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第3章 リロイの追憶
13.天才の転落人生
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最近機嫌がいいですね、と部下の魔導士に言われた。
どうしてそう思った? と聞くと、表情が明るいことが多いです、とのこと。
確かに、最近は新しい魔法の開発が順調だし、ラインハルト騎士団長から期待してもらっているし。
あと、毎日魔力の特訓に来る世間知らずのお嬢様が、見てて飽きないからかもしれない。
* * *
僕、リロイ・アイバーソンは、由緒ただしき魔術師家系の貴族で、幼い頃から英才教育を受けていた。
広い屋敷の中には使用人が何十人もいたし、着替えやベッドメイキングも自分でしたことがないような超絶おぼっちゃま人生。
全員男の四兄弟。
その一番末っ子の四男として生まれたが、他の三人の兄には申し訳ないほど、飛び抜けて僕は優秀だった。
魔法学園の幼稚舎に入った直後から、すでに高等部並みの魔力を駆使していたし、飛び級して魔術の勉強どころか、自分で独自の魔術の開発などもできたから。
最も優秀な学生に贈られる、紫綬褒章も14歳の時に史上最年少で受賞した。
――しかしくだらないことに、人ってのは自分の理解の及ばないレベルの人間には、尊敬ではなく、畏怖の感情を抱くらしい。
二つ年上の兄、四つ年上の兄は、家では僕のことを邪険に扱って無視してきたし、十つ年上の一番上の兄は、僕が優秀だから、家督を継ぐのを奪われるのではないかと恐れたのか、何かにつけて遠巻きに嫌がらせをしてきた。
町を歩いていたら蛮族に絡まれて誘拐されそうになったり、試験の結果がズルなんじゃないかと学校に通報したのも、一番上の兄がやったんじゃないかとわかっている。
でもそんなこと僕には関係ない。
魔術学校を卒業した後は、院生として新たな魔術や魔法具の開発をして過ごしていた。
特に、ドラゴンは皮膚が厚く、剣や槍や攻撃魔法ではなかなか倒せないので、体内で内臓から溶かし破裂させるという毒魔法や、毒薬の開発に勤しんだ。
僕の技術は唯一無二の一級品で、すぐに特許をとって軍に対ドラゴン用の毒薬が実装された。
今まで歯が立たなかった凶暴なドラゴンを退治することができ、僕は救世主として褒め称えられた。
当たり前だと思ったし、もっとこの世を明るくしよう、それが僕の使命だと信じていた。
――しかし、やはり愚鈍な愚図たちが僕の栄光を邪魔する。
対ドラゴン用に、厳重に軍に出荷したその特殊な毒薬が、どうやらただの怨恨の人間同士の殺人事件に使われたという。
何百キロもある強大なドラゴンを倒すための毒薬だ。
普通の人間が飲んだら、解毒剤も治癒魔法も効くわけがない。
血を吐き壮絶な死に方をしたと、人々は恐怖した。
どうやら、後継や出世争いをしていた皇族同士の争いに使われたものだから、さらに話は大きくなった。
犯人の皇族の男はすぐに捕まったが、そんな恐ろしい毒薬を作った僕まで同罪だと、憲兵たちが数日後逮捕状を持ってきた。
そして、捕まえるように糾弾していたのが、僕の一番上の兄だってんだから、笑えない話だ。
僕は重い手錠に繋がれ、処刑を待つ牢獄の中に閉じ込められた。
紫綬褒章のついた魔法学校の制服を着たまま、何ヶ月もひとりぼっちで真っ暗な牢屋の中。
「……なんで僕が、こんな目に……」
臭くて汚いまずい飯。
貴族生まれで稀代の天才の僕が、どうして犯罪者に?
僕はただ、魔獣を倒して世界を平和に導きたかっただけだ。
バカでクズな奴らが、いつも僕の足を引っ張ってくる。
それから何ヶ月も閉じ込められ、頬はこけ、目の下には隈ができ、処刑を待つ日々だったが、たまたま牢屋の前を通りかかった看守の話し声が聞こえた。
僕の目の前の牢屋に捕まってるやつに、「毒薬を使った殺人の懲役は、あまり例がないのでまだわからない」だのなんだの、言っているのを。
どうしてそう思った? と聞くと、表情が明るいことが多いです、とのこと。
確かに、最近は新しい魔法の開発が順調だし、ラインハルト騎士団長から期待してもらっているし。
あと、毎日魔力の特訓に来る世間知らずのお嬢様が、見てて飽きないからかもしれない。
* * *
僕、リロイ・アイバーソンは、由緒ただしき魔術師家系の貴族で、幼い頃から英才教育を受けていた。
広い屋敷の中には使用人が何十人もいたし、着替えやベッドメイキングも自分でしたことがないような超絶おぼっちゃま人生。
全員男の四兄弟。
その一番末っ子の四男として生まれたが、他の三人の兄には申し訳ないほど、飛び抜けて僕は優秀だった。
魔法学園の幼稚舎に入った直後から、すでに高等部並みの魔力を駆使していたし、飛び級して魔術の勉強どころか、自分で独自の魔術の開発などもできたから。
最も優秀な学生に贈られる、紫綬褒章も14歳の時に史上最年少で受賞した。
――しかしくだらないことに、人ってのは自分の理解の及ばないレベルの人間には、尊敬ではなく、畏怖の感情を抱くらしい。
二つ年上の兄、四つ年上の兄は、家では僕のことを邪険に扱って無視してきたし、十つ年上の一番上の兄は、僕が優秀だから、家督を継ぐのを奪われるのではないかと恐れたのか、何かにつけて遠巻きに嫌がらせをしてきた。
町を歩いていたら蛮族に絡まれて誘拐されそうになったり、試験の結果がズルなんじゃないかと学校に通報したのも、一番上の兄がやったんじゃないかとわかっている。
でもそんなこと僕には関係ない。
魔術学校を卒業した後は、院生として新たな魔術や魔法具の開発をして過ごしていた。
特に、ドラゴンは皮膚が厚く、剣や槍や攻撃魔法ではなかなか倒せないので、体内で内臓から溶かし破裂させるという毒魔法や、毒薬の開発に勤しんだ。
僕の技術は唯一無二の一級品で、すぐに特許をとって軍に対ドラゴン用の毒薬が実装された。
今まで歯が立たなかった凶暴なドラゴンを退治することができ、僕は救世主として褒め称えられた。
当たり前だと思ったし、もっとこの世を明るくしよう、それが僕の使命だと信じていた。
――しかし、やはり愚鈍な愚図たちが僕の栄光を邪魔する。
対ドラゴン用に、厳重に軍に出荷したその特殊な毒薬が、どうやらただの怨恨の人間同士の殺人事件に使われたという。
何百キロもある強大なドラゴンを倒すための毒薬だ。
普通の人間が飲んだら、解毒剤も治癒魔法も効くわけがない。
血を吐き壮絶な死に方をしたと、人々は恐怖した。
どうやら、後継や出世争いをしていた皇族同士の争いに使われたものだから、さらに話は大きくなった。
犯人の皇族の男はすぐに捕まったが、そんな恐ろしい毒薬を作った僕まで同罪だと、憲兵たちが数日後逮捕状を持ってきた。
そして、捕まえるように糾弾していたのが、僕の一番上の兄だってんだから、笑えない話だ。
僕は重い手錠に繋がれ、処刑を待つ牢獄の中に閉じ込められた。
紫綬褒章のついた魔法学校の制服を着たまま、何ヶ月もひとりぼっちで真っ暗な牢屋の中。
「……なんで僕が、こんな目に……」
臭くて汚いまずい飯。
貴族生まれで稀代の天才の僕が、どうして犯罪者に?
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バカでクズな奴らが、いつも僕の足を引っ張ってくる。
それから何ヶ月も閉じ込められ、頬はこけ、目の下には隈ができ、処刑を待つ日々だったが、たまたま牢屋の前を通りかかった看守の話し声が聞こえた。
僕の目の前の牢屋に捕まってるやつに、「毒薬を使った殺人の懲役は、あまり例がないのでまだわからない」だのなんだの、言っているのを。
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