量産型勇者の英雄譚

ちくわ

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一章 量産型勇者の誕生

一章三話 『連鎖は始まったばかり』

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 状況を改めて整理しよう。
 平凡な村人だったルークは突然現れた騎士に拐われ、己の意思とは無関係に王都へと連行される事となった。
 そのあげく、何だか分からない内に盗賊に襲われ、荷台から弾き出された。

 明らかに悪者オーラ全快の男達はしたなめずりをし、品定めするようにティアニーズの体を頭から爪先まで吟味している。
 どうやら、金目の物以上に彼女に興味があるらしい。となれば、

「よし、アイツらの狙いはお前だ。勇者を守るために囮になって来い」

「断ります。貴方勇者じゃないんですよね? だったら男としてガツンと言ってやって下さい」

「断る。お前こそ騎士なんだから市民を守るために特攻しろ」

「それも断ります。私は騎士である前に女です。なので、ここは男性が頑張るべきです」

「それは断る。俺は男だけど心はガラスのハートなんだ。つまり、お前よりも弱い。よし、行け!」

 ティアニーズの言い分を全て無視し、囮になって来いと盗賊の集団を指差すルーク。当然、それを了承する筈もなく、ティアニーズは一人真剣な表情で自分を奮い立たせているようだ。

「オイオイ、今の状況分かってんのかァ? こっちは五人だぞオイ! 金目の物を出すか、そこの桃色髪の女を置いて行けオイ!」

 盗賊のリーダーと思われる男は威嚇するように剣を振り回し、切っ先をティアニーズへと向ける。
 予想通り、どうやら狙いは彼女らしい。ルークはティアニーズの肩を叩き、

「よし、ご指名入りました。行って来い」

「嫌ですよ、あんな不潔な輩に着いていくなんて」

「アァ!? 誰が不潔だオイ! 殺っちゃうぞオイ!」

 不潔という言葉が気にさわったらしく、盗賊のリーダーは怒りを露にして声を上げる。
 ここまで強気な態度をとってはいるが、客観的に見ても二人は明らかに不利だった。

 相手は五人に加えて馬もおり、対してルーク達は二人で武器は一本の剣のみ。相手の戦力が分からない以上、出来るだけこの場を穏便に済ませるべきなのだが、ティアニーズは一歩も引く様子を見せない。

「私は騎士団です。貴方達の狼藉を見過ごす事は出来ません。今ここで捕らえます」

 そう言って剣を鞘から抜いて構える。ティアニーズがどこまで戦えるのか分からないが、相手が五人でも騎士団としての役目をまっとうする気のようだ。
 しかし、冷静な目ーーというよりも他人事だと思っているルークはため息を溢し、

「まてまてクソガキ、どう考えても勝てなねぇだろ。ここはいっちょお前の無い色気を使って逃げる方向に考えを変えよう」

「クソガキではないですし色気だって少しはあります。私は騎士です、国民を傷つけるような輩を前にして逃げ出す事は出来ません」

「へいへいお頭! どうやらやる気ですぜへい!」
「ほいほいお頭! あの女勝てる気ですぜほい!」

 ティアニーズの強気な姿勢を見て、とりまきの子分達が馬の上で足を暴れされて笑い声を上げた。お頭と呼ばれた男はガハハハと汚い笑みを浮かべながら腹を押さえ、

「オイオイ嘘だろ? 俺達に喧嘩売る気かオイ!」

「お前ら変な所で個性を強調してんじゃねーよ。オイオイもほいほいも無くして喋れ。……しゃーねぇ、こうなったら奥の手を使うしかねぇか」

 謎の口癖は置いとくとして、ティアニーズも盗賊達も自分の意見を曲げる気はない。ルークはやれやれといった様子で立ち上がり、声のトーンを下げながら、

「オイオイクソガキ、作戦があるから聞け」

「あの人達の真似をするのは止めて下さい。それで、作戦とはなんですか?」

「まぁまぁ、ちょいとここに立て」

「は、はい?」

 ルークは手招きをして目の前にティアニーズを立たせる。現在の彼女の心中を代弁するとすれば、不安で仕方ないと言っているだろう。
 ただ、そんな思いを知るよしもないどころか、微塵の興味すらないルークはティアニーズの腰を掴みーー、

「どッせい!」

 全力で盗賊のお頭に向かってティアニーズをぶん投げた。これにはお頭もビックリ仰天らしく、自らに迫る少女を眺めている事しか出来ていない。
 しかし、宙を飛ぶティアニーズの速度は緩む事なく接近し、

「イヤァ!」

 彼女の本能が汚いおっさんと接触するのを拒み、空中で体をよじって放たれた見事な蹴りがお頭の額に直撃。
 白目を向いたお頭は馬の上から弾き飛ばされて脳天から地面に落下。そのままピクリとも動かなくなってしまった。

 少女を何の躊躇いもなく投擲した鬼畜勇者は得意気に胸をはり、

「おし、逃げるぞ!」

 ティアニーズの安否を確認する事なく、踵を返して逃走を開始。ようするに、ルークは彼女を囮にしたのだ。作戦も何もあったもんじゃなく、盗賊が気をとられている隙に逃げるという極悪非道な手段にうってでたのだ。

 してやったりと満足げな様子で、裏をかいたつもりでいるルークはそのまま走るが、不意に頬を何かが掠めた。
 それはルークの横を通り過ぎて地面に突き刺さる。ルークの目がおかしくなければ、剣と呼ばれる大変危険な凶器である。

「待て」

 後ろを振り返る事もせず、ルークは剣を投げたのが誰なのか瞬時に理解。ドスのきいた低い声が鼓膜を叩き、居る筈のない人物の手が肩に置かれる。
 当然、ぶん投げたティアニーズの手だ。

「ば、バカ、これは助走をつけてすんげぇ蹴りをぶちかますための作戦であってだな……」

「ほんッとうに……貴方は勇者としての自覚があるんですか!?」

「へ、へい!」

 突然声を荒げるティアニーズに、思わず肩を竦めて縮こまる。怒りの感情が溢れんばかりに飛び出し、ティアニーズはルークの胸ぐらを勢い良く掴んで前後に激しくシェイク。
 地上居ながら乗り物酔いに似た気持ち悪さが込み上げる。

「女性を放り投げて貴方の良心は痛まないんですか!? 勇者以前に人としておかしいと思いますよ!」

「だ、だからこれは作戦だっての! 俺のすんばらしい頭脳が導きだした名案なんだよ!」

「嘘つけ! ただ自分が逃げるためでしょ! 振り返る事すらしなかったじゃん!」

「敵を欺くにはまず味方からって言うだろ! 俺の演技力を台無しにすんじゃねぇよ!」

「貴方の鳥頭では分からないでしょうが、盗賊に捕まった女性は酷い仕打ちを受けるんです! 私があのまま捕らえられていたらどうするつもりだったんですか!」

「だから! 助けるって言ってんだろ! 桃頭!」

「なッ……この髪は母から譲り受けた髪です! 侮辱する事は許しませんよ!」

 心にもない嘘を連発するルークに、ティアニーズも負けじと反撃。話の方向が全く関係ない方へと移行し、これには盗賊も黙って見ている他ないようだ。
 三半規管が崩壊しかけているルークは何とか彼女の手を止めようとするが、女性のものとは思えない腕力で押し返される。

 そんな下らないやり取りが数分間に渡って繰り広げられるが、止まる様子はなく互いに息を切らしながら、

「大体なァ、テメェが村に来なけりゃこんな事にはならなかったんだよ! よってお前が悪い!」

「そんなの王都に手紙を送った人に言って下さいよ! その手紙が無ければ私はここに居ませんでした!」 

「だったら今すぐ連れて来い!」

「無理です! 知りません!」

「ならお前が悪い!」

「貴方が悪いです!」

「あ、あのぉ」

「うるせぇ!」
「うるさい!」

 遠慮がちに手を上げて意見を述べようとした下っぱその一だったが、鬼の形相で一喝されてしょんぼりと肩を落とす。
 もはや二人の眼中に盗賊は入っておらず、目の前の敵に罵詈雑言を浴びせる事で精一杯のようだ。
 見かねた盗賊達は『どうする、帰る?』とか開始を初めちゃっている。

 このままでは日がくれるまで喧嘩を続けるだろう思われるが、止められる人間はここに居ない。
 しかし、それを止める救世主が現れる。
 ただ、その救世主は更なる厄介事を持ち込んで。

「あのな、お前はーーって、んだ!」

 正論でも何でもない悪口を吐き出そうとした瞬間、ルークの足は地面から離れた。それと同時に襟首に違和感が走り、首もとが締め付けられ呼吸が一瞬停止。
 バタバタと手足を暴れさせるが、ルークの体は謎の力によって更に上昇し、木で出来た床へと落下。

「ッ! いきなりなんだ……」

 腰に走る激痛に眉をひそめながら顔を動かすが、どうやら馬車の荷台に乗せられたらしい。荷台を引く馬に乗るマッチョなおっさんはキラリと歯を光らせてウインクし、今度は呆気にとられているティアニーズの襟首を掴んで放り、器用に荷台へと乗せた。

「ちょッ!」

「キャ!」

 その際に、落下地点を見誤ったティアニーズがルークへと激突。再び喧嘩が始まると思われたが、今はそんな状況ではないと二人は顔を合わせて首を傾げる。
 唯一事情を知ってそうなマッチョなおっさんへと目を向けると、

「誘拐成功」

 親指を立てて決め台詞。
 盗賊もルークもティアニーズも理解を置き去りにされ、おっさんの顔を眺めるしか出来なかった。
 馬車は速度を上げて走る。
 どこまでも、どこまでも。

 この時、ルークは悟った。
 本日二度目、なおかつ短時間での誘拐にあったのだと。

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