聖剣ですがお前なんかに使われたくありません!

美雨音ハル

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第2話 いたずら

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「っ!? うわっ、なんだ!」

「どこから出てきた?」

 突然目の前に立ちはだかった私に、驚いたのだろう。子どもたちは腰を抜かした。

「お前たち、いい加減になさい。剣を乱暴に扱ってはなりません。怪我をしますよ」

「な、なんなんだよ、お前!」

 そう問われて、私はしばし考えた。

「……私はこの礼拝堂で眠る森の精霊です。お前たちのあまりにも不届きな行為に、怒りを覚え、ここに現れました」

 厳かな声でそう言ってみせると、子どもたちは悲鳴をあげておでこを地にこすりつけた。

「ご、ごめんなさいごめんんさいっ!」

「母ちゃんには言わないで」

「とうちゃんにも!」

 この国の人たちは、精霊を大切にしている。そして精霊たちも、たまに人の姿を借りて予言やお告げなどをすることがある。だから私のことも、信じてしまうのだろう。
 おほん、と咳をしていう。

「それでは、今すぐに帰りなさい。ここは危険なのですよ」

「は、はいいっ!」

 子どもたちはたったかと逃げていく。けれどその中で一人だけ、じっと私を見上げている女の子がいた。

「……どうしたのですか」

「あ、あのっ!」

 声をかけると、少女は目をキラキラと輝かせて言った。

「あなたは、剣の精霊様ではないのですか?」

 ギク、としてしまった。

「な、なにを……」

「私、西の地で聞いたのです。聖剣の物語と、そこに記された女性の姿を。英雄の聖剣は、人の姿になることができるのだと、聞きました!」

 心臓が跳ね上がった。
 変な汗が出てくる。
 西の地。英雄。
 もう二度と聞きたくない言葉だ。

「あなたは、というかこの剣は、聖剣なのではないのですか?」

 女の子はキラキラした目でそう問うてくる。

「白金に輝く髪と、天国の海を表したかのように美しい、青色の瞳。まさにあなたのことなんじゃ……」

 私は思わず、ぶんぶんと首を振った。

「違います違います。これはその辺で売ってた剣だし、さびついて抜けないだけです。ほら、さびっさび!」

 見てここ! と剣を必死に指で刺す。
 女の子は私の弁解に納得がいかないような顔をしていたが、しかし本体を見て、急に笑顔がしぼんだ。

「そうですよね……」

 じっくり見て、それから納得したようだった。
 ちょっと、悲しい気分になった。

「……森の精霊さま、騒がしくしてごめんなさい」

 ぺこ、と頭をさげる。

「世界に七振りあると言われている、伝説の聖剣。その聖剣があれば、少しは世の中もよくなるんじゃないかと思ったの……」

「……」

 私は静かに、女の子の名を聞いた。

「あなたの名前は」

「ユナ、です」

「それではユナ。大人たちに伝えなさい。ここは危険な場所です。長く居ることはできませんよ。特に子どもや赤子、妊婦には悪影響を及ぼしてしまう」

 その言葉を聞き遂げると、ユナはぺこっと頭を下げて、踵をかえした。と思いきや、思いとどまって、そっと台座に近づいてきた。

「?」

「聖剣じゃなくても、蹴ったりして、かわいそう。あの子たちが悪いことをして、ごめんなさい」

「!」 

 ユナはそういうと、服の袖でゴシゴシと剣を磨いてくれた。もう十数年ここに埋まったままだったから、ずいぶん汚れていたのだ。

「それじゃ、すみませんでした」

「待って!」

 すっかりきれいにしてくれたあと、ユナはたったっと走り去っていく。
 それを止めて、私はいった。

「あ、ありがとう」

「?」

 ユナはきょとんとすると、にこにこ笑って、私に手を振った。
 私もちょっと考えてから、手を振りかえした。
 久しぶりに、人の心に触れたと思った。
 
 ▽

 父、グランドストームは、剣の名匠として歴史に長く名を残した。彼の伝説は数知れず、彼の生み出した剣たちは、いつの時代も英雄とともにあったという。
 その中でも特に伝説化されているのが、彼の生涯の最期にうたれた、七振りの聖剣だ。

 彼は死ぬ間際に、己の全てをこめて七振りの聖剣を作った。心血、魂を注ぎ込まれて作られたその剣たちは、強い力と己の意思を持って、使い手に莫大な力をもたらしてくれるのだという。
 だからこそ、人は私たちを聖剣と呼び、尊ぶのだろう。
 ……で、私はそのシリーズの三作品目らしい。
 らしいというのは、私が他の聖剣たちを見たことがないからだ。でもきっと、世界のどこかでそれぞれみんな活躍しているのだろうと思う。
 
 私以外は。

 私は自分の意思でもう活動しないことを決めた。だからこれは仕方のないことなのだ。
 決して、絶対に、他の聖剣たちが羨ましいなんてことはない。 

「自分で決めたことだから」

 私はポツリと呟くと、ユナの去っていった方を見た。
 ここは深い森の中。
 きっと、私を求めてやってくる人はいない。
 森を抜けると村があって、街があって、国がある。
 人の負の感情によって暴走した魔獣たち。飢えた人々と、憎しみ合う国民。
 そしてこの世を支配する、悪魔。
 
 ──でももう私には、関係ない。
 
 あの子供たちが来てから数日がたった。あれ以来、森は変わることなくいつもの静けさをたたえている……はずだったのだけれど。
 どうも最近の森は騒がしいらしい。
 また新たな客人が訪れたのだ。
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