転生もふもふ九尾、使い魔になる

美雨音ハル

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第5話 魔獣管理局

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 梅雨に入ってからというもの、夢見が悪い。
 昔の夢ばかり見ては、ため息を吐いてしまう。
 ここのところ、私はずっと機嫌が悪かった。
 夢見が悪いことに加えて、人間たちが頻繁に森へやってくるようになったからだ。入ってきたら、なんとなく気配でわかる。
 精霊たちがわざわざ伝えなくとも、私は知っていたのだ。

 とは言っても、森に降る雨は彼らを惑わし、最深部にある私の社へはやって来られない。
 だから私はいつも、人間が入ってきてもほうっている。
 私は百年前からこうやって森を守ってきたのだ。
 人間は雨を必要とすると同時に、恐れている。
 雨に降る森は危険だということを、あいつらはちゃんと学習しているのだ。

 私はたしーんたしーんとしっぽを振って、外を見た。
 手には幻覚で作った人形を抱いている。

 雨はこの森にとって、必要なもの。
 自分でもなぜ雨を選んだのか、その答えはよく分からない。
 あの日から、たった一度も青空を見たことはないけれど、それでもいいと私は思っている。

 ◆

「お前がここに住み着いている九尾か」

 その男が現れたのは、もう日もすっかり暮れた頃。
 夜が訪れ、森の闇が一層濃くなった時間帯だった。

 それは、真っ黒い男だった。

 森の闇よりも、もっと深くて、純粋な黒い髪と瞳。
 なのに、肌は人形のように白い。
 見目はたいそう良い男だったが、その顔にはなんの表情も浮かんでいなくて、まるで、人形のような男だと思った。
 そんな男が、静かに、感情のない声で私に問いかけた。
 惜しいなぁと思いながら、私は横になったまま、気だるげに男を見た。

「そーですけどぉ。あのねぇ、あんた、礼儀ってもんを知ってる? 普通、幻獣様のお社を踏み荒らしたりしないでしょ。靴を脱いで上がりなさいよね」

 外では緊張したように、精霊たちが私と男を見ていた。
 この黒い男は、突然ここへ現れて、このように私のお社を荒らしたのである。
 この間から人間どもの動きがなんだかおかしいなと思っていたのだが、この男と何か関係があるのかもしれない。
 私が何を言っても、男は表情ひとつ変えなかった。

 ちょっと興味が湧いて、しっぽをびよーんと伸ばし、男の頬をくすぐってみる。
 ……ありゃ。
 これをすれば大抵の人間は喜んで笑うんだけどな。
 男はびっくりもせず、笑顔にもならず、微動だにしなかった。

「何よ、つまんない男」

 私がばっしばっしと床をしっぽで叩いても、男は顔色ひとつ変えなかった。
 ちょっとくらいリアクションしなさいよね。
 私がブツクサ文句を垂れていると、男は何の感情もない声で言った。

「一度しか言わないから、よく聞け」

 なんだこいつ、えらそーに。

「?」

 なんの話じゃい、と目を瞬かせる。

「俺は魔獣管理局から来たシリウス・レイ管理官だ。今から俺の言うことがきけないというのなら、お前を討伐する運びとなった」

「……」

「お前らのような獣にこう宣言したところで、全くの無意味なのだろうが」

 まじゅうかんりきょく?
 かんりかん?
 とうばつ?

 はーん?

「呆れた。ふざけんじゃないわよ」

 私は盛大に悪態をついた。

「魔獣管理? 残念でした。私は幻獣よ。そんじょそこらの位の低い獣と一緒にしないで」

 この世界では、獣が魔力を帯びると魔獣になり、魔獣が百年生きると幻獣になると言われている。けれど生まれの低い生き物は、それ以上にはなれない。
 私のように生まれながらにして幻獣のタイプは、やがて神獣となり、神の身元に使える神使となる。

「魔獣管理局では魔獣から神獣までを扱う。よってお前も対象に入る」

「……なんなのよ、それ。人間が幻獣様に手を出そうっての?」

 幻獣は世界に望まれて生まれてきた存在だ。
 それだのに、この人間はそれを消そうというのか。
 男は静かに言った。

「百年もの間、雨が降り止まない森に、現地の住民たちが困り果てている」

 ほーん、それが?
 私の森なんだから、どうでもいいでしょうが。

「この森の雨を今すぐ止ませろ」

「……嫌だと言ったら?」

「お前を殺すことになるだろう」

 かっちーん。

「ふぅん、お馬鹿さんね。いいわ、やれるもんならやってみなさい」

 九本のしっぽが、扇のように広がった。
 しっぽの先には、九色の魔石がひっついている。
 百年かけて溜め込んだ魔力のおかげで、私は九尾にまで進化することができたのだ。
 魔獣管理局だかなんだか知らないが、もういっそ殺してしまった方が楽だろう。
 三十歳かそこらのペーペーが、生意気言ってんじゃないわよ。

「私たち幻獣を管理しようだなんて、神を冒涜するも同じよ」

 ここは私の森。
 ドライアドが守った、大切な場所。
 それを人間なんかに、手出しはさせないわ。

「おいで、狐火」

 私は人差し指と親指で円を作って、ふうっと息を吐いた。
 その瞬間、ものすごい勢いで炎の息吹が飛び出す。
 しっぽの赤い宝石がキラキラと煌めいた。




 五日目、鉄の檻。

 怖い。
 寂しい。
 どうして。
 どうして私のこと、嫌いになっちゃったの?
 どうして私のこと、いらなくなっちゃったの?


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