優しい鎮魂

天汐香弓

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会わせてあげたい

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道の駅に車を停めてシャワーを浴びると食材を買うために秋月さんと中を見て回る。
「兄ちゃんたち旅行かい?」
「ええまあ……」
秋月さんが相槌を打ち野菜と肉を買うと車を走らせ、古いキャンプ場に到着すると食事をとり、車に戻った。
寝る前にトイレに行くかということになりトイレを済まして外に出ると、小さな子どもが俺の方を見ていることに気づいた。
「どうしたの?」
声をかけるとヨチヨチとした足取りで歩き出す。
「また出たのか」
秋月さんの声にアハハと乾いた笑いで誤魔化していると、その男の子はトイレの裏に来るとすっと地面に吸い込まれていった。
「消えた……」
「どんなやつだ?」
秋月さんの問いに男の子のことを思い出す。
「2歳?もっと小さいかな?子どもで、紺色のズボン履いて、白いシャツ着て、裸足だった」
「2歳か……」
スマートフォンを取り出し調べ始めた秋月さんが1枚の画像を俺に見せた。
「あっ!この子!」
「コイツは資産家家族三人が殺害されてそれぞれ別のとこに埋められたんだ。で、子どもの死体を遺棄したやつが取り調べ中に自殺して、未だ子どもだけ見つかってないんだ。ただ犯人はこの県に遺棄したことだけは言われていたんだ」
「じゃあここにその子がいるんだ……」
幽霊が教えてくれたとはこの間もなかなか信じてもらえなかったことを思って考え込んだが、俺はこういう人たちを救いたくて来たのだと思い出した。
「秋月さん、幽霊が教えてくれたと言って警察に電話をしましょう。見過ごすことは出来ません」
「よし、分かった」
そう言うと秋月さんは特に反対もせず電話をしてくれた。
「もしもお疑いでしたらY県のキャンプ場で母親に殺害された子どもの件も俺たちが発見したことを問い合わせしてくださればいいかと思います」
そう言って電話を切った。
「さて、どうかな……」
秋月さんが頬を掻く。
土の下に消えたはずの子どもが土から顔を半分出すとジッとこちらを見ていた。だからしゃがんで手を広げた。
「おいで、お兄ちゃんが抱っこしてあげる」
すると子どもが姿を現しこちらにヨチヨチと歩いてきた。
「いい子だね」
触れることができて抱き上げると秋月さんがパクパクと口をしている。
「うっすらだけど見える……」
「そうなんだ。ほら、お兄ちゃんが見えるって」
「ちょっと一郎さんに報告だな」
そう言って秋月さんが電話をかけだしたから子どもに話しかけた。
「ひとりで寂しかったね。もうすぐ警察の人が来てくれるからね」
子どもが「あー」と声をあげ俺の頬を叩く。
「もう少しだからな、待ってろよ」
「新、一郎さんと話したけど、多分お前の霊力が上がってるからだろうって。ただ幽霊に霊力を注がないようにって」
「分かった」
パチパチと頬を楽しそうに叩く小さなこの子をこんなところにひとりにするのはあまりに酷い仕打ちだと思う。
パトカーの音が聞こえ、秋月さんが駐車場に迎えに行くと言って俺は子どもの幽霊と取り残された。
「早くお父さんとお母さんのところに行けたらいいな」
そう話していると秋月さんが警察を連れてきた。
「あ、ほら警察が来てくれたよ」
「な!」
俺たちを見た警察が驚いたように声を上げると年配の警察官が俺の前に走ってきた。
「生きていたのか!」
「いいえ、死んでますよ。良かったら抱っこしてみてください」
そう言って警察官に子どもを渡す。
「き、消えた」
「ちゃんと抱かないと落ちちゃいますよ」
そう言って手を添えてやると困惑したように目を白黒させている。
「それでさっきの子どもが土の中に消えたのがこのトイレの裏です」
秋月さんが説明する声が聞こえてきて警察官が土を掘り始めた。
直ぐに骨が出たらしくビニールシートがかけられた。
「良かったね、やっと見つけてもらえたよ」
年配の警察官に抱かれている子どもにそう声をかけるとこちらに手を伸ばしてきた。
「俺に抱っこして欲しいそうです。かわります」
子どもを抱き上げてひたすら捜査の行方を見守る。
「きっと捜査が終わったらお父さんとお母さんと同じお墓に入れてもらえるからね」
そうあやすことしか出来なくて、他にかける言葉を見つけられない。
数時間後、捜索が終了して俺たちはまた車で警察署に移動して直ぐに取り調べが始まった。
「じゃあその子が君たちを遺棄現場に連れて行ったんだな」
「はい」
警察官が子どもに触ると通り抜けてしまったから、俺の抱いている子が幽霊だと言うことは分かってもらえた。
そうして取り調べを終えて部屋を出ると秋月さんが待っていた。
「この子の親の墓、近いらしい。教えてもらった」
紙切れを見せた秋月さんが先に歩き出す。
「お墓で待っててくれたらいいな」
「せっかく届けるんだ。いてもらわないと」
車に乗り地図の通りに進むと墓地が現れた。
「行くぞ」
車を降りるとさらに歩く。
「あ、いた……」
墓の前に立つ夫婦が見えて駆け出すと夫婦も気づいたようで両手を広げた。
「ほら、お父さんとお母さんだ」
笑顔で抱かれる子どもの姿に安堵する。と同時に、もっと生きていられたらいいのに、とそう思った。
「会えたみたいだな」
秋月さんに声をかけられ、頷くとこの親子を天国に送らなきゃという気持ちが強くなった。
「うん」
カバンから麻を出し親子の前で振って詠唱する。
「天国でゆっくりしてください」
そう言うと夫婦が頭を下げ三人の姿はゆっくり消えていった。
「終わったよ」
「お疲れ」
「あー、お腹空いたし眠くなってきた」
「仕方ない、どっかショッピングモール行って飯食って駐車場で寝るか」
ポンと肩を叩かれて、なんだか気分が良くなりながら駐車場へ向かった。


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