オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水

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第8章

3話 オバちゃんのモフモフ遊戯

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 季節が瞬く間に変わり、ヨーク村での生活が一年を過ぎようとしていた。
 そんなある日のこと――。

「リコさーん!」

「リコー! 会いたかったわー!」

 名を呼ばれリコが振り向く。
 するとそこには、ルカとルイの元気よく手を振る姿があった。その隣には、グラウとアスワドもいる。
 リコは久しぶりのルカたちの訪問に、喜び勇んで駆け寄った。

「うわー! 久しぶりね! 皆、元気だった?」

「うん! 元気、元気! ねぇ、ルイ姉さん!」

「ええ。だけど……半月もリコに会えなくて寂しかったわ。あら? リコ、少し痩せた?」

「え? マジ? 超嬉しい! 中高年は大変なんだよー。痩せ難いからさー!」

 大はしゃぎするリコ。だが彼女は……ふと、あることに気づく。

「えーと。グラウはどうしたのかな? なんか遠巻きに私を見てるんですけど……」

 ルカたちは、グラウに目を遣る。
 リコの言う通りであった。
 皆から少し離れたところで、ひとりポツンと佇んでいる。しかも、チラチラとリコを盗み見しながら……。
 そんな中、アスワドがリコに耳打ちする。

「リコさん、貴方は禁断の扉を開いてしまったのです。きっとアレはリコさんに呼ばれるのをウズウズと待っているのですよ。どうぞ、彼の名を呼んであげてください」

「は? 何それ?」

「リコさんがご自分で招いた結果ですよ。貴方の手練手管によって、彼はリコさんの玩具に……いいえ、よく躾けられた愛玩具になってしまったのです。かく言う私もリコさんの愛玩具ですけどね。さぁ、リコさん! どうぞこのアスワドを辱めてください!」

 目をランランと輝かせ絡んでくるアスワド。
 リコは「ちょーっと、こっちに来ようか!」とアスワドの首に手を回し、自分に引き寄せた。そして、低い声で囁く。

「アスワドさん。子供たちの前で、そういういかがわしい言い方は、やめてくれるかな?」

 リコのほのかな殺気に気づいたアスワドは、顔を引き攣らせる。
 だが……ほんの少し嬉しそうなのも否めない。
 流石、ドM狼男である。

「は、はい! 今後気をつけさせて頂きます!」

「ほーう……分かればよろしい」

 そう囁くとリコは、ダメ押しとばかりに、アスワドの黒い耳へ「ふぅー」と息を吹きかけた。

「ひぃーーっ!」

 耳を押えて、へたり込むアスワド。

「まったく、失礼しちゃうわね! 何が禁断の扉よ!」

 腰に手を当てプリプリ怒るリコに、ルイとルカが声をかける。

「リコ、そのくらいにしてあげて。後でワタシも叱っとくから……」

「リコさん、ボクからもお願い! それよりもね。早くグラウを構ってあげてくれる? 実はね。この前ボクたちが、リコさんに会いに来た時、グラウを連れて来なかったでしょう? だからかなり拗ねてて……」

 ルカがもう一度、グラウに目を遣る。
 リコも釣られて目を向けると、グラウの寂しそうな目と視線が合った。
 だが、その視線はすぐに逸らされ、今度は伏し目がちにリコを見つめてくる。

(はっはーん。そうだったのか。だからあんなモジモジして……まったく、可愛い奴だな!)

「よーし、分かった! 私、この前の分も全力でモフモフしてくるね!」

 グラウのいじらしい様子に機嫌をよくしたリコは、腕を大きく回し、体をボキボキと鳴らした。

「グラウー! 会いたかったよーーーーっ!」

 リコがグラウに向かって、思い切りダイブした。
 グラウは、待ってましたとばかりに前足を広げ、ガッチリとリコを受け止める。

「おお! リコ! 私も会いたかったぞ!」

 リコは、グラウのお腹の上に腹ばいになった。そして、顔をモフモフした毛皮にガバッと埋め、全力でグリグリ擦りつける。

「グラウーーッ!」

「ウオォーーン!」

 グラウは目尻を下げ、喜びの雄叫びを上げた。
 その様子を苦笑いで見守るルカとルイ。
 そして、アスワドは地面に転がりひとり悶絶する。

「もう、リコさんたら! これを禁断の扉と呼ばずして、他になんと言うのですか! ああ! 私も! 私もこの身を捧げたーーいっ! リコさーん!」

 リコはまた……別の厄介な扉を開いたようであった。
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