【完結】年収三百万円台のアラサー社畜と総資産三億円以上の仮想通貨「億り人」JKが湾岸タワーマンションで同棲したら

瀬々良木 清

文字の大きさ
12 / 129
第一章 社畜と女子高生と湾岸タワマンルームシェア

12.女子高生と家族について

しおりを挟む

「……どうかしたの?」


 やや嫌がっている三郎太をがっしりと掴み、もふもふしている理瀬。


「宮本さん、エレンと仲良くなるの早いですね。最初はあんなに嫌われてたのに」

「あの子は誰とでも仲良くなれる子だと思うぞ」

「どうせ私は誰とも仲良くなれない子ですよ」

「そんなことは言ってないが……」


 俺とエレンが仲良くなったことに、理瀬が嫉妬している?


「何が気に入らないのか知らないけど、三郎太は離してやれ。嫌われるぞ」


 俺が言うと、理瀬はもふる手を緩めた。三郎太はするりと理瀬の腕の中から抜け、「なんだこいつ」という目で理瀬を見つめたあと、どこかへ消えた。


「俺、なんかまずいこと言った?」

「宮本さんのアドバイス、すごく具体的でしたよね。彼女いるんですか?」

「今はいないけど……」


 ふと篠田の顔が頭をよぎるが、まだ付き合ってないしセーフだ。


「まあ、一度くらいは彼女がいたこともあるさ。俺もいい大人だしな」

「……宮本さんは一人が似合ってるから、彼女なんて必要ないと思ってました」


 私と同じで。

 と、理瀬は続けて言いたかったのだと、俺は思えた。

 スペックは大差あれど、俺と理瀬はどこか似ている。

 なんとなく感じているこの気持ちは、理瀬も同じだったのかもしれない。

 だが、大人と女子高生という差は絶対的だ。

 能力で理瀬に抜かれているところはあっても、経験で負けているところはない。


「今は一人の方が楽だと思ってるけど、そりゃ彼女ほしいって思うこともあるさ。常磐さんはどうなの?」

「……全く興味がないとは言いません。ただ誰かと付き合うイメージができないんです。理想の男の人が身近にいないんですよね」

「まあ、高校生の男は女の子よりずっとガキだからな」


 大人になっても男なんてガキのままだけどな。俺もそうだ。見た目はアラサー社畜おじさんでも、勤務中は不審者が突然乱入してきてそれを取り押さえる妄想ばかりしている。


「私、最近、婚活のことネットでいろいろ調べてるんです」

「婚活?高校生なのに?」

「宮本さんは、そろそろ結婚とか考えないんですか?」

「考えることはあるよ。周りはみんな結婚していってるし。考えるだけだがな」

「今の二十代の女性は、一昔前より結婚に積極的なんだそうです。ちょうど私の親世代が、女性が初めて社会進出した層なんですけど、その頃仕事ばかりやっていた女性たちが結局結婚できなかった現実を知って、自分はそうなりたくないと思うらしくて」

「常磐さんもそうなるんじゃないか、と思ってるの?」

「それとはちょっと違うんですけど……私、親が離婚してるのを見てきたので、結婚するとしたら失敗したくないっていう気持ちがあるんですよ」


 親の離婚。

 夫婦円満……とまではいかなくとも、離婚とは縁遠い家庭に生まれた俺には、なかなか想像できないところだ。


「私のお父さんは財務官僚で、金融系の仕事友達のつてで出会ったそうです。お互い仕事ができて、理想のカップルだと思って結婚して、最初はそれなりにいい結婚生活を送ってました。でも私が三歳のときに離婚が決まりました。どうしてだと思いますか?」

「……仕事と育児を両立できなかったから?」

「そのとおりです。二人とも仕事が忙しくて、年収は同じくらいだったのですけど、当時はまだ家事は女の仕事だという認識が強くて、お父さんは私の世話をほとんどしなかったそうです。そのうちに仕事だけできるお父さんと、仕事と育児を両立しなければならないお母さんの仲が悪くなって、その時にお母さんは思ったんだそうです。お父さんが育児を全くしないなら、お父さんと一緒に生活するメリットは何もないって」


 論理的すぎる理瀬の母親の判断は、どこか理瀬と似ているような気がした。


「私は自分を育ててくれたお母さんが今でも大好きですし、お母さんの判断を恨むつもりはないですけど、それでもシングルマザーという環境が親にとって相当辛いことだというのはよくわかっているつもりです。だから、もし結婚するとしたら、一生続けられるパートナーがいいんですよ」


 女子高生だというのに、理瀬は将来のことを俺なんかよりずっと深く、重く考えている。

 それは理瀬が生まれ持った、天性の才能なのかと思っていたが。

 理瀬の育ってきた環境も、大きく影響しているのかもしれない。


「でも……婚活って、調べてみたけどよくわからなくて……理想のパートナーに巡り会えればいいですけど、そもそも付き合う相手を見つける前提で男の人に会いにいく理由がよくわからなくて」


 なんとなくだが、理瀬がふて寝していた理由が見えてきた。

 恋愛と結婚は、計画通り実行されていく理瀬のライフプランの中で、唯一実現のめどが立たない目標なのだ。


「結婚しない、という選択肢もなくはないぞ」

「それはダメです。子供ができない社会はいずれ滅びます。社会の一員として、できる限りの努力はすべきです」

「そこは真面目なんだな……」

「投資とか経済学の勉強をしたらわかることです。生産力を生み出すのは人間だから、人口が増えない国は衰退します。私はその一因になりたくないんです」

「それで、ふつーに結婚できそうなエレンちゃんのことが羨ましいんだな」


 理瀬はまたぷいと顔をそむけ、ふて寝の体勢になる。


「……結婚する一番の近道は、学生時代に相性のいい人を捕まえておくことだそうです。エレンが嫌いな訳ではないですけど、感覚的にそれができるのは羨ましいなあって」

「俺もそう思うよ。だいたい、若い時の恋愛なんか苦労ばっかりだし、結婚までゴールできるかわからないもんだぞ。若い時は大人みたいに割り切りが効かないからな」

「……さすが経験者ですね。宮本さんの若い頃の彼女とはうまくいかなかったんですか?」

「うまくいかなかったというか、まあ、そうなんだけど、流石にそんなストレートに言われるとおじさんでも傷つくぞ――」


 俺の元彼女の話をして理瀬の機嫌が直るなら、まあそれでもいいか。

 なんて考え始めた時、唐突に俺の携帯が鳴った。

 机の上にあった携帯の画面を、反射的に二人が覗き込む。


『薬王寺 照子』


 なんてタイミングなんだ。

 まさか、元彼女の話をしているときに、当の本人からLINE通話が来るなんて。

 何も言えなくなってしまった俺を、理瀬は怪訝そうに見続けていた。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ビキニに恋した男

廣瀬純七
SF
ビキニを着たい男がビキニが似合う女性の体になる話

プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?

九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。 で、パンツを持っていくのを忘れる。 というのはよくある笑い話。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする

夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】 主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。 そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。 「え?私たち、付き合ってますよね?」 なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。 「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

かつて僕を振った幼馴染に、お月見をしながら「月が綺麗ですね」と言われた件。それって告白?

久野真一
青春
 2021年5月26日。「スーパームーン」と呼ばれる、満月としては1年で最も地球に近づく日。  同時に皆既月食が重なった稀有な日でもある。  社会人一年目の僕、荒木遊真(あらきゆうま)は、  実家のマンションの屋上で物思いにふけっていた。  それもそのはず。かつて、僕を振った、一生の親友を、お月見に誘ってみたのだ。  「せっかくの夜だし、マンションの屋上で、思い出話でもしない?」って。  僕を振った一生の親友の名前は、矢崎久遠(やざきくおん)。  亡くなった彼女のお母さんが、つけた大切な名前。  あの時の告白は応えてもらえなかったけど、今なら、あるいは。  そんな思いを抱えつつ、久遠と共に、かつての僕らについて語りあうことに。  そして、皆既月食の中で、僕は彼女から言われた。「月が綺麗だね」と。  夏目漱石が、I love youの和訳として「月が綺麗ですね」と言ったという逸話は有名だ。  とにかく、月が見えないその中で彼女は僕にそう言ったのだった。  これは、家族愛が強すぎて、恋愛を諦めざるを得なかった、「一生の親友」な久遠。  そして、彼女と一緒に生きてきた僕の一夜の物語。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

処理中です...