい、と前に一歩踏み出した。

「これでしっぽを丸洗いすれば、ふわふわのもふもふのさらさらになるそうよ!」

「!」

 ショコラは驚いた。

「ふわふわのもふもふのさらさらに!?」

「そう! あんたのその貧相なしっぽがかわいそうで、買ってみたのよ!」

 水にぬれてしおしおになったしっぽを見て、ルーチェが言った。

「あんた、しっぽは何で洗ってるの?」

「ぽ、ポンテーンで洗っていますけど……」

「それじゃダメよ。髪としっぽの毛質は全然違うらしいんだから」

 ルーチェはずい、とショコラの手をとった。

「さあ、座りなさいよ! このあたしが手ずから、洗ってあげるから!」

「あ、あの、お気持ちはとても嬉しいのですが、自分で……」

「いいから!」

 そう言って強引に手を引けば、ショコラの平たい胸があらわになる。
 そこで初めて、ショコラの華奢な体に気づいたルーチェが、眉をひそめた。

「あんた、なんでそんな貧相な体してんの? 枝みたいじゃない!」

「う……」

 これでも、ヤマトの手料理によって、肉付きが良くなってきた方だ。

(でも胸が……) 

 ショコラは涙目になった。
 胸に肉がつく気配は、一向にないのだった。

「まあいいわ。あたしが洗ってあげるって言ったてんだから、さっさと座りなさい!」

「でも……」

「チビだってあたしが洗ってあげてるんだから、大丈夫よ」

(ワイバーンと一緒にされてる……)

 ショコラががくっとしてしまった。

「それに、ずっと気になってたのよ」

「?」

「獣人のおしりって、どうなってるの?」

「ちょ、」

「しっぽの付け根、見せなさいよ!」

 こうして、ショコラは強引にしっぽを丸洗いされることになったのだった。

しおりを挟む
感想 16

あなたにおすすめの小説

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

聖女の力は「美味しいご飯」です!~追放されたお人好し令嬢、辺境でイケメン騎士団長ともふもふ達の胃袋掴み(物理)スローライフ始めます~

夏見ナイ
恋愛
侯爵令嬢リリアーナは、王太子に「地味で役立たず」と婚約破棄され、食糧難と魔物に脅かされる最果ての辺境へ追放される。しかし彼女には秘密があった。それは前世日本の記憶と、食べた者を癒し強化する【奇跡の料理】を作る力! 絶望的な状況でもお人好しなリリアーナは、得意の料理で人々を助け始める。温かいスープは病人を癒し、栄養満点のシチューは騎士を強くする。その噂は「氷の辺境伯」兼騎士団長アレクシスの耳にも届き…。 最初は警戒していた彼も、彼女の料理とひたむきな人柄に胃袋も心も掴まれ、不器用ながらも溺愛するように!? さらに、美味しい匂いに誘われたもふもふ聖獣たちも仲間入り! 追放令嬢が料理で辺境を豊かにし、冷徹騎士団長にもふもふ達にも愛され幸せを掴む、異世界クッキング&溺愛スローライフ! 王都への爽快ざまぁも?

好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が

和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」 エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。 けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。 「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」 「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」 ──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。

やけに居心地がいいと思ったら、私のための愛の巣でした。~いつの間にか約束された精霊婚~

小桜
恋愛
ルディエル・アレンフォードは森に住む麗しの精霊守。 そんな彼が、いよいよ伴侶を迎えようと準備を始めているらしい。 幼馴染という関係に甘んじていたネネリア・ソルシェは、密かにショックを受けていた。 そろそろ彼との関係も終わらせなければならないけれど、ルディエルも精霊達もネネリアだけに優しくて――? 「大丈夫。ずっと居たいと思えるような場所にしてみせるから」 鈍感なネネリアと、一途で奥手なルディエル。 精霊に導かれた恋は、本人だけが気づかない。

無表情な黒豹騎士に懐かれたら、元の世界に戻れなくなった私の話を切実に聞いてほしい!!

カントリー
恋愛
懐かれた時はネコちゃんみたいで可愛いなと思った時期がありました。 でも懐かれたのは、獲物を狙う肉食獣そのものでした。by大空都子。 大空都子(おおぞら みやこ)。食べる事や料理をする事が大好きなぽっちゃりした女子高校生。 今日も施設の仲間に料理を振るうため、買い出しに外を歩いていた所、暴走車両により交通事故に遭い異世界へ転移してしまう。 異世界先は獣人の世界ークモード王国。住民の殆どが美男美女で、おデブは都子だけ。 ダーク 「…美味そうだな…」ジュル… 都子「あっ…ありがとうございます!」 (えっ…作った料理の事だよね…) 元の世界に戻るまで、都子こと「ヨーグル・オオゾラ」はクモード城で料理人として働く事になるが… これは大空都子が黒豹騎士ダーク・スカイに懐かれ、最終的には逃げられなくなるお話。 ★いいね・応援いただけると嬉しいです。創作の励みになります。

甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜

具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」 居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。 幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。 そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。 しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。 そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。 盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。 ※表紙はAIです

婚約破棄された没落寸前の公爵令嬢ですが、なぜか隣国の最強皇帝陛下に溺愛されて、辺境領地で幸せなスローライフを始めることになりました

六角
恋愛
公爵令嬢アリアンナは、王立アカデミーの卒業パーティーで、長年の婚約者であった王太子から突然の婚約破棄を突きつけられる。 「アリアンナ! 貴様との婚約は、今この時をもって破棄させてもらう!」 彼の腕には、可憐な男爵令嬢が寄り添っていた。 アリアンナにありもしない罪を着せ、嘲笑う元婚約者と取り巻きたち。 時を同じくして、実家の公爵家にも謀反の嫌疑がかけられ、栄華を誇った家は没落寸前の危機に陥ってしまう。 すべてを失い、絶望の淵に立たされたアリアンナ。 そんな彼女の前に、一人の男が静かに歩み寄る。 その人物は、戦場では『鬼神』、政務では『氷帝』と国内外に恐れられる、隣国の若き最強皇帝――ゼオンハルト・フォン・アドラーだった。 誰もがアリアンナの終わりを確信し、固唾をのんで見守る中、絶対君主であるはずの皇帝が、おもむろに彼女の前に跪いた。 「――ようやくお会いできました、私の愛しい人。どうか、この私と結婚していただけませんか?」 「…………え?」 予想外すぎる言葉に、アリアンナは思考が停止する。 なぜ、落ちぶれた私を? そもそも、お会いしたこともないはずでは……? 戸惑うアリアンナを意にも介さず、皇帝陛下の猛烈な求愛が始まる。 冷酷非情な仮面の下に隠された素顔は、アリアンナにだけは蜂蜜のように甘く、とろけるような眼差しを向けてくる独占欲の塊だった。 彼から与えられたのは、豊かな自然に囲まれた美しい辺境の領地。 美味しいものを食べ、可愛いもふもふに癒やされ、温かい領民たちと心を通わせる――。 そんな穏やかな日々の中で、アリアンナは凍てついていた心を少しずつ溶かしていく。 しかし、彼がひた隠す〝重大な秘密〟と、時折見せる切なげな表情の理由とは……? これは、どん底から這い上がる令嬢が、最強皇帝の重すぎるほどの愛に包まれながら、自分だけの居場所を見つけ、幸せなスローライフを築き上げていく、逆転シンデレラストーリー。

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

処理中です...