悪役令嬢と七つの大罪

美雨音ハル

文字の大きさ
26 / 43
本編

第24話 無視

しおりを挟む

 追試まであと二日。
 ロザリアの表情は追い詰められたように暗かった。

「おい、見ろよ、噂をすれば、だ」

 ロザリアが廊下を歩いていると、ひそひそと話す声が聞こえてきた。

「……」

(また私の噂話かしら?)

 ロザリアがちらちらと周りを確認すると、なぜか赤寮の生徒たちがロザリアを見てひそひそと話していた。

(なんだか様子がおかしいような……?)

 ロザリアは首をかしげた。
 噂をされたり、悪口を言われたりするのは常なのだが、今日はなんだかいつもと様子が違う。こんなあからさまにやられたことはあっただろうか。

(私、まだ何か知らない間に噂されているみたい……)

 ロザリアは気が重くなって、足早に校舎を出た。

 ◆ 

 訓練場に向かうと、アリスと出会った。

「あ、おはよう」

 ロザリアはぱっと顔を明るくして、アリスに挨拶した。
 もしかしてアリスなら、この周りの状況を知っているかもしれない。
 けれどアリスは、なんだか様子がおかしかった。
 ロザリアを見ると、アリスはびく、と足を止めた。

「……っ」

 気のせいか、アリスの顔色が悪い。

「アリスちゃん?」

 ロザリアが首をかしげると、アリスは俯いた。
 それから、何も言わずに走り去ってしまう。

「あ……」

 ロザリアはショックを受けてしまった。

(うそ……アリスちゃん、どうしちゃったんだろう……)

 いきなりアリスに無視をされ、ロザリアの胸がずきずきと痛んだ。
 間抜けな様子で、ロザリアはアリスが去った方を見つめていたのだった。

 ◆

 思えば、アリスとロザリアの関係は、なんだったのだろう?
 ロザリアは勝手に、アリスと仲良くなれたのだと思っていた。
 けれどアリスにとって、それは迷惑だったのかもしれない。
 あの子はいい子だから、きっと嫌でも付き合ってくれていたのかも……とロザリアはため息を吐いた。

 夜。
 アリスの一件がショックで、ロザリアは結局一日中そのことを考えてばかりいた。
 あのあともアリスに声をかけてみたのだが、ことごとく無視されてしまったのだ。

 アリスに何かしただろうか、とか。
 そもそも嫌われる要素しかないじゃん、とか。
 考えれば考えるほど思考は悪い方へ流れていく。

「はぁ……もう、なんかしんどい……」

 ロザリアはうめき声をあげながら、ベッドに突っ伏した。

 ◆

 また、あの夢を見た。
 暗闇の中で男と会う夢。

『なぜお前は言い返さない?』

 男は頬づえをついて、言った。

『なぜ見当違いな噂も、侮辱も、そのままにしておくのだ』

 ロザリアはだんだんとこの夢にも慣れてきた。
 
「言い返しても意味なんかないもの」

『なぜ?』

「きっと誰も信じてくれない」

『言ってみなければ分からないではないか』

「……」

『はあ、とことん呆れるやつだ……』

「ほおっておいてよ」

 ロザリアは思わずそう言ってしまった。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

乙女ゲームの悪役令嬢、ですか

碧井 汐桜香
ファンタジー
王子様って、本当に平民のヒロインに惚れるのだろうか?

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

婚約者を奪った妹と縁を切ったので、家から離れ“辺境領”を継ぎました。 すると勇者一行までついてきたので、領地が最強になったようです

藤原遊
ファンタジー
婚約発表の場で、妹に婚約者を奪われた。 家族にも教会にも見放され、聖女である私・エリシアは “不要” と切り捨てられる。 その“褒賞”として押しつけられたのは―― 魔物と瘴気に覆われた、滅びかけの辺境領だった。 けれど私は、絶望しなかった。 むしろ、生まれて初めて「自由」になれたのだ。 そして、予想外の出来事が起きる。 ――かつて共に魔王を倒した“勇者一行”が、次々と押しかけてきた。 「君をひとりで行かせるわけがない」 そう言って微笑む勇者レオン。 村を守るため剣を抜く騎士。 魔導具を抱えて駆けつける天才魔法使い。 物陰から見守る斥候は、相変わらず不器用で優しい。 彼らと力を合わせ、私は土地を浄化し、村を癒し、辺境の地に息を吹き返す。 気づけば、魔物巣窟は制圧され、泉は澄み渡り、鉱山もダンジョンも豊かに開き―― いつの間にか領地は、“どの国よりも最強の地”になっていた。 もう、誰にも振り回されない。 ここが私の新しい居場所。 そして、隣には――かつての仲間たちがいる。 捨てられた聖女が、仲間と共に辺境を立て直す。 これは、そんな私の第二の人生の物語。

悪役令嬢は断罪の舞台で笑う

由香
恋愛
婚約破棄の夜、「悪女」と断罪された侯爵令嬢セレーナ。 しかし涙を流す代わりに、彼女は微笑んだ――「舞台は整いましたわ」と。 聖女と呼ばれる平民の少女ミリア。 だがその奇跡は偽りに満ち、王国全体が虚構に踊らされていた。 追放されたセレーナは、裏社会を動かす商会と密偵網を解放。 冷徹な頭脳で王国を裏から掌握し、真実の舞台へと誘う。 そして戴冠式の夜、黒衣の令嬢が玉座の前に現れる――。 暴かれる真実。崩壊する虚構。 “悪女”の微笑が、すべての終幕を告げる。

婚約破棄のその場で転生前の記憶が戻り、悪役令嬢として反撃開始いたします

タマ マコト
ファンタジー
革命前夜の王国で、公爵令嬢レティシアは盛大な舞踏会の場で王太子アルマンから一方的に婚約を破棄され、社交界の嘲笑の的になる。その瞬間、彼女は“日本の歴史オタク女子大生”だった前世の記憶を思い出し、この国が数年後に血塗れの革命で滅びる未来を知ってしまう。 悪役令嬢として嫌われ、切り捨てられた自分の立場と、公爵家の権力・財力を「運命改変の武器」にすると決めたレティシアは、貧民街への支援や貴族の不正調査をひそかに始める。その過程で、冷静で改革派の第二王子シャルルと出会い、互いに利害と興味を抱きながら、“歴史に逆らう悪役令嬢”として静かな反撃をスタートさせていく。

処理中です...