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晴天の霹靂……?

青天の霹靂……? 第三話

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 近くの公園のベンチに腰掛けて秀人と二人で話し合う。
 秀人が俺の話を聞きながらただあんぐりと口を開けている。
 俺は好きな人がいたことは勿論話せてなかったし、そういう身体の関係になった人の話は誤魔化した。
 隠さなければならないことを隠して話せば、俺は割と最低な男でしかない。
 
「え……じゃあセックスして今避けられてんの……?その女の子可哀想じゃない……?
抱いといてその状態はダメだって……」
 
 だよね!?そういう反応に普通なるよね!?
 そうだよね!?
 でも俺が抱く側ではなくて、抱かれてるの俺なんだけどね!?
 
「だよね………」
 
 色々言いたい気持ちは割愛しながら、言わなければいけない単語のみを伝える。
 すると秀人が深く溜め息を吐いて頭を抱えた。
 
「いやー、その子に『同情?』とか聞かれる前に相談してよ……」
「そうだよね、ごめん……」
 
 秀人のごもっともな応えに謝罪を述べれば、秀人が少しだけ何かを考えるような表情を浮かべる。
 それから少しだけ俺の顔を見て安心したような優しい顔をした。
 
「……でもそれ答えって簡単だよ。祐希が好きだって言うだけだから。
ちゃんと貴女が好きですって告白したらいい」
 
 告白をする。そういえば俺は昨日の段階で瞬ちゃんに、好きと言わなかったことを後悔した。
 信じてもらう為に大切な話をするのは、本当に大事な事だと改めて思う。
 
「そうだよな……やっぱ伝えなきゃ解んないよね……」
 
 自分でちゃんと言葉を組み立てて、思いを伝えなければいけない。
 まだ良い愛の伝え方なんて解らない。けれど、駄目でも話す価値がある。
 
「………大分顔マシになったから良かった。さっきまでのお前は鬼気迫るものがあった」
 
 秀人がそう言いながらからかうように笑い、俺はなんだか今更気恥ずかしくなる。
 すると秀人が俺に、トンでもないことを言い出した。
 
「もし上手く仲直り出来たらさ、彼女何時か会わせろよ?
Wデート出来るじゃん!!」
 
 ………それは出来ない!!無理!!
 ていうかもう会ってる!秀人が怖がってたあの人です!!
 思わず苦笑いを浮かべて誤魔化す方法を考える。
 
「あ、いや………彼女人見知りでちょっと面倒だから厳しいかも………」
 
 俺がそう答えれば、秀人は残念そうな表情を浮かべた。
 
「そうか、じゃあ何時か写メ見せて」
 
 写メ……。
 辛うじて瞬ちゃんにメイクをして、目茶苦茶加工さえすれば出来なくないかもしれない。
 でも多分瞬ちゃんの事だから、女装はしてくれない気がする。
 
「……彼女写真苦手だからどうかなぁ………?まぁ、考えておくよ……」
 
 俺がそう言って目を游がせれば、秀人は嬉しそうにニコニコ笑っている。
 秀人の事は本当にいい奴だと思ってはいるが、こういう所は対応に困るのだ。
 
「早く話してやれよ!頑張れ!」
 
 秀人がそう言いながら、俺の背中を押してくれる。
 俺はそれに笑い返して瞬ちゃんに伝える愛の言葉を考えていた。
 
***
 
 瞬ちゃんが帰ってくるであろう時間は、多分早朝近くになると思う。
 平日の深夜に女装をしてこっそりと家を抜け出す。キャリーバッグを転がしながら深夜の道を歩む。
 明日は大学を完全にサボるつもりだ。
 今日のコーディネートは真っ白なワンピースと、ストレートのロングヘアのウィッグ。
 足元は真っ白なパンプスを履いた。
 瞬ちゃんの部屋の前に着き俺は小さく気合を入れる。
 瞬ちゃんが帰ってくる迄、瞬ちゃんの家のドアの前で座り込む。
 
 
 真っ暗な世界の中で、まだまだ上手く組み立てれない言葉を考える。
 ただ好きだと伝えれば良いだけなのは解っているけれど、なかなかいい言葉が思いつかない。
 好きな人に好きだと伝えるのは生まれて初めてだ。
 なるべく素敵な言葉が良い。沢山傷付けてしまった分だけ優しくしてあげたい。
 素敵な言葉を与えてあげたい。
 真っ暗な空を眺めながら瞬ちゃん帰って来るのを待つ。
 瞬ちゃんの住んでいる古い小さなアパートの玄関のコンクリートは、何だか自棄に冷たくて仕方ない。
 同じ体制のままで待っていれば、だんだん身体が疲れてきた。
 
 
 仄かな眠気に襲われながら身体をドアに預ける。流石に昨日の今日のだと身体が辛い。
 一応俺はこれでも一昨日初めての経験をした訳で、身体に異様に疲れが残っている。
 ほんの少しでも気を抜けば、多分俺は此処で寝てしまう気がするのだ。
 時計を確認してみれば朝四時手前を差していた。
 せめて瞬ちゃんが帰って来るまで、起きていたい。
 身体がだんだん冷えてゆくような感覚がして、力が入らなくなってゆく。
 そして体勢が崩れた瞬間に目が醒める。
 何度も何度もそれを繰り返しながらも、瞬ちゃんが帰って来るのを待っていた。
 
「逢いたいな…………」
 
 瞬ちゃんに逢いたい。
 こんな風に思うのは正直初めてかもしれない。
 そう思っていれば聞きなれた排気音が聞こえてきた。
 階段を上る足音が俺に近付いてくるのが解る。
 瞬ちゃんの部屋のすぐそばの踊り場で、その足音が止まった。
 
「………祐希?」
 
 聞きたかった声に胸が弾んで、思わず涙が出そうになる。
 声の方を見れば瞬ちゃんが泣き出しそうな表情を浮かべて立っていた。
 
「瞬ちゃん!!」
 
 名前を呼んだ瞬間に涙が溢れて止まらない。
 すると瞬ちゃんは階段を駆け上がって、俺の身体を抱きしめた。
 
***
 
「まず謝らせてほしい。本当にごめん」
 
 瞬ちゃんがそう言いながら、俺の目の前で頭を下げる。
 床に手を付いて土下座をするような瞬ちゃんの謝る姿を、俺は正直見るのは二回目だ。
 
「ううん、俺の方こそごめん」
 
 沢山傷つけてごめん。こんなに大切にしてくれてるのに、大事に今まで出来なくてごめん。
 瞬ちゃんは首を左右に振り、俺の身体に腕を伸ばす。
 瞬ちゃんの腕に抱かれながら俺は瞬ちゃんに囁いた。
 
「…………あのさ瞬ちゃん。俺ね、瞬ちゃんに話があるんだ」
 
 俺がそう言った瞬間に、瞬ちゃんが少しだけ寂し気に笑う。
 この感じだと多分瞬ちゃんは余り良い事を考えていない。
 
「……もう、お役御免か?」
 
 思いっきり卑屈な言葉を口にしながら瞬ちゃんが笑う。
 この人をこんなに傷付けたのは誰でもない俺なのだ。だからこそ絶対にこの人を幸せにしたい。
 俺は瞬ちゃんの目の前で首を左右に振った。
 
「違うって。ちゃんと俺の話聞いて欲しい」
 
 真っ直ぐに瞬ちゃんの目を見つめながら、その頬を撫でる。
 すると瞬ちゃんはほんの少しだけ頬を赤く染めた。
 
「なんだよそんなに改まって………」
 
 瞬ちゃんが茶化すように笑い、俺から目を叛けた。
 上ずりそうな声を必死で抑えながら、瞬ちゃんの顔を俺の方に向ける。
 そして瞬ちゃんと無理矢理目を合わせた。
 
「こっち見て……」
 
 縋るように甘える様に囁けば瞬ちゃんの喉が上下に動く。
 瞬ちゃんを幸せにしてあげられる言葉を、紡ぎだしたい。
 
「好き…………」
 
 俺がそう囁いた瞬間に、俺の指先が震えるのが解る。
 瞬ちゃんは目を見開いて呟いた。
 
「嘘……?」
 
 瞬ちゃんの声が震えているのが解る。
 長い睫毛が揺れるのを俺はじっと見つめていた。
 顔を真っ赤に染め上げてから、俺の身体を長い指先の手で掴む。
 細かな指先の振動を感じながら俺はに笑って見せた。
 
「ホント。瞬ちゃんが好きなんだ……。俺今瞬ちゃんに恋してる……!!!」
 
 瞬ちゃんの腕がきつく俺の身体を抱きしめて、身動きが出来なくなる。
 俺の身体を抱きしめている瞬ちゃんの顔を覗き込めば、瞬ちゃんはほんの少しだけ涙目になっていた。
 瞬ちゃんの身体を更に抱き返して、きつく抱きしめ返す。
 
「……付き合ってくれる?」
 
 柔らかい髪を撫でながらその耳元で甘く囁く。
 瞬ちゃんは俺の腕の中で小さく頷いた。 
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