悪役令嬢と七つの大罪

美雨音ハル

文字の大きさ
25 / 43
本編

第23話 焦り

しおりを挟む

「嘘よ、こんなの嘘……」

 旧校舎の中。
 ロザリアは膝を抱えて、虚空を見上げていた。
 その膝にはさらに大きくなった真白が、へっへっとしっぽを振り回しながら乗っている。もう大型犬くらいの大きさになっていた。

「せっかく猛勉強して入ったのに、退学……?」

 テストが終わって数時間が経ったが、ロザリアはまだその事実を受け入れられていなかった。

「退学って、そんな大げさな」

 隣でパンを食べていたアリスが、手をひらひらと振った。

「もう一回テストしてダメだったら、きっと先生方がなんとかしてくれるよ」

「でも私、アレイズ先生に言われたの。退学だって」

「え? 私、何も言われなかったけど……」

 アリスとロザリアは目を合わせた。

「そんな、退学なんて絶対嘘だよ」

「そうかしら……」

「アレイズ先生って、なんでロザリアちゃんにだけあんなにあたりがきついんだろ?」

 アリスが首をかしげた。

「わからないわ。やっぱりあの噂を先生も信じているのかしら」

「そんなバカな」

 アリスは真白の頭を撫でながら、呟いた。

「自分の寮の生徒なのにね」

 真白はきゅううん! とアリスのほっぺを舐める。

「本当だったら、テストが終わってのんびりしているはずだったのに」

 オワッタという感じである。

「まあ、今日はもういいよ。明日考えよう」

 アリスはグーっと伸びをすると、立ち上がった。

「私、今日バイト入れちゃったから、もういかなきゃ」

「バイト?」

 ロザリアも立ち上がり、真白に別れを告げて、アリスと廊下に出た。

「うん。この学校は授業は無料だけど、生活費がないからね。週に何回か、喫茶店で働いてるんだ」

 ロザリアは感心してしまった。

「すごいわ、働いているなんて……!」

「そんなことないよ、ただお客さんにお茶出すだけだし」

 孤児院にいた頃は、荷運びなどもっと大変な作業をしていたらしい。

「やっぱ王都は仕事がたくさんあるから、選び放題なのがいいよね。お給料もいいし!」

 そう言ってアリスはのんきに笑った。

「そうだ、今度遊びに来てよ。ちょっと大人っぽいところだけど、騒がしいお客さんとかいないから、のんびり読書とかできるよ」

「!」

 ロザリアはどきりとした。

(は、初めて誘われた……)

 しっぽがあったらなら、千切れんばかりに揺らしていただろう。

「じゃあね!」

 旧校舎を出た二人は、手を振って別れた。
 ロザリアは寮へ、アリスはバイト先へ。
 そしてそれをじっと見つめるものがいたことに、二人は気づいていない。

 ◆

 試験が終わり、二日間の休暇を挟むと、テストがすぐに返却された。
 友達がいないロザリアはほとんどの時間を勉強に当てていたので、テストはどれも点数がよかった。
 悲しいのか、嬉しいのかよくわからなかったが、まあテストの点数はよかったのでよしとしよう。

 テストの点数に呻くものや、喜ぶものたちで、校舎は騒がしかった。
 そんな中、ロザリアは一人、魂装武具の召喚練習に勤しんでいた。

(やっぱり私には、魔導士のセンスがないのかもしれないわ……)

 訓練場で一人練習しながら、ロザリアはため息を吐いた。
 何度やっても、うまくいかないのだ。
 ロザリアは休憩しようと、椅子に座った。
 そのままぼんやりと訓練場のほうを見ていると、先ほどから誰かが模擬演習をしていることに気づいた。
 銀色の髪に、冷たい青色の瞳。黒寮の制服に身をつつんでいる。

「あ」

 誰かと思えば、第三王子レイ・バルハザード。
 この間ロザリアに絡んできた第四王子グレンの兄だった。
 彼は黒寮の五年生でときたまロザリアも見かけることがあるのだが、いつも静かで、人を寄せ付けない雰囲気がある人だった。

 噂によると、彼は五年生の中で一番強いらしい。
 どんな武具を使うのかロザリアは興味が出てきて、目を凝らして見てみた。
 しかし、レイは何もその手に持っていなかった。
 その代わり、魔術を駆使して相手を押さえている。

「……?」

(魔術の練習なのかしら?)

 レイは武具がなくても、十分に強かった。
 その動きは見惚れるほどに美しく、彼が五年生の中で一番強いと言われるのも納得できた。

「私もせめて、魔術が使えたらなぁ」

 一年生の魔術ロッドなど、大抵は一つしかない。
 そこに魂装強化をあてるから、戦いの際中に魔術を使うことなどできないのだ。

「はぁ、もうどうしよう……」

 ロザリアは自分の手に視線を落として、ため息を吐いた。
 もしも今週末の追試で、武器を具現化できなかったら。
 そのときは本当に退学になってしまうのかもしれない。
 そうしたら、ロザリアはまたあの家に……。

「っ」

 父と継母の顔を思い出して、ロザリアはぞっとしてしまった。
 あんな家に戻るくらいなら、死んだほうがマシだ。

「もしも退学になったら……」

 それ以上のことは想像できない。
 ロザリアはふるふると顔を横に振って、立ち上がった。

「アリスちゃんだって、頑張ってる。私だって……」

 ロザリアの心の支えは、アリスだった。
 一年生の中で、唯一武具の召喚できない二人。
 一人ではないのだと思うと、ロザリアは勇気が出たのだった。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

追放された悪役令嬢、辺境で植物魔法に目覚める。銀狼領主の溺愛と精霊の加護で幸せスローライフ!〜真の聖女は私でした〜

黒崎隼人
恋愛
「王国の害悪」として婚約破棄され、魔物が棲む最果ての地『魔狼の森』へ追放された悪役令嬢リリア。 しかし、彼女には前世の記憶と、ゲーム知識、そして植物を癒やし育てる不思議な力があった! 不毛の地をハーブ園に変え、精霊と友達になり、スローライフを満喫しようとするリリア。 そんな彼女を待っていたのは、冷徹と噂される銀狼の獣人領主・カイルとの出会いだった。 「お前は、俺の宝だ」 寡黙なカイルの不器用な優しさと、とろけるような溺愛に包まれて、リリアは本当の幸せを見つけていく。 一方、リリアを追放した王子と偽聖女には、破滅の足音が迫っていて……? 植物魔法で辺境を開拓し、獣人領主に愛される、大逆転ハッピーエンドストーリー!

元悪役令嬢、偽聖女に婚約破棄され追放されたけど、前世の農業知識で辺境から成り上がって新しい国の母になりました

黒崎隼人
ファンタジー
公爵令嬢ロゼリアは、王太子から「悪役令嬢」の汚名を着せられ、大勢の貴族の前で婚約を破棄される。だが彼女は動じない。前世の記憶を持つ彼女は、法的に完璧な「離婚届」を叩きつけ、自ら自由を選ぶ! 追放された先は、人々が希望を失った「灰色の谷」。しかし、そこは彼女にとって、前世の農業知識を活かせる最高の「研究室」だった。 土を耕し、水路を拓き、新たな作物を育てる彼女の姿に、心を閉ざしていた村人たちも、ぶっきらぼうな謎の青年カイも、次第に心を動かされていく。 やがて「辺境の女神」と呼ばれるようになった彼女の奇跡は、一つの領地を、そして傾きかけた王国全体の運命をも揺るがすことに。 これは、一人の気高き令嬢が、逆境を乗り越え、最高の仲間たちと新しい国を築き、かけがえのない愛を見つけるまでの、壮大な逆転成り上がりストーリー!

【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます

なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。 過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。 魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。 そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。 これはシナリオなのかバグなのか? その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。 【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】

王国最強の天才魔導士は、追放された悪役令嬢の息子でした

由香
ファンタジー
追放された悪役令嬢が選んだのは復讐ではなく、母として息子を守ること。 無自覚天才に育った息子は、魔法を遊び感覚で扱い、王国を震撼させてしまう。 再び招かれたのは、かつて母を追放した国。 礼儀正しく圧倒する息子と、静かに完全勝利する母。 これは、親子が選ぶ“最も美しいざまぁ”。

悪役令嬢に仕立て上げたいなら、ご注意を。

潮海璃月
ファンタジー
幼くして辺境伯の地位を継いだレナータは、女性であるがゆえに舐められがちであった。そんな折、社交場で伯爵令嬢にいわれのない罪を着せられてしまう。そんな彼女に隣国皇子カールハインツが手を差し伸べた──かと思いきや、ほとんど初対面で婚姻を申し込み、暇さえあれば口説き、しかもやたらレナータのことを知っている。怪しいほど親切なカールハインツと共に、レナータは事態の収拾方法を模索し、やがて伯爵一家への復讐を決意する。

乙女ゲームの悪役令嬢になったから、ヒロインと距離を置いて破滅フラグを回避しようと思ったら……なぜか攻略対象が私に夢中なんですけど!?

猪木洋平@【コミカライズ連載中】
恋愛
「イザベラ、お前との婚約を破棄する!」「はい?」悪役令嬢のイザベラは、婚約者のエドワード王子から婚約の破棄を言い渡されてしまった。男爵家令嬢のアリシアとの真実の愛に目覚めたという理由でだ。さらには義弟のフレッド、騎士見習いのカイン、氷魔法士のオスカーまでもがエドワード王子に同調し、イザベラを責める。そして正義感が暴走した彼らにより、イザベラは殺害されてしまった。「……はっ! ここは……」イザベラが次に目覚めたとき、彼女は七歳に若返っていた。そして、この世界が乙女ゲームだということに気づく。予知夢で見た十年後のバッドエンドを回避するため、七歳の彼女は動き出すのであった。

「君は悪役令嬢だ」と離婚されたけど、追放先で伝説の力をゲット!最強の女王になって国を建てたら、後悔した元夫が求婚してきました

黒崎隼人
ファンタジー
「君は悪役令嬢だ」――冷酷な皇太子だった夫から一方的に離婚を告げられ、すべての地位と財産を奪われたアリシア。悪役の汚名を着せられ、魔物がはびこる辺境の地へ追放された彼女が見つけたのは、古代文明の遺跡と自らが「失われた王家の末裔」であるという衝撃の真実だった。 古代魔法の力に覚醒し、心優しき領民たちと共に荒れ地を切り拓くアリシア。 一方、彼女を陥れた偽りの聖女の陰謀に気づき始めた元夫は、後悔と焦燥に駆られていく。 追放された令嬢が運命に抗い、最強の女王へと成り上がる。 愛と裏切り、そして再生の痛快逆転ファンタジー、ここに開幕!

処理中です...