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帰路
46.詫び
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すっかり明るくなった部屋で、グラキエはふと目を覚ました。
昨夜の激しい交わりがふと頭に浮かんで勝手に頬が熱くなってくる。けれど腕の中に居たラズリウ王子はすやすやとあどけない顔で眠っていて、酔いに飲まれて纏っていた色香の気配はどこにもない。
まるで夢の中の出来事のような、どこか現実味のない空気に浸りながら寝顔を見つめていた。するとパチリと目が開いて琥珀色の瞳がまん丸になる。
「おはよう、リ」
「も……っ…………申し訳ございませんでしたぁぁぁっっ!!」
呼びかける言葉を盛大に遮って、ラズリウ王子は悲鳴のような声で謝りながら飛び退いた。勢いよく頭をシーツに押し付け、そのままの体勢で器用に後ずさっていく。
ついには勢いがついたままベッドから転落し、姿を消したまま上がってこない。
「り、リィウ? どうしたんだ急に」
「ごめん……ごめんなさいっ……」
うわごとのように謝るすすり泣きしか聞こえない。何事かと焦ったグラキエは身を起こそうとして――
「う……!?」
体が鉛のように重く、べしゃりとその場でうつ伏せる程度にしか動けなかった。
どう足掻いてみても起き上がれない。様子のおかしいラズリウ王子の状態を確かめたいのに。
「……キーエ……?」
重い体と悪戦苦闘していると、寝台の下からラズリウ王子の顔が半分だけそろりとのぞいた。その表情は眉をハの字に下げている。
近くまで行きたい。いつもならばすぐの距離だというのに。
「だ、大丈夫だ……少し……思うように動けないだけで……」
這いつくばったままの情けない格好で、苦し紛れに笑うことしかできなかった。
しかし返した言葉にさあっと顔を青くしたラズリウ王子は、今度は慌てた様子でベッドへ飛び乗ってくる。
「動けない!? どこか痛いの!?」
「痛くない。痛みはないから大丈夫だ」
「でもっ……」
泣きそうな表情で見つめてくる番の手を引き、腕の中に抱き込んだ。そんな場合かと暴れる体を強く抱きしめる。
ゆっくりと背中を撫でていると、観念したのか大人しくなった。
「本当に大丈夫だ。多分その……昨日張り切り過ぎたから、だと思う……」
ラズリウ王子の積極的な誘いに舞い上がって、何度もしつこく抱いていたのだ。そうしている内に体力の限界を超えてしまったのだろう。
普段ならこんな状態になる前に力尽きてしまうけれど、強い酒をあおって制御がきかなかった可能性が高い。負担が己より大きいはずの番はピンピンしているというのに、情けない話である。
ぎゅうっと一際強く抱きついてきたラズリウ王子は、潤んだ瞳をグラキエに向ける。
「……本当にごめん……すっかり気が大きくなってしまって……君になんて無茶を」
「それは俺もだ。つい調子に乗ってしまった」
水を頼んでくると言って離れていきそうなラズリウ王子を、逃がすまいと抱きしめる。
どうやら今どんな格好になっているのか、彼の頭から飛んでいってしまっているらしい。一糸纏わぬ悩ましい姿を不特定多数の他人に晒す訳にはいかないのだ。
「動けるようになるまで、こうしていてくれないか。水なんかより君がいい」
「……うん……」
額に口付けると、はにかむ顔がほんのりと朱を帯びる。薄い布地のブランケットで捕まえた身体を包み、抱きしめたまま再び眠りに落ちた。
――の、だが。
「何っっっと寝汚い!!!」
気持ちよく寝付いたのも束の間、そんな怒鳴り声に叩き起こされた。
何事かと思えばテネスとヴィーゼル卿が入り口の方に立っている。恐らく声の主はテネスだろう。眉を吊り上げて今にも噛みついてきそうな表情を浮かべているから。
「成年男子がいつまで寝ているのですか! しかも飲み食いしっぱなし、服も脱ぎっぱなし、温暖な国とはいえ素っ裸で寝間着すら着ておられぬとは、全くもってだらしのない!!」
「あー……それは、ええと」
隣に他国の貴族がいるという事も忘れて、教育係はいつも以上の勢いで説教モードに入ってしまった。しかしぐうの音も出せない状況なだけに、嗜める言葉は出しようがない。
そんなやり取りに驚く様子もなく、ヴィーゼル卿はむしろ微笑みを浮かべながら事の次第を眺めている……と、思ったのだが。
「昨夜は大層励まれたご様子ですな。いやはや、さすがお若い」
寝台のすぐ下に打ち捨てられていた避妊具の小山に視線をやりながら、ヴィーゼル卿はにこにこと微笑んでいる。その視線の先を見たテネスの顔が、グラキエの方へ振り向いた頃には般若のような険しさになっていた。
奇跡的にテネスの視界から外れていたというのに。まさかの追い討ちである。
「………………グラキエ殿下」
「いや、うん……その……と、止まらなくて……」
言い訳を述べてはみるが、じとりと睨まれてなす術もなく頷くしかない。
完全に導火線へ火が着いてしまっただろうし、もう何を言っても止まらないだろう。物証をしこたま残してしまった現状での下手な言い逃れは、もはや最悪手ともいえる。
ここは素直が一番。
巻き込まれるラズリウ王子には申し訳ないが、相手の気が済むまで怒られるに限る。
そうグラキエは静かに腹を括り、腕の中に収まったままの番を少し強く抱きしめた。
昨夜の激しい交わりがふと頭に浮かんで勝手に頬が熱くなってくる。けれど腕の中に居たラズリウ王子はすやすやとあどけない顔で眠っていて、酔いに飲まれて纏っていた色香の気配はどこにもない。
まるで夢の中の出来事のような、どこか現実味のない空気に浸りながら寝顔を見つめていた。するとパチリと目が開いて琥珀色の瞳がまん丸になる。
「おはよう、リ」
「も……っ…………申し訳ございませんでしたぁぁぁっっ!!」
呼びかける言葉を盛大に遮って、ラズリウ王子は悲鳴のような声で謝りながら飛び退いた。勢いよく頭をシーツに押し付け、そのままの体勢で器用に後ずさっていく。
ついには勢いがついたままベッドから転落し、姿を消したまま上がってこない。
「り、リィウ? どうしたんだ急に」
「ごめん……ごめんなさいっ……」
うわごとのように謝るすすり泣きしか聞こえない。何事かと焦ったグラキエは身を起こそうとして――
「う……!?」
体が鉛のように重く、べしゃりとその場でうつ伏せる程度にしか動けなかった。
どう足掻いてみても起き上がれない。様子のおかしいラズリウ王子の状態を確かめたいのに。
「……キーエ……?」
重い体と悪戦苦闘していると、寝台の下からラズリウ王子の顔が半分だけそろりとのぞいた。その表情は眉をハの字に下げている。
近くまで行きたい。いつもならばすぐの距離だというのに。
「だ、大丈夫だ……少し……思うように動けないだけで……」
這いつくばったままの情けない格好で、苦し紛れに笑うことしかできなかった。
しかし返した言葉にさあっと顔を青くしたラズリウ王子は、今度は慌てた様子でベッドへ飛び乗ってくる。
「動けない!? どこか痛いの!?」
「痛くない。痛みはないから大丈夫だ」
「でもっ……」
泣きそうな表情で見つめてくる番の手を引き、腕の中に抱き込んだ。そんな場合かと暴れる体を強く抱きしめる。
ゆっくりと背中を撫でていると、観念したのか大人しくなった。
「本当に大丈夫だ。多分その……昨日張り切り過ぎたから、だと思う……」
ラズリウ王子の積極的な誘いに舞い上がって、何度もしつこく抱いていたのだ。そうしている内に体力の限界を超えてしまったのだろう。
普段ならこんな状態になる前に力尽きてしまうけれど、強い酒をあおって制御がきかなかった可能性が高い。負担が己より大きいはずの番はピンピンしているというのに、情けない話である。
ぎゅうっと一際強く抱きついてきたラズリウ王子は、潤んだ瞳をグラキエに向ける。
「……本当にごめん……すっかり気が大きくなってしまって……君になんて無茶を」
「それは俺もだ。つい調子に乗ってしまった」
水を頼んでくると言って離れていきそうなラズリウ王子を、逃がすまいと抱きしめる。
どうやら今どんな格好になっているのか、彼の頭から飛んでいってしまっているらしい。一糸纏わぬ悩ましい姿を不特定多数の他人に晒す訳にはいかないのだ。
「動けるようになるまで、こうしていてくれないか。水なんかより君がいい」
「……うん……」
額に口付けると、はにかむ顔がほんのりと朱を帯びる。薄い布地のブランケットで捕まえた身体を包み、抱きしめたまま再び眠りに落ちた。
――の、だが。
「何っっっと寝汚い!!!」
気持ちよく寝付いたのも束の間、そんな怒鳴り声に叩き起こされた。
何事かと思えばテネスとヴィーゼル卿が入り口の方に立っている。恐らく声の主はテネスだろう。眉を吊り上げて今にも噛みついてきそうな表情を浮かべているから。
「成年男子がいつまで寝ているのですか! しかも飲み食いしっぱなし、服も脱ぎっぱなし、温暖な国とはいえ素っ裸で寝間着すら着ておられぬとは、全くもってだらしのない!!」
「あー……それは、ええと」
隣に他国の貴族がいるという事も忘れて、教育係はいつも以上の勢いで説教モードに入ってしまった。しかしぐうの音も出せない状況なだけに、嗜める言葉は出しようがない。
そんなやり取りに驚く様子もなく、ヴィーゼル卿はむしろ微笑みを浮かべながら事の次第を眺めている……と、思ったのだが。
「昨夜は大層励まれたご様子ですな。いやはや、さすがお若い」
寝台のすぐ下に打ち捨てられていた避妊具の小山に視線をやりながら、ヴィーゼル卿はにこにこと微笑んでいる。その視線の先を見たテネスの顔が、グラキエの方へ振り向いた頃には般若のような険しさになっていた。
奇跡的にテネスの視界から外れていたというのに。まさかの追い討ちである。
「………………グラキエ殿下」
「いや、うん……その……と、止まらなくて……」
言い訳を述べてはみるが、じとりと睨まれてなす術もなく頷くしかない。
完全に導火線へ火が着いてしまっただろうし、もう何を言っても止まらないだろう。物証をしこたま残してしまった現状での下手な言い逃れは、もはや最悪手ともいえる。
ここは素直が一番。
巻き込まれるラズリウ王子には申し訳ないが、相手の気が済むまで怒られるに限る。
そうグラキエは静かに腹を括り、腕の中に収まったままの番を少し強く抱きしめた。
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