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体育祭と優の災難
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校庭では青空の下、体育祭が行われ、学生たちの笑い声と歓声が響いていた。
「……平和だな」
優はグラウンドを眺めながら、小さく息を吐いた。こんな日常が続けばいいと思いつつも、心のどこかで、何かが胸のざわめきを感じる。
観客席を何気なく見渡していた優は、見慣れた白いスーツを纏う人物に気づいて眉をひそめた。
「……なんで、あいつがいるんだよ」
観客席には、小迎彼方が悠然と腰を下ろし、オペラグラス片手にこちらを眺めていた。優はそっと観客席に向かい、彼方に詰め寄った。
「何しに来たんだよ!」
彼方はニヤリと笑い、軽い調子で応える。
「優君の体操服姿を見るなんて貴重な機会、この僕が逃すわけないだろ?」
「は?」
「本当は僕だけのものにしたいんだけど、仕方ないよね。君の美しい脚、走る汗、まさに生唾ものだよ」
「そう言うオヤジ臭い発言、普通にドン引くから……」
優は眉をひそめながらも、どこか心の奥では、寺の仕事で親が来られない自分を気にかけてくれる彼方の存在が少しだけ嬉しいと感じていた。
午後の種目で、優が出場する借り物競争の時間がやってきた。グラウンド中央まで走りクジを引くと、そこには「イケメン」と書かれている。
「……ふざけてるのかよ、これ」
ため息をつきながらも、優は仕方なく観客席に目を向け、目に入った彼方の元へ走った。
「なんでもいいから来い!」
そう言いながら彼方の手を引いた瞬間、もう一方の手を誰かに掴まれた。
振り返ると、そこには影斗が立っていた。
「優、彼方ではなく俺様を選べ」
「残念だけど、優君は僕を選んだんだよ」
彼方が軽い調子で返すと、影斗は不敵な笑みを浮かべた。
「お前はたまたま声をかけられただけだ。優は俺のものだからな」
「影斗なんて最初から眼中にないんだよ、ね?優君」
彼方が優に微笑みかける。
「ああ、もう!なんでもいいから早くっ!」
いたたまれなくなった優は、両手に二人の男を引き連れて走り出した。
両手に彼方と影斗を引きながらゴールを目指す優の姿にグラウンドでその光景を目にした男子学生たちは、唖然とした、そして絶望した表情で見守っていた。
「おい……浅葱、両手に男を連れて走ってるぞ……」
「どんだけモテるんだよ……」
「マジか……あんな奴らに勝てねぇ……」
ざわめきが起こる中、優は二人を引きずるようにして何とかゴールにたどり着いた。
ゴールに着いた瞬間、影斗が優を抱き上げ、勝ち誇ったように笑う。
「さあ、もういいだろう?こんなくだらない場所、俺が連れ去ってやる。お前を俺との肉欲に溺れさせてやるよ」
「汚らわしいな。優君、今から高級ホテルのスイートルームを押さえよう。そこで僕と過ごそうね」
彼方が影斗から優を奪い返し、二人は再び睨み合う。
「浅葱……お姫様抱っこされてる……」
「付き合ってるヤツいるのか、浅葱……」
絶望の声が生徒席や教職員から漏れ、一気に体育祭独特のお祭りムードは消えていった。
『お前、男運ないだろ』
玲王が呆れたように呟く。
優は恥ずかしさと怒りが限界に達し、声を張り上げた。
「いい加減にしろーーー!」
その叫び声は、グラウンド中に響き渡った。
男子学生たちは静まり返り、教師たちも気まずそうに視線を逸らす。
優は取り合うふたりを突き放すと観客席に戻ることも恥ずかしく救護室になっている保健室に閉じこもった。
「もう、恥ずかしすぎて二度と学校行けない……」
『まあ、男運のなさは守護霊の俺でもどうすることも出来ないからな……』
玲王が苦笑しながら言うと、優は頭を抱えた。
影斗と彼方の二人は、優がいなくなると同時に興味を失ったその場を後にした。
優の穏やかな日常は、遠のく一方だった。
「……平和だな」
優はグラウンドを眺めながら、小さく息を吐いた。こんな日常が続けばいいと思いつつも、心のどこかで、何かが胸のざわめきを感じる。
観客席を何気なく見渡していた優は、見慣れた白いスーツを纏う人物に気づいて眉をひそめた。
「……なんで、あいつがいるんだよ」
観客席には、小迎彼方が悠然と腰を下ろし、オペラグラス片手にこちらを眺めていた。優はそっと観客席に向かい、彼方に詰め寄った。
「何しに来たんだよ!」
彼方はニヤリと笑い、軽い調子で応える。
「優君の体操服姿を見るなんて貴重な機会、この僕が逃すわけないだろ?」
「は?」
「本当は僕だけのものにしたいんだけど、仕方ないよね。君の美しい脚、走る汗、まさに生唾ものだよ」
「そう言うオヤジ臭い発言、普通にドン引くから……」
優は眉をひそめながらも、どこか心の奥では、寺の仕事で親が来られない自分を気にかけてくれる彼方の存在が少しだけ嬉しいと感じていた。
午後の種目で、優が出場する借り物競争の時間がやってきた。グラウンド中央まで走りクジを引くと、そこには「イケメン」と書かれている。
「……ふざけてるのかよ、これ」
ため息をつきながらも、優は仕方なく観客席に目を向け、目に入った彼方の元へ走った。
「なんでもいいから来い!」
そう言いながら彼方の手を引いた瞬間、もう一方の手を誰かに掴まれた。
振り返ると、そこには影斗が立っていた。
「優、彼方ではなく俺様を選べ」
「残念だけど、優君は僕を選んだんだよ」
彼方が軽い調子で返すと、影斗は不敵な笑みを浮かべた。
「お前はたまたま声をかけられただけだ。優は俺のものだからな」
「影斗なんて最初から眼中にないんだよ、ね?優君」
彼方が優に微笑みかける。
「ああ、もう!なんでもいいから早くっ!」
いたたまれなくなった優は、両手に二人の男を引き連れて走り出した。
両手に彼方と影斗を引きながらゴールを目指す優の姿にグラウンドでその光景を目にした男子学生たちは、唖然とした、そして絶望した表情で見守っていた。
「おい……浅葱、両手に男を連れて走ってるぞ……」
「どんだけモテるんだよ……」
「マジか……あんな奴らに勝てねぇ……」
ざわめきが起こる中、優は二人を引きずるようにして何とかゴールにたどり着いた。
ゴールに着いた瞬間、影斗が優を抱き上げ、勝ち誇ったように笑う。
「さあ、もういいだろう?こんなくだらない場所、俺が連れ去ってやる。お前を俺との肉欲に溺れさせてやるよ」
「汚らわしいな。優君、今から高級ホテルのスイートルームを押さえよう。そこで僕と過ごそうね」
彼方が影斗から優を奪い返し、二人は再び睨み合う。
「浅葱……お姫様抱っこされてる……」
「付き合ってるヤツいるのか、浅葱……」
絶望の声が生徒席や教職員から漏れ、一気に体育祭独特のお祭りムードは消えていった。
『お前、男運ないだろ』
玲王が呆れたように呟く。
優は恥ずかしさと怒りが限界に達し、声を張り上げた。
「いい加減にしろーーー!」
その叫び声は、グラウンド中に響き渡った。
男子学生たちは静まり返り、教師たちも気まずそうに視線を逸らす。
優は取り合うふたりを突き放すと観客席に戻ることも恥ずかしく救護室になっている保健室に閉じこもった。
「もう、恥ずかしすぎて二度と学校行けない……」
『まあ、男運のなさは守護霊の俺でもどうすることも出来ないからな……』
玲王が苦笑しながら言うと、優は頭を抱えた。
影斗と彼方の二人は、優がいなくなると同時に興味を失ったその場を後にした。
優の穏やかな日常は、遠のく一方だった。
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