疼痛溺愛ロジック~嗜虐的Dom×被虐的Subの恋愛法則~

水沢緋衣名

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Ⅸ.

Ⅸ 第三話

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 スポットライトに照らされて舞台の上で遊歩が佇む。遊歩の演技を見るために俺は此処にやってきた。
 約二週間続いた公演は、やっと今日舞台の千秋楽を迎える。
 ブランクがあるから上手くいくか解らないなんて言っていた癖に、この日の遊歩もとても素敵だ。
 
 
 遊歩は舞台衣装の軍服を身に纏い、手には乗馬鞭。悪役として舞台で立ち振る舞っている。
 何時もの下衆い笑顔はこういう時の悪役の笑みだと、物凄くセクシーだ。
 チケットは完売。満員御礼。明らかに遊歩を目的で来ているだろうお客も屡々。
 それを横目にほんの少しだけ俺は得意な気持ちになっていた。
 
 
 …………いい男でしょう……!!!!あの人!!!!俺の!!!旦那様なの!!!!いい男でしょう!?!?!?
 
 
 社会的に夫婦パートナーと認められてから早三か月。遊歩は退院と同時に舞台の稽古に励み、俺はひたすら家事とパート探し。
 中々長時間いちゃつく暇がない。新婚早々また俺は禁欲生活を強いられていた。
 まず軍服姿に萌えが止まらないし、更に手には乗馬鞭。性癖の塊でしかない。
 舞台の上でキラキラ輝く遊歩を見ながら、作り笑いを浮かべて思う。
 
 
 何あれエッッッロイ………。叩かれたい…………。ていうか踏まれたい。俺どれくらい遊歩に殴られて無いんだろう。
 
 
 正直世の中にいるすべてのマゾは、一番嫌いなものは放置だと思っている。Subだってそうに違いない。
 待てだとか我慢だとか放置だとか大嫌い。何もされない以上の地獄は此処にない。
 不埒な気持ちで舞台を見終わり、むらつく気持ちを抑えて帰路につく。
 携帯で遊歩に舞台が素敵だったという感想を送りつけながら、今日も遊歩の帰りは遅いと踏んでいた。
 
 
 何せ千秋楽である。打ち上げなりなんなりあるだろう。
 そう思った瞬間に、俺の携帯に遊歩からメッセージが入った。
 
 
『めちゃくちゃムラムラする辛い。直ぐ帰る』
 
 
 携帯を開くなり、余りにドストレートに欲が詰め込まれたメッセージに笑い、適度に俺もと返事を返す。
 関係性が変わろうとなんだろうと、やはり遊歩は変わらず遊歩のままである。
 
 
***
 
 
 すぐにでも出来る様に身体の準備を整えて、遊歩が帰って来るのを待つ。
 ちゃんと中を拡げてローションさえも仕込んでおいている辺り、我ながら良い嫁だと思う。
 優秀なのは遊歩に対する性行為のみだけれど。
 
 
「ただいま……」
「お帰り遊歩!!舞台よかっ……大丈夫?」
 
 
 ドアを開いたと同時に漂うグレアの雰囲気に、俺のSub性が一気にざわつく。
 舞台ではあんなにキラキラしていた遊歩が、舞台よりも悪人感を割り増しながら俺を見た。
 ヘアメイクも完全に取れていない遊歩が、着ているシャツのボタンを外す。
 完全に座った目をしながら、俺の胸倉を掴んで囁いた。
 
 
「あのさぁ………今すぐやりてえんだけど……いい?一希不足!!!」
 
 
 一希不足とかなんだよ!!!うちの旦那可愛すぎかよ!!!更にとても色っぽい!!!
 思わずそう思いながら、遊歩の目を見てこくりと頷く。それと同時に俺の顔には一発拳が入った。
 
 
「んっ………あ!!!!」
 
 
 見惚れる暇さえ与えて貰えずに、フローリングの床へと倒れ込む。
 重くて鈍い痛みの感覚に思わず喘ぎ声を上げれば、遊歩がケラケラと笑いだした。
 遊歩が姿見の前まで俺を引き摺り、鏡に俺の姿を突き付ける。
 
 
「ほんと………殴られて喘ぐド淫乱、一希位しかいないよねぇ……」
Strip服を脱いで
Kneel跪け
 
 
 久しぶりの性的な命令コマンドに心が揺れて、すぐにSubスペースに入る。
 いそいそと服を脱ぎ床に座り込んだ時、遊歩が舞台で持っていた乗馬鞭を手にして笑った。
 
 
「これさぁ、記念に頂いたんだよね……。今日使おうと思って……!!!」
 
 
 叩かれたいと思ってましたと内心思いながら、鞭を構える自分の旦那を鏡越しに見上げる。
 遊歩の佇まいに乗馬鞭なんて、完全に絵として最高だ。思わず涎が出そうになる位だ。
 
 
Crawl四つん這い
 
 
 遊歩が俺の顎を乗馬鞭で首元を抑え、妖艶な表情を浮かべる。
 舞台の時より色気がある表情に、思わず邯鄲の息を漏らした。
 床に手を置いて命令通りに腰を上げれば、俺の背中を乗馬鞭の先端で撫でまわしながら言葉を落とす。
 
 
Good色っぽい
 
 
 姿勢だけでも褒めて貰えるなんて最高過ぎやしないだろうか。そう思いながら遊歩が鞭を振るのを待った。
 ひゅっと言う風の切る音と共に、鋭い痛みがお尻に響く。何時もとは違う痛みの感覚は新鮮だ。
 何よりも鏡の中の、うちの旦那のビジュアルがエロい。
 
 
「ひぅっ………!!!うぁ………!!!」
 
 
 床に這いつくばりながら息を漏らせば、遊歩が笑う呼吸が響く。
 それから何発も連続で叩かれ続け、だんだん理性の箍がお互いに外れ始める。
 すると鏡の中の遊歩が突然、呆気に取られた顔をした。それと同時に鞭が止まり、俺は思わず振り返る。
 其処には折れた乗馬鞭を手にした遊歩が立っていた。
 
 
「ブハハハハハ!!!ちょっと!!!一希これ!!!!折れたんだけど!!!!馬用なのに!!!!」
「俺そんな怪我とかまだしてないけど!?!?なんで!?!?なんでこっちのが先に折れてんの!?!?」
 
 
 遊歩がゲラゲラ笑いながら、床をバンバン手で叩く。この時に俺は自分の身体の耐久力の強さを噛み締めた。
 笑いすぎて涙目の遊歩が俺の頭を床に抑え付けて、腹を目掛けて拳を落とす。
 鳩尾に入り呼吸困難になった時、意地悪な顔で微笑んだ。
 
 
「………やっぱ俺、こっちの方が性に合ってるわ♡」
 
 
 腹部を何発も殴られながら涙目になるのを耐える。
 殴られれば殴られるだけ、自分のものが熱くなってゆく気がした。
 
 
「あ……!!ヴぁ………ぐ………うぅぅぅ!!!」
 
 
 この痛みが好き。堪らなく好き。愛しくて仕方ない。遊歩のくれる痛みが世界で一番大好き。
 
 
 涙目になって歪んだ視界で遊歩の顔に手を伸ばせば、遊歩が自分の顔を俺の手に擦り付ける。
 この人が欲しい。俺の中にどうしても今すぐ欲しい。
 
 
「っ………!!ねぇゆうほぉ………おねがい………おねがいだから……!!ぶちおかして………!!」
 
 
 涙目でグズグズしゃくり上げながら、遊歩に縋るように甘える。
 すると遊歩が俺の目の前で自分が履いているボトムに手を掛けた。
 
 
「俺の奥さんって、犯してなんて強請っちゃう位いけない子だったのぉ??
悪いお口は塞いであげなきゃいけないね………?」
 
 
 俺の唇の目の前にそそり立った遊歩のものが擦り付けられる。
 それはいきなり俺の口内の奥深くにねじ込まれ、呼吸さえする暇なく喉奥目掛けて突き上がる。
 
 
「んぐ………ぶ………うぅぅぅぅ!!!!」
 
 
 余りの苦しさに息を漏らしながら、それだけで感じ始める自分に笑う。
 俺の唾液で濡れたそれを遊歩が唇から抜いて、俺の入り口に宛がい微笑む。
 そのまま一気に身体を貫かれた瞬間、頭の螺子が吹き飛んだ。
 
 
「うあ!!!ああああ!!やだ!!!ゆうほぉ!!!これかんじちゃう!!!」
「………ぶち犯されて感じちゃうなんて、一希ってほんとド淫乱だね……!!!そんなところも愛してる!!」
 
 
 久しぶりの遊歩のものの熱と腰使い。気持ちよくて気持ちよくて仕方ない。
 遊歩は本当に俺の身体のイカせ方を良く解っている。
 背中に腕を回せば、熱っぽい表情の遊歩の顔が俺の顔に近付く。
 唇と唇が重なり合う寸前に、飛び切り甘い声色で囁いた。
 
 
「おれもあいしてる……!!!」
 
 
 深いキスをした瞬間に、俺の身体から白濁が溢れる。
 今日は遊歩とグチャグチャになるまで、こうして愛し合っていたいと思う。
 
 
「ほんと……俺の奥さんって、世界で一番かわいい」
 
 
 遊歩が俺を抱きしめて、今にも溶けだしそうな目をして笑った。
 
 
***
【おまけの後日談】
 
 
 日向の墓参りというものを、俺は長きに渡り行けていなかった。
 その理由は簡単で、日向のイメージが冷たい石に変わってしまいそうなのが嫌だったのもある。
 長い間俺は日向に対して、不義理を続けてきた気がするのだ。
 
 
 遊歩と結婚したこともあり、日向の死と向き合う覚悟を決める。
 義人さんに全てを伝えれば、日向は都内のマンション型の納骨堂に眠っていると教えて貰えた。
 だから今日は遊歩と二人で日向の所に行くつもりで外に出たのだ。
 そして墓場に向かうバス停の前で、ぼんやりと遊歩と佇んでいた。
 
 
「俺さぁ、日向ってやつの顔とかまだ見た事ないんだよね。マンション型って写真とか飾ってあるとこあるんでしょ?」
 
 
 遊歩がそう言いながら空を仰ぐ。俺はそれに対してほんの少しだけ、呆れたような表情を浮かべた。
 
 
「………元彼の顔って知っても嬉しいもんじゃなくない……??」
 
 
 そう口にしながら、ぼんやりと遥さんの顔を思い出す。
 けれど遊歩はただの興味でそう言っている訳ではなさそうで、何となく説明に困っているような顔をする。
 遊歩は意外と幽霊だとか死後の世界というものを信じている。
 そんな遊歩に俺は何回もそんな非化学的なものが居たら、俺たちはとっくに取り殺されていると言っていた。
 
 
 やって来たバスに乗り込み、遊歩と二人で一番後ろの席に座る。
 窓際に座った遊歩が神妙な表情でこう云った。
 
 
 
「俺死にかけてる時にさぁ……なんかすっごい若い男の子に追い返されたんだよね……。
こんなところに来ちゃいけないって……。彼の所に帰ってって……。あれお前の元彼だったんじゃねえかなって……」
「なにそんなストーリー性の高い夢みてんのさ。うけんだけど!!」
「………いやホントだってば!!旦那様のいう事信じてよ!!!」
 
 
 遊歩がこう言う話をし始めると、正直キリが無くて困ってしまう。
 死後の世界だとかそんなものより、俺は今を生きていたい。死に対する欲が落ち着いた今だからこそそう思う。
 バスから降りながら俺は笑い、遊歩目掛けて言葉を返す。
 
 
「遊歩が見たっていう少年の顔が、日向の顔と同じだったら信じてあげてもいいよ??
まー、そうそう写真なんて見せてやんないけどさ!!」
 
 
 いじける遊歩と納骨堂に入り、手続きを済ませてホールに入る。
 そして大型の機械の前に立った時に、近くにあったモニターに写真が映し出された。
 最近のお墓というものはハイテク化が進んでいるなんて、感心しながら久しぶりに日向の顔を見る。
 
 
 そういえば日向は、こんな表情をする人だった。
 
 
 久しぶりだね。ごめんね。長い間逢いに来れなくて。俺実は結婚したんだよ。
 
 
 そう思って手を合わせながら、懐かしい日々を頭に巡らせる。
 過去になった。やっと俺の中で消化された。そう思いながら俺はゆっくりと顔を上げた。
 
 
 そういえばさっきから遊歩が自棄に大人しいけれど、どうしたんだろう。
 気になって遊歩の方を見れば、遊歩が口元を押さえて両目から涙を垂れ流している。
 そして俺を見るなり、震える声でこう言った。
 
 
「ねぇ……夢の子…………この子………」
「へ?」
 
 
 全身の鳥肌が立つような感覚と、思わず強張ってしまう表情。
 怖いという感覚ではなく、不思議という感覚が正しい気がした。
 普段なら人前で泣く事の無い遊歩が、俺の隣でただ泣き続けている。
 すると俺の頭の中にある言葉が響いた。
 
 
『お め で と う』
 
 
 その声は間違いなく日向の声だった。何度も聞いたことのある、日向の声。
 心から喜んでいる時の、明るい日向の声。
 この日以来遊歩は毎日欠かさず仏壇にお線香を上げる様になり、俺は遊歩に付き合って真面目に心霊番組を見る様になったのだった。
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