聖剣ですがお前なんかに使われたくありません!

美雨音ハル

文字の大きさ
8 / 20

第7話 過去

しおりを挟む

 ある日、奴はどうせ今日も私の近くに座ってタバコをふかすのだろうと思っていた私は、あらかじめ本体から出ていた。
 ぼうっとしていると、予想どおりジョットがやってくる。
 ただし、一人ではなく、何人かの子供たちをつれて。
 その中には、私を蹴ったあの子どもや、ユナの姿もあった。
 彼らは私をみると、わっと声をあげる。

「ほら、ウソじゃねぇだろ?」

「本当だ! 森の精霊様だ!」

「きれーい!」

「俺、こないだこの人に怒られたんだぜ」

「それは誇ることじゃないよ」

 口々に子供達ははしゃぎ、私のまわりを取り囲んだ。

「ちょ、ちょっと、ジョット、これは一体……」

「あーワリィ。いっつもどこいってんだって責められてよ。子守もおしつけられるし、お前も暇だと思って。ちょうどいいだろう?」

「よくありません! お前はまた勝手にこんなことをして!」

 そう怒ると、子供たちがわっと私からはなれた。

「精霊さまが怒ったぞ!」

「この精霊様けっこう怒りっぽいんだよな」

 おいそこの子、お前は私の体をけったからだ。
 口を開こうとすると、ふと子供達全員の顔が、少しやつれていることに気づいた。ユナなどは、目の下にクマができている。

「……あなたたち、ちゃんと、食べて眠っているのですか?」

 そういうと、子供たちは口々に喋り始めた。何を言っているのか分からない。
 仕方ないのでユナの声に耳を傾ける。

「食べてるし、寝ています。だけど、ちゃんと休んだつもりでも疲れるの。それになんだか最近、喧嘩も多いし……」

 それだけ聞いて、ああ、となった。
 穢れが、この子たちに悪影響を及ぼしているのだ。小さく、未熟な心にこそ、穢れは影響する。今は体調が悪くなるだけでも、将来に渡って、心に影響してしまうのだ。

「……あなたたち、こちらへ来なさい」

 仕方ない。
 手招きする。

「ジョット、あなたはここに」

「へ」

「早くなさい!」

「へいへい」

 ジョットで聖剣を隠すと、子供たちの前にたって、私は目つぶった。
 祈るように、胸の前で手を組み合わせる。それっぽい演出だ。結局のところ、私は幻影でしかないので、本体が仕事をすることになる。
 私たちを囲むように光が広がった。
 これは本体から発せられる、清めの光だ。光の聖剣だけでなく、私たち聖剣シリーズはこういった人間の穢れを祓うことができる。
 しばらくほわわんとした光に包まれていると、光はゆっくりと消えていった。

「……あれ? なんだか、体が軽い」

「本当だ!」

「ユナ、くまがなくなってるよ」

「え、うそ」

「みんな、顔色が良くなっている!」

 子供たちはよろこんで飛び跳ねまくった。

「すごいすごい! ありがとうございます、精霊様!」

 たったこれだけのことで喜ばれるなんて。
 私は複雑に気分になった。

「精霊さまは、この森全体の穢れは払えないのですか?」

 ユナがそう聞いてくる。
 私は一瞬答えに詰まった。
 こんなもの、私にかかればこの森どころか、この地域一帯の穢れをぶっとばせる。でもだめなのだ。
 ここを祓ってしまえば、私は見つかって(・・・・)しまう。
 この穢れのせいで、森には人が住めなくなってしまった。けれどその被害と、私が見つかってしまったときの被害を比べれば、断然後者の方が大きい。

「無理です。私にはこのくらいのことしかできません」

 苦しかった。
 うそをついてこの子たちを森から追い出そうとするのは。

「だから、あなたたちも早くこの森を出なさい。私もそう何度もは穢れを払えませんよ」

 そういうと、ちんちくりんの頭の男の子が、ぼそっとつぶやいた、

「いくとこがあるなら、とっくにこんなところ出てるよ」

 ユナに頭を叩かれる。

「精霊さまの森で、なんてことをいうの!」

「……いいのですよ、べつに。その通りなのだから」

 私は、この子たちの居場所を奪っている。
 そして元はと言えば、私のせいで、この地は荒れ放題になってしまっているのだ。
 けれどもしも、この森の穢れがなくなってしまったら。
 私を覆い隠す靄がなければ、聖剣の波動があいつにつたわってしまう。
 どうしたものかと俯いていると、ジョットがぱんぱんと手を打った。

「おいおめぇら、これで満足しただろ? かえんぞ」

「えーっ! やだやだ、精霊さまと遊ぶ!」

「ばっかおめェ、精霊さまだぞ。子供の遊び相手なんか、かうかよ」

 そういって、ジョットはちらと私を見たのち、子供たちを連れて森の道を帰っていった。私はその後ろ姿をぼんやりと眺めていた。

 ▽

 その晩、私は悪夢をみた。

『お願いやめて、殺さないで』
『この子だけは、この子だけは……!』
『俺は何もしていないのに!』
『死にたくない!』
『ごめんなさい、ごめんなさい』
『怖いよ、痛いよ……』

 熱い血潮を感じる。
 叫ぶ声が聞こえる。
 柔らかく皮膚を裂く感触がする。
 絶望する人々の表情が目に焼き付いて離れない。
 それでも私は斬る。聖剣だから。
 たとえそれが、罪なき人たちだったとしても。

 ──お願いよ、助けて。お腹の中に赤ちゃんがいるの!

 ──お願い、お願い……!
 
 ──人殺しぃいいい!

 私はなんのために生まれた?
 私は人を助けるために生まれた。
 救うために生まれた。
 守るために生まれた。
 それなのに私は何をやっているの。

「ティア。今日も君は素晴らしいよ」
 
 悪魔のような声が頭に響く。
 私はこいつに逆らえない。
 この使い手に。

「今日もいっぱい殺そうね、ティア」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

《完結》《異世界アイオグリーンライト・ストーリー》でブスですって!女の子は変われますか?変われました!!

皇子(みこ)
恋愛
辺境の地でのんびり?過ごして居たのに、王都の舞踏会に参加なんて!あんな奴等のいる所なんて、ぜーたいに行きません!でブスなんて言われた幼少時の記憶は忘れないー!

推しの騎士を応援している転生令嬢ですが、いつの間にか政略結婚に巻き込まれていました

藤原遊
ファンタジー
転生令嬢カテリーナの趣味は、推しの騎士をこっそり絵に描くこと。 誰にも見せるつもりのなかったスケッチが――ある日、本人にバレました。 しかもその騎士は、国内序列一位の領地、次期領主のアンドレアス。 冷静沈着な彼の瞳に、描かれた自分の姿を見つめられた瞬間から、 令嬢の穏やかな推し活は一変する。 音と絵が結ぶ恋、そして貴族たちの思惑が交錯する中で―― 「あなたには、俺がこう見えているんですね。」 その言葉が、世界を動かしはじめる。 こっそり描いていたら、いつのまにか溺愛されていました。 芸術と政治、そして“推し”が繋ぐ恋の物語。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

愛のない結婚をした継母に転生したようなので、天使のような息子を溺愛します

美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
目が覚めると私は昔読んでいた本の中の登場人物、公爵家の後妻となった元王女ビオラに転生していた。 人嫌いの公爵は、王家によって組まれた前妻もビオラのことも毛嫌いしており、何をするのも全て別。二人の結婚には愛情の欠片もなく、ビオラは使用人たちにすら相手にされぬ生活を送っていた。 それでもめげずにこの家にしがみついていたのは、ビオラが公爵のことが本当に好きだったから。しかしその想いは報われることなどなく彼女は消え、私がこの体に入ってしまったらしい。 嫌われ者のビオラに転生し、この先どうしようかと考えあぐねていると、この物語の主人公であるルカが声をかけてきた。物語の中で悲惨な幼少期を過ごし、闇落ち予定のルカは純粋なまなざしで自分を見ている。天使のような可愛らしさと優しさに、気づけば彼を救って本物の家族になりたいと考える様に。 二人一緒ならばもう孤独ではないと、私はルカとの絆を深めていく。 するといつしか私を取り巻く周りの人々の目も、変わり始めるのだったーー

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

やけに居心地がいいと思ったら、私のための愛の巣でした。~いつの間にか約束された精霊婚~

小桜
恋愛
ルディエル・アレンフォードは森に住む麗しの精霊守。 そんな彼が、いよいよ伴侶を迎えようと準備を始めているらしい。 幼馴染という関係に甘んじていたネネリア・ソルシェは、密かにショックを受けていた。 そろそろ彼との関係も終わらせなければならないけれど、ルディエルも精霊達もネネリアだけに優しくて――? 「大丈夫。ずっと居たいと思えるような場所にしてみせるから」 鈍感なネネリアと、一途で奥手なルディエル。 精霊に導かれた恋は、本人だけが気づかない。

元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜

日々埋没。
ファンタジー
​「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」  ​かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。  その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。  ​レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。 ​ 地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。 ​「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」  ​新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。  一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。  ​やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。  レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

処理中です...