秘密のキスの仕方を教えて~女装男子が幸せな恋が出来るまで~

水沢緋衣名

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晴天の霹靂……?

晴天の霹靂……? 第一話

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 好きになりかけてる。
 そう気付いてしまっても正直踏ん切りの付かない自分がいる。
 グチャグチャになったウィッグの状態を見ながら、正直奈苗に怒られそうだと深く溜め息を吐く。
 最低限の修復をしながら、瞬ちゃんが自分の身体をシャワーで流している音を聞いていた。
 瞬ちゃんに抱かれたいと思った。愛しいと思ってしまった。好きになりかけている事を自覚した。
 だけど今の俺と瞬ちゃんは、正直拗れに拗れ切って関わっている。
 
『……それって同情?』
 
 頭に瞬ちゃんの言葉が蘇りほんの少しだけまた落ち込む。
 今好きになりかけている事が解って好きになってしまっても、瞬ちゃんに好きと伝えたところで多分信じない。
 それに信じて貰えたとしても俺たちは今更どうするのだろうか。
 逆にこんな滅茶苦茶に始まっておきながらまともに恋が出来ると思えない。
 シャワーの水音が止まり湯気を出しながら瞬ちゃんがお風呂から出てくる。
 その熱っぽい表情を見た瞬間に胸が軽く締め付けられた。
 この感覚を俺は良く知っている。秀人に対して良くなっていたやつだ。
 秀人に対して恋を認めたその時になっていた感覚。
 
「………どうした?身体辛いか?」
 
 瞬ちゃんがそう囁いて濡れた髪をタオルで拭いている。
 俺の顔色を覗き込む様に見ながら、鏡の前に腰かけた俺の肩を撫でた。
 
「や……、大丈夫!!身体は平気……!!」
 
 そう返せば瞬ちゃんは安心した表情を浮かべ俺の背後で着替えを始める。
 瞬ちゃんの綺麗な背中が鏡の中で動く度に、あの身体に抱かれたんだと思った。
 メイクを直す仕草をしながら鏡越しに映る瞬ちゃんの着替えの動作を見つめる。
 何をしていてもどう動いていても瞬ちゃんは絵になって仕方ない。
 瞬ちゃんが鏡越しに俺の方を見て、ほんの少しだけ不思議そうな表情を浮かべる。
 それから少しだけ気恥ずかしそうな様子で瞬ちゃんが微笑んだ。
 
「……どうした?やけに目が合うな?」
 
 見ているのがバレている。
 そう思って慌てて瞬ちゃんの方から視線を外せば、瞬ちゃんが俺の背後に来る。
 そして俺の身体を後ろから抱きしめて俺の首筋に唇を寄せた。
 何時も普通にしている筈の行為のはずなのに、今日は異様にドキドキする。
 思わず瞬ちゃんの方を見れば瞬ちゃんのが俺の唇に唇を重ねた。
 
「祐希、ありがとうな。……あとごめん」
 
 ごめん?思わず言葉の意味が解らずに固まれば、瞬ちゃんがほんの少しだけ寂し気に笑う。
 ごめんって何?ごめんってどういう事?
 思わず心が焦りだす。
 
「え………なんでごめんなの?」
 
 俺がそう返事を返せば瞬ちゃんが俺に囁いた。
 
「初めて……好きな人が良かったろ?俺が貰ってごめん」
 
 瞬ちゃんの中では俺は秀人が変わらず好きな儘だ。
 俺だってさっき瞬ちゃんの事を好きになりかけてるのに気付いたばかりだ。
 瞬ちゃんが今の俺の気持ちに気付く訳がない。
 
「ちょっと待って瞬ちゃん……俺瞬ちゃんが良いって言ったよ?」
 
 俺がそう言った瞬間に部屋の電話が鳴り響く。瞬ちゃんは俺から離れて電話を取った。
 
「はい…………解りました………。
あと10分だって」
 
 瞬ちゃんは受話器を置いて俺を見て静かに笑う。
 この時に俺は今更、この人を傷つけ過ぎたことに気が付いた。
 
「祐希早く着替えて飯食いに行こう?な?」
 
 瞬ちゃんは俺の話を遮るかのように笑い帰りの準備を始める。
 この時に俺は瞬ちゃんへの自分の気持ちの伝え方が解らなくなっていた。
 慌ただしく着替えを済ませて瞬ちゃんと二人でホテルから出る。
 この時に瞬ちゃんは俺に対して異様に気を使っているような気がした。
 多分今俺が瞬ちゃんに伝えたい言葉は真っ直ぐに伝わってくれない。
 今どう頑張ってもちゃんと伝わることが無い。
 何時も通りに瞬ちゃんの運転するSR400の後ろに乗り街に出る。
 他愛無い会話もこの時ばかりは上手く出来なくて、ただ変わる街並みの光景を見ていた。
 今更遅いのかもしれない。そう思ってしまったら悲しくて心がズキズキ痛む。
 正直瞬ちゃんに対して不義理だった俺を、今は心から殴りたい。
 
 バイクパーキングにバイクを置いて瞬ちゃんが俺の手を握る。
 俺は何も言えないままで瞬ちゃんの手を握り返した。
 なんの言葉で伝えればちゃんと伝わるのだろう。
 考え込めば考え込むだけ瞬ちゃんに何も言えなくなる。
 
「身体やっぱり辛いか?」
 
 瞬ちゃんにそう言われた瞬間に、自分が如何に何も話してなかったのかを思い知る。
 なるべく明るく振る舞っておかなければと思い俺は小さく笑った。
 
「……ちょっとだけ!まさかあんなにイっちゃうと思わなかったし」
 
 悪戯っぽく答えてみれば瞬ちゃんがほんの少し機嫌を良くしたのが肌で解る。
 そして俺は今はなるべく明るく振る舞う事に決めた。
 大事な話はちゃんとしっかり言葉を考えて、瞬ちゃんに伝えなければならない。
 長い間俺はそれ相応の不義理をしてきたのだ。
 
「折角だし飯食おうか。バイクの話もしてえし」
「うん、食べよう。あんまり俺たち外食もしないしね」
 
 二人で並んで恋人の様に歩く。楽しい話をしている間は俺も瞬ちゃんも自然体だ。
 今だからこそ、楽しく過ごしておいた方がいい。
 瞬ちゃんと一緒にいる事が楽しいと、瞬ちゃんに伝える為にもこうしていたい。
 
***
 
 いざ外食となってしまった時に質より量を選んでしまうのは男の性である。
 何を食べたいかと聞かれてしまえば、食べ放題の焼肉が魅力的だった。
 自分が女装をしているのをすっかり忘れた状態で、バイクの話をしながら焼肉を食べる。
 幾ら女の姿と形をしていても胃袋が男な事は変えられない。
 
「俺たち結構飯くったな……」
 
 立ち上がった瞬ちゃんがそう言いながら腹を抑えながら店から出る。
 俺もほんの少しだけ履いているショートパンツが、心なしかきつい気がしていた。
 
「ほんと、あともう寝るだけってくらいじゃない……?」
 
 瞬ちゃんと夜の街を歩きながらバイクを停めたバイクパーキングに向かう。
 その時背後から聞き慣れた声がした。
 
「天城先輩!!!」
 
 瞬ちゃんが立ち止まり声の方に向かい振り返る。その瞬間に瞬ちゃんの表情が強張ったのを感じた。
 声のほうに目を向けた瞬間に俺も言葉を失う。
 其処にいたのは秀人だった。
 
「あ、ああ………お疲れ……」
 
 瞬ちゃんが懸命取り繕っている事が肌で解る。
 すると秀人は一度だけチラリと俺を見た。
 バレる。終わった。詰んだ。
 正直そう思った瞬間に秀人は俺にただ会釈をする。
 そして瞬ちゃんの方を見ながら、和やかに会話を始めた。
 ………………あれ?もしかしてバレてない?
 
「天城先輩デートですか?彼女さん滅茶苦茶綺麗ですね!!!」
 
 バレてない!!!!!
 正直バレてないのは不幸中の幸いだ。それにバレてない方が都合がいいことも解る。
 でも今俺はとても複雑な気持ちを抱えていた。
 瞬ちゃんは俺の女装にすぐ気付いてくれたけど、秀人はまるで気付かない。
 秀人が如何に俺に普段から興味が無いのかが、この瞬間によくわかる。
 けれど俺は不思議ともう、それに対して傷付かなかった。
 
「………そんなんじゃねぇから」
 
 瞬ちゃんが少しだけ不機嫌そうに吐き捨てた瞬間、思わず胸が痛む。
 その時に俺は瞬ちゃんの言葉に傷付いてしまった。
 
「なんかお邪魔しちゃってすいません!!おやすみなさい!!」
 
 去ってゆく秀人の背中を見送り瞬ちゃんの背中を追いかける。
 この時に瞬ちゃんの表情は悲しそうで、何の言葉をかければいいのかさえ分からなかった。
 瞬ちゃんはほんの少しだけ歩くのが早くて、置いて行かれそうで不安な気持ちになる。
 ライダースジャケットの裾をやっと掴んだ時、瞬ちゃんが俺の方を見た。
 瞬ちゃんいっぱいいっぱいの顔をしてから無理に取り繕う。そして俺にこういった。
 
「………アイツに綺麗って言って貰えてよかったな」
 
 この時に俺は本気でヤバイと思っていた。
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