【完結】婚活アドバイザーが異世界で結婚相談所を開いたらこじらせハイスペ王子たちがご来店されました〜絶対にご成婚していただきますっ!〜

たかつじ楓@書籍発売中

文字の大きさ
21 / 84
第4章 相席居酒屋

次こそは成功!

しおりを挟む
 アリサは悩んでいた。
 
 僧侶コンの成功や、連続したカップリングの成功に喜んでいたのも束の間。
 先日のエグゼクティブパーティでの大失敗は、一気に自信喪失につながった。
 
 頭の中は、ルックスは良いが女性たちに自分から話に行けない男性三人のことでいっぱいだ。


「イベントでもデートでも、会話は一番の基本……。
 女性の言葉を聞き、自分の話をして分かり合う……。
 それができない人はどうすれば……」


 アリサは独り言をぶつぶつと呟きながら、ギルドのカウンターの中でチラシを描いていた。


 高嶺の花。天然。シャイで奥手。


 そう言えば聞こえはいいが、いい歳をした青年男性たちには、もう少し主導権を持って女性と会話して欲しいものだ。


 カウンターの横で呪文のように独り言を呟いているアリサを見て、少し自分の責任でもあるので気の毒そうに頭を掻くケビン。

 前世、現代日本で婚活アドバイザーをしていた頃の記憶を呼び覚ます。
 今回のエグゼクティブパーティのように、フリータイムで参加者にどう時間を作るか一任しているものではなく、ある程度強制的に話す場を設けるシステムならいいのではないか。

 そして、シャイや奥手でも、初対面の人と話すことができるように、お酒も飲めるもの。


「……相席居酒屋だわ!」


 名案が思いついたと、アリサは声を上げ立ち上がった。
 食事やお酒を同じ卓で囲み、食べ飲みしながら初対面の異性と会話を楽しむ、相席居酒屋。


 前世でもその画期的なシステムは流行し、大きな駅の周辺には、看板がよく掲げられていた。

 男性が食事代を負担し、女性は無料で飲食を楽しめるので、結婚というよりはまず友達作りに適している、フランクな出会いの場である相席居酒屋。
 
 前回は三人のハイスペックさに捉われていたが、恋愛スキルは高く無いのは十分わかったため、まずは結婚相手ではなく、異性の友人を作ることから始めよう。


(ロケーションはどこにしようかしら。
 緊張せずに食事が楽しめる、親しみやすい大衆的なお店)


 ホテルの一室のようなラグジュアリーな空間ではなく、仕事帰りや友人同士の飲み会によく利用する、価格設定も安めなお店が好ましい。 


 転生して来たばかりだが、街中の食事処はちょこちょこ利用していた。
 しかし最近はお金がないので、自炊で簡単なものを作るとが多かったので、そんなにこの辺のお店は知らない。


(……そうだ、ケイトさんのお店!)


 武闘家ジョンとカップルになった、ケイトのお店は、街の中心にあり価格帯も安く、昼はレストラン、夜は酒場として繁盛していて人気があった。


 前世でいうと、昼は定食屋、夜は居酒屋になり、学生にもビジネスマンにも利用できる店、というところだろうか。


「ちょっと出かけてきます! ちなみにケビンさん、お酒の方は飲めますか?」

「ん? ああ、酒は好きだが」

「オッケーです! 次こそ絶対成婚させますからね!」


 アリサはケビンに親指を突き出すと、『ただいま席を外しております』というプレートをカウンターの上に置き、ギルドの外へと飛び出した。



*   *    *



 ケイトが料理人をしている店、「レストラン・マーガレット」までは、ギルドから徒歩五分程度だ。

 ちょうど昼のランチのピーク時を過ぎ、客足が少なくなっていた時間だったので、休憩中のケイトに事情を説明した。


 結婚相談所のプロデュースする出会いの場として、相席居酒屋を開きたい。
 その店の雰囲気にぴったりなので、使わせて欲しいと頼みこむ。


 聞き慣れない不思議な単語に、拒絶されることも覚悟していたが、意外にもケイトは肯定的だった。


「面白そうだね、うちの店を好きに使ってくれて良いよ。
 それがきっかけで人気が出て繁盛するかもしれないしね」

「ありがとうございます!」


 ケイトはそう言って笑い、ポニーテールに結った髪を揺らす。
 お店には場所を利用する際の場所代を払い、お酒や料理代はいつもメニューで出しているものと同じだけ男性客に払ってもらうので、店側としては損はしない寸法だ。


 店の半分を席を相席居酒屋として利用させてもらえるよう約束し、アリサは上機嫌でギルドへと戻った。

 店の中に入ると、ギルドの来客対応をしていたケビンだったが、戻ってきたアリサを確認すると、そっとメモを渡してきた。


 そこには、『個室に王子たちが来ている』と書かれている。


 アリサはケビンに目で挨拶をすると、慌てて隣の個室へと入った。

 扉を開けると、ソファに座った金髪の青年と、剣を差した側近が座っていた。


「遅いぞ、どこに行っていた」


 出かけていると書かれたプレートを見たのだろう。ルビオは今日も不機嫌だ。


「アリサ殿、先日のパーティでは申し訳ございませんでした。
 王子の軽率な発言により、イベントを混乱させてしまいまして」


 クレイが立ち上がり、深々と頭を下げてきた。


「い、いえ、そんな……大丈夫です」


 謝罪をしに来たのだろう。
 王子側近のクレイの、謝り慣れた背中の角度に、いかに王子の相手が大変かがうかがい知れる。


「全く、側室にしてくれだの妃になりたいだの、地位と金目当ての女ばかりでうんざりだったな」


 ルビオは肩をすくめて、謝る気はないらしい。
 しかし厄介な会員の相手ぐらいではめげない。アリサは、早速次の案を考えたと二人に話す。


「次は相席居酒屋です!」


 意味がわからず顔を見合わせているルビオとクレイに、優秀な婚活アドバイザーのアリサは、相席居酒屋とはなんぞや、というレクチャーから始めた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

【完結】 異世界に転生したと思ったら公爵令息の4番目の婚約者にされてしまいました。……はあ?

はくら(仮名)
恋愛
 ある日、リーゼロッテは前世の記憶と女神によって転生させられたことを思い出す。当初は困惑していた彼女だったが、とにかく普段通りの生活と学園への登校のために外に出ると、その通学路の途中で貴族のヴォクス家の令息に見初められてしまい婚約させられてしまう。そしてヴォクス家に連れられていってしまった彼女が聞かされたのは、自分が4番目の婚約者であるという事実だった。 ※本作は別ペンネームで『小説家になろう』にも掲載しています。

【完結】身分を隠して恋文相談屋をしていたら、子犬系騎士様が毎日通ってくるんですが?

エス
恋愛
前世で日本の文房具好き書店員だった記憶を持つ伯爵令嬢ミリアンヌは、父との約束で、絶対に身分を明かさないことを条件に、変装してオリジナル文具を扱うお店《ことのは堂》を開店することに。  文具の販売はもちろん、手紙の代筆や添削を通して、ささやかながら誰かの想いを届ける手助けをしていた。  そんなある日、イケメン騎士レイが突然来店し、ミリアンヌにいきなり愛の告白!? 聞けば、以前ミリアンヌが代筆したラブレターに感動し、本当の筆者である彼女を探して、告白しに来たのだとか。  もちろんキッパリ断りましたが、それ以来、彼は毎日ミリアンヌ宛ての恋文を抱えてやって来るようになりまして。 「あなた宛の恋文の、添削お願いします!」  ......って言われましても、ねぇ?  レイの一途なアプローチに振り回されつつも、大好きな文房具に囲まれ、店主としての仕事を楽しむ日々。  お客様の相談にのったり、前世の知識を活かして、この世界にはない文房具を開発したり。  気づけば店は、騎士達から、果ては王城の使者までが買いに来る人気店に。お願いだから、身バレだけは勘弁してほしい!!  しかしついに、ミリアンヌの正体を知る者が、店にやって来て......!?  恋文から始まる、秘密だらけの恋とお仕事。果たしてその結末は!? ※ほかサイトで投稿していたものを、少し修正して投稿しています。

枯れ専モブ令嬢のはずが…どうしてこうなった!

宵森みなと
恋愛
気づけば異世界。しかもモブ美少女な伯爵令嬢に転生していたわたくし。 静かに余生——いえ、学園生活を送る予定でしたのに、魔法暴発事件で隠していた全属性持ちがバレてしまい、なぜか王子に目をつけられ、魔法師団から訓練指導、さらには騎士団長にも出会ってしまうという急展開。 ……団長様方、どうしてそんなに推せるお顔をしていらっしゃるのですか? 枯れ専なわたくしの理性がもちません——と思いつつ、学園生活を謳歌しつつ魔法の訓練や騎士団での治療の手助けと 忙しい日々。残念ながらお子様には興味がありませんとヒロイン(自称)の取り巻きへの塩対応に、怒らせると意外に強烈パンチの言葉を話すモブ令嬢(自称) これは、恋と使命のはざまで悩む“ちんまり美少女令嬢”が、騎士団と王都を巻き込みながら心を育てていく、 ――枯れ専ヒロインのほんわか異世界成長ラブファンタジーです。

辺境伯の溺愛が重すぎます~追放された薬師見習いは、領主様に囲われています~

深山きらら
恋愛
王都の薬師ギルドで見習いとして働いていたアディは、先輩の陰謀により濡れ衣を着せられ追放される。絶望の中、辺境の森で魔獣に襲われた彼女を救ったのは、「氷の辺境伯」と呼ばれるルーファスだった。彼女の才能を見抜いたルーファスは、アディを専属薬師として雇用する。

転生しましたが悪役令嬢な気がするんですけど⁉︎

水月華
恋愛
ヘンリエッタ・スタンホープは8歳の時に前世の記憶を思い出す。最初は混乱したが、じきに貴族生活に順応し始める。・・・が、ある時気づく。 もしかして‘’私‘’って悪役令嬢ポジションでは?整った容姿。申し分ない身分。・・・だけなら疑わなかったが、ある時ふと言われたのである。「昔のヘンリエッタは我儘だったのにこんなに立派になって」と。 振り返れば記憶が戻る前は嫌いな食べ物が出ると癇癪を起こし、着たいドレスがないと癇癪を起こし…。私めっちゃ性格悪かった!! え?記憶戻らなかったらそのままだった=悪役令嬢!?いやいや確かに前世では転生して悪役令嬢とか流行ってたけどまさか自分が!? でもヘンリエッタ・スタンホープなんて知らないし、私どうすればいいのー!? と、とにかく攻略対象者候補たちには必要以上に近づかない様にしよう! 前世の記憶のせいで恋愛なんて面倒くさいし、政略結婚じゃないなら出来れば避けたい! だからこっちに熱い眼差しを送らないで! 答えられないんです! これは悪役令嬢(?)の侯爵令嬢があるかもしれない破滅フラグを手探りで回避しようとするお話。 または前世の記憶から臆病になっている彼女が再び大切な人を見つけるお話。 小説家になろうでも投稿してます。 こちらは全話投稿してますので、先を読みたいと思ってくださればそちらからもよろしくお願いします。

処理中です...