優しい鎮魂

天汐香弓

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トラブル

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寝袋での睡眠は慣れると意外に快適で、目覚めるとペットボトル水で湯を沸かしてお茶を飲み、秋月さんが作ってくれるホットサンドを食べてから車を発進させた。
「なあ、よくトイレの花子さんとかそういう怪異ってあるじゃん?」
秋月さんがそう言いながらハンドルを握る。
「一番奥のトイレに花子さんがいてとか言うやつですよね。小学校の時クラスで話題になりました」
「ああいうのってあるのかな?」
「あるから、多分受け継がれるんだと思いますよ。こっくりさんも女子が好きでしたよね」
小学生の頃の放課後女の子たちが数人固まってこっくりさんをしているのを見て、何を知りたいんだろうと考えていたことを思い出す。
と、信号停車していると目の前の高校から生徒が次々に飛び出してきて秋月さんと顔を見合わせると車を端に停め降りると駆け寄った。
「どうしたの?」
「さ、三年の女子が突然暴れて……」
尻もちをついている生徒を助け起こし救助していると警察の車と救急車が到着した。
「どけ!」
女子生徒の手当をしていると警察に突き飛ばされた。
「手荒だなぁ。ごめんね、はいこれで大丈夫」
汚れた膝を水で流し絆創膏を貼ってあげると女子高生がホッとした顔になった。
「ありがとうございます……」
女子高生に礼を言われてちょっと嬉しい気持ちになっていると救急車から降りてきた救急隊員が眉を潜めて校舎を見上げていた。
「またこの学校か?」
「あれだろ?こっくりさんで発狂してだろ……」
「拘束また引き千切るんだろうな」
うんざりという顔の救急隊員の会話を聞いて急いで秋月さんのところに行った。
「巻き込まれる前にここから離れよう」
「どうした」
「救急の人がさ、こっくりさんで騒動になってるって話しをしてて……あれ悪霊の類だから関わると一郎さんとの約束が……」
「分かった」
男子生徒の怪我に絆創膏を貼ったのを待って車に戻ろうとしていると、奇声をあげもがく女子高生を抱えて警察が戻ってきた。
「あー憑かれてる」
女子高生の周りに見える黒い靄のようなものに、嘆息していると、突然警察を投げ飛ばした女子高生が、ケガをして蹲る学生たちのいる方向へ走りだした。
「まずい!」
慌ててそちらに向かって走りウエストポーチから護符を取り出すと女子生徒の額に押し当てた。
「鎮まりたまえ!」
そう叫んで片手で一郎さんに習った印を組んで呪文を唱える。
「オン・アボギャ・ベイロシャノウ・マカボダラ・マニ・ハンドマ・ジンバラ・ハラバリタヤ・ウン!」
印を切ると女子高生がガクンと崩れ落ち、黒い靄だと思っていたものは悪霊の姿になって空に消えた。
「すみません、この人、多分悪霊に操られて力を使いきっているので、手当してもらってもいいですか?」
側にいた救急隊員にそう声をかけると、「は、はい」と言って女子高生を救急車に運んでいった。
「おい!お前!」
立ち去ろうとすると不意に肩を捕まれた。
「今のはなんだ!」
女子高生に投げとばされていた警察の人だと気づいて面倒なことになったなと思っていると、秋月さんが間に入った。
「弁護士の秋月です。こちらはN県にある嘆受神社の跡取りで除霊師の不破君です」
名刺を差し出した秋月に警察が口を噤んだ。
「ジョレイって……」
「文字通り、今、悪霊を祓ったんですが何か?」
秋月さんがそう言うと、周りの生徒たちが声をあげはじめた。
「この人たち、私たちが逃げてケガしているのを見て助けてくれたのよ」
「そうよ、何捕まえようとしてんのよ」
わーわーと大きくなる声に「ああ、もう!」と叫ぶと警察の人が頭を搔いた。
「分かった、用がないならもう行け」
「失礼します」
そう言って秋月さんが俺の肩を抱くと、車へと向かった。
車が走り出し、思いっきりため息をつくとシートに背中を預けた。
「結局手出ししたな」
「さすがに危ないなと思って。茜さんからお札もらってきてて良かった……」
「それにしてもなんでこっくりさんなんかするんだか」
「クラスの女子がしてるの見たことあるけど、悪霊が降りて来るもんな。それ以来見るのやめたけど……」
「俺たちの頃は、誰が誰を好きかとか、そう言うのやってて、バカだなと思ってみてたな」
「秋月さんモテそう……」
「まあな」
クスクスと秋月さんが笑い山道へ入っていく。
車は人気の少ない細い道に入り目の前にトンネルが見えてくる。トンネルに入るとゾクッと背筋が震えたから大きく息を吐いた。
「出そうだな」
「いるよ、すごい怖い顔の女の人が出口にひとり」
髪が長く、こけた頬と鋭い目つきでこちらを睨む女性の姿にため息をついた。
「見えなくて良かった」
秋月さんがそう言いながらアクセルを踏むと一気にトンネルを抜けた。
「ついて来てる!」
サイドミラーに見える女性の姿に慌てて振り返る。
「なんで?!」
速度を落とさず後ろを走ってついてくる幽霊が速度を増し左のドアの横を並走し始めた。
「横につけられた!」
「どうにかしろ!」
怒られたら仕方ない。手を合わせると祈る。
ゆっくり離れていった幽霊が立ち止まったのを見てホッと息を吐いた。
「とりあえず大丈夫」
そう言うと秋月さんが大きなため息をついた。
「今日は厄日だな」
「あはは……」
その後も短いトンネルはあったが特に何もなく、山道を下り始めた。
「ん?どうやらスーパー銭湯があるみたいだぞ。寄るか」
ナビに表示されたものを見た秋月さんがアクセルを踏む。
そして山を下ったところにあるスーパー銭湯に車を停めた。
「2名で」
秋月さんに受付をしてもらい温泉に向かうと貸し切り状態だったのでゆっくり浸かることにした。
「初めて来たけど、なんかお風呂っていいね」
足を伸ばして腕を引き上げると隣でくつろいでいた秋月さんが「はぁ」と声をあげた。
「風呂は命の洗濯って言うけどほんとだな」
「確かに洗われるー」
くすっと笑い風呂を上がると休息室に足を伸ばした。
「なんか食うか」
「秋月さんと同じで」
休息室も貸切状態で親子丼を食べるとリクライニングチェアと秋月さんが呼んだものに腰をおろした。
「朝までここでゆっくりするぞ」
「はい」
頷いて目を閉じる。
以外に旅は疲れるのか直ぐに眠りについた。
なにかに意識が引っ張られるようにふっと目が覚めて見回すと隣では秋月さんが寝てて、部屋にも明かりがついていた。
安心できる環境のはずなのに何故だろう胸騒ぎがしていた。
起き上がろうとするのに体が動かなくて、嫌な汗が滲んだ時だった。
『見つけた』
俺を覗き込んだのはここに来る直前に見かけたトンネルの女の幽霊だった。
女の手が胸に触れ、乗り移ろうとしていることに気がつく。
秋月さんに取り憑かなくて良かったと思いながら、頭の中で詠唱をすると女の動きが止まった。
『うぉおおおお!』
「ダメだ!」
体が自由になり手を伸ばすと逃げようとする幽霊をつかむことが出来た。
「もう人を襲っちゃダメだ!」
『ぐぉおおおお!』
つかんだとこから黒い靄が噴き出していて幽霊の形が崩れていく。
やがて黒い靄が消え普通の女の人の姿になった幽霊がゆっくりと姿を消した。
「はぁ……」
思うより体力を使うみたいで椅子に背中を預けるとさっきのことが蘇った。
あそこで掴めなかったら秋月さんに被害が及んだかもしれない。悪霊に立ち向かってはいけないと言われたが、やはり秋月さんを危険には晒したくなかった。
翌朝、目が覚めた秋月さんが大きく伸びをして椅子から立ち上がった。
「なんだ?疲れてるのか?」
「実は夜中、トンネルの幽霊が追いかけてここまで来たんですよ」
そう言うと秋月さんが目を丸くした。
「大丈夫だったのか?」
「どうにか。でも体力は消耗しました」
「じゃあ定食食うか?」
「いや、ご飯と味噌汁でいいです」
「持ってくるから待ってろ」
頭をくしゃりと撫でて秋月さんがカウンターに向かう。
そして休息室のテレビでは昨日の高校のニュースがやっていて集団ヒステリーだと報道されていたことに、なんとなくモヤモヤするものが残っていた。


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