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悪鬼羅刹
悪鬼羅刹 第二話
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パティスリーショップでは本当に極稀に「キャストを外に連れ出す許可」が下りる事がある。
その中身の大半は金と権力がモノを申す訳で、それと信用さえあれば俺たちは外にも出かける事が出来るのだ。
京條さんなら確実に俺の無事は約束されたも同然であり、どこに行こうが安心だ。
でも正直俺は京條さんとの出掛け先に関してだけは、本当に本当に億劫なのである。
「あはは!!ゼノちゃんホント嫌がってるね!!!」
真っ赤なフェラーリを運転しながら、京條さんが大爆笑している。俺はその隣で、敢えて露骨に嫌な顔をして見せた。
「だって京條さんと出かける場所、アングラな上にギーク過ぎるんだもん………」
ほんの少し前のお出かけの場所では、良くわからない怖い人達と会食をする羽目に陥り、また違う場所ではギークなゲテモノ満載のショーを見せられた。
正直あまりにも悪趣味でどうしようもない場所にばかり俺を連れ出しては、俺の反応を見て楽しんでいる。
正直今日もどうせやばいものを見せられること位は、もう覚悟が決まっていた。
「今日はね、ショー見せてあげる」
そう言われた辺りで、正直嫌な予感しかしない。俺はもう完全にあきらめる事にして、京條さんに全てを任せる事に決めた。
芸能人だとか飛び向けた金持ちだとか、政治家じゃないといけない会員制の店の地下には、怪しいショーホールが存在する。
そのショーホールの中では、残酷な見世物が観れるのだ。
「…………スナッフビデオってね、本当に存在するんだよ」
京條さんがそう言いながら、俺の肩を抱いてソファーに腰かける。
肩を抱くのはもっとロマンティックな話の時が正しいのではなかろうか。
スナッフビデオと言われながら、どんな気持ちで京條さんは俺の肩を抱いているのだろうと苦笑いを浮かべる。
そんな俺の気持ちを見抜いている京條さんは、満面の笑みを浮かべていた。
京條さんはプレイのみならず普段からサディストだ。
ホールの明かりが暗くなり、小さなステージにライトが灯る。
するとステージ上に何人かの男に運ばれながら、女の子が連れてこられた。
麻袋を被せられて、手足は拘束されている。そしてよくわからない言語の言葉を、ただひたすらに話していた。
「………バナナのパウンドケーキ、か」
京條さんがそうつぶやいた瞬間に、ステージに乗せられた少女がケーキであることを理解する。
その瞬間暗がりから、チェーンソーを持った男がやってきた。
男の顔は目から上までしか出ておらず、口元は真っ黒な革が中に仕込まれたマズルガードで隠されている。
けれどその眼はくっきりとした二重瞼をしていて、遠くからみても解る程に睫毛が長かった。
チェーンソーの独特の機械音が鳴り響き、ステージ上の少女は怯えたように芋虫のように這い回る。
けれどチェーンソーをもった男は、無情にも少女の首を切断した。
「ひっ…………!!」
思わず小さな悲鳴を上げた瞬間に、京條さんが俺の頭を撫でる。
自分と同族が今、無残にも解体されている様は、今まで見せられたものの中で一番最低なものだった。
***
バラバラになった少女の身体で、ステージでは競りが始まっている。
その競りの様子を眺めていた時に、俺は他の観客がケーキの肉を喰らった経験のあるフォークであることを察した。
此処がケーキの肉を密売している事に気付いた瞬間、京條さんが俺の腕を掴んだ。
「ゼノちゃん、ちょっと一緒に来て?」
京條さんが俺の手を引いて、客席を横断してゆく。その瞬間他のフォークたちが、肉食獣のようなギラついた眼で俺を見る。
本当に何故京條さんは俺を此処に連れてきたのか、さっぱり目的が解らない。
ステージの脇にある関係者用出入口の中に入り、真っ暗闇の中を進んでゆく。
そして真っ赤なドアの前に立ち、京條さんはこういった。
「ゼノちゃん実はさぁ、今日もう鵜飼さんには話したんだけど、一人お仕事してほしいフォークがいるんだ。お金は後で手渡すよ」
お仕事をしてほしい?
京條さんの言葉の意味が一切解らないままで、京條さんは真っ赤なドアを開く。
そのドアの向こう側から此方に向かい光が差す。
暗闇に慣れきってしまった目がチカチカして痛み、目を細めた瞬間にプレイルームによく似た真っ赤な壁が視界に入る。
プレイルームとの違いは、この部屋には殆ど家具が無いという事である。
その真っ赤な部屋の隅には、さっきのチェーンソーの男がいた。
「………えっ!?」
思わず声を漏らした瞬間に、くっきりとした二重の目が俺を見る。男は肩までの長い髪を揺らして、俺の顔を覗き込むようにみる。
男の口元を隠しているマズルガードの存在がとても不気味で、まるで猛獣と一緒の折の中に閉じ込められているような、そんな恐怖感を感じた。
「京條……そいつは誰だ………」
思っているよりも声は穏やかで、俺は思わず息を呑み込む。
すると京條さんは満面の笑みを浮かべて、その男にこういい放った。
「…………何時も頑張ってるオグロにさあ………最高級のケーキを抱かせてやりたくてよ…………」
そう言いながら京條さんは俺をオグロと呼ばれた男の方に突き飛ばし、ドアを閉める。
俺はどうすればいいかさっぱり解らないままで、ただ硬直していた。
オグロは俺の様子を見ながら一歩前に進む。その瞬間本当に俺は恐ろしくて、身体がびくりと跳ねる。
まさか此処に来てケーキ殺しを目の前でしたような、凶暴なフォークに宛がわれるなんて想像さえもしていない。
するとオグロは俺の目の前で、自ら付けているマズルガードに手を掛けた。
真っ赤な床目掛けてマズルガードが落ち、金属音が鳴り響く。床に座ったままでオグロの足元に落ちたマズルガードをただただ見つめる。
するとオグロが俺に向かってこういった。
「…………苺のショートケーキなんて、久しぶりに逢った」
声の聞こえる方に、ゆっくりと顔を上げる。
オグロの顔は美しかった。まるで人形を思わせるかの様に整った顔立ちをしていた。
けれどその整った唇の両端から耳にかけて、切り裂かれたかのような傷の痕が存在している。
その傷はケロイドになっていて、光沢を帯びている。
顔がそもそも美しい作りをしているが故に、その傷による不気味さが際立ってしまっているのだ。
言葉を発しなければいけない。そう思って懸命に思考を巡らせる。
それでも言葉は上手に口から零れてはくれなかったのだ。
多分今俺はオグロの目の前で、水から揚げられた魚の様にパクパク口を動かしているように見えているだろう。
するとオグロはゆっくりと俺に歩みより、俺の目の前に腰かけた。
「………………っ!!」
手を伸ばせば触れてしまう距離に、ケーキを殺していたフォークがいる。
ゆっくりとオグロの目が俺を見つめ、俺の目を覗き込む。
そしてオグロは俺の髪に手を伸ばして、静かに俺の髪を指で梳いた。
痛い事や苦しい事をされている訳ではないのに、身体が思わず跳ね上がる。怖い。とてもとても恐ろしい。
するとオグロは犬の様に床に寝転がり、俺の脚の上に膝枕されるような体勢で抱き付く。
思わず固まった瞬間に、オグロは囁いた。
「…………このままで、このままでいさせて」
オグロは全く豹変をするわけでも無く、ただ俺の膝で目を閉じる。緊張は全く解けないれど、酷い事をするつもりはないようだ。
目を閉じたオグロは睫毛の長さが本当によくわかり、その端正な顔立ちに恐ろしいと思いながらも見とれてしまう。
なんて美しい顔をしているのだろう。
気が付けば俺は、絹のようにさらさらしたオグロの髪を撫でていた。
その中身の大半は金と権力がモノを申す訳で、それと信用さえあれば俺たちは外にも出かける事が出来るのだ。
京條さんなら確実に俺の無事は約束されたも同然であり、どこに行こうが安心だ。
でも正直俺は京條さんとの出掛け先に関してだけは、本当に本当に億劫なのである。
「あはは!!ゼノちゃんホント嫌がってるね!!!」
真っ赤なフェラーリを運転しながら、京條さんが大爆笑している。俺はその隣で、敢えて露骨に嫌な顔をして見せた。
「だって京條さんと出かける場所、アングラな上にギーク過ぎるんだもん………」
ほんの少し前のお出かけの場所では、良くわからない怖い人達と会食をする羽目に陥り、また違う場所ではギークなゲテモノ満載のショーを見せられた。
正直あまりにも悪趣味でどうしようもない場所にばかり俺を連れ出しては、俺の反応を見て楽しんでいる。
正直今日もどうせやばいものを見せられること位は、もう覚悟が決まっていた。
「今日はね、ショー見せてあげる」
そう言われた辺りで、正直嫌な予感しかしない。俺はもう完全にあきらめる事にして、京條さんに全てを任せる事に決めた。
芸能人だとか飛び向けた金持ちだとか、政治家じゃないといけない会員制の店の地下には、怪しいショーホールが存在する。
そのショーホールの中では、残酷な見世物が観れるのだ。
「…………スナッフビデオってね、本当に存在するんだよ」
京條さんがそう言いながら、俺の肩を抱いてソファーに腰かける。
肩を抱くのはもっとロマンティックな話の時が正しいのではなかろうか。
スナッフビデオと言われながら、どんな気持ちで京條さんは俺の肩を抱いているのだろうと苦笑いを浮かべる。
そんな俺の気持ちを見抜いている京條さんは、満面の笑みを浮かべていた。
京條さんはプレイのみならず普段からサディストだ。
ホールの明かりが暗くなり、小さなステージにライトが灯る。
するとステージ上に何人かの男に運ばれながら、女の子が連れてこられた。
麻袋を被せられて、手足は拘束されている。そしてよくわからない言語の言葉を、ただひたすらに話していた。
「………バナナのパウンドケーキ、か」
京條さんがそうつぶやいた瞬間に、ステージに乗せられた少女がケーキであることを理解する。
その瞬間暗がりから、チェーンソーを持った男がやってきた。
男の顔は目から上までしか出ておらず、口元は真っ黒な革が中に仕込まれたマズルガードで隠されている。
けれどその眼はくっきりとした二重瞼をしていて、遠くからみても解る程に睫毛が長かった。
チェーンソーの独特の機械音が鳴り響き、ステージ上の少女は怯えたように芋虫のように這い回る。
けれどチェーンソーをもった男は、無情にも少女の首を切断した。
「ひっ…………!!」
思わず小さな悲鳴を上げた瞬間に、京條さんが俺の頭を撫でる。
自分と同族が今、無残にも解体されている様は、今まで見せられたものの中で一番最低なものだった。
***
バラバラになった少女の身体で、ステージでは競りが始まっている。
その競りの様子を眺めていた時に、俺は他の観客がケーキの肉を喰らった経験のあるフォークであることを察した。
此処がケーキの肉を密売している事に気付いた瞬間、京條さんが俺の腕を掴んだ。
「ゼノちゃん、ちょっと一緒に来て?」
京條さんが俺の手を引いて、客席を横断してゆく。その瞬間他のフォークたちが、肉食獣のようなギラついた眼で俺を見る。
本当に何故京條さんは俺を此処に連れてきたのか、さっぱり目的が解らない。
ステージの脇にある関係者用出入口の中に入り、真っ暗闇の中を進んでゆく。
そして真っ赤なドアの前に立ち、京條さんはこういった。
「ゼノちゃん実はさぁ、今日もう鵜飼さんには話したんだけど、一人お仕事してほしいフォークがいるんだ。お金は後で手渡すよ」
お仕事をしてほしい?
京條さんの言葉の意味が一切解らないままで、京條さんは真っ赤なドアを開く。
そのドアの向こう側から此方に向かい光が差す。
暗闇に慣れきってしまった目がチカチカして痛み、目を細めた瞬間にプレイルームによく似た真っ赤な壁が視界に入る。
プレイルームとの違いは、この部屋には殆ど家具が無いという事である。
その真っ赤な部屋の隅には、さっきのチェーンソーの男がいた。
「………えっ!?」
思わず声を漏らした瞬間に、くっきりとした二重の目が俺を見る。男は肩までの長い髪を揺らして、俺の顔を覗き込むようにみる。
男の口元を隠しているマズルガードの存在がとても不気味で、まるで猛獣と一緒の折の中に閉じ込められているような、そんな恐怖感を感じた。
「京條……そいつは誰だ………」
思っているよりも声は穏やかで、俺は思わず息を呑み込む。
すると京條さんは満面の笑みを浮かべて、その男にこういい放った。
「…………何時も頑張ってるオグロにさあ………最高級のケーキを抱かせてやりたくてよ…………」
そう言いながら京條さんは俺をオグロと呼ばれた男の方に突き飛ばし、ドアを閉める。
俺はどうすればいいかさっぱり解らないままで、ただ硬直していた。
オグロは俺の様子を見ながら一歩前に進む。その瞬間本当に俺は恐ろしくて、身体がびくりと跳ねる。
まさか此処に来てケーキ殺しを目の前でしたような、凶暴なフォークに宛がわれるなんて想像さえもしていない。
するとオグロは俺の目の前で、自ら付けているマズルガードに手を掛けた。
真っ赤な床目掛けてマズルガードが落ち、金属音が鳴り響く。床に座ったままでオグロの足元に落ちたマズルガードをただただ見つめる。
するとオグロが俺に向かってこういった。
「…………苺のショートケーキなんて、久しぶりに逢った」
声の聞こえる方に、ゆっくりと顔を上げる。
オグロの顔は美しかった。まるで人形を思わせるかの様に整った顔立ちをしていた。
けれどその整った唇の両端から耳にかけて、切り裂かれたかのような傷の痕が存在している。
その傷はケロイドになっていて、光沢を帯びている。
顔がそもそも美しい作りをしているが故に、その傷による不気味さが際立ってしまっているのだ。
言葉を発しなければいけない。そう思って懸命に思考を巡らせる。
それでも言葉は上手に口から零れてはくれなかったのだ。
多分今俺はオグロの目の前で、水から揚げられた魚の様にパクパク口を動かしているように見えているだろう。
するとオグロはゆっくりと俺に歩みより、俺の目の前に腰かけた。
「………………っ!!」
手を伸ばせば触れてしまう距離に、ケーキを殺していたフォークがいる。
ゆっくりとオグロの目が俺を見つめ、俺の目を覗き込む。
そしてオグロは俺の髪に手を伸ばして、静かに俺の髪を指で梳いた。
痛い事や苦しい事をされている訳ではないのに、身体が思わず跳ね上がる。怖い。とてもとても恐ろしい。
するとオグロは犬の様に床に寝転がり、俺の脚の上に膝枕されるような体勢で抱き付く。
思わず固まった瞬間に、オグロは囁いた。
「…………このままで、このままでいさせて」
オグロは全く豹変をするわけでも無く、ただ俺の膝で目を閉じる。緊張は全く解けないれど、酷い事をするつもりはないようだ。
目を閉じたオグロは睫毛の長さが本当によくわかり、その端正な顔立ちに恐ろしいと思いながらも見とれてしまう。
なんて美しい顔をしているのだろう。
気が付けば俺は、絹のようにさらさらしたオグロの髪を撫でていた。
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