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遊園地の思念
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ある日の午後、優のスマートフォンが軽快な音を鳴らした。画面には「小迎彼方」という名が表示されていた。
「もしもし……」
出ると、軽快な声が響いた。
「やあ、優君。暇してない?もしよかったら、今度一緒に遊園地でも行かないかい?」
「……遊園地?」
優は眉をひそめた。
『やめとけ、どうせろくなことにならねぇ』
玲王が横で苛立たしげに呟く。だが、優の胸には小迎彼方という人物へのわずかな興味と疑念が芽生えていて、それを確かめたい気持ちがあった。
「……まあ、少しだけなら」
「じゃあ今度の日曜、いいかな?」
「分かった。開けとく」
玲王の制止を振り切る形で、優はその誘いを受けることにした。
待ち合わせ場所で待っていた彼方は、優を見るなり嬉しそうに手を振った。
「うわぁ、遊園地に白スーツ……」
「これは僕のトレードマークだからね。優君は何を着ても綺麗だね」
「へいへい」
優が呆れたように肩を竦めるが、彼方は気にする気配はない。
「今日は僕がエスコートするからね」
「エスコートって……俺、別に楽しみたいわけじゃないんだけど」
場違いな雰囲気に優がため息をつくと、彼方は肩をすくめた。
二人が園内を歩いていると、ふと一際大きな建物が目に入った。それは不気味な外観の「マジックハウス」というアトラクションだった。
優が建物に目を向けると、嫌な気配が漂ってくる。
「やはり優君も気付きましたか?あそこ、入ると出てこない人がいるって噂ですよ。君のように綺麗な人は特に狙われるかもしれない」
彼方は優をちらりと見て意味深に微笑むと、「僕がついているから安心して」と優をエスコートする形でマジックハウスの中へ足を踏み入れた。
暗闇と奇妙な鏡で構成されたマジックハウスの中、優は霊的な気配を探りながら進む。
「何かいるようで、いない……これは?」
優が感じたのは、漂う思念だった。それは霊のように実体を持たないが、強い感情が空間に染みついているかのようだった。
『出て行け……危ない……』
どこかから訴えかけるような声が、優の耳に響く。それは助けを求めるというよりも、忠告のようだった。
「ここは思った以上に厄介だね」
彼方がそう言い終えると、突然建物の仕掛けが動き始めた。
「優君!」
彼方が優を抱きしめるが、優の周囲の鏡は分厚い木の板に変わっていく。
からくりがカチリと音を立て、二人は狭い空間に閉じ込められてしまった。
「くそっ……本当にただのアトラクションじゃなかったのか!」
優が壁を叩きながら苛立ちを露わにすると、彼方は冷静に周囲を見回していた。
「これは……人為的なものだね。優君、こっちにおいで」
彼方の冷静な様子に苛立つ自分が恥ずかしく優がため息をつく。
「アンタ、知ってたんじゃないのか?」
「何が?」
彼方が首を傾ける。暗闇の中でもほほ笑んでいるような彼方に優はもう一度ため息をついた。
どれくらい時間が経っただろう。突然ガタンと箱ごと運ばれるような揺れが始まる。
車に乗せられたようで走り出す様子に優の背中に嫌な予感が走る。
そしてしばらくすると、箱が地面に降ろされる感覚があった。
箱が開かれると、そこは薄暗い倉庫のような場所だった。スーツ姿の男たちが数人立っており、その視線が一斉に優へ向けられた。
「この子か……愛玩具として高値で売れそうじゃないか」
男たちの言葉に、優は背筋が凍る。だが、すぐに彼方が前に立ちはだかった。
「この子には指一本触れさせないよ」
優を連れて行こうと飛びかかった男たちを彼方が足が振り上げられ顎を蹴り、突進して来た相手を投げ飛ばす。
彼方の動きに、周囲の男たちは怯んだように後ずさる。
「何をやっている!あんな上玉逃すな!」
喧騒の中、優はスマートフォンを取り出しGPS信号を頼りに警察へ連絡を取った。
「知らない奴らに拐われた!早く来てくれ……場所は……」
優が状況を伝える間、彼方は男たちを相手に軽やかに動き、次々と制圧していった。
警察が駆けつけ、組織の一部の男たちが捕らえられ、警察に事情を話した後で解放された優は彼方に深々と礼を言った。
「助かった。ありがとう」
彼方はいつもの余裕の笑みを浮かべながら優の手を取る。
「礼なんていらないよ。あのマジックハウスには、拐われた人たちの悲しみが染み付いていたんだね。彼らの無念が君を助けてくれたのかもしれないよ」
その言葉に、優は眉をひそめ問い詰めた。
「アンタ、一体何者だ?」
彼方は少しだけ目を細めて優を見つめた。
「僕は優君のファン。ただそれだけだよ」
そう言うと、彼方は背を向けて歩き出した。しかし、立ち去る直前に振り返った。
「僕に似た人には気を付けてね。君を狙う人は……僕だけじゃない」
その言葉を残し、彼方は去っていった。優の胸には再び、彼方という謎の存在への疑念と不安が深く刻まれた。
「もしもし……」
出ると、軽快な声が響いた。
「やあ、優君。暇してない?もしよかったら、今度一緒に遊園地でも行かないかい?」
「……遊園地?」
優は眉をひそめた。
『やめとけ、どうせろくなことにならねぇ』
玲王が横で苛立たしげに呟く。だが、優の胸には小迎彼方という人物へのわずかな興味と疑念が芽生えていて、それを確かめたい気持ちがあった。
「……まあ、少しだけなら」
「じゃあ今度の日曜、いいかな?」
「分かった。開けとく」
玲王の制止を振り切る形で、優はその誘いを受けることにした。
待ち合わせ場所で待っていた彼方は、優を見るなり嬉しそうに手を振った。
「うわぁ、遊園地に白スーツ……」
「これは僕のトレードマークだからね。優君は何を着ても綺麗だね」
「へいへい」
優が呆れたように肩を竦めるが、彼方は気にする気配はない。
「今日は僕がエスコートするからね」
「エスコートって……俺、別に楽しみたいわけじゃないんだけど」
場違いな雰囲気に優がため息をつくと、彼方は肩をすくめた。
二人が園内を歩いていると、ふと一際大きな建物が目に入った。それは不気味な外観の「マジックハウス」というアトラクションだった。
優が建物に目を向けると、嫌な気配が漂ってくる。
「やはり優君も気付きましたか?あそこ、入ると出てこない人がいるって噂ですよ。君のように綺麗な人は特に狙われるかもしれない」
彼方は優をちらりと見て意味深に微笑むと、「僕がついているから安心して」と優をエスコートする形でマジックハウスの中へ足を踏み入れた。
暗闇と奇妙な鏡で構成されたマジックハウスの中、優は霊的な気配を探りながら進む。
「何かいるようで、いない……これは?」
優が感じたのは、漂う思念だった。それは霊のように実体を持たないが、強い感情が空間に染みついているかのようだった。
『出て行け……危ない……』
どこかから訴えかけるような声が、優の耳に響く。それは助けを求めるというよりも、忠告のようだった。
「ここは思った以上に厄介だね」
彼方がそう言い終えると、突然建物の仕掛けが動き始めた。
「優君!」
彼方が優を抱きしめるが、優の周囲の鏡は分厚い木の板に変わっていく。
からくりがカチリと音を立て、二人は狭い空間に閉じ込められてしまった。
「くそっ……本当にただのアトラクションじゃなかったのか!」
優が壁を叩きながら苛立ちを露わにすると、彼方は冷静に周囲を見回していた。
「これは……人為的なものだね。優君、こっちにおいで」
彼方の冷静な様子に苛立つ自分が恥ずかしく優がため息をつく。
「アンタ、知ってたんじゃないのか?」
「何が?」
彼方が首を傾ける。暗闇の中でもほほ笑んでいるような彼方に優はもう一度ため息をついた。
どれくらい時間が経っただろう。突然ガタンと箱ごと運ばれるような揺れが始まる。
車に乗せられたようで走り出す様子に優の背中に嫌な予感が走る。
そしてしばらくすると、箱が地面に降ろされる感覚があった。
箱が開かれると、そこは薄暗い倉庫のような場所だった。スーツ姿の男たちが数人立っており、その視線が一斉に優へ向けられた。
「この子か……愛玩具として高値で売れそうじゃないか」
男たちの言葉に、優は背筋が凍る。だが、すぐに彼方が前に立ちはだかった。
「この子には指一本触れさせないよ」
優を連れて行こうと飛びかかった男たちを彼方が足が振り上げられ顎を蹴り、突進して来た相手を投げ飛ばす。
彼方の動きに、周囲の男たちは怯んだように後ずさる。
「何をやっている!あんな上玉逃すな!」
喧騒の中、優はスマートフォンを取り出しGPS信号を頼りに警察へ連絡を取った。
「知らない奴らに拐われた!早く来てくれ……場所は……」
優が状況を伝える間、彼方は男たちを相手に軽やかに動き、次々と制圧していった。
警察が駆けつけ、組織の一部の男たちが捕らえられ、警察に事情を話した後で解放された優は彼方に深々と礼を言った。
「助かった。ありがとう」
彼方はいつもの余裕の笑みを浮かべながら優の手を取る。
「礼なんていらないよ。あのマジックハウスには、拐われた人たちの悲しみが染み付いていたんだね。彼らの無念が君を助けてくれたのかもしれないよ」
その言葉に、優は眉をひそめ問い詰めた。
「アンタ、一体何者だ?」
彼方は少しだけ目を細めて優を見つめた。
「僕は優君のファン。ただそれだけだよ」
そう言うと、彼方は背を向けて歩き出した。しかし、立ち去る直前に振り返った。
「僕に似た人には気を付けてね。君を狙う人は……僕だけじゃない」
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