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派手な店舗

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「綺麗です。ジャックさんの瞳……吸い込まれるようです……異世界の方々は皆こんなに綺麗なのですか?凄い世界ですね」

「えっあっああ……いや違うぞ、違う個々で違うからな。俺なんてたいした事ない容姿だからな、ぜんぜんだ。貴族達なんかはキラキラ光り輝いてるぞ。それこそフレドリック王太子やレオナルド等は美貌もだが全ての格が違うな」

「この国には、王族が居るのですか?」

「ああ居るぞ。だが、今は先を急ごう。後でセイバー王国やこの世界の事をキチンと教えてやるよ」



ジャックは、歩の手を繋ぎ直しそのまま引っ張り、通りを歩いて行く。

 すれ違う人達の中でも若い女性達の数人が、ジャックと歩が手を繋ぎ足早に歩いているという思いもよらぬ場面を見た事で、驚き立ち止まる女性達が居た。

 ジャックは王都の東の高台に設立された、由緒あるセイバー王国サンタフェリカ学園において、在学中風紀委員長等を歴任しており、同じ年に生徒会長であったレオナルド王子が親しい友人であったり、その他の学友も貴族でも平民であったとしても、才能溢れる注目を浴びる存在である人物が多かったのだ。

 ジャック本人においても、容姿的にも人物的にもとても目立つ人間であったが、ジャック自身には何の自覚も無かった。そこが又、ジャックという人間の楽しい所でもあると微笑いながらも、明るい性格のレオナルド王子なら言うのだろう。

 それからも暫くは歩き、時刻にすると1時間以上は歩いたのだろうか、ある店舗の前でジャックは止まった。一呼吸した後決意し言葉を発した。



「着いたぞ」

「凄いですね……ここですか」


 歩は目の前の建物を見上げている。女性が喜ぶような可愛らしい丸っこいフォルムとピンクとオレンジが基調となっているかなり派手な店舗の前にジャックは止まったのだ。


「入るぞ! 息を止めとけよ」

「えっ?」


ジャックは歩の手を引いたまま店に入っていった。本人には何も自覚などは無く、キョロキョロする歩を指定場所まで連れて行くという事を使命に持っていたから、今は未だジャックに深い意味など有りはしない。

 扉を開けた瞬間、歩の鼻にガツンと殴られた様な攻撃を浴びる程の匂いの洪水に包まれた。


「凄っ匂いが……鼻が麻痺しそうです。何故こんなに充満して……窓、窓を開けましょう!」


窓を開けようと動こうとした歩を、ジャックは繋がった手を引いた事で止めた。


「その意見合意なんだが、この店の店主は変態でな……その提案は却下されるぞ」 

「いゃあ~ お久しぶりい~ 委員長~あーん! 相変わらずの良い身体ねぇその服の下の締まった筋肉に挨拶したいわぁ。服を上げて見せてくれないかしら」

「断る。お前も立派な身体だろうが、自分の身体を見とけ」

「え~ 何でよぉいけない委員長ねぇアタシを焦らせるなんてぇ。このこのこのこの」


店の奥に居たのはインパクトのある人物ダンだった。身体つきはシュッとしてとても見栄えの良い体型なのに、髪色がピンクとオレンジのメッシュになっていて、まるで店舗と同系色で纏めた様な風貌になっている。

 ジャックとは親しくて、学園での風紀委員会において先輩後輩の間柄だった。ダンはジャックにとっては実力も行動力も備わっており、とても使いやすい後輩ではあったから、重宝していた。性格を除いてはだが。

 今現在、歩の目の前ではジャックはダンに纏わり付き嫌がられている。まるで大型犬が飼い主にじゃれついている様だった。


「え~!なになになに!! その握りあった手はなにぃ~ 委員長ってえ! 男の子もいけたのぉ~ダンちゃんがいるじゃあないのぉ~ いやダァ~ 信じらんなぁい~」


その時はじめてジャックは手を繋いでいた事に気付き、急いで手を離した。


「悪い」

「いえ。僕がふらふらしてたから……」


お互い微妙な空気になった。が、それを破り捨てたのはダンだった。空気の読めるのか読めないのか判らないダンであった。
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