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第四章 社畜と女子高生と青春ラブコメディ
2.社畜と女子高生の合コン
しおりを挟む「理瀬ちゃあ~ん」
「……」
豊洲のタワーマンションにて。
ソファの上で伸びている理瀬を、エレンがつんつん、とつついている。反応はない。
「そろそろ返事してよ~」
「……」
エレンと相談していた、理瀬を合コンに参加させる作戦が決行された。
土曜の午後に開催され、その日の夕方に『おじさん来てください! 非常事態!』とエレンからLINEがあった。
その結果がこれだ。
理瀬はうつぶせに寝ていて、顔は見えない。落ち込んでいるというか、テンションが下がっているのは間違いない。
エレンがしつこくつついていたら、理瀬はその指に噛み付いた。お前は超不機嫌な猫か。
「もう、機嫌直してよ。私、そもそも理瀬が合コンに来てくれるなんて思わなかったの。まあ正直向いてないと思ってたけど、彼氏作ろうと努力してる姿勢は評価するよ?」
理瀬が合コンに参加したのは、俺から「今どきの高校生の大半は合コンで彼氏を作るらしい」と適当なことを言ったからだ。実際どうなのかは知らない。俺の高校時代、徳島県という田舎で高校生どうしの合コンは存在しなかった。知り合いの知り合いまでたどれば県内の高校生を大体コンプリートできるくらいの数しか高校生がおらず、合コンなんかしても新鮮味がないのだから。
「私、エレンとは二度と遊ばない」
「ええー」
理瀬はかなり怒っているようだが、エレンは気にしていない。手慣れた感じだ。
俺に見せていなかっただけで、理瀬はこんな風に拗ねることがよくあるのだろうか 。
ちなみにエレンは『人数合わせ』と言い張って彼氏と一緒に参加したらしい。男と女が一人ずつ増えたら人数比は変わらないのだが。パリピなところがあるエレンはそれなりに楽しんでいたようだ。
理瀬はほとんど何も話せなかったらしい。もともと初対面で他人とうまく話せるようなタイプではないし、どう考えても合コンなんか向いていなかった。
「そんなに面白くなかったのか?」
俺が言うと、理瀬は突然むくり、と起き上がり、自分の部屋に引きこもってしまった。
「あちゃー、どうします?」
「とりあえず晩飯でも作るか。腹へったら飯食うしかないからな。なんか食ったら機嫌治るだろ」
「おじさん、時々女の子の扱いすごく適当っていうか、ひどいですよね……」
俺としては妥当なやり方だと思ったのだが、エレンにダメ出しされてしまった。
余っている食材を調べたら、小麦粉が多く残っていたのでお好み焼きを作ることにした。エレンは「私お好み焼きって作ったことないです!」と興味津々で、手伝ってくれた。エレンの父親は都内でドイツ料理のレストランを開業したドイツ人シェフなので、エレン自身も料理が好きなのだ。
無心でお好み焼き生地を練っていると、エレンが小声で話しかけてきた。
「理瀬、これで諦めてくれますかね」
「うーん。合コンはもうしないだろうが、彼氏をもつこと自体も諦めるかどうかだな。あいつ、一度決めると頑固だからな」
「ですよねー。これで恋愛そのものに幻滅してくれるといいんですけど」
「お前、理瀬に彼氏できたら嫌なの?」
「嫌ではないですけど、なんか違うくないですか? 今の理瀬は」
エレンは普通の女子高生なので、まだ全てを論理的に説明できるような言葉を持っていない。だが、感覚的に理瀬の違和感を把握している。
「彼氏作りたいなんてのは嘘で、なんか別の悩みがある、とは思うんだが……そうだとしたら、絶対向いてない合コンなんて行くか? なんか、わからなくなったよ」
「そうなんですよね。案外、真剣に彼氏作りたいのかも」
ひそひそ話していたら、理瀬が部屋から出てきた。ソファにどかっと座り、お好み焼きが出来上がるのを待っているようだ。誰もソースの匂いには勝てない。
キッチンについているカウンター席で、三人並んでお好み焼きを食べる。最初は無言だったが、エレンが話しはじめた。
「理瀬、なんで彼氏作りたいとか急に言いだしたの?」
「……エレンにできることが、私にできない訳ないから」
隣で理瀬の表情を伺ったが、これも本音とは言えなさそうだ。おそらくエレンに対して、はぐらかすための答えだろう。
「ひどーい。私にだって理瀬よりできる事あるのに」
「理瀬は初対面で仲良くなれるタイプじゃないから、仕方ないよ。俺も大学時代に何度か合コンしたけど、あんまり馴染めなかったな」
「おじさん、彼女いるのに合コン行ってたんですね」
「お前も今日はそうだったろ」
「私とリンツは盛り上げ役だからいいんです」
高校生の考えることだから、真剣に出会いを求めている訳ではなく、ほどほどに騒ぐだけのイベントだったらしい。
「……エレンは、リンツ君とどうやって仲良くなったの?」
理瀬がおもむろに話す。ちょっと前までエレンの行動全てに興味を持っていなかった理瀬が、自分からそんなことを聞くのは意外だった。
「え、一緒に部活してて、自然と仲良くなった感じだけど」
「部活……」
理瀬は当然、帰宅部だ。母親に憧れて始めた投資が趣味で、部活に興味がなかったのだから。
「今から部活は厳しいだろ。もう二学期なんだし、仲のいい子で固まってるだろうから」
「そうですねー。お友達として普通に仲良くなる過程で好きになって、付き合えるのが一番だと思います」
理瀬がちらりと俺を見る。俺はうなずく。
「理瀬、学校で男子と話さないの?」
「グループディスカッションの課題とかで話すことはありますけど、それ以外はほとんど話しませんよ」
「例えばそのグループディスカッションのときに、ちょっと気になる男子とかいない?」
「いませんよ」
「うちの学校は同じクラスで集まるとかないし、授業だけでそんなに仲良くなれないでしょ。部活は無理だから、バイトでもしてみたら?」
エレンの言葉に、俺と理瀬は意表を突かれた。
エレンには教えていないが、理瀬は投資でバイトなんかよりずっと効率良く金を稼げる。だから理瀬が単価の低いバイトをやる義務はない。俺と理瀬の間では、全く出てこなかったアイデアだ。
「エレンちゃんはバイトとかするの?」
「部活あるからほとんどしないんですけど、たまにお父さんのレストランのお手伝いしてます。いわゆる看板娘です。けっこう人気なんですよ」
「出会いはありそうか?」
「私の家族以外は主婦のおばさんしかいないから無理ですね。スタバとかどうですか? 理瀬コーヒー好きだし、バリスタ意外と楽しくてハマる人多いみたいですよ」
エレンがお好み焼きを食べ終わり、「そろそろ遅くなるので」と言って先に帰った。
「宮本さんは、バイトしたことありますか?」
二人になって、理瀬が話しはじめた。どうやら興味を持ったらしい。
「あるよ。まあ俺の場合、稼ぎ重視でパチ屋とかホテルの宴会とかのバイトしてたから、あんまり参考にならないな」
「私にも、バイト、できますか……?」
理瀬は頭がいいし、家事も一通り覚えている。普通の女子高生がするバイトなら、できないことはないだろう。少し心配なのは体力だが。
「そりゃできると思うが……お前、投資でいくらでも稼げるんだろう? バイトに時間使うの、効率悪くないか?」
「確かにそうですよ。でも私、最近いろいろな人と話して、思いはじめたんですよ……普通の女子高生の生き方、全然知らないなあ、って」
理瀬が普通の女子高生の生き方について興味を持っている。もしかしたら、彼氏を作りたいというのもその延長線上にあることなのかもしれない。
ちょっと前までは考えられなかったことだ。進歩している、と思っていいのだろうか?
「別にスーパー女子高生のまま、外界の民のことなんか知らずに生きてもいいんだぞ」
「若いうちにいろいろなことを体験したほうがいいって、お母さん言ってましたよ」
「まあ、お前の好きにしろよ。ここなら近所のららぽーとでバイト先なんか大量にあるし、色々探してみな。ただ勉強に使う体力だけは残せるようにしろよ」
「わかりました。探してみますよ」
そう話したあと、俺は理瀬の家を出た。
帰り道、俺は色々考えた。今日話したとおり勉強とバイトが中心の青春を過ごすとしたら、理瀬の高校生活はものすごく平凡なものになる。
あの理瀬が、そんなもので収まるだろうか?
どう転ぶかはわからなかったが、理瀬に任せることにした。
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