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第4話 暗殺
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私は砂漠の中のオアシスの国、サラシン帝国に生まれた。帝国は複数の国々と部族が集まって構成されていて、一つの宗教、天使教を信仰することで繋がりを保っている。東は龍国の境から西は聖車輪軍国家の川岸まで、北はハシム王国の砂海、南はエルフの森の境にまで広大な領土を持っている。
歴史を遡るとサゼル王朝の時代にとても偉い王様がいたらしい。その偉い王様というのは徳が高く、臣民に敬愛され、四隣の国々からは畏怖の目で見られとても恐れられていた。王様が生きていた時代はそれはそれは栄華を極めた。しかし、王様が崩御なされてから帝国の力は衰え国は乱れた。イアブーユ家の先祖はサゼル王家を倒し帝国の支配者となったのだ──。
「……王女殿下、王女殿下。起きていらっしゃいますか? 帝国の歴史についての書物を読み上げておりましたが、そんなに僕の朗読は退屈ですか」
揺り動かされて私は起こされた。宿のバルコニーで涼んでいるうちにうたた寝したみたい。
「はっ。ごめんなさい。途中から夢を見てたわ。私の半生を綴った自伝を口述筆記させる夢で、読者に帝国の地理と歴史を解説してたの」
「それならばたくさんの本から知識を得て人に教えられる程度に勉強しないといけませんね」
「はいはい。あなたは師匠の口癖がうつってるみたいよ」
見習い奴隷犬士の男の子に本を読んでもらっていたがうっかり寝ていたらしい。この子はシャジャルの弟子だ。
「少し早いですが寝室でお休みになってはいかがですか。旅のお疲れもあるでしょう。メイド猫の侍女を呼びます」
「そうするわ。ありがとう」
王子から婚約破棄を告げられ、国へ帰る旅路にあるダカマネクの街で宿をとった。ここは南にある帝国と北にあるハシム王国のちょうど中間にあり、オアシスを中心に作られた宿場街として栄えている。
「姫様、夜は冷えますので毛布をおかけくださいね。砂漠に近いほど昼夜で寒暖の差が著しいので」
「ありがとうね。あなたももう休んで良いわ。明日も砂ゾウか水ラクダに揺られるのだから体力回復しとかないと」
侍女を下がらせてこの日は眠りについた。ちなみに砂ゾウや水ラクダというのは体内に大量の水を持つ動物で、砂漠の気候では馬などよりも長距離移動に適している。
深夜、宿のベッドで寝ていると奇妙な夢を見た。不思議なことに目が見えない私も夢を見ることができる。
「わ、私をどうするつもり。この鎖を離しなさい」
「フハハハ、俺様は触手魔人デビルフィッシュマン。お前のような美味しそうな聖女は食ってやる!」
「いやああーっ!? 私はちっとも美味しくないから! ひゃああ!? 触手が這いずりまわってるー!」
そんな馬鹿げた夢を見ていると本当に身体の上を何かが這いずりまわって気がして目が覚めた。それは足の間を通り、お腹の上、胸の上へと移動する。なんだかくすぐったい。
「ん……。あっ……。何……?」
身体の上に手をやる。それは子供の腕ほどの太さでやたら長かった。表面はヘビ革のカバンのような加工で……。ヘビ!?
「シャー……」
「きゃあああああーーっ!?」
嫌悪感に悲鳴を上げた。それはまさしくヘビだったらしい。鳴き声は私の顔の前から聞こえる。
「シャー!」
「いやあああああーーっ!」
ガブッと噛まれた。
早く回復の奇跡を、いや、回復の奇跡は毒に効いたかしら。毒消し草を用意した方が良いわね。などと思っている数秒のうちに呼吸が苦しくなってくる。呼吸が麻痺してきたのだ。これはかなりまずい。
「ハァハァ、だ、誰か……。来て……。ハァ……ハァ……」
たぶん私はこの辺りの砂漠に棲む野生のヘビによる哀れな犠牲者ではない。暗殺者が使う強力な毒ヘビによって殺害された被害者なのだろう。王家に生まれた者としていつかはこんな悲惨な最期を迎えると思ってたけど唐突だったなあ。まあ、こうなったら苦しみも辛いことも何もない天国で暮らすのも悪くない。遠ざかる意識でそんなことを考えていた。こうして毒ヘビに噛まれてあえなく命を落とした──。
目が覚めるとひんやりとした空間にいた。私は死んだはずだけどここが天国なのだろうか。天国にしてはなんだか寒いし静かすぎる場所だ。
「ここはどこかしら」
「ほう、ここに来るとは珍しい。もしやジパングからの転生者の方ですか?」
人の声がした。死んでも相変わらず目が見えないのは残念だ。
「あなたは?」
「死を司る大天使アズラエルです」
「おおおおっ! 天使様! 私天使教会の信徒です! ぜひ私めと握手を!」
感動した。天使様はやはりいらっしゃったのだ。握手をしてもらう。天使様の手は冷たかった。
「はい、どうぞ。天使教会の方ですか、それはジパングの土着信仰にはありませんね。ここに来るということはジパング人のはずですから、もしかして前世ではジパング人だったりしませんか?」
「私が元ジパング人なのかはわかりません。前世というのは本当にあるのですか?」
「ええ。前世のことをほとんどの人は忘れています。あなたもそのようです。記憶を呼び覚ましてみましょう」
天使様は私の額に手をお当てになった。
「人が作りたもうた悪魔の硫黄の火で前世のあなたは命を落としたそうです」
「硫黄の火とは何でしょうか」
「私も詳しくは知りませんが、それ一つで街滅ぼし、人を塩の柱に変えてしまう恐ろしい武器のようです」
前世での自分の名前も国も家族も忘れたが死ぬ直前のことをかすかに思い出した。
「戦争が早く終わって世界が平和になりますように」
たしか、私は礼拝堂のような場所でそのようなことを祈っていた。前世の私は聖職者だったのかも知れない。
ふと窓を見ると青い空に浮かぶ雲の切れ目から大きな鳥が飛んでいるのが見えた。白い線の雲を引いている。前世では私は目が見えていたようだ。
不思議な鳥を眺めているとキラキラと光るものが落ちていくのが見えた。そのキラキラと光るものから突然真っ白な光が放たれた。
もう真っ白で何も見えない。 耳を澄ますと何かが聞こえる。
『ザーッ、ザザッ。テキオオガタキショウスウ。……ホウメンエシンニュウシツツアリ。……シミンワゼンインタイヒセヨ。ソウタイヒ。ソウタイヒ……』
どこの国の言葉かわからない人の声でもない無機質の音が聞こえてあとは何も聞こえない。そして光も消えて今と同じように真っ暗になった。
歴史を遡るとサゼル王朝の時代にとても偉い王様がいたらしい。その偉い王様というのは徳が高く、臣民に敬愛され、四隣の国々からは畏怖の目で見られとても恐れられていた。王様が生きていた時代はそれはそれは栄華を極めた。しかし、王様が崩御なされてから帝国の力は衰え国は乱れた。イアブーユ家の先祖はサゼル王家を倒し帝国の支配者となったのだ──。
「……王女殿下、王女殿下。起きていらっしゃいますか? 帝国の歴史についての書物を読み上げておりましたが、そんなに僕の朗読は退屈ですか」
揺り動かされて私は起こされた。宿のバルコニーで涼んでいるうちにうたた寝したみたい。
「はっ。ごめんなさい。途中から夢を見てたわ。私の半生を綴った自伝を口述筆記させる夢で、読者に帝国の地理と歴史を解説してたの」
「それならばたくさんの本から知識を得て人に教えられる程度に勉強しないといけませんね」
「はいはい。あなたは師匠の口癖がうつってるみたいよ」
見習い奴隷犬士の男の子に本を読んでもらっていたがうっかり寝ていたらしい。この子はシャジャルの弟子だ。
「少し早いですが寝室でお休みになってはいかがですか。旅のお疲れもあるでしょう。メイド猫の侍女を呼びます」
「そうするわ。ありがとう」
王子から婚約破棄を告げられ、国へ帰る旅路にあるダカマネクの街で宿をとった。ここは南にある帝国と北にあるハシム王国のちょうど中間にあり、オアシスを中心に作られた宿場街として栄えている。
「姫様、夜は冷えますので毛布をおかけくださいね。砂漠に近いほど昼夜で寒暖の差が著しいので」
「ありがとうね。あなたももう休んで良いわ。明日も砂ゾウか水ラクダに揺られるのだから体力回復しとかないと」
侍女を下がらせてこの日は眠りについた。ちなみに砂ゾウや水ラクダというのは体内に大量の水を持つ動物で、砂漠の気候では馬などよりも長距離移動に適している。
深夜、宿のベッドで寝ていると奇妙な夢を見た。不思議なことに目が見えない私も夢を見ることができる。
「わ、私をどうするつもり。この鎖を離しなさい」
「フハハハ、俺様は触手魔人デビルフィッシュマン。お前のような美味しそうな聖女は食ってやる!」
「いやああーっ!? 私はちっとも美味しくないから! ひゃああ!? 触手が這いずりまわってるー!」
そんな馬鹿げた夢を見ていると本当に身体の上を何かが這いずりまわって気がして目が覚めた。それは足の間を通り、お腹の上、胸の上へと移動する。なんだかくすぐったい。
「ん……。あっ……。何……?」
身体の上に手をやる。それは子供の腕ほどの太さでやたら長かった。表面はヘビ革のカバンのような加工で……。ヘビ!?
「シャー……」
「きゃあああああーーっ!?」
嫌悪感に悲鳴を上げた。それはまさしくヘビだったらしい。鳴き声は私の顔の前から聞こえる。
「シャー!」
「いやあああああーーっ!」
ガブッと噛まれた。
早く回復の奇跡を、いや、回復の奇跡は毒に効いたかしら。毒消し草を用意した方が良いわね。などと思っている数秒のうちに呼吸が苦しくなってくる。呼吸が麻痺してきたのだ。これはかなりまずい。
「ハァハァ、だ、誰か……。来て……。ハァ……ハァ……」
たぶん私はこの辺りの砂漠に棲む野生のヘビによる哀れな犠牲者ではない。暗殺者が使う強力な毒ヘビによって殺害された被害者なのだろう。王家に生まれた者としていつかはこんな悲惨な最期を迎えると思ってたけど唐突だったなあ。まあ、こうなったら苦しみも辛いことも何もない天国で暮らすのも悪くない。遠ざかる意識でそんなことを考えていた。こうして毒ヘビに噛まれてあえなく命を落とした──。
目が覚めるとひんやりとした空間にいた。私は死んだはずだけどここが天国なのだろうか。天国にしてはなんだか寒いし静かすぎる場所だ。
「ここはどこかしら」
「ほう、ここに来るとは珍しい。もしやジパングからの転生者の方ですか?」
人の声がした。死んでも相変わらず目が見えないのは残念だ。
「あなたは?」
「死を司る大天使アズラエルです」
「おおおおっ! 天使様! 私天使教会の信徒です! ぜひ私めと握手を!」
感動した。天使様はやはりいらっしゃったのだ。握手をしてもらう。天使様の手は冷たかった。
「はい、どうぞ。天使教会の方ですか、それはジパングの土着信仰にはありませんね。ここに来るということはジパング人のはずですから、もしかして前世ではジパング人だったりしませんか?」
「私が元ジパング人なのかはわかりません。前世というのは本当にあるのですか?」
「ええ。前世のことをほとんどの人は忘れています。あなたもそのようです。記憶を呼び覚ましてみましょう」
天使様は私の額に手をお当てになった。
「人が作りたもうた悪魔の硫黄の火で前世のあなたは命を落としたそうです」
「硫黄の火とは何でしょうか」
「私も詳しくは知りませんが、それ一つで街滅ぼし、人を塩の柱に変えてしまう恐ろしい武器のようです」
前世での自分の名前も国も家族も忘れたが死ぬ直前のことをかすかに思い出した。
「戦争が早く終わって世界が平和になりますように」
たしか、私は礼拝堂のような場所でそのようなことを祈っていた。前世の私は聖職者だったのかも知れない。
ふと窓を見ると青い空に浮かぶ雲の切れ目から大きな鳥が飛んでいるのが見えた。白い線の雲を引いている。前世では私は目が見えていたようだ。
不思議な鳥を眺めているとキラキラと光るものが落ちていくのが見えた。そのキラキラと光るものから突然真っ白な光が放たれた。
もう真っ白で何も見えない。 耳を澄ますと何かが聞こえる。
『ザーッ、ザザッ。テキオオガタキショウスウ。……ホウメンエシンニュウシツツアリ。……シミンワゼンインタイヒセヨ。ソウタイヒ。ソウタイヒ……』
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