聖剣ですがお前なんかに使われたくありません!

美雨音ハル

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第3話 ジョット

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「酒ェ……タバコォ……」

 その日も私が台座にじっと座していると、そんな干からびた声が礼拝堂の入り口から聞こえてきた。
 こっちに近づいてきてほしくないと思いつつも、やはりそれは無理なようで。私って、基本的に運が悪いのだ。

「チキショウ、あのクソババアぜってぇ許さねぇからな。何が出口だ、半壊した礼拝堂があるだけじゃねぇか……」

 ふらふらと歩きながら、私が結界を張った礼拝堂にその男は入ってきた。
 どうしてそうしようと思ったのかはわからない。
 けれど私は興味を惹かれて、なぜか剣の中に戻らなかった。台座に座ったまま、男が近づいてくるのを眺める。
 ふらふらとしていた男は、ついに私が座る台座の前で、ぱったりと倒れ込んだ。

「……」

 男はしばらく動かなかった。
 けれどしばらくして、ぴく、と動き、よろよろと体を起こす。そして私と聖剣を目に移すと、間抜けな声を上げた。

「……あ?」

 私はじっと台座に座ったまま、その男を見つめる。
 二十代後半くらいだろうか。
 旅の旅装をしているが、黒いグローヴや剣帯をつけているあたり、職業は剣士なのかもしれない。
 男は随分と整った顔立ちをしていた。
 銀色のサラサラした髪に、たれ目がちな紫色の瞳。
 そして無精髭。おそらくずっとこの森をさまよっていたのだろう。
 マダムたちが好きそうな顔だと思った。

「おいおい、嘘だろ。まさか死ぬ前に、一発ヤっときなさいって、神が遣わしたのか……?」

 そう言って、いきなり立ち上がると、ふに、と私の胸を掴んだ。

「……っ!?」

 訂正しよう。
 顔はいいかもしれないが、発言と行動がクソだった。

「いいぞいいぞ、よしかわいい嬢ちゃん、服を脱いでみようか。なんだったら俺、それだけで元気になるわ、死なねぇわコレ。あ、でも胸はそこまでデカくねぇな」

 なんでこんなクソ野郎の前に姿を現してしまったのか。
 私は手を伸ばしてくるクソ野郎の頬を思いっきりぶった。
 バシコーン! といい音がした。

「ぶっっ! 何すんだお前ェ!」

「口を慎みなさい、この不届きものが!」

 何すんだはこっちのセリフよ!
 そう言って私が仁王立ちすると、男は間抜けな顔で私を見た。

「お、おっ……? なんだ、俺死んだのか? おま……あなたは神なのか?」

「死んでいませんよ。それに私は神様でもなんでもありません」

「じゃあ死ぬ前くらいいいだろ。抱かせてくれよ」

 まっったく! 気色の悪い男だ!
 私が現役だったなら、八つ裂きにするところだったぞ。
 再び男が手を伸ばしてくるので、私はその手を振り払って、反対側の頬をぶった。
 乙女の敵、許すまじ。

「いってェ! な、お前、なんなんだよ、なんでぶつんだよ」

「私は……この森の精霊です。なぜぶつかって、自分の胸に聞いてごらんなさい! この破廉恥オヤジ!」

「オヤジ!? まだそんな歳じゃねぇよ……」

 とりあえず森の精霊と名乗っておく。なんだかこいつに剣の意思だとばれたらやばそうだと思った。

「あなたのような破廉恥オヤジを、この森は歓迎していません。さっさと出て行きなさい」

 そういって、腰に手を当てて威嚇する。
 それなのに男は、頬をさすりながらも引こうとしない。

「俺もこんなとこ好きできたわけじゃねぇ。だがこうしていい女に会えたんだ、これも何かの縁ってことで……」

「ふざけないで!」

 私は怒って、本体の後ろに隠れようとした。
 が、その一瞬、風がふと頬をかすめた気がした。

「……っ!?」

 低い声が耳元で囁かれる。


「まあ、待てよ」


 腕を、掴まれている。
 私の腕が、この男に。
 お前、いつ、動いたの?
 固まる私に、男は真面目な顔でいった。

「えーっと、森の精霊さんだっけ?」

「っそうよ! この手をはなしなさい!」

「なら、交換条件だ」

 また変なことをされるのかと身構えていると、男は少し笑って言った。

「変なことしねぇよ。さっきは悪かった」

「……」

「それより出口を教えてくれ。もうタバコが吸いたくてたまらん。死ぬなら一服してからだ」

 私はオロオロとしてしまったものの、仕方がないので出口……というか、流浪の民たちがキャンプを張っている方向を指した。そこまでいけば、一緒に外に連れて行ってもらえるはず。
 そう説明すると、やっと男は手を離してくれた。
 なんて力なんだろう。腕が赤くなっている。

「ん、赤くなってら。ごめんな。でもお前、妙に力が強いし、早いからな」

 そう言って私を覗き込む男の目に、一瞬身がすくんだ。
 紫色の瞳の奥に、力強い炎がゆらめいている気がした。
 そして、ほんの一瞬。一秒にも見たない間。
 全身を針で刺されるような殺気を感じる。

 なんなの、この男……。

 今まで聖剣として、何人もの男と戦ってきた。
 でもその中でも、こいつは出会ったことのないタイプだ……。
 本能的にそう感じ、あとじさる。
 怖がっている私を見て、男はヘラヘラと笑った。

「ありゃ、怖がらせちまった」

「こ、怖がってなどいません!」

「そう? ならいいや。あんがとな」

 そういって、頭をぽんぽんとなでられる。
 なんなんだこの男……。
 呆然としている間にも、男は手をひらひらと振って、私が指差した方向に消えていった。
 
 なんだったんだろう、あの人間は。
 思い返すだけで背筋がゾッとする。そして不快感がぶり返す。

「二度と戻ってこないでくださいね」

 そう呟いたまま、私は呆然と彼の消えていった方を見ていたのだった。
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