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第3章 リロイの追憶

14.もう一度陽の光の下

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看守が去ってから、僕は檻を掴み、向かいの牢の中の男に話しかけた。


「お前、僕の作った毒を使って人殺しをしたって奴か…?」


薄汚れた男は、僕の顔と名前を知っていたのだろう。
ひっと息を呑んで怯えていた。

その反応だけで十分だ。


人類を救うために作った毒薬を、チンケな人殺しに使って、僕を地獄に落としやがった張本人。


「……Gravity」


僕は手をかざし、向かいの牢の男に重力の魔法をかけた。

重力を奪われた男は、ふわりと体重を感じずにそのまま宙に浮かび上がる。


「な、なんだよ、これ……!?」

「release」


そして魔力を解放する掛け声を上げると、天井近くまで浮かび上がっていた男が、そのまま床に叩きつけられる。


一番魔力を消費しない、子供でもできる魔術。


ろくに飯も食べれない投獄中の身でも、お前のこと殺すことなんて簡単にできんだよ。


「Gravity、release、Gravity、release」


「うっ、ぐあぁ!」


宙に浮かせて、そして魔力を消しそのまま落とす。宙に浮かせて、落とす。


「や、やめろ……! 
 俺が悪かったから、やめてくれ……!」


頭から血を流し、歯が折れても、何度も何度も繰り返した。


どいつもこいつも僕の足を引っ張るやつばかりで死んでしまえばいいんだ。


騒ぎを聞いて駆けつけた看守に止められるまで、僕はその犯人に向かって報復を止めなかった。



毒薬を作った罪だけでなく、殺人未遂の罪まで加算された僕に、面会に来る者などいなかった。


きっと兄さんたちは高笑いをしながら、優秀で危険な四男坊が家から消えたことを喜んでるんだろうな。


膝を抱えながら、牢屋の隅で処刑台に上る日を待つだけの運命だった。


途方もない時間が過ぎ、ある日錆びた音を立て、牢の扉が開いた。


「こんなところで君の才能が潰えてしまうのはもったいない、リロイ・アイバーソンくん」


金髪で笑顔を浮かべた騎士団の一員と思わしき男性が、優しく声をかけてきた。


「我がラインハルト騎士団の一員になり、魔術師たちの指導役をしてくれないか?」


そう言って、ラインハルト騎士団長は腕を伸ばし、檻越しに煤まみれの僕の手を取った。


貴族の地位を剥奪されて、ただの平民どころか前科者までに落ちぶれた僕に、騎士団長の権威を使い、恩赦してくれたらしい。

もう一度日の光の下を歩けるようになったのは、団長のおかげだ。



僕はこの騎士団で生きるしか他に道はないし、ラインハルト団長の恩義に報いたい。

ぽっと出の聖女なんかに、僕の立場を取られるわけにはいかない。


そう思っていたのに、いつの間にか毎日現れては、僕の無理な要望にも、困りながらこなしていく彼女に、惹かれているのも事実だ。


「リロイ様、錬成できました!」


魔力を練り構築し、宝石を作ることにも慣れてきたようだ。

そう言って、無邪気に笑う顔を誰にも見せたくない。



「へえ、見せて。……だめ、下手くそ。やり直し」

「ええーだめですか」

「細かいところに不純物が入ってる。もっと集中して」

「はーい」



かなり細かい注文をしても、文句も言わずやり直す根性は嫌いじゃないよ。


ルナが眉根を寄せながら、魔力を練っているのを、横で頬杖をつきながら眺める。


ハニーブラウンの髪は、撫でたら柔らかいんだろうな。



コンコン、と扉を叩く音がした。

誰だよ、2人の時間を邪魔する奴は、と内心舌打ちをして席を立つ。


「続けてて」


錬成中のルナには手を止めないように言い、部屋の外に出ると、扉の前にいたのは息を切らした兵士の姿だった。

一分一秒を争うから早く来てくれ、という剣幕。


わざわざ僕の元に尋ねてきた要件を聞き、ため息をつく。
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