秘密のキスの仕方を教えて~女装男子が幸せな恋が出来るまで~

水沢緋衣名

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君の秘密を教えて

君の秘密を教えて 第二話

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 目覚めたら隣には瞬ちゃんが眠っている。
 そして何時も通りに俺の身体を抱き枕代わりにしているのだ。
 何時もと少しだけ違っている事は、今の俺と瞬ちゃんはやっと恋人同士になったという事だ。
 眠る瞬ちゃんの顔を見ていれば瞬ちゃんの目がゆっくり開く。
 
「……祐希、おはよ」
「おはよ」
 
 俺たちは二人で見つめ合いながら小さく笑った。
 恋人関係になって一日目の目覚めは、最高にハッピーだ。
 

 
『無事に仲直りできたよ。ありがと。そして恋人が出来ました』
 
 メッセージを秀人に送りながら、心地の良い気怠い身体のままで顔を上げる。
 出勤前の瞬ちゃんと二人でハンバーガーを頬張りながら、束の間のデート気分を味わう。
 だけど今の俺の格好は女装ではなくて、なんの変哲もない男の服にスッピンだ。
 瞬ちゃんから借りた適当なTシャツに適当なジャージ。
 デートというには俺は少しだけラフ過ぎた。
 
「………なんかこの格好でいるの久しぶりかも」
 
 久しぶりにありのままの俺の姿で外に出た。
 こっちの格好で街に出る方が違和感が湧く位に、女の子の姿で過ごし過ぎた。
 それに瞬ちゃんと一緒に歩くんなら、可愛い俺が良かったとさえ思う。
 
「なんか久しぶりにお前に逢えた気がするよ」
 
 瞬ちゃんがそう言いながら、ハンバーガーを一口齧る。
 ハンバーガーを食べているその姿も男前で、これが俺の恋人かと思うと何だか誇らしい。
 やっぱりこのいい男の姿を見てしまえば、可愛い俺で居たかったと思う。
 
「あー、瞬ちゃんと一緒だったら、お洒落すればよかったな」
 
 俺がそう言って嘆けばハンバーガーを食べる手を瞬ちゃんが止める。
 瞬ちゃんが何かを話そうという動作をした時、俺の携帯電話に即座に秀人から返信が返ってきた。
 
『おめでとう!!彼女の写メ宜しく!!!』
 
 …………写メは無理だ!!!
 俺がそう思った瞬間に、瞬ちゃんがほんの少しだけ不機嫌そうな顔をする。
 
「………祐希携帯ばっかで寂しい」
 
 瞬ちゃんがそう俺に言う所も何だかとても可愛く見えて、思わず胸がときめく。
 今完全に俺はこの世の春であった。
 
「まってまって、今秀人に恋人できたって連絡したとこだから」
 
 秀人の名前を口にした瞬間に瞬ちゃんは呆れた顔をする。
 けれど秀人に恋人が出来たと伝えた事は、ほんの少しだけ安心をしているようだ。
 瞬ちゃんはあんまり表情に感情は出ない方ではあるが、何を考えているのかは手に取るように解る。
 すると瞬ちゃんがいきなり、しみじみとこんな事を言い出した。
 
「…………お前、今俺のものなんだな……一生手に入らないと思ってた」
 
 そういって優しい表情を浮かべた瞬ちゃんに、思わず胸が高鳴る。
 改めてこんなことを言われてしまうと何だか気恥ずかしい。
 瞬ちゃんは俺と違って大切な言葉をちゃんと投げつけてくる。
 この形の良い唇から溢れる素直な言葉が愛しい。
 
「……俺今瞬ちゃんの恋人だよ?」
 
 俺もそう返してみれば、瞬ちゃんがほんの少しだけ気恥ずかしそうに笑う。
 恋人で生きていくのであれば、これからもっと色んな顔の瞬ちゃんが見れる。
 この人をもっと沢山幸せにしたいと思った。
 瞬ちゃんが仕事の時間になるまではまだ時間がある。
 ファーストフード店に置いてある時計が、今は夕方の4時くらいだと教えてくれた。
 
「よし………じゃあ可愛い恋人つれて、もう少しデートでもしようかな」
 
 瞬ちゃんがそういった瞬間に、ドリンク片手の俺は固まる。
 この男の姿の俺目掛けて可愛いなんておかしい。
 正直予想していなかった返答に顔を赤く染めれば、そんな様子の俺の頭に瞬ちゃんは手を置く。
 そしてとても優しい声で囁いた。
 
「さっきお前がお洒落すれば良かったって言ってたけど………俺はお前が女の格好する前からお前が好きだから。
俺にとってお前が可愛くなかった事がない」
 
 何それ反則。俺は完全に返す言葉を無くす。
 顔中を真っ赤に染め上げたままで、瞬ちゃんに見とれてしまっていた。
 瞬ちゃんは照れ隠しなのか目を逸らし、ほんの少しだけぶっきらぼうにこう言いながら立ち上がる。
 
「………出掛ける時間無くなるからいくぞ」
「あっ、うん………!!!」
 
 瞬ちゃんの背中を追いかけながら街の外に飛び出す。
 そして何時も通りに大好きなSR400に乗って走りだした。
 見慣れた街並みも何だか今日は景色が違って見えて、全てがまばゆくて真新しい。
 俺は瞬ちゃんの背中に抱き付いて、二人にしか聞こえない声で囁いた。
 
「………愛してる」
 
 信号待ちの瞬ちゃんの耳元がほんの少しだけ赤いような、そんな気がしている。
 静かな儘で俺に言葉を返してこなくても、この言葉が伝わったのが背中だけで解った。
 
「瞬ちゃんどこ向かってるのー?」
 
 バイクで向かい風を切りながら進む瞬ちゃんに問い掛ければ、瞬ちゃんがヘルメット越しに大きな声を出す。
 
「ちょっと用事!!」
 
 瞬ちゃんは俺に何処に行くのかを教えてくれない。
 気が付けば瞬ちゃんのバイクが小さな鍵屋の前で停まった。
 鍵屋に何か用事なんてあるのだろうかと思いながら中に入ると、瞬ちゃんが自分の家の鍵を取り出す。
 
「………俺んちの鍵あったら、お前ドアの前で待たなくていいだろ?」
 
 合鍵!!!すごい恋人同士感がする!!
 瞬ちゃんの家の出入りがこれから自由になるのかと思うと、改めて不思議な感じだ。
 暫くして鍵が出来上がり瞬ちゃんが俺にそれを手渡す。
 シンプルで小さな銀色の鍵。
 
「ありがと………」
 
 瞬ちゃんが近くにあった自動販売機にお金を入れる。
 そして缶コーヒーを取り出して一本俺に手渡した。
 コーヒーを開けて口に含んだ瞬間に瞬ちゃんが狙った様に囁く。
 
「………これでお前が変な下着履いて俺の家来ても寒く無くていいな」
 
 思わずコーヒーを吹き出しそうになるのに耐える。
 局部穴あきの下着の件はまだ引っ張られるのか俺は……!!!
 俺は呆れた様に瞬ちゃんを見た。
 SR400に乗りながら俺の家に向かう最中、人気のない道をわざと選ぶ。
 人のいなくなった夕方の公園で俺は瞬ちゃんとキスをした。
 俺が男の姿のままでも瞬ちゃんは俺を愛してくれる。幸せだと本気で思った。
 
***
 
 最近の俺の女装は誰かの為じゃない。
 俺が可愛い俺でありたいが為に着ている。
 気が付いたら俺の女装は完全なる趣味に変わった。
 復讐心で女装をするような事は今ではしてはいないけど、それでも世界一可愛いのは俺だと思う。
 
「よし、じゃあ行ってくるね」
 
 今日のコーディネートはミディアム丈の茶色の巻髪のウィッグと、少し大人びた花柄のワンピース。
 俺のトータルコーディネートを見ながら、満足気に奈苗が笑った。
 
「いいね可愛い!!瞬君に宜しくね!!」
 
 奈苗がそういって手を振りながら俺を見送る。
 小さなキャリーバッグを引きずりながら、瞬ちゃん家に向かって歩き出す。
 今日は恋人の家に遊びに行くのだ。
 何時も通りの瞬ちゃんの家に向かう通り道を過ぎて、瞬ちゃんの家の前に着く。
 そして何時も通りに階段を上って部屋のドアを開ければ、俺の恋人はまだすやすやと寝息を立てていた。
 眠る瞬ちゃんの顔を見ながらこっそりとキスを落とす。
 瞬ちゃんはいつもと変わらず綺麗な顔をしていて、本当に睫毛が長い。
 すると瞬ちゃんの腕が俺の身体に絡まってきた。
 
「………おはよ!!!!」
 
 瞬ちゃんはそう言いながら俺の身体をベッドに引き込む。
 起きてた……!!!この人寝たふりしてたんだ……!!!
 瞬ちゃんはほんの少しだけ意地悪な目をしている。
 そしてわざと俺のウィッグをぐしゃぐしゃにするように頭を撫でた。
 
「ちょっと瞬ちゃん!!!やめてよー!!!」
 
 俺たちはケラケラ笑い合いながらじゃれ合い、ベッドの中で何時も通りのキスをした。
 
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