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第16話【料理】殺しの天使ドクツルエル

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 魔王城へ戻ってきた。先に帰った魔王くんは元気かなっと見てみたらダレンと一緒にいた。
「また毒キノコを残して。ちゃんと毒キノコも食べないと立派な毒耐性を持った魔王様になれませんよ」
「余は毒キノコ嫌い……。舌が痛い……」
 魔王くんはうつむいて涙まで流してる。
「さあ、お口を開けてください。はい、あーん」
 ダレンが毒キノコを摘んで魔王くんに近づける。しかし、魔王くんはうつむいたままだった。
「ねえ、ダレン。魔王くん、ちょっと可哀想じゃない?」
「カグヤ、助けてくれ。ダレンがいじめる……」
「誤解しないでください魔王様! 私は魔王様を立派な魔王様にするために心を勇者にして焼毒キノコを食べさせているのです!」
「これって毒キノコなの?」
「ドクツルエルという毒キノコです。別名、殺しの天使様です」
「へぇー、私食べたら死んじゃうかな?」
「やめておいた方が良いと思います。万が一にでも大切な魔女様に何かあれば取り返しがつきませんから」
「ねえ! 余は!? 余は死んでも良いのか!?」
「魔王様が崩御なされたら即座に呪われた蘇生の奇跡で復活させますからご安心ください」
「うわああーん! ダレンは余なんかどうでも良いんだー。わああーん!」
「もう、魔王様ったら。急にどうしたんですか? 男の子がこんなことで泣かないでください」
「うーん、困ったね。魔王くんに喜んで食べてもらうには……。あっ、そうだアズラエルに頼んでみようか」
「天使様にですか?」

 アズラエルを城の中で探して聞いてみた。
「毒キノコを美味しく食べる秘訣ですか」
「そうそう。何か知ってるでしょ」
「ピザの具材に入れてコーラで飲みほせばたいていは美味しいですよ」
「ピザかー。じゃあてきとうに作って焼こうか。ところで私って毒キノコ食べても大丈夫なの?」
「魔法少女は病気になりませんからたぶん大丈夫でしょう。万が一の場合は私がすぐに蘇生しますから安心してください」
「雑! アズラエルはもうね、色々と雑だよ!」
「どうしたんですか突然。ピザはレシピ通りに作れば美味しくなりますよ」

 魔王城の調理場を借りた。
「魔女様、天使様、私もお手伝いしますよ」
「感謝しますシスター。12インチのピザ生地2枚分作りましょう。まず万能粉1ポンドに華氏110度の温水を十分の一ガロン入れてこねます」
「待って、異世界の単位を使わないでくれる? わからないから。このやりとり前もしなかった?」
「ヤード・ポンド法は神々に選ばれた正式な単位です。どの世界でも広く使われています。この世界の聖典にも書かれているはずです」
「ねえ、ダレン」
「は、はい! 魔女様、いつものお優しいお声はどうされたんですか? その、ちょっと怖いです……」
「ああ、ごめん。ちょっと聞きたいんだけど1ポンドっていくつ? どのぐらいの量? 聖典に書いてあるんだよね?」
「え、えーと、死霊教会と天使教会の合同研究で1キンの半分ぐらいと推定されておりますが……」
「あはは。ねえ、アズラエル聞いた? 死霊教会のシスターであるダレンも1ポンドはよくわからないってさ」
「なぜあなたはそんなに嬉しそうなんですか。それより、シスター。聖職者であってもポンドがよくわからないとはどういうことなのでしょうか?」
「お、お赦しください。無知で怠惰な信徒をお赦しください……」
「いえ、怒っているわけではないのです。ただ、天界の聖なる単位であるヤード・ポンド法が地上に伝わってないのが不思議だなーっと思っただけです。ガブリエルが伝え損ねたのでしょうか?」
「実は……、聖典は何度も写本を繰り返した上に戦争などで焼けて内容が飛んでいます。聖典に書かれているポンドやグラムという単位の正確な重量はもう誰も知らないのです」
「なるほど。聞きなさい敬虔なる私の信徒よ、1ポンドは約454グラムです」
「ああっ、私の天使様。その言葉を終末の日まで伝えます」
「あれ? ダレン、聖典にはグラムも書かれているの?」
「ええ、書いてますよ。『第2章1節 ガブリエルは言った。地上の人々よ、聞きなさい。啓示の大天使ガブリエルは今日の朝、パン100グラムと牛乳200ミリリットルを飲んだ。こんな感じで伝えるからメモってねー。よろしくー。はい、交信終わり。よーし、今日の仕事も終わり! はぁー疲れ──』
「シスター、地上の聖典を今まで見たことなかったのですが見せてもらっても良いですか?」
「私の聖典で良ければご覧ください」
「私も良い?」
「魔女様、何を遠慮なさるのですか。カグヤ様は私の魔女様ですよ。いつでもご覧ください」
「なになに、『第3章16節 昨日どこまで話したっけ? あ、そうそう、ミカエルの話だったっけ。ミカエルは天使長やってるんだけどね、実はあまり天使長の仕事向いてないって自分で悩んでてこっちとしても心配なんだよ。でも天使長ってめんどいからさあ、私は啓示の仕事忙しいし』」
 なんだか聖書にしてはカジュアルな書き方だなあ。
「このミカエルさんって天使の人大丈夫なの?」
「大丈夫ですよ、彼女は戦乙女として現場で多大な功績が認められみんなの推薦で天使長に任命されました。事務仕事や書類作成が多少苦手なだけです」
「変わってあげたら? 委員会とか係も季節ごとに変わるでしょ」
「……検討しておきます」
「アズラエルのことはなんて書いてあるのかな。えーっと、何章だろう」
「シスター、ありがとうございました。これはお返しします」
「ああっ、読んでる途中なのに!」
「魔女様、今度お読みしますよ。天使様の許可さえあれば。よろしいですか?」
「シスターにそう言われると断るのは困難ですね」
 アズラエルの過去を知る日は近いかもしれない。
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