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第一章
第14話
しおりを挟む『友達の定義』とはなんだろうか。
そういうことを言う奴は友達がいないなんて言わないでほしい。悲しくなっちゃう。
───例えば世間には常識というものが存在する。
大多数が共通の認識をもって成立するそれは、社会を構成する人間にとっては言葉を交わさずとも当然ながら理解しているものと言える。仮にそういう社会構成体の構成物を『友達』と定義しよう。
そして友達の中であるなら、なにも社会通念上の常識である必要はない。
あの店は流行しているだとか、あそこの製品は質がいいだとか、あの先生はイケメンであるとか、昔から伝わるおとぎ話だとか、そういう些細なものも時に共通認識という性質上、常識になりえる。
僕はこれを『友達の信念』と呼んでいる。僕にとって揺るぎない友達の定義づけだ。今のところ。
ではみんなは知っているだろうか?
共通認識の外にいるものが表れた時を。
友人だと思っていた人間が、常識を知らない者だと判明した時に周りがどう反応するかを。
果てはその反応を見て、共通認識の外に取り残された人間がどう思うかを───
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
国立王都魔法学園は剣術が主な魔術剣士学校、研究が主な魔術学院と二つに分かれ、それぞれが敷地で言えば隣接している形になる。
僕が入学したのはもちろん魔術剣士学校。前世にあった学校よりもかなり大きく、どちらかと言えば大学に近い気がする。加えて魔術学院とやらも見たところ相当の大きさ、隣接しているとは言え王都を走る電車を使わないと一苦労しそう。
といっても剣術と魔力研究、畑違いだけあって、在学中は行くこともないだろう。ほかにも研究施設があったけどあれはなんだったのかという現実逃避はここまで。
入学して一か月。周囲は新しい環境、新しい人たちとで喧々諤々といった様子。
教室内には数人から成るいくつかのグループが出来上がりそれぞれが思い思いの会話をしている。
「それほんとう?」「まじまじ、夏休みに行こうよー」「でもこわいのやだー」
「あの!今日の放課後、一緒にお出かけしませんか?」「ごめんなさい。今日も特別体育館で稽古なの」
「終わったら飯いかね?」「どこいくよ」「っぱ、バーガーっしょ」「そればっかじゃん」
そして僕は一人、それを眺め…ることもなく、寝たふりをしていた。
違うんだ、友人…いや、二人はいるから友『達』、複数形だな。
ともかく友達はいるんだ。ただこのクラスにはいないというだけで、いやマジだから。
多分そろそろくるはず…
「クラウスくん今日も寝てるのかな…」
「いやこいつ寝たふりしてるだけだし」
ほらきた。
遠くから聞こえる声に耳を澄ませ、机の前で足音が止まるのを確認。さらに魔力探知で彼らかどうかを確認する。
声だけで判断すると知らない人間に声を掛けることになってしまう、あの気まずさはもう二度とごめんだ。
「寝たふりとは失礼だな」
僕は顔をあげ2人を視界に収める。
それを見た男は女の子の方へと向き、ほらやっぱりと言わんばかりに笑う。
「な?」
「あはは…」
「クラウス起きてんなら飯行こうぜー」
愛想笑いをしていた子が『セレシア・ヒサギ』、桃色に茶色がかった中途半端な髪色の女の子。
昼食時にいつもセレシアと一緒に来るこの男が『ギード・スクエニア』、サングラスだかメガネだかよくわからない物をオールバックな金髪頭にかけたのが特徴的。
「なんだか気に食わないけど、行こうか」
「おう。もち、飯持ってるっしょ?」
「ああ」
カバンから弁当箱を取り出し教室から出る。
いつもの場所、といっても座れるスポットを近い順に回って人数分空いていたら座るだけだが。
「いつもごめんね…私がお弁当だから」
「まーそういうこともあるっしょ。てかクラウスも弁当だし」
ギードは僕に視線をよこし、それに対し僕は肩をすくめる。
「そういうこと」
「でも、クラウス君も最初は購買だったよね?」
たしかに入学した頃は購買で買っていた。
田舎貴族故、王都を見てまわり、授業が難しくてしていたから時間がなかった、という言い訳もできるが、単純に面倒だったということもある。授業が難しいから勉強という部分は嘘になるが。
「そうだっけ?でも、ギードの言う通り。僕も今は弁当だからセレシアもそんな気にしなくていいよ」
「…そっか……」
そこから無言が続く。
この無言の時間が訪れると、ふと思い出すことがある。
それは僕たちが出会った最初の頃、この空気がギードは気まずかったのか、何かにつけて会話を伸ばそうとしていたのだ。
僕はそれを鼻で笑うと、ギードが助けを求める顔でこちらを見るのだ。
あの時の表情は一生からかうことのできるネタになるだろう。
しかし、いまではもう慣れたのか、ギードはよくわからない鼻歌を陽気に鳴らしている。
そうこうしている間に教室から少し歩いた最初のスポットに到着する。
「あっ、あそこ空いてるよ!私取ってくるね!」
彼女は嬉しそうに空いている場所を見つけ、一目散に走っていく。
「うん」
「おー、たのむわー」
走っていく彼女を見送り、僕たちはゆっくりと歩いて行く。
空いている場所は割と遠いのだが、セレシアも少なからず気まずさを感じていたのかな?
「どうにかしてやりてーよな…」
「ん?」
ギードが走っていくセレシアに視線を向けらながらつぶやく。
「わかってんだろ?セレシアのことだよ」
「あぁ、前言ってたやつ?」
「まさかクラウスが本当に料理できるとは思ってなかったけどな!あーおれもつくれたらな」
僕が弁当になった理由。それはセレシアが弁当だからということに起因する。
「でも食堂の席が『学生食堂利用者に限る』っておかしくねぇか?同じ学校の生徒なんじゃねぇのかって話だろ」
「それは前も聞いたよ。貴族と庶民が一緒になるのはなんたらーってやつ」
貴族と庶民、これがどう食堂の席につながるかと言えば利用者の層なのだ。
魔術剣士学校では親が階級を持つ貴族が大半だが、階級のない身分いわゆる庶民と言われる生徒も少なからずいる。ちなみにギードは庶民出だが財力はあるらしい。セレシアと出会う前の僕と2人だった当初も食堂と購買を使っていた。
この学校は学生食堂もありながら、学校側も弁当の持参を認めてはいる。
ギード曰く昔は学生食堂を利用するかに関わらず食堂は使えていたようなのだ。
しかし大半の生徒は貴族、まがりなりにも階級を持った子息だ、少々の金額をケチって品位を疑われるくらいなら当然学食を利用する。彼らにとってメンツというのは財力よりも大事らしい。
そうした彼らにとって体裁を気にしない、まぁ多くは庶民なのだが…そういう庶民の弁当持参というのは中々不快らしく過去の誰かが学校側に抗議した結果が『学生食堂利用者に限る』になるわけだ。
もちろん学食のすべてが高いといわけでもない。生徒の間で貧乏貴族定食と言われている格安なメニューもある。
しかしそれでも弁当を持参した方が安上がりになるのも事実。
出来上がったのは食堂を利用するの貴族、それ以外が貧乏な庶民というふるい分け…らしい。よくわかないけど。
そうなるとセレシアと昼食を共にするには食堂は使えないということになり、必然2人して購買か弁当になるわけで。
「料理なら教えてあげようか?簡単だよ」
「いやオレそういう細かいことムリなんだわ」
ギードだけ購買ということになる。
「それにしてもいきなりクラウスがマジに弁当出してきたときはびっくりしたわ」
ではセレシアが食堂を使えば良いという話だが…まぁ家庭の事情だ。深くは立ち入ることもない。
「どうせ食堂使わないなら持参してもいいかな、って」
僕は肩をすくめると、ギードは何がおかしいのか口角をあげ、肘でつついてくる。
「なんだよ」
「いんやーべつにー?」
訳が分からず非難の視線を向けるが無意味のようだ。
「そういや、王族の姫さんもオレたちと同じ弁当なのに食堂使ってるなんておかしいよな?」
「またその話?まぁ…そういうもんじゃない?どうでもいいからはやく食事にしようよ」
「…オレ、やっぱりクラウスのそういうところ割といいと思ってるぜ」
「そう」
そういうところとはどういうところなのか。僕には見当がつかないけど、
あえて。
あえて言うならば、僕はヘテロだ。
セレシアのいる場所に僕は速足で向かうとそれについてくるギード。
そうして円状のテーブルを囲むチェアにみんなで腰かける。
セレシアとギードが対面で、僕の隣には2人がいる形。
「今日は早々に座れてよかったね」
「飯食うのに腹ごなしは必要ねーもんな」
「あはは。中庭も広いけど、結構遠いもんね…ところで、2人して何話してたの?」
「あー、お姫さんはいつも鍛錬を欠かさない民の模範となるべき存在だってことをな」
「お姫さん?…もしかしてイリス王女様のこと?」
2人の会話を耳にしながら、弁当に入っている4個の唐揚げをひとつつまむ。
うん、美味しい。
「ところで、その王族の姫さんって誰なの?」
ちょくちょく会話に出てくる王族のお姫様を僕は知らない。
「「え」」
息ぴったりに眼差しを向けられる。
あれ?…おかしいな…
「クラウス…お前マジか…」
「あの…それは私でも知ってるよ…?」
「…そんなに有名なの?」
さも当然のようにふるまい、僕の反応に対して苦笑いする二人を見て思った。
この二人の共通認識の外にいる僕は、もしかして──
友達ではないのか?と。
どこからどこまでが友達なのか教えてほしい。
そういうことを言う奴は大体友達いないとかそんなことは言わないでほしい。
悲しくなっちゃうから。
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