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第3章 夏だ!海だ!バカンスだ!
花火
しおりを挟む夜。
ショコラたちは砂浜に集まっていた。
花火とやらをするためだ。
バケツや着火のための魔道具を持ってきたリリィを見て、ショコラは首をかしげた。
一体何をするというのだろうか?
「ミルこれにする!」
「メルこっち」
ミルとメルがビニール袋を破き、中から細い紙の棒を取り出す。
「試しに着火してみましょうか」
リリィがそう言って、ぽ、と魔道具に火が灯す。
「!」
じじじ、と紙に火が灯ったかと思うと、パアッと一瞬で目の前が明るくなった。
「わあ……!」
パアアア、と細い紙筒の先から、赤い炎が吹き出す。
いわゆる手持ちススキと言われるタイプの花火だ。
夜の闇の中に、キラキラと炎が輝いた。
「すごいです、綺麗です!」
ミルとメルは楽しそうに花火を振り回した。
振り回すたび、火の粉が砂浜に落ち、不思議な光の軌跡を残す。
炎はしばらくの間輝き続けたが、やがて小さな煙を残して消えていった。
「もっと花火やる!」
「メルも!」
二人は楽しそうにビニールの袋をゴソゴソとあさる。
大きな袋の中には、まだまだ花火が残っている。
「はい、ショコラさんもどうぞ」
リリィが一つ、ショコラに花火を渡した、
ショコラは目を輝かせて、しっぽを振った。
「ふわぁ、わたしもやっていいんですか?」
「もちろんです。ほら、火をつけますよ」
ショコラもやってみたくて、こくこくと頷いた。
ラグナルもその隣でゴソゴソと袋を漁る。
手持ち花火の先に、火が灯った。
じゅじゅじゅ、と音がした後、パアッと光が弾ける。
「!」
ショコラは火の粉が飛んでこないように注意しつつ、炎が水のように吹き出す様を眺めた。ミルとメルのは赤い色だったのに、ショコラの花火は緑色を帯びている。
「あれっ?」
と思ったら、今度は赤い色に変化した。
「すごい! 色が変わりました!」
「ふふ。花火にもいろんな種類がありますからね」
ショコラは花火がよほど嬉しかったのか、持ったままはしゃぎまわった。
くるくると回れば、光が回る淡い軌跡を残す。
「ご主人様、みてください! すごいです!」
「うん。見てるよ」
ショコラがニコニコ笑ってそう言うと、ラグナルも微笑んだ。
ヤマトやシュロは岩に座って、お酒を飲みながらこちらをみていた。
ルーチェはというと、ショコラを押しのけてラグナルの隣に居座ろうとする。
「あ、ルーチェさ……」
「邪魔よアホ犬。さ、ラグ、一緒に花火しましょうね!」
「……」
「わ、わたしも!」
ショコラもルーチェとラグナルにひっついて、花火をする。
ラグナルはショコラとルーチェに挟まれ、窮屈そうに花火をしていた。
ショコラは初めての花火を楽しんだ。
花火にもいくつか種類があるらしく、すすき型だけでなく、花が開くようにばちばちと四方八方に火の粉が飛び散るものや、ぽんぽんと火の塊が飛び出すもの、キャラクターの絵が描かれた大きなすすき花火など、様々なものを体験した。
ミルとメルは飛び回って火の粉をちらし、リリィに叱られていた。
それでも空に火の粉が舞うのは綺麗で、ショコラは楽しくなって、笑ってしまったのだった。
◆
「じゃあ、最後は線香花火ですね」
あらかた花火をやりつくしてしまった後。
リリィはそう言って、ショコラに細長く、頼りげのない紙切れのようなものを渡した。
ショコラは今までとは違うタイプのものに、思わず首をかしげる。
「これは……?」
「これも花火なんですよ。先っぽに着火するのは一緒なんですけど、とっても静かな花火なんです」
そう言って、リリィはミルとメルの線香花火に着火してみせた。
「!」
紙の先っぽに火が移ると、じじじ、と音をたて、丸くて小さな火の玉が現れた。先ほどまでの花火とは違い、派手に燃えたりはしない。
けれど小さな火の玉は、パチパチと火を燃やしながら、紙をどんどん短くしていく。
「……」
なんだかあまり騒ぐようなものでもない気がして、ショコラは黙ってその様子を眺めていた。
やがて、ぽとりと火が地面に落ちる。
「ミルの負け!」
メルが楽しそうに笑った。
メルの花火はまだ燃えている。
「えー、リリィ、もう一個!」
「はいはい」
リリィはいくつかあったものを、みんなに配った。
ショコラもラグナルの隣で線香花火をつける。
じじじ、と花火は燃えた。
暗闇の中で、その光をみていると、頭の芯がぼうっとしてくるような気がした。
なんだか、この別荘に来てからのことが思い出される。
すごく楽しかった。
滞在日程は、あと少しだけだ。
──もう少しここにいたいな、なんて。
ショコラは思った。
ちら、と隣を見れば、ラグナルはぼうっと火が燃える様子を眺めていた。
その顔がとても綺麗で、ショコラは息を飲む。
(なんだろう……ご主人様って……)
昨日の、あの男のことが蘇った。
(なんだか、似ているような気が……)
「……ん?」
ラグナルがチラとショコラを見た。
ショコラはびくっとして、ラグナルから目を離す。
頬がぽっと赤くなった。
「どうしたの?」
「な、なんでもないです……」
自分の花火に視線を戻す。
まだ頬が熱いような気がして、ショコラはぷるぷると首を振った。
「そう」
ラグナルはそう言うと、じいっとショコラを見つめる。
「な、なんですか……?」
「ううん。君が楽しそうだといいなと思って」
「た、楽しいです。花火も、ここでの滞在も」
ショコラはにこ、と笑った。
「ずっとこんな時間が続くといいですね」
「……そっか」
それからじっと黙っていると、ぽとりと花火が消えた。
明かりが消える。
「あ……」
なんだか少し寂しい。
ショコラが眉を寄せていると、ラグナルが立ち上がった。
「僕、もう少しもらってくるね」
「あ、わたしが……」
「いいよ」
そう言って、ラグナルは立ち上がる。
ショコラも追いかけようとしたが、ぐい、と誰かに服を引っ張られた。
「?」
「ねえ」
ショコラの服を引っ張ったのは、ムスッとしたようなルーチェだった。
「ルーチェさん、どうしたんですか」
「あんたに聞きたいこと、あるんだけど」
「?」
珍しくそう言われ、ショコラは首をかしげる。
ルーチェは唐突に切り出した。
「あんた、ラグのこと、どう思ってるの?」
「え?」
きょとんとするショコラに、ルーチェはイライラした様子で問うた。
「ラグのことが、好きなの?」
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