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第一章
第32話
しおりを挟むこの国には大きな用途で二種類の列車が走っている。王国の内外を走る大陸列車と王都の主要な地区に走る路面列車だ。大陸列車が何を運んでいるか?知らないよ。
国の公共交通機関に用される路面列車は魔法学園と学生寮も結んでいるため多くの学生や国民にとってはなじみ深く通勤や通学、普段使いの移動にも使われている。
当然、朝となれば車内はキツキツ。
寮が近いためギードとセレシアの三人一緒に毎朝通学しているわけなんだが、
「おっと。セレシアちゃん大丈夫?」
「大丈夫。ありがとうギード君」
この時ギードはいつものお調子者な感じとは打って変わって、男らしく自然な感じでセレシアを人の波からかばっている。僕にはこれはできそうにない。
あっ、誰か僕のお尻触った?……気のせいか。
「やっぱ朝はキツイね~全然慣れねぇわ」
「そう……僕は慣れたけど」
この状況で諦めることに。
満員電車で悠長に会話するはずもなく、黙って揺られることしばらく。
「じゃ、昼に会おうぜ」
「ああ、また」
「またねギード君」
ギードを残して魔剣士学校でセレシアと二人降りる。
魔法学園は魔剣士学校と魔術学院を包括する。そして僕たちが乗っていた路面電車の終点駅は魔術学院でその手前が魔剣士学校になる。
つまりギードは意外にも魔術学院の生徒だ。
「ギード君は学院で何してるんだろうね」
いつもは魔剣士の授業である“武技”のコツとかを聞いてくるが今日は珍しくギードについての疑問。
「なんだろうね。でもいつも昼にこっちに来るから向こうの友達はいなそうだね」
「そんなことはないと思う……よ?」
自分が何をしているかを言わないし、こちらも聞かないから何もわからない。
わかることはいつも昼にわざわざ学校側に赴いてくるということだけ。
ただ───
「いつか教えてくれるかな?」
「セレシアは何やってるか気になるの?」
「うーん、ちょっとだけね。もちろんあれだよ?言いたくないなら聞かないけど、それでもやっぱり少しは気になっちゃうかも」
「なにかいかがわしいことやってたらどうする?」
「…………」
ジト目で睨んでくるセレシア。可愛い。
「冗談だよ。今日聞いてみようか、ギードになにやってるか」
「え!?いいよ大丈夫だよ!迷惑になったらイヤだから平気!」
「聞いてダメならそれでいいよ。言いたくないなら言わないだろうし僕も気になるからね」
───それで関係性がギクシャクするなら友達じゃないだろうことは確かだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
退屈な授業を乗り越えたお昼。
いつものよう僕のクラスで集合し、席を見つけ確保。
その後にアイリスが僕たちを探し当てて合流する。
もはや四人が一緒になることに疑問を抱くものはいなかったし、同じ場所がいつも空くようになった。アイリス様様だ。
「ごめんなさい。遅れたかしら?」
「いんや全然。イリス王女来たならさっそくいただこうぜ」
基本的にみんなが食べ終わった後、まったりと会話モードに切り替わる。
みんなが黙々と食べ終わった後、僕は見慣れたアイリスのお弁当を見ながら言う。
「……相変わらずそのお重弁当なんだね」
「私は小さくしても良いって言ってるのだけれどね。これもまたある種の権威らしいわ」
「王女様は大変だねぇ、持つ者の権利だっけ?」
「ギードそれって“高貴なる身分は高貴なるを課す”って言いたいの?」
「そうそれだわ。前クラウスが言っていた、あー……ノブラーオブレート?」
「ノブレスオブリージュ?」
そしたらナインの僕も、持つ者になるな。
「そうそれ!ノーブラオブラージュ!」
「最低ね、あなたたち」
何で僕まで。
「ギード君……」
「相変わらずあなたたちは気楽そうでいいわね」
何で僕まで……
「んだと!?こちとら毎朝詰め込まれるんだぜ?」
「人がいっぱい乗る時間帯だもんね」
「こればかりはしょうがない」
セレシアも僕もそう言って諦めている。
「そりゃもっと早く出れば良い話なんだろうけどよ、朝起きるのはだりぃよ」
しかしギードはごねる。いつものこと。
「そうかな?早起きなら得意だけど」
「あなたたちは学外寮だから大変ね」
「アイリス様はファーストだから学内の寮ですよね!いいなぁ学内寮」
「ギードが学内寮だったらギリギリまで寝てそうだね」
「あったりまえよ」
「というかファーストだと学内の寮なんだ」
「ええそうよ。あなたのお姉さん、ステラさんともたまにすれ違うけれどいつも凛々しいわ」
「ステラさん美人だもんね」
「俺はまだ一回しか見たことないぜ」
「しかも朝早くから鍛錬しているみたい。どこかの誰かさんも立派な姉を見習ってほしいものね」
「悪かったね。凛々しくもなければ立派でもなくて!」
「それにしても学院生には寮とは言わなくても、寝泊りできる簡易的な部屋が学院内には確かあった気がするのだけれど」
「いんやあれは狭すぎる。あんなのは部屋とは言わん」
「じゃあなんていうの?」
僕は聞いてみる。
「んー、サナギだな」
「こんなものでも巣立っていくのね……」
「案外羽化不全かもよ?サナギから出てるから」
「言えてるわ」
「人のこと虫呼ばわりかよ……」
「……っ……!」
セレシアは声を出さないよう必死に笑いをこらえてる。
「ところで話が変わるけど魔術学院ではどんなことをやってるの?」
「ほんとに話が変わるわね」
「あ?あーそれはな……」
言いにくそうにするギード。
「あのごめんね?私がクラウス君にお願いしたの……ギード君が言いたくないなら言わなくても大丈夫だから……」
それに対してセレシアは様子をチラリと伺ったあと、申し訳なさそうに言う。
「セレシアちゃん……ありがとう。俺も本当は言いたいんだ。でもよ……」
「そっか……ごめんね」
「…………」
「いや、俺が悪いんだ。だから言うよ。俺、実は───」
「───アーティファクトの研究よ」「───アーティふぁ!?」
「え!?」
「ん?アーティファクト?」
白状しそうになったところをアイリスの横やりが入ったことにより、間抜けな声を出すギード。
「ちょ!?俺が言おうと思ってたのに!」
「なにをもったいぶったのか知らないけれどね、そもそも秘密にするような情報じゃないでしょ。なにより───」
アイリスはセレシアを一瞥した後、ギードを睨む。
「セレシアに二回も謝らせたことが気に食わないわ」
「そ、それは……うっ、うぅぅ……」
「だ、大丈夫だよ!?私は気にしてないから!」
「おぉ!」
ギードはアイリスの正論にぐぅの音も出ないようで、セレシアはよくわかんない身振り手振りでどうにかしようとする。そして僕はアイリスを少し見直した。
義に厚い人間、良いじゃない。
「すまん。セレシアちゃん、悪ふざけが過ぎちまった」
「私は大丈夫だから頭上げて、ね?」
素直に頭を下げるギードに困りながらも対応するセレシア。
ギードはそれを察したのか頭を上げ、セレシアを真剣な顔で見つめる。
「本当にごめん。もうしない、約束するよ」
「ぁ……うん。わかったよギード君、だからこれでおしまい。ね?」
「あぁ」
「…………」
空気がのんびりした所で質問がある。
「それで、アーティファクトってなに?」
「あはは……」
「来たぜいつもの……あれが!」
「ふふっ」
やっぱり、楽しい雰囲気が一番だ。
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