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12_混乱
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沈黙したまま馬車に揺られてると急に減速した。
馬が急にヒヒーンって鳴き声を上げて、同時にガタンと大きな揺れと音を立てて止まって。揺れの弾みで席から放り出されそうになった所をエルに間一髪で引き戻してもらった。
「……お前は本当に薬草だな」
道具よろしくキャッチされてしまっては、もはや返す言葉もない。
「ううっ、エルはともかく何でレティまで平気そうに……って微妙に浮いてる!?」
ばっと見分からないけど、よく見るとレティのお尻が浮いてる。まじまじ見るのはさすがに恥ずかしいからガン見はしてないけど。
「魔法を少し応用していますの。長時間の揺れはよろしくありませんから」
「ずっりぃぃぃ!」
「スキルと頭は使いようでしてよ」
ころころとレティが笑うと同時に、馬車の外に居たらしい冒険者が幌の後ろを開けた。
「おいテメェら、魔物のお出ましだ! 前衛と攻撃役は迎え撃て!!」
見えてきたのはいかついトゲトゲの着いた鎧に禿げ上がった頭。戦いで怪我をしたのか右目の上には大きいキズがついてる。
……この人元山賊とか、そういう感じ?
そんな見た目はものともせず、周りの冒険者は次々と飛び出していった。何故か僧侶の連中は出てったり残ったりとまちまちだけど。
幌の外をチラッと見ると大人数の冒険者が協力しながら戦ってる。この光景、ちょっと見覚えあるぞ。
「おお……アライアンスレイドだぁ……」
MMORPGとかのネットゲームで見かけるやつだ。複数のパーティで協力プレイをして、強いボスを倒すクエストそのものだ。
ひょっとしたらキミツナ2のアライアンスレイドは討伐隊ってクエストなのかもしれない。
「お前はここで待機してろ」
「えっ、あっちょっ!」
ひらりと流れるように馬車から降りて、エルはさっさと戦場に向かっていってしまった。
いやいやいやいや! だから! お前が! エルか一番ヤバくなりやすいんだっての!!
慌てて追いかけようと馬車から降りるけど、すぐにレティが道を塞いで。そのままズイズイと馬車の方へ押し戻される。
「コータはここに居てくださいな」
「そんなの俺が着いてきた意味ないじゃん!」
三人で受けたクエストなのに。
急に何を言うのかと食い気味に言葉を返すと、またレティがころころと笑った。
「討伐隊では外に出る熟練の後衛と、馬車で負傷者の手当てや交代まで待機をするその他の後衛で分かれますの」
治癒魔法の使い手は反撃が難しいですからね、と付け足された言葉。馬車を守るみたいに近くで戦ってる前衛の姿も目に入って、カッカしてた頭が少し冷えた。
……役割分担がされてるんだ。
確かに戦場のど真ん中で攻撃魔法や回復魔法を使ってる魔法使いと僧侶は、色んな魔法を使い分けてたり、装備が派手だったり、いかにも戦い慣れてる雰囲気が出てる。
戦士や剣士も最前線組と、前線に近い後衛を守る中衛組と、馬車の近くに居る後衛組で分かれてる。魔法使いも盾役っぽい戦士の後ろで最前線をフォローしたり、自分達を守ってくれる中衛組を助けたりしてるみたいだ。
最前線へ行けば行く程、やっつけで組んだとは思えない統率の撮れた戦い方をしている。これが経験値の差なんだろうか。
「エルもわたくしも、外に居る僧侶から恩恵をあずかれますから大丈夫」
「で、でも、僧侶って黒や魔法使いは嫌いなんだろ?」
さっき言ってたじゃないか。僧侶は闇夜が嫌いだって。だから黒色は良く思われないし、魔法使いも扱いが良くないって。
二人ともその条件に当てはまってるのに。
「討伐隊が組まれている間は、何者であろうと助け合うのが不文律です。そもそも多人数が動き回る戦場で、そんな器用な真似が出来る手練れは早々居ません」
言われてみれば、それもそうだ。
色んな人が動き回る戦場で、特定の相手だけ回復を外すのはきっと難しい。外に居る僧侶は範囲回復で一気に回復させてるっぽいし。
魔法使いだっていっぱい居るのに、回復しないで戦えなくなってしまったら僧侶だってきっと危ない。
「腑に落ちたのなら、ここで負傷者の治療をするお手伝いをして下さいな。術の経験も嫌というほど積めますわよ」
未熟な戦士達がごまんと運ばれてきますから、と。一瞬極悪人みたいな顔で微笑んだレティは中衛の魔法使いに混ざっていった。
仕方ない。
レベルも低い俺じゃあんま役に立てないし、馬車で未熟な戦士達とやらを待つとしよう。
そんなことを思いながら馬車の方に振り返ると、遠くの方に体力ゲージが一瞬見えた気がした。
「え……?」
馬車から少し離れた崖の上にある、森の中。
何だか気持ちがザワザワして目を凝らした。カメラのピントを合わせるみたいに意識をそこへ絞り込んでいく。
段々樹木の存在感が薄くなっていって、その奥にある何かの気配が強くなる。
体力ゲージのバーがハッキリ見えた。一つじゃない。いち、に、さん、し、ご……どんどん増えてる。
時間差で体力ゲージの持ち主のシルエットがハッキリしてきた。四足歩行してる。人の形じゃない。ということは、だ。
「魔物……? 何であんなところに……」
戦場から離れた所に集まる群れは、のそりのそりと動き始めたみたいだった。
その進行方向にあるのは――俺達の乗ってきた、馬車。
「やばい、バックアタックだ!」
魔物に背後を取られるバックアタックは、殆どのゲームで不利な状態からターンが始まる。不意打ちを食らってるから当然だけど。
しかも馬車には僧侶しか乗ってない。そんな状態で不意打ちされたらひとたまりもない。
「せっ、戦士の人に魔物の位置を……」
――いや、違う。それじゃ間に合わない。
少しずつ魔物の群れはスピードを上げてる。馬車の護衛はそんなに多くないし、最前線の前衛に比べたらレベルも低い。あの群れを止めきれるのか分からない。
「はやく馬車から出ろ! 魔物が来る!!」
気がついたら、慌てて馬車に残ってた僧侶の面々に叫んでいた。だけど馬車組は何言ってんだこいつって顔でこっちに視線を向けてくるだけだ。
「何言ってるんだ、後ろは崖だぞ? お前新人だろ。大人しく馬車で待機してろ」
「大体、前に護衛も居るのにどうやって来るって言うんだ」
「その崖の上に居るんだよ! 崖下りて来てんの! はやく!! 早く出ろ!!!」
あんまり血相変えて喚くからか、馬車組の中の数人が幌から顔を出した。俺の指差す方向を見て、ぎょっとした顔で馬車の中へ叫ぶ。
「まずい、出ろ! 突獣型だ!」
「荷物なんか置いていけ! 早く!!」
リーダー格っぽい面子が顔色を変えたからか、中に残ってた面子も慌てて馬車から飛び出した。少しすると崖から一気に速度を上げた群れが突っ込んできて、馬車はあっという間にバラバラになってしまった。
「……うっそぉ」
「突獣に追われたら進行方向から外れろ! あいつらは直進しか出来ない!」
「落ち着いて周りを見ろ! 神殿で何の修行をしてきたんだ!」
思ったよりバックアタックの威力が凄くて呆然と立ち尽くす。そんな俺をよそに、最初に出てきた二人はテキパキと指示を飛ばしている。
神殿でも先輩後輩があるのかな。あたふたしてる面子は後輩っぽい。
勢いを一瞬溜めて直進してくるサイみたいな魔物をかわしながら、事態に気付いて駆けつけてくる護衛役の方へ皆が舵を切る。
だけど崖の方に変な動きをする体力ゲージが見えた。結構なスピードでぴょんぴょんと左右に蛇行しながらこっちに向かってくる。
そのルートは突獣とかいう魔物の進行方向の間……必死に攻撃を避けて走ってる僧侶の団体の方だ。
「まずいハメられてる! そっちはダメだ、何か違う奴が来る!」
「「はぁ!?」」
「えええと、直線じゃなくて左右に跳ねてる! 違う魔物じゃないのか!?」
近くに居た指示を出してる僧侶が仲良く何言ってんだって顔でこっちを見た。だけどバックアタックを知らせたからか、疑いつつもキョロキョロと周りを見てくれている。
「そんなの見え……え?」
「獅子型!? 何でこんな所に!」
「そのまま行っちゃダメだ! 戻れって! 早く!!」
声に気付いたのか一番先を走ってた奴が見事な俊敏さで引き返した。するとその少し先に、崖から一気に跳ねて出てきた魔物の爪が着地して。
……バキバキバキッと、地面が盛大な音を立ててえぐれた。
「ひえっ」
あの下に人間が居たらと余計なことを考えてしまって、一気に全身で鳥肌が立った。
獅子型と呼ばれた魔物はその名のとおりライオンみたいな見た目をしていた。だけど鬣は毛と言うより煙みたいで、脚がやけに太くてデカイ。爪もゴリゴリに盛り上がってて固そうだ。
脚の下に獲物が居ないと気付いたらしい獅子型は、不機嫌そうな唸り声を上げながら周りを見渡す。
剣を抜いて向かってく護衛役の戦士に意識が行くのかと思いきや――その顔が向いたのは、俺の方。
「えっ? な、なんで……?」
しかめられた顔がハッキリ俺を見ている。
自意識過剰とかじゃなくて。体ごとこっちを向いて、低い唸り声を上げながら俺にガン飛ばしてきてる。攻撃を仕掛ける戦士をひらりとジャンプでかわして、蛇行しながらこっちに突っ込んでくる。
「なっ、なん……え? 何で俺ぇぇぇぇ!?」
何とか避けて後ろ側に回り込むけど、ぐりんとその体が反転してまた飛びかかってくる。逃げても逃げても追いかけてくる。
「嘘だろタゲ移ってる!? なんで!? 俺攻撃してないのにッ!」
多人数プレイのゲームで時々、連続で攻撃してるとヘイトって値が溜まってターゲットにされるシステムがある。そうなると集中砲火を食らってフルボッコになってしまうのだ。
ヘイトが溜まりやすいのは前衛とか魔法使いとか、高いダメージを与えられる職業。あと回復すると狙われるゲームもあった気がする。
だけど、だ。
俺全然ヘイト稼いでなくね!? 攻撃どころか回復すらしてないのに!
しつこく追いかけてくる獅子型の魔物から何とか逃げるけど、突獣型が多すぎてヘルプが全然来ない。しかもウルフの時みたいにじりじり皆から離されつつある気がする。
キミツナイズで奇跡の逃げ足特化しつつあるけど、まだレベルが低くて発達途上だ。足が段々疲れてきて、避けると少しふらつくようになってきてしまった。
「ちょ、まじ、むりっ……っぉわぁ!?」
べしっと魔物の尻尾が背中に当たって、勢い良く地面にスライディングしてしまった。装備のお陰なのか擦り傷ズル剥け!みたいなキズにはなってないけど、そこそこ痛い。
慌てて体を起こした所にふっと影が落ちて。
目の前に獅子型の脚が落ちてくるのが見えた。
えっこれ俺死ぬよな地面みたいにベキベキにされるよな死んだらどうなんの終わりなのかなそれとも教会みたいなところでコンティニューなのかなその辺探りいれときゃよかった痛いのかな痛いよないっそ即死がいいな死にたくないけど死にそうなくらい痛いよりは即死がいい死にたくないけど
頭は無駄に思考が回るのに、肝心の体は何の動きも取れない。
固まってしまった俺を踏み潰そうとする脚から視線が逸らせなくて声も出ない。息をいくら吸っても足りなくて、潰される前に息が詰まって先に窒息しそうだ。
世界がスローモーションみたいになってきて、いよいよ踏み潰されそうになった時。
ぐっと強く後ろに引かれて、目の前の地面が盛大にメキメキと嫌な音を立てて割れた。
馬が急にヒヒーンって鳴き声を上げて、同時にガタンと大きな揺れと音を立てて止まって。揺れの弾みで席から放り出されそうになった所をエルに間一髪で引き戻してもらった。
「……お前は本当に薬草だな」
道具よろしくキャッチされてしまっては、もはや返す言葉もない。
「ううっ、エルはともかく何でレティまで平気そうに……って微妙に浮いてる!?」
ばっと見分からないけど、よく見るとレティのお尻が浮いてる。まじまじ見るのはさすがに恥ずかしいからガン見はしてないけど。
「魔法を少し応用していますの。長時間の揺れはよろしくありませんから」
「ずっりぃぃぃ!」
「スキルと頭は使いようでしてよ」
ころころとレティが笑うと同時に、馬車の外に居たらしい冒険者が幌の後ろを開けた。
「おいテメェら、魔物のお出ましだ! 前衛と攻撃役は迎え撃て!!」
見えてきたのはいかついトゲトゲの着いた鎧に禿げ上がった頭。戦いで怪我をしたのか右目の上には大きいキズがついてる。
……この人元山賊とか、そういう感じ?
そんな見た目はものともせず、周りの冒険者は次々と飛び出していった。何故か僧侶の連中は出てったり残ったりとまちまちだけど。
幌の外をチラッと見ると大人数の冒険者が協力しながら戦ってる。この光景、ちょっと見覚えあるぞ。
「おお……アライアンスレイドだぁ……」
MMORPGとかのネットゲームで見かけるやつだ。複数のパーティで協力プレイをして、強いボスを倒すクエストそのものだ。
ひょっとしたらキミツナ2のアライアンスレイドは討伐隊ってクエストなのかもしれない。
「お前はここで待機してろ」
「えっ、あっちょっ!」
ひらりと流れるように馬車から降りて、エルはさっさと戦場に向かっていってしまった。
いやいやいやいや! だから! お前が! エルか一番ヤバくなりやすいんだっての!!
慌てて追いかけようと馬車から降りるけど、すぐにレティが道を塞いで。そのままズイズイと馬車の方へ押し戻される。
「コータはここに居てくださいな」
「そんなの俺が着いてきた意味ないじゃん!」
三人で受けたクエストなのに。
急に何を言うのかと食い気味に言葉を返すと、またレティがころころと笑った。
「討伐隊では外に出る熟練の後衛と、馬車で負傷者の手当てや交代まで待機をするその他の後衛で分かれますの」
治癒魔法の使い手は反撃が難しいですからね、と付け足された言葉。馬車を守るみたいに近くで戦ってる前衛の姿も目に入って、カッカしてた頭が少し冷えた。
……役割分担がされてるんだ。
確かに戦場のど真ん中で攻撃魔法や回復魔法を使ってる魔法使いと僧侶は、色んな魔法を使い分けてたり、装備が派手だったり、いかにも戦い慣れてる雰囲気が出てる。
戦士や剣士も最前線組と、前線に近い後衛を守る中衛組と、馬車の近くに居る後衛組で分かれてる。魔法使いも盾役っぽい戦士の後ろで最前線をフォローしたり、自分達を守ってくれる中衛組を助けたりしてるみたいだ。
最前線へ行けば行く程、やっつけで組んだとは思えない統率の撮れた戦い方をしている。これが経験値の差なんだろうか。
「エルもわたくしも、外に居る僧侶から恩恵をあずかれますから大丈夫」
「で、でも、僧侶って黒や魔法使いは嫌いなんだろ?」
さっき言ってたじゃないか。僧侶は闇夜が嫌いだって。だから黒色は良く思われないし、魔法使いも扱いが良くないって。
二人ともその条件に当てはまってるのに。
「討伐隊が組まれている間は、何者であろうと助け合うのが不文律です。そもそも多人数が動き回る戦場で、そんな器用な真似が出来る手練れは早々居ません」
言われてみれば、それもそうだ。
色んな人が動き回る戦場で、特定の相手だけ回復を外すのはきっと難しい。外に居る僧侶は範囲回復で一気に回復させてるっぽいし。
魔法使いだっていっぱい居るのに、回復しないで戦えなくなってしまったら僧侶だってきっと危ない。
「腑に落ちたのなら、ここで負傷者の治療をするお手伝いをして下さいな。術の経験も嫌というほど積めますわよ」
未熟な戦士達がごまんと運ばれてきますから、と。一瞬極悪人みたいな顔で微笑んだレティは中衛の魔法使いに混ざっていった。
仕方ない。
レベルも低い俺じゃあんま役に立てないし、馬車で未熟な戦士達とやらを待つとしよう。
そんなことを思いながら馬車の方に振り返ると、遠くの方に体力ゲージが一瞬見えた気がした。
「え……?」
馬車から少し離れた崖の上にある、森の中。
何だか気持ちがザワザワして目を凝らした。カメラのピントを合わせるみたいに意識をそこへ絞り込んでいく。
段々樹木の存在感が薄くなっていって、その奥にある何かの気配が強くなる。
体力ゲージのバーがハッキリ見えた。一つじゃない。いち、に、さん、し、ご……どんどん増えてる。
時間差で体力ゲージの持ち主のシルエットがハッキリしてきた。四足歩行してる。人の形じゃない。ということは、だ。
「魔物……? 何であんなところに……」
戦場から離れた所に集まる群れは、のそりのそりと動き始めたみたいだった。
その進行方向にあるのは――俺達の乗ってきた、馬車。
「やばい、バックアタックだ!」
魔物に背後を取られるバックアタックは、殆どのゲームで不利な状態からターンが始まる。不意打ちを食らってるから当然だけど。
しかも馬車には僧侶しか乗ってない。そんな状態で不意打ちされたらひとたまりもない。
「せっ、戦士の人に魔物の位置を……」
――いや、違う。それじゃ間に合わない。
少しずつ魔物の群れはスピードを上げてる。馬車の護衛はそんなに多くないし、最前線の前衛に比べたらレベルも低い。あの群れを止めきれるのか分からない。
「はやく馬車から出ろ! 魔物が来る!!」
気がついたら、慌てて馬車に残ってた僧侶の面々に叫んでいた。だけど馬車組は何言ってんだこいつって顔でこっちに視線を向けてくるだけだ。
「何言ってるんだ、後ろは崖だぞ? お前新人だろ。大人しく馬車で待機してろ」
「大体、前に護衛も居るのにどうやって来るって言うんだ」
「その崖の上に居るんだよ! 崖下りて来てんの! はやく!! 早く出ろ!!!」
あんまり血相変えて喚くからか、馬車組の中の数人が幌から顔を出した。俺の指差す方向を見て、ぎょっとした顔で馬車の中へ叫ぶ。
「まずい、出ろ! 突獣型だ!」
「荷物なんか置いていけ! 早く!!」
リーダー格っぽい面子が顔色を変えたからか、中に残ってた面子も慌てて馬車から飛び出した。少しすると崖から一気に速度を上げた群れが突っ込んできて、馬車はあっという間にバラバラになってしまった。
「……うっそぉ」
「突獣に追われたら進行方向から外れろ! あいつらは直進しか出来ない!」
「落ち着いて周りを見ろ! 神殿で何の修行をしてきたんだ!」
思ったよりバックアタックの威力が凄くて呆然と立ち尽くす。そんな俺をよそに、最初に出てきた二人はテキパキと指示を飛ばしている。
神殿でも先輩後輩があるのかな。あたふたしてる面子は後輩っぽい。
勢いを一瞬溜めて直進してくるサイみたいな魔物をかわしながら、事態に気付いて駆けつけてくる護衛役の方へ皆が舵を切る。
だけど崖の方に変な動きをする体力ゲージが見えた。結構なスピードでぴょんぴょんと左右に蛇行しながらこっちに向かってくる。
そのルートは突獣とかいう魔物の進行方向の間……必死に攻撃を避けて走ってる僧侶の団体の方だ。
「まずいハメられてる! そっちはダメだ、何か違う奴が来る!」
「「はぁ!?」」
「えええと、直線じゃなくて左右に跳ねてる! 違う魔物じゃないのか!?」
近くに居た指示を出してる僧侶が仲良く何言ってんだって顔でこっちを見た。だけどバックアタックを知らせたからか、疑いつつもキョロキョロと周りを見てくれている。
「そんなの見え……え?」
「獅子型!? 何でこんな所に!」
「そのまま行っちゃダメだ! 戻れって! 早く!!」
声に気付いたのか一番先を走ってた奴が見事な俊敏さで引き返した。するとその少し先に、崖から一気に跳ねて出てきた魔物の爪が着地して。
……バキバキバキッと、地面が盛大な音を立ててえぐれた。
「ひえっ」
あの下に人間が居たらと余計なことを考えてしまって、一気に全身で鳥肌が立った。
獅子型と呼ばれた魔物はその名のとおりライオンみたいな見た目をしていた。だけど鬣は毛と言うより煙みたいで、脚がやけに太くてデカイ。爪もゴリゴリに盛り上がってて固そうだ。
脚の下に獲物が居ないと気付いたらしい獅子型は、不機嫌そうな唸り声を上げながら周りを見渡す。
剣を抜いて向かってく護衛役の戦士に意識が行くのかと思いきや――その顔が向いたのは、俺の方。
「えっ? な、なんで……?」
しかめられた顔がハッキリ俺を見ている。
自意識過剰とかじゃなくて。体ごとこっちを向いて、低い唸り声を上げながら俺にガン飛ばしてきてる。攻撃を仕掛ける戦士をひらりとジャンプでかわして、蛇行しながらこっちに突っ込んでくる。
「なっ、なん……え? 何で俺ぇぇぇぇ!?」
何とか避けて後ろ側に回り込むけど、ぐりんとその体が反転してまた飛びかかってくる。逃げても逃げても追いかけてくる。
「嘘だろタゲ移ってる!? なんで!? 俺攻撃してないのにッ!」
多人数プレイのゲームで時々、連続で攻撃してるとヘイトって値が溜まってターゲットにされるシステムがある。そうなると集中砲火を食らってフルボッコになってしまうのだ。
ヘイトが溜まりやすいのは前衛とか魔法使いとか、高いダメージを与えられる職業。あと回復すると狙われるゲームもあった気がする。
だけど、だ。
俺全然ヘイト稼いでなくね!? 攻撃どころか回復すらしてないのに!
しつこく追いかけてくる獅子型の魔物から何とか逃げるけど、突獣型が多すぎてヘルプが全然来ない。しかもウルフの時みたいにじりじり皆から離されつつある気がする。
キミツナイズで奇跡の逃げ足特化しつつあるけど、まだレベルが低くて発達途上だ。足が段々疲れてきて、避けると少しふらつくようになってきてしまった。
「ちょ、まじ、むりっ……っぉわぁ!?」
べしっと魔物の尻尾が背中に当たって、勢い良く地面にスライディングしてしまった。装備のお陰なのか擦り傷ズル剥け!みたいなキズにはなってないけど、そこそこ痛い。
慌てて体を起こした所にふっと影が落ちて。
目の前に獅子型の脚が落ちてくるのが見えた。
えっこれ俺死ぬよな地面みたいにベキベキにされるよな死んだらどうなんの終わりなのかなそれとも教会みたいなところでコンティニューなのかなその辺探りいれときゃよかった痛いのかな痛いよないっそ即死がいいな死にたくないけど死にそうなくらい痛いよりは即死がいい死にたくないけど
頭は無駄に思考が回るのに、肝心の体は何の動きも取れない。
固まってしまった俺を踏み潰そうとする脚から視線が逸らせなくて声も出ない。息をいくら吸っても足りなくて、潰される前に息が詰まって先に窒息しそうだ。
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