41 / 72
第5章 5度めの君との出会い
41、この服を着た俺の隣には
しおりを挟む
ギシ、と足音がしたので顔を上げると、本棚の隙間にレベッカが立ち、こちらを見つめていた。
心臓が跳ね上がる。
「レベッカか、どうしたんだ」
今まさに考えていた人物がそこにいるとは思わなかった俺は、冷静さを取り繕いながら、さっと書いていたノートを閉じた。
「ご機嫌ようクロード様、お勉強の邪魔をしたかしら?」
レベッカの言葉に首を横に振りながら、隣の席を促す。
勉強ではない、この無限ループから抜け出す算段をつけていただけだ、とは言えない。
レベッカはそっと俺の隣の席に座る。
夕焼けのオレンジの光が差し込む、二人だけの図書室。
放課後教室で話していた、一度目と四度目を思い出す。
「俺がいることがよくわかったな」
「先ほどユリウス王子にお聞きしたのですわ」
「ああ……」
じわり、と嫉妬心が胸に滲み出る。
彼女の口から、ユリウスのことを聞きたくはない。レベッカとユリウスが挙げた結婚式の情景を思い出してしまう。
二言三言、試験の話などをしていたら、レベッカが手に持っていたものを俺に差し出してきた。
「これ、この前約束した服を作りました。クロード様に合うパーソナルカラーです」
濃紺のシルク生地のタキシードだ。よく磨かれた金ボタンが光っている。
この前、園庭で採寸していたが本当に作ってくれるとは思わなかった。
「そうか、俺はブルベ冬だからな」
あの時初めて聞いた単語を繰り返すと、レベッカはそうなんです! と嬉しそうに小さく拍手をしていた。
本当に服を作るのが好きなようで、裁縫の難しかった部分などを教えてくれる。
「…ふふ、女性から贈り物をされるなんて、初めてだ」
俺のために時間をかけて作ってくれたというそのタキシードを撫でながら、笑みが漏れる。
服をもらえたことよりも、これを作りながら、俺のことを考えてくれていたのがとても嬉しい。
しかし、同時に思う。
以前レベッカがハンカチにつけてくれた刺繍は、ループをしたら消え、ただの真っ白な無地になってしまった。
やり直せば全てが白紙に戻る。きっとこの服も消えて無くなってしまう。
シルクの袖を撫でながら、もうそんなことにはさせないと奥歯を噛み締める。
今は、思いつく限りの一番良い展開なんだ。
「そのタキシードを着れば、きっとクロード様が舞踏会で一番注目されますよ!」
「……そうかな」
願わくば、この服を着た俺の横には、君がいて欲しい。
心臓が跳ね上がる。
「レベッカか、どうしたんだ」
今まさに考えていた人物がそこにいるとは思わなかった俺は、冷静さを取り繕いながら、さっと書いていたノートを閉じた。
「ご機嫌ようクロード様、お勉強の邪魔をしたかしら?」
レベッカの言葉に首を横に振りながら、隣の席を促す。
勉強ではない、この無限ループから抜け出す算段をつけていただけだ、とは言えない。
レベッカはそっと俺の隣の席に座る。
夕焼けのオレンジの光が差し込む、二人だけの図書室。
放課後教室で話していた、一度目と四度目を思い出す。
「俺がいることがよくわかったな」
「先ほどユリウス王子にお聞きしたのですわ」
「ああ……」
じわり、と嫉妬心が胸に滲み出る。
彼女の口から、ユリウスのことを聞きたくはない。レベッカとユリウスが挙げた結婚式の情景を思い出してしまう。
二言三言、試験の話などをしていたら、レベッカが手に持っていたものを俺に差し出してきた。
「これ、この前約束した服を作りました。クロード様に合うパーソナルカラーです」
濃紺のシルク生地のタキシードだ。よく磨かれた金ボタンが光っている。
この前、園庭で採寸していたが本当に作ってくれるとは思わなかった。
「そうか、俺はブルベ冬だからな」
あの時初めて聞いた単語を繰り返すと、レベッカはそうなんです! と嬉しそうに小さく拍手をしていた。
本当に服を作るのが好きなようで、裁縫の難しかった部分などを教えてくれる。
「…ふふ、女性から贈り物をされるなんて、初めてだ」
俺のために時間をかけて作ってくれたというそのタキシードを撫でながら、笑みが漏れる。
服をもらえたことよりも、これを作りながら、俺のことを考えてくれていたのがとても嬉しい。
しかし、同時に思う。
以前レベッカがハンカチにつけてくれた刺繍は、ループをしたら消え、ただの真っ白な無地になってしまった。
やり直せば全てが白紙に戻る。きっとこの服も消えて無くなってしまう。
シルクの袖を撫でながら、もうそんなことにはさせないと奥歯を噛み締める。
今は、思いつく限りの一番良い展開なんだ。
「そのタキシードを着れば、きっとクロード様が舞踏会で一番注目されますよ!」
「……そうかな」
願わくば、この服を着た俺の横には、君がいて欲しい。
5
あなたにおすすめの小説
ツンデレ王子とヤンデレ執事 (旧 安息を求めた婚約破棄(連載版))
あみにあ
恋愛
公爵家の長女として生まれたシャーロット。
学ぶことが好きで、気が付けば皆の手本となる令嬢へ成長した。
だけど突然妹であるシンシアに嫌われ、そしてなぜか自分を嫌っている第一王子マーティンとの婚約が決まってしまった。
窮屈で居心地の悪い世界で、これが自分のあるべき姿だと言い聞かせるレールにそった人生を歩んでいく。
そんなときある夜会で騎士と出会った。
その騎士との出会いに、新たな想いが芽生え始めるが、彼女に選択できる自由はない。
そして思い悩んだ末、シャーロットが導きだした答えとは……。
表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_)
※以前、短編にて投稿しておりました「安息を求めた婚約破棄」の連載版となります。短編を読んでいない方にもわかるようになっておりますので、ご安心下さい。
結末は短編と違いがございますので、最後まで楽しんで頂ければ幸いです。
※毎日更新、全3部構成 全81話。(2020年3月7日21時完結)
★おまけ投稿中★
※小説家になろう様でも掲載しております。
〘完〙前世を思い出したら悪役皇太子妃に転生してました!皇太子妃なんて罰ゲームでしかないので円満離婚をご所望です
hanakuro
恋愛
物語の始まりは、ガイアール帝国の皇太子と隣国カラマノ王国の王女との結婚式が行われためでたい日。
夫婦となった皇太子マリオンと皇太子妃エルメが初夜を迎えた時、エルメは前世を思い出す。
自著小説『悪役皇太子妃はただ皇太子の愛が欲しかっただけ・・』の悪役皇太子妃エルメに転生していることに気付く。何とか初夜から逃げ出し、混乱する頭を整理するエルメ。
すると皇太子の愛をいずれ現れる癒やしの乙女に奪われた自分が乙女に嫌がらせをして、それを知った皇太子に離婚され、追放されるというバッドエンドが待ち受けていることに気付く。
訪れる自分の未来を悟ったエルメの中にある想いが芽生える。
円満離婚して、示談金いっぱい貰って、市井でのんびり悠々自適に暮らそうと・・
しかし、エルメの思惑とは違い皇太子からは溺愛され、やがて現れた癒やしの乙女からは・・・
はたしてエルメは円満離婚して、のんびりハッピースローライフを送ることができるのか!?
ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない
魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。
そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。
ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。
イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。
ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。
いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。
離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。
「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」
予想外の溺愛が始まってしまう!
(世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。
※他サイト様にも掲載中です
【完結】溺愛?執着?転生悪役令嬢は皇太子から逃げ出したい~絶世の美女の悪役令嬢はオカメを被るが、独占しやすくて皇太子にとって好都合な模様~
うり北 うりこ@ざまされ2巻発売中
恋愛
平安のお姫様が悪役令嬢イザベルへと転生した。平安の記憶を思い出したとき、彼女は絶望することになる。
絶世の美女と言われた切れ長の細い目、ふっくらとした頬、豊かな黒髪……いわゆるオカメ顔ではなくなり、目鼻立ちがハッキリとし、ふくよかな頬はなくなり、金の髪がうねるというオニのような見た目(西洋美女)になっていたからだ。
今世での絶世の美女でも、美意識は平安。どうにか、この顔を見られない方法をイザベルは考え……、それは『オカメ』を装備することだった。
オカメ狂の悪役令嬢イザベルと、
婚約解消をしたくない溺愛・執着・イザベル至上主義の皇太子ルイスのオカメラブコメディー。
※執着溺愛皇太子と平安乙女のオカメな悪役令嬢とのラブコメです。
※主人公のイザベルの思考と話す言葉の口調が違います。分かりにくかったら、すみません。
※途中からダブルヒロインになります。
イラストはMasquer様に描いて頂きました。
お人好しの悪役令嬢は悪役になりきれない
あーもんど
恋愛
ある日、悪役令嬢に憑依してしまった主人公。
困惑するものの、わりとすんなり状況を受け入れ、『必ず幸せになる!』と決意。
さあ、第二の人生の幕開けよ!────と意気込むものの、人生そう上手くいかず……
────えっ?悪役令嬢って、家族と不仲だったの?
────ヒロインに『悪役になりきれ』って言われたけど、どうすれば……?
などと悩みながらも、真っ向から人と向き合い、自分なりの道を模索していく。
そんな主人公に惹かれたのか、皆だんだん優しくなっていき……?
ついには、主人公を溺愛するように!
────これは孤独だった悪役令嬢が家族に、攻略対象者に、ヒロインに愛されまくるお語。
◆小説家になろう様にて、先行公開中◆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる