オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水

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第1章

3話 オバちゃんの遭遇

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 ケツァルの感を頼りに泉の森を抜けると、そこには見晴らしのいい草原が広がっていた。電柱やビル、高い建物がまったくない。
 遠くには木の柵に囲まれた村らしきものが見え、それに続く道が草原の真ん中を通っていた。
 アスファルトではない土を固めただけの道は、どこか懐かしい感じがする。オバちゃんの足腰にとてもやさしい。
 リコは歩きながら、自分の肩にちゃっかりと乗るケツァルに話しかけた。

「異世界なのに、なんか普通の田舎みたいだねぇ。変な植物とか変な生き物は……いたか。あははは。あー空気が美味しい」

「……リコよ……随分と余裕のようじゃな」

「えーだって、やっぱ異世界じゃん! ワクワクするじゃん!」

 目を輝かせるリコに、ケツァルは「はぁ」とワザとらしい溜息を吐く。

「緊張感のない奴じゃのう……それにじゃ! 何度も言うがワシは神とも崇められるドラゴ――」

「――はい、はい。最高神のドラゴンなんだよねー? でもさー、そのドラゴンのおかげでー、鞄をなくしたんだけどー、どうしてくれんのー?」

 リコはさっき「インスタ映えしそう」とケツァルの写真を撮ろうして、携帯どころか鞄すらないことに気づいたのだ。
 泉の周りを隈無く探したが見つからず『きっとケツァルに巻き込まれた時に、鞄だけリコの世界に取り残された』という説が濃厚となった。
 何も言い返せないケツァルに、リコはクドクドと説教を始める。

「まったく、財布とか携帯とか大事な物がいっぱい入ってるのに! もし、悪い人に拾われて悪用でもされたらどうするのよ。大体、ケツァルは後先――」


「――ねぇ、そこで何してんの?」


 永遠に続くと思われたリコの小言は、初めて聞く声に突然断ち切られた。
 ロボットの如くカクカクカクと、声の発生源に頭を動かすリコとケツァル。
 すると、ひとりの青年とバチッと目線がぶつかった。
 その青年はよく牧場で見かける門の柱に寄りかかり、腕組みしながらリコたちをガン見している。
 話に夢中だったリコたちは、知らない間に村まで辿り着き、入り口でワーワー騒いでいたらしい。

(ヤ、ヤバい。キャラ設定とか何も考えてない。どうしよう)

 どう答えようかと頭をフル回転させているリコを余所に、青年が目の前までやって来た。その目は明らかに、不審者を見る目つきである。

「もしかして……旅の人?」

(あれ? ……そう言えば、なんで日本語? んー、この際なんでもいいか。日本人のオバさんに、優しい異世界万歳! ――ってことで)

「そ、そうです。旅の人です」

「ふーん。で、その肩に乗ってるの魔獣?」

(おお、さすが異世界人! ケツァルに動じないとは! でも……やっぱりいるんだ魔獣! ぜひ、お目にかかりたいものだ!)

 リコは、喜びに胸を躍らせ返事を返す。

「ええ。友達のケツァルです。一緒に旅をしているの」

 リコがそう告げた途端、青年の顔つきが変わる。まるで信じられないものを見るような目で、リコたちを見つめた。

(な、何? 私、マズイこと言った?)

 この場に気まずい空気が流れる。
 ジリジリとした状況が極限まで達したその時、リコとケツァルの腹の虫が同時に鳴り響いた。
 その盛大な音に目を丸くした青年は、やがて「あははは」と豪快に笑う。

「気に入った! あんたたち気に入ったよ。ウチに来な。メシ食わせてやるよ」

 目まぐるしく変わる青年の態度に、若干の戸惑いを感じつつリコとケツァルは頷き合う。
 異世界の村に入り込む絶好のチャンス。これを逃してはならない。
 リコたちは青年の好意に、遠慮なく甘えることにしたのである。
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