悪役令嬢と七つの大罪

美雨音ハル

文字の大きさ
37 / 43
本編

第35話 目が覚めて

しおりを挟む
 ロザリアは夢を見ていた。
 それは床に伏せっていた母親の夢だった。

「ロザリア……」

 やせ細った腕が、ロザリアに伸びる。
 幼いロザリアの頬を撫でると、母ローズは悲しそうに眉を寄せた。

「もう少し大きくなったら、あなたはお母様のこの状況を理解してしまうのでしょうね」

 優しく頬を撫でられる。

「でも決して忘れないで。私があなたを心の底から愛しているということを」

 それから、とローズは続けた。

「言うか、言わないか、迷ったけれど。でもきっと、お母様は、長くはあなたのそばにいられないから……」

 泣きじゃくるロザリア。
 
「お母様が本当に愛していた人は、あなたを絶対に助けてくれる」

 ローズは静かに告げた。

「いつか、思い出して。その人の名前は……」



 ──アレイズ



 ◆


「……ん」

 頬に柔らかな風を感じて、意識が覚醒した。
 ロザリアが目を開けると、ぼんやりと見慣れぬ天井が視界に映った。
 首を動かせば、真っ白な部屋。
 どこかで見覚えがあるな……と思っていると、そばに誰かがやってきた。
 
「あら、目が覚めたのね」

「……? わたし、なにやって」

 それは以前ロザリアが天球儀に頭をぶつけた際に治療してくれた女医だった。
 どうやらここは、保健室のようだ。
 ロザリアは思わず、がばっと起き上がってしまった。

「あら、だめよ。ちゃんと寝ていなさい」

「せ、先生、私は一体なぜ、ここに?」

 おろおろとするロザリアを見て、女医は苦笑する。

「あなた、随分とやんちゃをしたようだけれど」

「え……?」

 ロザリアは眉をひそめた。
 昨晩からの記憶が、あやふやになっている。
 ロザリアは一つ一つ丁寧に、何があったのかを思い出した。

「変な手紙が部屋に来て、それから、それから……!」

 あっと声を上げてしまう。
 そうだ、あの訓練場におびき出され、大勢の前で糾弾されたのだ。
 真白とアリスを人質のような形にされて、理不尽な罵声と虚偽の罪での断罪を受けそうになった。

 けれどロザリアは……。

「うそ、待って、私……!」

 ロザリアはぼんやりと覚えていた。
 自分が何をしてしまったのかを。

 あのとき、あの夢の中の男と話した後。
 ロザリアは確かに武具を召喚して、戦ったのだ。
 そして訓練場を、破壊したのだ。

 ぼんやりとしか覚えていないが、手にはまだ槍の感覚が残っているような気がした。

「私、なんてことを……!」

 ベッドから飛び出そうとするロザリアを押しとどめて、女医は言った。

「あなたには休息が必要よ。ここでしばらくねむっていなさいな」

「でも……」

「いいから。別にいまさら、どうにもならないんだから」

 くす、と女医は笑った。

「校長からのお達しなのよ」

「!」

「ゆっくり休んで、元気になったら、校長室に来るように仰せつかっているわ」

 ロザリアは震え上がった。

(わたし……とうとう退学になるんだ)

 あれだけのことをしてしまったのだ。
 でも、もとから退学になると思っていたのだ。
 これは当然の結末なのかもしれない。

(もしも退学になったら、アリスちゃんの働いているお店、紹介してもらおう。そこで働いて、自立すればいい)

 そうだった。
 ロザリアはもう知っているのだ。
 自分の中にある強さを。

 今はまだ、公爵から完全に逃げ切ることは無理なのかもしれない。
 けれど、できることならある。

「そういえば、みんなは……?」

 ロザリアが首をかしげると、女医は言った。

「怪我をした生徒はいなかったわ。さっきまで二年生の男の子が寝てたんだけど、元気になって出て行ったわよ」

(グレン殿下のことかな……?)

 ロザリアはごくりとつばを飲んだ。

(退学になるだけじゃなくて、罪に問われてしまったらどうしよう……)

 変な汗が頬を伝う。

(それに真白は……)

 ロザリアが守り通したあの狼のことを思い出した。

「せんせ……」

 ロザリアが声を上げようとしたとき。
 ベッドを取り囲むカーテンがシャアっと開いた。
 そこから顔をのぞかせたのは、アリスだった。

「あっ!」

 目があうと、アリスはロザリアのもとへかけよってきた。

「目が覚めたんだね、ロザリアちゃん!」

 ロザリアの手を握ると、アリスはへなへなと床へ腰を落とした。

「よかったぁ……」

「あらあら」

 女医は苦笑すると、あまり長話をしないように、と注意して二人の元から去って行った。

「アリスちゃん」

 ロザリアが床にへたり込んだアリスに声をかけると、アリスはびく、と肩を揺らした。

「あ……」

 気まずそうな顔で、アリスはロザリアを見上げる。
 ロザリアは、ごく自然に言った。

「アリスちゃんに怪我がなくてよかった」

「っ」

 アリスは顔をくしゃくしゃにした。
 ロザリアの手を強く握ったまま、涙を流す。

「ロザリアちゃんって……ほんと、優しすぎ……」

 二人は顔を見合わせて、微笑んだ。




 



しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

追放された悪役令嬢、辺境で植物魔法に目覚める。銀狼領主の溺愛と精霊の加護で幸せスローライフ!〜真の聖女は私でした〜

黒崎隼人
恋愛
「王国の害悪」として婚約破棄され、魔物が棲む最果ての地『魔狼の森』へ追放された悪役令嬢リリア。 しかし、彼女には前世の記憶と、ゲーム知識、そして植物を癒やし育てる不思議な力があった! 不毛の地をハーブ園に変え、精霊と友達になり、スローライフを満喫しようとするリリア。 そんな彼女を待っていたのは、冷徹と噂される銀狼の獣人領主・カイルとの出会いだった。 「お前は、俺の宝だ」 寡黙なカイルの不器用な優しさと、とろけるような溺愛に包まれて、リリアは本当の幸せを見つけていく。 一方、リリアを追放した王子と偽聖女には、破滅の足音が迫っていて……? 植物魔法で辺境を開拓し、獣人領主に愛される、大逆転ハッピーエンドストーリー!

【完結】ひとつだけ、ご褒美いただけますか?――没落令嬢、氷の王子にお願いしたら溺愛されました。

猫屋敷むぎ
恋愛
没落伯爵家の娘の私、ノエル・カスティーユにとっては少し眩しすぎる学院の舞踏会で―― 私の願いは一瞬にして踏みにじられました。 母が苦労して買ってくれた唯一の白いドレスは赤ワインに染められ、 婚約者ジルベールは私を見下ろしてこう言ったのです。 「君は、僕に恥をかかせたいのかい?」 まさか――あの優しい彼が? そんなはずはない。そう信じていた私に、現実は冷たく突きつけられました。 子爵令嬢カトリーヌの冷笑と取り巻きの嘲笑。 でも、私には、味方など誰もいませんでした。 ただ一人、“氷の王子”カスパル殿下だけが。 白いハンカチを差し出し――その瞬間、止まっていた時間が静かに動き出したのです。 「……ひとつだけ、ご褒美いただけますか?」 やがて、勇気を振り絞って願った、小さな言葉。 それは、水底に沈んでいた私の人生をすくい上げ、 冷たい王子の心をそっと溶かしていく――最初の奇跡でした。 没落令嬢ノエルと、孤独な氷の王子カスパル。 これは、そんなじれじれなふたりが“本当の幸せを掴むまで”のお話です。 ※全10話+番外編・約2.5万字の短編。一気読みもどうぞ ※わんこが繋ぐ恋物語です ※因果応報ざまぁ。最後は甘く、後味スッキリ

【完結】政略婚約された令嬢ですが、記録と魔法で頑張って、現世と違って人生好転させます

なみゆき
ファンタジー
典子、アラフィフ独身女性。 結婚も恋愛も経験せず、気づけば父の介護と職場の理不尽に追われる日々。 兄姉からは、都合よく扱われ、父からは暴言を浴びせられ、職場では責任を押しつけられる。 人生のほとんどを“搾取される側”として生きてきた。 過労で倒れた彼女が目を覚ますと、そこは異世界。 7歳の伯爵令嬢セレナとして転生していた。 前世の記憶を持つ彼女は、今度こそ“誰かの犠牲”ではなく、“誰かの支え”として生きることを決意する。 魔法と貴族社会が息づくこの世界で、セレナは前世の知識を活かし、友人達と交流を深める。 そこに割り込む怪しい聖女ー語彙力もなく、ワンパターンの行動なのに攻略対象ぽい人たちは次々と籠絡されていく。 これはシナリオなのかバグなのか? その原因を突き止めるため、全ての証拠を記録し始めた。 【☆応援やブクマありがとうございます☆大変励みになりますm(_ _)m】

悪役令嬢に仕立て上げたいなら、ご注意を。

潮海璃月
ファンタジー
幼くして辺境伯の地位を継いだレナータは、女性であるがゆえに舐められがちであった。そんな折、社交場で伯爵令嬢にいわれのない罪を着せられてしまう。そんな彼女に隣国皇子カールハインツが手を差し伸べた──かと思いきや、ほとんど初対面で婚姻を申し込み、暇さえあれば口説き、しかもやたらレナータのことを知っている。怪しいほど親切なカールハインツと共に、レナータは事態の収拾方法を模索し、やがて伯爵一家への復讐を決意する。

婚約破棄&追放コンボを決められた悪役令嬢ですが、前世の園芸知識と植物魔法で辺境を開拓したら、領地経営が楽しすぎる!

黒崎隼人
ファンタジー
王立学園の卒業パーティーで、王太子から婚約破棄と追放を告げられた公爵令嬢イザベラ。 身に覚えのない罪を着せられ、送られた先は「枯れ谷」と呼ばれる痩せ果てた辺境の地だった。 絶望の淵で彼女が思い出したのは、「園芸」を愛した前世の記憶。 その瞬間、あらゆる植物を意のままに操る【植物魔法】が覚醒する。 前世の知識と魔法の融合。 それは、不毛の大地を緑豊かな楽園へと変える奇跡の始まりだった。 堆肥作りから始まり、水脈を発見し、見たこともない作物を育てる。 彼女の起こす奇跡は、生きる希望を失っていた領民たちの心に光を灯し、やがて「枯れ谷の聖女」という噂が国中に広まっていく。 一方、イザベラを追放した王国は、天候不順、食糧難、そして謎の疫病に蝕まれ、崩壊の一途を辿っていた。 偽りの聖女は何の力も発揮せず、無能な王太子はただ狼狽えるばかり。 そんな彼らが最後に希望を託したのは、かつて自分たちが罪を着せて追放した、一人の「悪役令嬢」だった――。 これは、絶望から這い上がり、大切な場所と人々を見つけ、幸せを掴み取る少女の、痛快な逆転譚。

【完結】悪役令嬢ですが、元官僚スキルで断罪も陰謀も処理します。

かおり
ファンタジー
異世界で悪役令嬢に転生した元官僚。婚約破棄? 断罪? 全部ルールと書類で処理します。 謝罪してないのに謝ったことになる“限定謝罪”で、婚約者も貴族も黙らせる――バリキャリ令嬢の逆転劇! ※読んでいただき、ありがとうございます。ささやかな物語ですが、どこか少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

『処刑されるたびに12歳に戻る悪役令嬢、7回目の人生は「何もせず寝て過ごす」ことに決めたら、なぜか周囲が勝手に勘違いして聖女扱いされています

六角
恋愛
公爵令嬢リリアーナは、18歳の誕生日に必ず断罪・処刑されては12歳に戻るという地獄のループを6回も繰り返していた。 真面目に努力しても、剣を極めても、裏社会を支配しても、結局は殺される運命。 心折れた彼女は、7回目の人生でついに決意する。 「もう頑張らない。どうせ死ぬなら、今回はひたすら寝て過ごそう」と。 しかし、安眠を求めて「うるさい」と敵を黙らせれば『王者の覇気』と恐れられ、寝ぼけて放った魔法は『神の奇跡』と崇められ、枕への異常なこだわりは『深遠なる儀式』と誤解されてしまう。 気がつけば、ストーカー気味のヤンデレ王子、パン屋の元ヒロイン、狂犬の如きライバル令嬢、元部下の暗殺者、そして不眠症の魔王までもが彼女の信者となり、リリアーナは意図せずして国を、そして世界を救う「最強の聖女」へと祭り上げられていく。 「お願いだから、私を寝かせて!」 睡眠欲だけで運命(システム)さえもねじ伏せる、無気力悪役令嬢の痛快勘違いサクセス(?)ストーリー!

「君は悪役令嬢だ」と離婚されたけど、追放先で伝説の力をゲット!最強の女王になって国を建てたら、後悔した元夫が求婚してきました

黒崎隼人
ファンタジー
「君は悪役令嬢だ」――冷酷な皇太子だった夫から一方的に離婚を告げられ、すべての地位と財産を奪われたアリシア。悪役の汚名を着せられ、魔物がはびこる辺境の地へ追放された彼女が見つけたのは、古代文明の遺跡と自らが「失われた王家の末裔」であるという衝撃の真実だった。 古代魔法の力に覚醒し、心優しき領民たちと共に荒れ地を切り拓くアリシア。 一方、彼女を陥れた偽りの聖女の陰謀に気づき始めた元夫は、後悔と焦燥に駆られていく。 追放された令嬢が運命に抗い、最強の女王へと成り上がる。 愛と裏切り、そして再生の痛快逆転ファンタジー、ここに開幕!

処理中です...